212話 エルフの国に入る黒幕幼女
ユグドラシル。それはエルフたちの国の中心に聳え立つ大樹である。雄大であり、その大きさは一つの都市を丸ごと包み込む程だ。緑が生い茂り、常に清涼な空気を漂わせて、その高さは天をも突く。
ユグドラシルの周辺にある植物は常に枯れることなく青々とした様子を見せている。
神代の時代から存在していると言われる大樹。その身に宿す強大な魔力、そして人々を癒やす加護を持つのがユグドラシルであるのだ。
そのユグドラシルの加護をうけて、植物を愛し、森に住む種族エルフたちがユグドラシルを中央とした広大な森林内に王国を作っていた。
種族特性で美形であるのも手伝い、エルフたちはプライドが高い。ステータスの違いで長生きもしやすい。
「選ばれし種族とユグドラシル精霊国のエルフは誇っているらしいでつよ」
そのユグドラシル精霊国に向かう馬車群の一つに乗っている幼女はようやく涼しくなったよと、ソファに座りプラプラとちっこい足を振りながら言う。
「まぁ、エルフだからね〜。なんとなくエルフなら許されそうな感じだよね」
「ランカの言いたいことはわかりまつ。やはり絵画に描かれるような美形な種族というところが非現実的なので、選ばれしとか名乗っても、あたちたちは許容しちゃうのかも知れません」
反対側のソファでジュースを飲みながら寛ぐ魔法少女へと答えながら、自身もオレンジジュースを取り出して飲む。今回は嫌なパターンかもしれないので、月光ゲームキャラ軍団のみで来ているので、自身で全てやらないといけないのだ。
「はっ! もしかしてあっしも種族をエルフに変えたら、髭もじゃから2枚目になる……!」
ワナワナと手を震わせて期待に目を輝かす山賊。
「ガイの種族は共人に固定されているんだぜ」
「ん。ガイがエルフになっても面白くない」
「あっしはギャグ担当じゃねえですから」
マコトとリンへと抗議をするガイ。未だに自覚がなかったのかと、そのセリフに皆は驚いていたり。
永遠のオチ担当。その名はガイ。そろそろ特性にオチ担当と入れても良いだろう。マジですかと、崩れ落ちて落ち込むふりをするが、いつものことなので気にしない。
「姫はエルフが選ばれし種族でも気にしないのですかな?」
「ん〜。エルフって古典的ふぁんたじ〜から、新しい小説まで色々出てまつが大体プライドが高い種族でつからね。選ばれし種族とは思いませんが、それだけは先入観としてありまつ」
だがら、反発感を持ちにくいとアイはギュンターの問いかけに答える。
「なるほど。神と聞くと中身は知らずとも畏怖の感情を持つことと同じですか」
「マコトと聞くと名女優を思い浮かべるのと一緒だな」
「マコトと聞くと世紀のコメディアンを思い出すかもしれましぇんよ? 思い出しまちた。ここに来る少し前に各地の新聞の一面を飾ったニュース。たしか、軍基地の戦闘機群を誤って破壊した世紀のコメディアンとか……」
「それは気のせいにしておこうぜ。きっとどこか他のマコトさんだな。きっと」
頭の上に乗って、アイの髪の毛に潜って眠り始める妖精。どう考えても本人だろ。弁償金を女神様に肩代わりしてもらったな? その結果がこの仕事と言う訳か。ま、俺には関係のない話だな。中抜きしている金額は知りたいところだが。
「話を戻しまつが、そんなわけでエルフが高貴な種族というイメージはありまつ。うちにいる娼婦のイメーネとは違うみたいでつし」
貧困に負けるとエルフも高貴ではなくなるという典型的な人がイメーネであるからして。
「だけど、大人になってから気づいたのでつが……」
「気づいたのでつが?」
窓の外へと視線を移す。既にユグドラシル精霊国へと入り込み、周囲はビルのような高さの木々が聳え立つ森林内になっている。
何を気づいたのとランカが尋ねてくるので、凄い気になっていることを話す。
「エルフって、絶対に森を愛してませんよね? よく小説では木々を痛める人間は嫌いだと森を愛するエルフが語る言葉がありまつが」
「? ありまつが?」
リンが俺の言葉を繰り返すので、くるりと身体を反転させて振り向く。おさげが可愛らしくゆらゆらと揺れる中で幼女は顔をしかめちゃう。
「木々を痛めつけているのはエルフでつ。森に住めば人のせいで地面が踏み固められて木々の成長を妨げまつし、肉は食べないにしても、鹿やら兎やらを狩らなければ、木の皮や、若芽が食べられて森林は死にまつ。もっと酷いことに木の枝の上に家を作ったり、さらには巨木だからと木の中に住む話もありまちたよね? おかしいでつよ」
「あ〜。たしかにそうでやすね。草食動物が増えすぎたおかげで森林が死んで平原になったり、禿山になったりしますからね。それを考えると、たしかにエルフって人間よりタチが悪いですね」
「キャンプ場とか、森林の中にあっても、人間が踏み固めちゃうから地面はカチカチになっているもんね〜」
そうでしょと、幼女は同意して頷く山賊と魔法少女へと顔を向ける。
「ん。本当に森林を愛するなら森林の外にいるべき。だんちょーの言うとおり」
「たしかにそうですなぁ。姫のおっしゃるとおり、森林の外にいて、草食動物を適切に間引くのが本当に森を愛する種族と言えましょう。……盲点でしたな」
ううむと顎に手をあてて、アイの推測を聞いて納得するギュンターとリン。やっぱりそうだよな? エルフって、おかしいんだよ。
「この世界のエルフは肉をバクバク食べてたので、小説とかと違うと思いまちたがユグドラシルは違うみたいでつ。……でも本当にそうなんでしょうか? それならとっくにユグドラシル王国は森林を潰していると思いまつ」
外の光景を見るに、一面森林だ。ユグドラシルの加護と言って、今のユグドラシル王国のエルフは古典的小説の自称森を愛する種族らしいが……本当にそうなのかね? 最近になってからじゃない? たとえば坩堝昇華の法が終わった後からとかさ。
既にこの世界の真実を知っている俺としては、全てのあり方に疑問を持っている。たぶん女神様はこの世界を滅ぼす気はない。だが、介入も最低限なのだろう。本来は女神様の力でとっくに救われているだろう地球が、未だにミュータントが徘徊しており、退治のほとんどを人に任せているように。
自立した世界を目指しているのだ。一人の救世主に頼らない世界を目指しているのだろう。だが、この世界の人類だけではもはや立て直しは不可能だから、ちょうど連れ去られそうな俺と他の眠りし魂に頼ったんだと思う。
「んん?」
ワイワイと仲間と話しながら、気配察知になにかが引っかかったことに気づく。ふむ……。
そして窓をコンコンと叩く音が響く。窓へとへばりつくと、ショートヘアのツンツン頭の活発そうな少女がいた。三白眼で野性味溢れる少女だ。
「姉貴〜。どうやら敵が来たようだぞ。くくっ、片付けても構わないよな?」
凶暴そうに八重歯を見せて、ニヤリと笑う。その名はザーン。男が良かったのだが、なぜか少女になっちゃった。
たしかに脳内レーダーこと、気配察知と魔力看破では森林内をこちらを囲むようにじわじわとなにか人型が近づいているのを察知している。怪しいことこの上ない。
「どうやら手荒い歓迎をしてくれるのが、ユグドラシル王国の挨拶らしいでつね。ザーン、敵の撃破を命じます」
「はっ、任せときな。俺様の力を見せてやるぜ。えっと、クエストはこのボタンを押せば受注したことになるんだな」
空中に指を翳して動かし、クエストとやらを受注したのだろう、ニヤリと笑う。何気に俺様っ娘である。
「爺さんは馬車の中でのんびりとしておくんだな! ここは魔導騎士団の力を姉貴に見せるんだからな! MVPを取るとガチャ券一枚貰えるし」
何気にガチャ狂いでもある。
「今月のお小遣いを全部使っても、ハズレの星5マコトの肩たたき券しか出なかったからな! これ以上やるには稼ぐしかない!」
ほとんど星1タワシだったらしい。幼女と肩を並べる運の良さを誇るという噂。タワシって、なんだよ。星5は車なわけ?
「なんだとコンニャロー! あたしが肩たたきするんだぜ! 大当たりだろ!」
アイの頭の上でザーンのセリフを聞いて、プンスコと怒る妖精だが、ザーンの言うことが正しいと思います。それと、俺にはいつガチャシステムを導入してくれるのかな?
ふざけんなこいつと、ザーンとマコトが怒鳴り合うのを見て、やれやれとラムサとダンケが部下へと指示を出していく。馬車を引っ張っている狼を解き放ち自由にして流れ弾を回避できなくて死ぬことを防ぐ。俺を守りきる自信ありすぎである。
「では、魔導騎士団の力を見せてもらおうか」
お爺さんはソファにもたれかかり寛ぐ体勢をとり、ガイたち他の幹部たちも動くことはない。たしかに魔導騎士団の力を俺も見てみたい。
馬車の周りに展開して盾を構え、ロングビームライフルを構え、じゃない。マジカルスピアを構えるスレイ隊。
こちらはいつもどおり100騎。ダツたちには悪いけど、新型量産機こと、スレイで全てを占めている。ダツたちはこの間の戦争で人素材が大量に手に入ったので融合を繰り返して、+10の改修版にする予定だけど。
なにしろ人素材が1万近く手に入ったし。武器素材はオリハルコンも2、アダマンタイトも10、ミスリルも300も手に入ったし、結晶石も大量に手に入ったしね。
「ザーン団長っ! 敵の数は150程度。ゆっくりと接近中。視認はまだできていないですね」
やはり少女として創られたラムサの報告に、ようやくマコトとの不毛な争いを終えたザーンは周りへと荒々しく怒鳴る。
「お前らっ! この間の中央都市連合との戦争じゃ爺さんに全て持ってかれた! 敵の盟主もルーラに持ってかれた。実質、今回が俺たちの初めての活躍の場になるんだ。しくじるなよっ!」
「はっ! ビームスタンバイ!」
スレイたちは綺麗に唱和をして了承すると、マジカルスピアにフリーズビームを待機状態で溜める。
巨大な木々が邪魔をして敵の姿は見えず射線が通らないので、街道に展開して、皆は敵の姿を探す。
「ピコンピコン、敵機接近中でつ。敵は包囲するように展開中……」
「ゆっくりと敵は接近中だぜ」
オペレータごっこを始めるアイとマコト。無邪気に窓によりかかりワクワクと幼女たちは目を輝かす。何気に久しぶりの戦闘であるのだからして。
だが、敵が接近途中で立ち止まるのを察知して眉を顰める。まだ木々があるし、射線は通らないはずだが。
薄暗い森林の中、未だに距離があるにもかかわらず敵が立ち止まったことに、ザーンたちも戸惑う。が、木の葉がカサカサと響く中で、敵の小さな声が、いや、唸り声が聞こえてきた時にザーンはすぐに叫ぶ。
「地面に注意しろっ! 木魔法系なら障害物があっても、問題ないかもしれないからな」
その言葉にスレイたちが頷くと同時に地面が大きく震え
ドシュドシュ
と、木の根が尖端を鋭くして槍となり地面から飛び出してくるのであった。
その槍は全てスレイたちへと向かっていた。