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黒幕幼女の異世界ゲーム  作者: バッド
15章 裏舞台なんだぜ
201/311

201話 中央都市連合

 広々とした平原。夏に相応しく青々と草が繁茂しており、常ならば動物や魔物が生息するその地には、いつもと違い大きな天幕が作られていた。


 周囲には数え切れない程の天幕がサイズは小さいが同じように作られており、騎士たちが歩き回り、兵士たちが馬の世話をしている。


 大軍を擁する軍隊がその場所にはいた。天幕の中ではガヤガヤと大勢の人たちがいて、その場は騒がしかった。それぞれ立派な意匠を鎧に身を包む者たちが、子豚の肉の丸焼きやら、煮込んだ鶏肉やら、ワインやエールが置かれた贅沢な料理などが並ぶ卓の前に座り、機嫌が良さそうに会話をしている。


 皆は酒盃を手にして、余裕ある表情でのんびりと他愛ない話を繰り広げていた。その中で上座に座るガタイの良い、ふてぶてしい目つきに、不敵な口元、綺麗に揃えた顎髭を生やす男がいた。いかにも力自慢といった様子であるが、上品さも持ち合わせているようで、料理を食べる所作も綺麗で、高貴な身分にも見える。


「ブエン殿、今回、これだけの兵を集めるは、貴方の手腕の良さに他ありませんな」


 斜向かいの男からガラス瓶に入ったワインを勧められると、注がれる酒盃を見ながら、フンと鼻息荒くする。


「我がシンノー一族は古代から紐解くと、神々に仕えし大神官の出なり。一言声をかければこれだけの兵を集めるのは簡単だったのだ。今まで遠慮をしていたのは、曲がりなりにも都市連合の一員であったからこそ。今回は都市連合の盟約を利用した他国の侵略を防ぐために立ち上がったまでのことよ」


 当たり前のことだと答えながらも、ブエンはかけられた言葉に満足するように得意げに口元を曲げる。その様子から自尊心が高い男だとわかる。


 ブエン・シンノー。ディーアの次に大きな都市を持ち、小都市も支配する都市国家の王である。武を崇拝して、その剣技は並ぶものがないと言われている男だ。


「くくっ。我らが手を合わせれば、これだけのことができるとわかったのが今回の最大の収穫であったな、兄者」


 ブエンの隣に座るローブ姿の痩せ男がクックと笑う。その様子にフンと鼻で笑うブエン。多少不愉快そうな表情になるが、そのとおりだと理解しているブエンはなにも答えないという選択肢を選んだ。


「まさにシンノー兄弟が揃えば、如何なる敵も屈っしましょうぞ」


 ローブ姿の痩せ男、ジュエン・シンノーも大都市を支配する王だ。肥沃なる土地を持ち、農奴や奴隷を多数扱い、税を高くし圧政をしいているが、ジュエンは強力な魔法使いであり、その部下たちも魔法に長けており、暴動などもあっさりと片付けていた。


 だが、そんな他国のことは関係ない周りの人々は機嫌良さそうに、わっはっはと笑う。


「我の武と、ジュエンの魔法が揃えばディアナすらも頭を垂れるであろう。傭兵が始まりだと虚言を吐く陽光帝国を片付けたら、諸王にはこのままディーアを倒すためにお付き合い願いたい」


 お願いを口にするが、その態度は傲岸不遜な物言いのブエン。


 この軍隊は中央都市連合の集まりであり、その盟主としてブエンがいた。副盟主として、やはり大都市を支配している弟のジュエン、他それぞれの都市国家の王たちが集まっているのだ。


「おう! ディーアを陥落させれば都市国家連合も安心である。もちろん付き合いますぞ」


 我らも戦いに付き合いますぞと、酒盃を掲げる諸王たち。陽光帝国とディーア王国を倒せば平穏が戻るなどとは、王たちも考えていない。それどころか、主だった敵を倒した後こそが本当の戦いだと理解して、目をギラつかせていた。


 もはや都市連合など形骸であり、どの王が南部を統一するかにかかっているのだから。


「敵は僅か1万程度。その程度しか集められぬは、敵の皇帝の手腕もわかるというもの。もはや10万を擁する我らの勝利は揺るがず、どのように勝利するかが問題かと。どうでしょうブエン殿、私に先鋒をお任せくだされ」


「いや、名誉ある先鋒はそれがしが」


「侵攻してきた敵を前に立つは、常に我が国であるぞ」


 我も我もと、皆が名乗りをあげる中で、一人だけ黙って酒を飲む王がいたので、そばにいる王が声をかける。


「アウラ姫は名乗りをあげないのであろうか? やはり女性には前線は無理かな?」


 その言葉に肩をすくめて、アウラ姫と呼ばれた女性は酒盃を呷る。飲み終えると、ダンとテーブルに酒盃を置いて不機嫌そうにジロリと声をかけてきた男に視線を向ける。


「はん! 敵の力もわからないのに大切な軍を戦わせることはできないねぇ」


 その荒々しい声音に、相手はたじろぐので、馬鹿にしたように椅子にもたれるアウラ姫と呼ばれた少女。獣の毛皮に身を包み、褐色の肌を見せつけるように、肌を見せる服を着ている。豊満な胸を見せつけるように胸元が開いており、スリットの深いスカートを履いた勝ち気そうな少女。


 アウラ・ハヤ。ハヤ都市国家の姫であり、歳は16。剣と魔法に長けており、父である王からは次期王だと告げられている天才児である。今回は病に伏せる王の名代としてこの連合に参加していた。その軍の数はブエン、ジュエンに続き、三番目の動員数12000の兵を連れてきていた。


 反論をしようとするが、その鋭い威圧感を感じさせる瞳に睨まれて、相手の王は口籠ってしまい、場の空気がピリピリし始める。


「まてまて、申し訳ないが先鋒は私の信頼する魔法将軍キルレに任せてある。5000の兵にて敵の先鋒を倒し、露払いをするようにな」


 だが、その空気をジュエンが打ち破った。言い争いになりかけていた王たちはその言葉に苦々しい表情となる。陽光帝国は様々な見たことのない商品を持ち、多額の財貨を持っていると予想されているので、後々の分配を考えると、誰もが功績を稼ぎたかったために。


「キルレは雷を操り、その槍の腕も天下無双。軍を率いれば、グリフォンすらも打ち倒せる者だ。もしかしたら、敵の本軍も片付けてしまうかもしれんが……その時は申し訳ない」


 キルレ将軍の名は都市連合にて轟いている。魔帝国やタイタン王国の戦いにて、常に勝利を納めてきた凄腕の猛将だ。雷で敵を止めて、怯んだところを突撃にて蹴散らすのだ。


 ニヤリと小馬鹿にしたような笑いに、皆がムッと不愉快に思うのだが、天幕に汗をだくだくとかいた騎士が飛び込んできたことにより、状況は一変した。


「申し上げます! キルレ将軍の軍は敗北しました!」


 そのセリフにジュエンの顔色が変わる。今さっき、敵の本軍まで倒すと嘯いていたのだから当然の反応である。それに、ジュエンはキルレの腕に信頼を寄せていた。


「なにが起こった? まさか本当に敵の本軍まで向かったのか?」


 本軍まで倒すと言っておきながら、そんな馬鹿なことをしたのかと矛盾する物言いで、声音を荒げてジュエンは席から立ち上がる。


 その剣幕に気まずそうに騎士は詳細を語ってくる。


「いえ……。キルレ将軍麾下の私たちはご命令どおり、敵の先鋒を探しておりました。しばらくしてから、平原にて魔物退治をしていた500程度の敵軍を発見。撃破せんと、キルレ将軍は戦いを挑みましたが……」


「挑みましたが? 伏兵でもいたのかっ? そもそもキルレはなぜ自身で報告をしに来んのだっ」


 口籠る騎士へと怒りを隠さずに、ジュエンは怒気を纏わせて聞く。


「雷魔法は敵の将軍の盾にて反射され、槍を用いて果敢にキルレ将軍は挑みましたが……一太刀にて斬り殺されました」


 言葉を震わす騎士の言葉に、皆は騒然となる。まさかそのような報告だとは思わなかったからだ。負けてもせいぜい傷を負っているだけだろうとも考えていたのだ。高ステータスの人間はそれができるのだから。


 なにしろこちらは5000人。敵の10倍を擁するのだから、危なくなれば逃げる程度は可能だと思っていたので。


「キルレが殺されただと? 魔法が反射された?」


「はっ! 敵の装備している武具の力と老齢の騎士であることから、昨今噂される聖騎士ギュンターかと思われます! 率いる騎士たちも異様な強さと練度を誇り……数で利があるはずの我らはなす術もなく敗れてしまいました」


 茫然自失となり、椅子に力なく座るジュエン。信頼していた将軍が殺されたことにより、ショックを受けて。その様子をブエンはニヤリとほくそ笑む。後々ライバルとなるジュエンの右腕が死に幸運だと考えていた。


「残念であるな、ジュエン。だが、勝敗は兵家の常である」


 だが、すぐに優しげな表情へと変えて、ジュエンの肩に手を置き気の毒そうに告げる。当然、ブエンの内心を知っているジュエンは苦々しい表情となるが、なにも答えない。


「安心せよ。すぐに仇は討とうぞ。敵の先鋒がいた事から、本軍もすぐそばに位置するはず。こうなれば、諸王の軍を率いて包囲して倒そうではないか。魔法を反射する盾を敵が持っていたのは、そなたにとっては残念であるが、なに、我の誇る双子の将軍、リョウガにブシュウが老いたる騎士など打倒せん」


 ブエンの言葉に皆はオウと頷き同意する。もはや先鋒をとは誰もが口にしなかった。ブエンは態度とは反対に慎重さを見せて、全軍で攻めることを決めたが、その態度を軽視する王たちはいなかった。


 なにしろ500の兵で5000を蹴散らした敵なのだ。もはや自身で先鋒を務めたいと考える者たちは皆無であった。


 すぐに料理を片付けて、真剣な表情で皆は机に敷かれた地図を見る。


 先鋒の位置する場所でだいたいの敵のいる場所は予想できたために、皆は包囲するように作戦を立て始めた。地理の優位は中央都市連合にあり、この周囲の地形は詳しく知っているのだ。


「先鋒がここにいたということは、恐らくは敵の本陣はガハランの丘にいるはず。あの丘ならば敵の動きは見やすいし、拠点としてちょうど良い。だが、兵の数の差がありすぎるゆえ、我らには問題はあるまい。我らが向かう位置以外は森林に囲まれてはいるが、万単位の軍ならば森林に配置しても問題はない」


 地図を指差して、ブエンは的確に指示を出していく。軍才は一目置かれるブエンである。今までの経験から、確実性の高い陣を敷くように作戦をたてていくので、皆は反論せずに了承して、天幕を飛び出していく。


 周りが焦るように出ていくのを冷淡な瞳で見ながら、アウラ姫も外へと出る。


 それを待っていた部下の騎士が近づいてくるので、ちらりと視線を向けながら歩く。


「アウラ姫、軍議はいかがでしたか?」


「ふん、悔しいがスノー皇帝陛下の言うとおりになったさね。あたしゃ、南の森林から攻めるように言われたよ」


 陛下とアウラ姫が敬称をつけて言ったことに、騎士はピクリと眉を動かす。周囲に人がいないことを確認してから小声となる。


「では……やはりこの戦は負けると? これだけの軍勢がいながら?」


「あぁ、恐ろしいことだけど、陛下はどれだけ兵が動員されるか、最初に敗れる将軍の名まで正確に言い当てたからね。未来視でもなければ、信じられない軍才を持っていることになるさね。どちらであっても、負けるのは確実なんだろうよ」


 ゴクリと騎士がつばを飲み込み、緊張で汗を一筋額から流す。この話の続きは予想されていたからだ。


「さぁ、ブエンに言われたとおりの場所へ布陣しに行こうじゃないか。その剣の向ける相手は少し違うかもしれないけどね」


 そう呟いて、天才少女は自らの率いる軍へと合流しに行くのであった。

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― 新着の感想 ―
[一言] >リョウガにブシュウ ???「曹操軍など我が袁家が誇る顔良と文醜が蹴散らしてくれるわ!!ふん!青瓢箪がいかほどのものかハッハッハッ」
[一言] 褐色、コンクリートジャングルでは最強を誇った褐色キャラが遂に異世界に! これは血の雨が降りますぞ…
[気になる点] 【もはや自身で先鋒を努めたいと考える者たちは皆無であった】努め→務め かと思われます。 [一言] 毎度のことながら、都市国家戦でのギュンターが三○無双みたいになってる件w まあ、あの…
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