213話 木の魔物と黒幕幼女
スレイたちの乗る狼の真下から木の槍は一斉に突き出てきた。通常の兵士ならばその時点で串刺しになり全滅するに違いない。
だが、スレイたちは普通ではなかった。次世代量産機である。その性能は一般騎士など比べ物にならない。そして、搭乗する狼たちも普通ではない。
槍の穂先が触れる寸前に反応し、地面を蹴り木々の枝へと乗り移る。そのままシュタンシュタンと疾風のように移動をしていく。
「戦闘を開始しろっ! 一匹たりとも逃すなよ。10は護衛に務めろ!」
木々の枝を乗り移り、幹を踏みながらザーンは指示を出し奥へと進む。スレイたちも各個がお互いの位置を確認しながら進む。
木漏れ日が差し込むが、それでも木々の木の葉が重なり薄暗い。その中をザーンは突き進む。
「ルーラはたしかに強い。しかも古参だしな……負けるわけにはいかねえ」
小枝をかき分けて進むと、緑の人型がゆらゆらと不気味に身体を揺らして佇んでいた。片手を掲げて魔法を発動させていたとわかる。
「それにガチャをするには稼がねえとな」
騎士槍の形をしたガンスピアを敵へと向けて不敵に呟く。漆黒の騎士槍の先端に輝く宝石が魔力を籠めることにより光り始める。
シャコンと引き金を引き、凍れる白光を解き放つ。その魔力を感知して緑の人型がザーンへと身体を向けるがその動きは遅い。
「はっ! 俺の撃墜スコアに加われっ」
冷気を漂わせて白光が空気を凍らせながら突き進み、緑の人型へと命中する。命中した箇所から氷の冷気が吹き出して敵は一瞬のうちに凍りつく。
ザーンは倒したことを確認しながら、留まることなく枝を移動する。ザーンのいた枝付近が爆発し、木の葉が衝撃で舞い散っていく。
素早く見渡すと他の敵が右手を突き出して、なにかを放っていた。
「説明するぜっ! 敵の名前はボムプラントマーネ。他の植物を真似るシードマーネがボムプラントに変化しているな! 平均ステータスは20、ちからが58もあるぞっ! 特性は変態し終わっているから無し。スキルは木魔法3、爆裂種弾を持っている!」
モニター越しにマコトがフンフンと鼻息荒く敵の解析をしてくる。その話を聞きながらザーンは高速で移動していく。その後を手のひらサイズの種の弾丸が通り過ぎて命中した後が爆発していく。
「マーネ? ドッペルタイプか?」
「あぁ、初期は種状態だな。成長するに従って自分を守るために特性変態を使い他の魔物の姿、能力をコピーするんだぜ」
そこで不思議そうに言葉を詰まらせる。
「ある程度時間が経つと、花が咲いて種を満月に増やすんだけど……おかしいな? シードマーネはランダムに魔物の姿を真似るはずなのに、全部ボムプラントだな? あれは新型だから強いけど、あまり数はいないはずなのに」
偶然かなぁと首を傾げるアホな妖精。そんな訳ないだろと苦笑する。
「操っている敵がいるんだろうな。はっ! 敵が多いほど稼げるというものだ」
敵を観察すると、蔓を撚り集めて人型に作ったような形をしていた。頭部分にギョロリと動く不気味な1つ目が見えるがよくよく見ると種であった。種が割れて、目のようにギョロギョロと目まぐるしく動いており気持ち悪い。
スレイたちもフリーズビームを撃ち、敵を倒していくのを見て言うが、足が凍りついたボムプラントが、その凍りついた足をブチリと切ると、ウネウネと蔓が身体から伸びて足を形成する。
「あん? 何だありゃ?」
「木魔法の植物成長促進だな。ちなみに木魔法は新魔法だぜ」
敵への解析能力だけは高いマコトはどんな魔法かすぐにおしえてくれる。
「ろくでもねえ魔法を開発したな。特性を台無しにする可能性がある魔法じゃねえか」
初期知識では基本的な情報をキャラは共有される。その中でドッチナー侯爵家が似たような特性を持っていた覚えがあるのだが。それにアイの特性とも被る。
「う〜ん、アイの特性はコスパも成長速度も違うぜ。木魔法の植物成長促進は単体だけど、アイのは数百万ヘクタールでも今なら平気だし、植物成長促進は栄養を使うから、普通の植物に使うと不味い作物になるんだぜ」
なるほどなぁと思いながら、敵を観察するとスレイたちの攻撃を受けてもボムプラントは凍らされた箇所を植物成長促進で治しながら怯まずに爆裂種を撃っていた。
植物なので痛みを感じることなく攻撃をしてくるのが脅威だとザーンは眉を顰める。
「タフな敵だからスレイたちでも一撃では倒せないみたいだぜ」
「わかりやすい弱点があるんだからそれを狙うしかないだろ」
スレイたちとアイコンタクトをする。スレイたちはコクリと頷き、弱点ですといった頭の種を狙いビームを放つ。
だが、のろのろと動いていたボムプラントは次のビームに反応して、獣のように飛び跳ねて躱してしまう。人では無理であろう動きで四肢を使い幹にへばりつき、蔓の腕を剣へと変える。
「ハハッ。戦いがいのありそうな敵じゃねえか! 手応えがねえと戦いじゃねえからな」
心底楽しそうに楽しそうに嗤いザーンは狼から飛び降りてガンスピアを身構える。
「シャァァァァ」
植物であるのに獣のように、ボムプラントは頭の部分をバカリと開けて、こちらを威嚇してきた。
その目が赤く光り魔力反応を示す。ザーンは地面の鳴動を感じ取り、ホバーにて滑るように走り始める。
「そんな攻撃を喰らうかよっ!」
地面から連続で木の槍が突き出してくるのを、前傾姿勢になり加速しながらザーンは躱し続けていく。魔法の発動がかなり早い。他のボムプラントも連携して魔法を放ち、上手い連携をしてきていた。
「ちっ! 新型だけあって、連携も上手いか」
舌打ちして、盾を構えると爆裂種が飛んでくるのを防ぐ。盾に防がれた爆裂種は小爆発を起こし、ザーンは衝撃を受けるがそこまで威力はない。せいぜい牽制レベルの威力だ。まともに当たってもたいしてダメージは受けないだろう。恐らくは爆発による足止めが狙いなのだ。
「木シャァァァァ」
3匹のボムプラントがいつの間にか周りの木々にへばりついており、雄叫びをあげて襲いかかってきた。
それぞれ剣へと腕を変化させて、迫りくるボムプラント。ザーンは身体を翻し、迎え撃つ。
最初に接近してきたボムプラントが落下しながら振り下ろしてくる剣の横腹へとガンスピアを添えて受け流し、右へと身体をずらして通り過ぎ、次の敵へは盾を叩きつけて吹き飛ばす。最後の敵が剣を突き出してくるので、腰を捻り強く足を踏み出し、敵を上回る高速の突きでボムプラントの頭にある種を狙う。
素早く正確に高速にて繰り出された槍は敵の種をあっさりと砕き、核が破壊されたボムプラントは糸が解けるように蔓が力をなくしバラバラとなった。
「しねやっ」
左足を支点に身体を半回転させて、槍を横薙ぎに勢いよく振る。吹き飛ばされたボムプラントが体勢を立て直し、飛びかかってきたが、槍の横薙ぎが頭を打ち砕き吹き飛ばす。
最初に受け流したボムプラントが突きを繰り出してきたので、素早く盾を構えて受け止める。ガリガリと火花が散り槍が盾を滑っていくのを見ながら腰を落とし腕を引き戻す。
「くらいなっ! 星4バレルショット」
ドカンと爆発音がして、弾丸のような速さで槍が繰り出され、その速さに反応ができないボムプラントの頭を貫き倒す。
ザーン。課金しまくりなので、オリジナル武技ももちろん持っている少女である。ちなみにいつも金がないので、ご飯はパンと塩スープか幼女に奢って貰っていた。
シャコンと槍を引き戻し、周囲の敵の位置を把握する。周囲にはどこから現れたのかと思う程の数のボムプラントがまだまだいた。
「ラムサ、ダンケ、フォーメーションアタックでいくぞ!」
ザーンの言葉に周りで戦っていたラムサとダンケがニヤリと笑う。
「了解です隊長」
「やれやれ、人使いの荒い隊長だ」
そう言いながらも、不敵に笑い手を掲げる二人。その手には目をこらせばかろうじて見える程度の極細のワイヤーがあり、周囲に広がっていた。
以心伝心な二人は既に罠を張っていた。ザーンはその様子を満足げに見て自身も手を翳す。マジックリングを糸へと変えて、戦いながらザーンも糸を張り巡らせていた。
引っ張るとピンと糸が伸びて、周囲のボムプラントに絡みつく。
「俺様の雷蛇の陣。たっぷりと受けるんだな」
ワイルドな笑みを少女は浮かべて、糸を持つ手に魔力を籠める。紫電がその手を走り抜け、蛇の形をした雷が糸を巡っていく。魔力でできた雷蛇は味方を器用に通り抜け、正確にボムプラントだけに攻撃をしていった。
蛛の巣のように張り巡らせていた糸が輝き、一瞬の間に雷蛇は駆け抜けて、ボムプラントに絡みつき焼いていく。
眩いばかりの光と木が焦げる匂いが辺りに充満して、絡み取られたボムプラントは頭の種を雷の高熱で燃やされて、力をなくし倒れていくのであった。
「はっ! 雑魚だったな。他愛もねえぜ」
ぼとぼととへばりついていた木から落ちていく黒焦げのボムプラントを見ながらザーンはワクワクと元気っ娘な目を輝かせてモニターを眺めると
パンパカパーンとファンファーレの音が鳴り、クエストクリアと表示された。
ボムプラントの群れを撃破!
ノーマルガチャ石1個ゲット
MVPゲット。課金ガチャ石1個ゲット
300マテリアルゲット
モニターには今回の報酬が表示されるので、ザーンはムフフと笑って、躊躇いなくノーマルガチャボタンを押下する。
木の箱が表示されて……そのまま木の箱がパカリと開く。
星1タワシ
「ノーマルならそんなもんだろ。そろそろおうちに置いておくとたくさんありすぎて怒られるかもだけど」
フッと笑って、課金ガチャを押下する。
木の箱がポテンと表れて、その横にマコトそっくりな妖精が魔法少女の持つような可愛らしいステッキを持ち表示された。たしかガチャフェアリーと設定ではなっていた。
ていていっと、ガチャフェアリーは木の箱を叩くと、木の箱は跳ねながらその色を銅、鉄、と変えていく。
「よしよし、こいこい」
ワクワクとしながら眺めるが、銀の箱で妖精は叩き終えて、疲れたように額を拭う。
「チッ、星4か」
ガチャは木、銅、鉄、銀、金とランクが変わっていくのだ。銀だと星4である。
モニターが輝くと、ポコンとカードが箱から出てきた。
星4揚げパン
しょぼかった。
「星4の定義を教えてもらいたいぞ……」
「ねーねー、あたちもやりたいでつ。まだガチャ石ありまつ?」
いつの間にか隣に来ていた幼女がザーンの裾を引っ張ってウルウルとオメメを潤ませる。幼女もガチャがやりたいのだ。
「あぁ、大丈夫だ。このボタンを押すんだぞ」
なけなしのマテリアルで迷わず課金ガチャ石を買い込むザーン。全然大丈夫ではないと思われるが、本人は大丈夫な模様。ちなみに1回300マテリアルである。ちなみにちなみに金貨に換算すると3万枚……。ぼったくりのような感じもするが、実は適正価格である。それだけマテリアルは高いらしい。
「わーい。ありあと〜。てやっ」
嬉しそうにペカリと顔を輝かせて、ポチリとボタンを押下するアイ。木の箱とガチャフェアリーが表れて、ぺしぺしと箱を叩き始める。木の箱から銅、鉄、銀と変わり、虹色に箱が輝く。
「おおっ、星5確定だぞ」
「やりまちたね!」
やったぁとおててを繋いで踊る幼女と少女。くるりんくるりんくるりんと回転しながら可愛らしく踊り、結果を見ると
星5マコトのブロマイド
「ゴミだった」
「萌えないゴミでつね」
がっかりと二人は肩を落とすのであった。
「当たりだろ! 超当たりだから! お前らふざけてんの?!」
詐欺妖精が怒鳴るが、星5のラインナップをどうにかしろと二人も怒鳴り返すのであった。
ギャーギャーと騒ぐ三人を尻目に、馬車から降りたガイたちは倒した魔物を見る。
「ギュンター爺さん。これどう思いやす?」
焦げて力をなくした種をボムプラントから取り出して翳し見る。なんとなく肉塊みたいで気持ち悪い。
「ふむ……。嫌な予感は当たったというわけだな。さて、これからどうするべきか」
先に進んでよいか迷う。なにかおかしなことにユグドラシル精霊国はなっているのだろうと思いながら。