202話 のんびりとする聖騎士爺さん
のんびりとギュンターは丘の下に広がる軍勢を眺めながら、クイッとお猪口を口元に持ってきて傾ける。
この異世界に来て初めて見る大軍だ。
「大した数だ。よくぞこれだけの兵を動員したものだ」
空になったお猪口へと、一升瓶から日本酒を注ぐ。純米大吟醸生酒、辛口ながら軽い喉越しの美味い酒である。
先程からちびちびと美味い酒を楽しんでいた。姫と違いアイテムを入れるスキルやアイテム袋はないので、ガラス瓶に入った日本酒は貴重なのだ。少なくとも姫から離れている間は。
ガイたちはしっかりと姫の護衛をしているかと、少し不安になるが、ランカとリンはどちらかが必ず姫のそばにいることを知っている。なので大丈夫であろうと、もう一口酒を飲む。
姫は昔からこれと決めたら一直線に物事をやる時があるので、この世界では護衛は必須だろう。助けに来る軍隊や警察は地球と違いいないのだ。
「いや、今は儂らがその立場にいるのであったな」
独りごちながら苦笑を浮かべる。僅か一年と少しで領土や経済支配圏を大きくする姫の手腕に舌を巻く。あの方は極めて優秀だ。地球でも同じようなことをできたと思うが、旅が楽しいことと、救世主を産んだ統一国家の官僚が優秀なこともあり、そのようなことには興味を持たず、大きな行商人の団長に終わっていた。
「行商先の者たちをどれだけ救ってきたかは数えることも馬鹿らしいほどに多かったが」
反対に国では救えぬ、目の届かぬ人々を救ってきたと自負しても良い。この世界はそもそも国が弱きものを救おうともしていないので、姫は支配をしようとしている。
その取っ掛かりがこの南部地域統一戦争だ。ならばこそ、丘の下に陣を張るあの者たちを倒さなければなるまい。
「え、と、随分のんびりとしていますね。ギュンター卿」
しばらく敵の様子を見ながら酒を呷っていると、後ろからサクサクと草を踏む音がするので振り返る。
そこには年若い少女と、それに付き従う者たちがいた。
「ふむ、戦いにて震えぬように一杯やっていたのだ」
惚けるようにお猪口を口元に運びながら答えると、声をかけてきた者はクスリと笑い、その美しい水色の髪をさらりと流しながら言う。
「アイさんは、どのような時でも、なにかしら理由をつけて酒を飲む方と仰っていましたが、ふふ、そのとおりですね」
陽光帝国の雇われ皇帝であるスノーはからかうように言ってきた。魔力が感じられなくとも、明らかに普通とは違う身体にぴったりと合うように作られた各所に装甲が取り付けられた服を着込み、その手には先端に六角形の水晶を嵌め込んだ金属の杖を手にしている。
金属の杖というか……まぁ、杖と言うことにしておこう。
「ギュンター卿の英雄譚は常に酒とあり、だな」
スノーに付き従っている男の一人。キノキの領主ブナダンがニヤリと笑い、他の者たちも同意して微笑む。
それは真実であろうなと、肩をすくめながら反論はせず、再び空となったお猪口に日本酒を注ぐ。
「んと、ですね、敵は南北の森林に2万ずつ、東の平原に6万の兵を揃えて我々を包囲しました。退路を断つつもりの兵は西に配置しないつもりのようです」
「儂らはたった12000。これは軍の対応限界を超えておる。敗北は間違いあるまいて」
「そうですね。普通ならば我が方は負けは明らかです。普通ならば」
強調するように普通ならばと言うスノーに苦笑を浮かべてしまう。
「我らの普通ならば、陛下たちの普通にあらず。勝てる方策があるからこそ、この兵力の差でも皆は動揺をしておりませんぞ」
カラカラとブナダンが笑うので、たしかにそのとおりだと苦笑してしまう。いくらなんでも、この兵力差で勝利を掴むのは難しいと考えるはずなのに、皆は気楽そうだった。
それだけスノーを信頼しているのだろう。儂も多少は信頼されているか。
「んと、ですね。東の本軍には上手い具合にブエン、ジュエンのクズ王たちが配置されました。敵の連合の盟主なのだから当然といえば当然ですが」
「金のある国は違うようで、驚くことに騎馬兵の乗る馬は全て戦馬だ。いやはや、まったく。いったいいくらかけているやら」
カヒノキの領主、カヒノキが羨ましそうに丘の下に陣を張るブエンの部隊へと視線を向ける。ブエンの騎馬隊はその全てがバトルウォーホースであった。信じられないことに、それが2000頭あまりいるのだ。バトルウォーホースは1頭が金貨1000するはずなのに。
お揃いの立派な鋼の武具に身を包み、自信に満ち溢れた敵の様子を見れば、常人ならば怖れを抱き、戦うのを拒むであろう。
「あの二人の都市はディーアの次に豊かです。その豊かな土地で生きる者たちを食うや食わずかで暮らすほどに税を高くしています。その二人を取り除き、帝領にする良いチャンスでしょう。それにあの本軍にいる王たちも皆似たりよったりの者たちですしね」
「調略がすすんでいるようで、なによりだな。で、儂は何をすればよいのだ?」
見た目と違い、スノーは調略も得意としている。敵の中核の王の数人を口説き落としていると聞いている。
……まぁ、調略能力を儂は疑っているが。なにせ話し方も変わり、冷徹にして相手に利益を与えながら、自分は最大限の利益を得る取引をしているらしい。
ゲーム機のそばに優秀な者たちが集まって、スノーへ忠告しているのではないだろうか。スノーの強みとは地球にいる者たちから助けを得られることなのだから。
結果が良ければ気にする必要はないかと尋ねると、フンスと鼻息荒く手に持つ杖をスノーは掲げてみせる。
「えっへん。これは星5真冬の到来と言うマジックワンドです。これを使用しますので、ギュンター卿は本国より来た魔法騎士団と、聖騎士団を率いて、敵の本軍へと突撃。ブエンたちを撃破してください」
「ふむ……あいつらを使うのか」
顎をさすりながら、本国より来た設定の者たちのことを考える。少し離れた場所に待機している騎士たち。魔騎士や魔人を使用した新型だ。字面にすると物凄い邪悪ななにかを生み出したような気がするが、幼女の浄化で属性は反転している。
ちなみにルーラたちもパワーアップしている。
こんな感じ。
ルーラ・フウグ
職業:エグザムナイト
ステータスオール80
特性︰ホバー疾走、浮遊、聖なる身体、聖騎士モード(1日に1回1分間全ステータス2倍)
スキル︰格闘術5、剣術5、片手剣5、騎士剣技5、鞭術3、槍術5、騎士槍術5、盾術5、鎧術5、騎乗術3、気配察知5、気配潜伏5、雷魔法5、回復魔法4、空中機動、無詠唱、魔法操作、闘気法3、魔装2
装備:チェーンブレイド(攻撃力120)、雷の槍(攻撃力80、雷属性)、防魔の鎧と盾(各防御力80、物理魔法耐性+)、聖なるマント(幼女のサイン入り、疲労緩和+)
他新型フウグを新たに30体作成。ステータス70となり、スキル構成は同じにしてある。もちろんその装備も同じである。幼女が夜なべして、直々に作った武具である。ちなみに素材はルーラが魔騎士1と魔人10、他は魔騎士1で作り上げた。ホバー疾走と浮遊は当たり前のごとく搭載しました。
なぜかノンプレイヤーキャラは何をしてもスキルが5以上にならなかったので、アイはがっかりしていたけど。
フウグシリーズは職種を統一したのだ。諜報から特殊任務まで行うフウグシリーズはシューターやマジシャンに分けないほうが良いという判断からである。周りにはルーラは実は聖騎士と伝えてあるが、実際は特務部隊です。特性でエグサムモードではなく、聖騎士モードを使えるのでかなりの強さを誇る。
そしてそれ以外の部隊も配備された。こんな感じ。
ザーン・ムラビ
職業:魔導騎士
ステータスオール80
特性︰ホバー疾走、浮遊、ビーム適性、同職業連携
スキル︰格闘術5、剣術5、片手剣5、騎士剣技5、槍術5、騎士槍術5、盾術5、鎧術5、騎乗術3、気配察知5、気配潜伏5、炎魔法5、雷魔法5、水魔法5、風魔法5、土魔法3、回復魔法4、支援魔法3、闇魔法3、空中機動、無詠唱、魔法操作、闘気法3、魔装2、操糸術4
装備:マジックブレイド(攻撃力80、魔法威力+)、ガンスピア(攻撃力80、ビーム適性+)、防魔の鎧と盾(各防御力80、物理魔法耐性+)、マジックマント(幼女のサイン入り、疲労緩和+)、マジックリング(糸に変化する)
他、ザーンの副官たち。スキル、装備構成はザーンと同じ。
ラムサ・ムラビ ステータスオール70 ザーンの副官
ダンケ・ムラビ ステータスオール70 ザーンの副官
スレイ 500体
職業:マジックナイト
ステータスオール37
特性︰ビーム適性、量産
スキル︰格闘術4、剣術4、片手剣4、騎士剣技4、槍術4、騎士槍術4、盾術4、鎧術4、騎乗術3、気配察知4、気配潜伏4、炎魔法4、雷魔法4、水魔法4、風魔法4、土魔法3、回復魔法4、支援魔法3、闇魔法3、空中機動、無詠唱、魔法操作、闘気法3、魔装2
装備:マジカルブレイド(攻撃力40、魔法威力+)、マジカルスピア(攻撃力40、ビーム適性+)、結晶鋼の鎧と盾(各防御力40)
マジックナイトは500体作成。魔人500体を使用した。マジックナイトの騎士団長たるザーンと副官たちは魔騎士1ずつだ。
正直、マジックナイトたちは量産型でもあり、軍隊としてはチートである。ビーム適性とかやりすぎだろと幼女はドン引きであったりしたが。
それにザーンはルーラをライバル視しており、気性が荒い。ネーミングをミスったと思われるが、幼女は好きなキャラだから仕方ないよねとスルーした。
これだけの部隊はそうそういない。というか、幼女の加護を入れればルーラたちはステータス100、スレイ一族も量産特性も加えて62だ。スキルレベルは低いが、この異世界の軍隊としては破格である。
「承知した。ならば、儂は先頭にて敵を蹴散らすとするか」
「そうですね、よろしくお願いします。私がド派手な魔法を使いますので」
新品であろう杖を掲げて、ご機嫌そうに言うスノー。その杖を見ながら一応聞いておくかと、ため息をつく。
「星5の意味を教えて貰ってもよいか?」
「ガチャで手に入れたんです。一発で出たので、仲間が羨ましがってました。むふふ」
友だちは50連して爆死してたんですと、ドヤ顔なスノー。周りにいるブナダンたちは、神の試練を受けて手に入れたのだと、なにやら勘違いをして話し合っていたが。
「その話、姫には黙っているのだぞ。きっとギャン泣きして、あたちも欲しいでつとか言うだろうからな」
課金システムが搭載されたら、倉庫の金貨を使い果たしそうな予感がするしなと、苦笑いを浮かべてしまう。
「もちろんです。さっき星5なんですよって、見せびらかしただけで、ガチャは黙っておきました」
「うむ、儂は配置につくとするか」
聞かなかったことにして、ギュンターは空になった一升瓶を手にして立ち上がる。この戦いは前哨戦。このままディーアも片付けるつもりだ。南部地域が統一されれば、少しゆっくりとできるだろう。
「あだぢもほじいー」
ギャン泣きする幼女の声が聞こえたような気もするが、戦場へと聖騎士は向かうのであった。