199話 鰹釣りだよ黒幕幼女
ザザンと波しぶきがたち、海上をガレオン船がゆらゆらと揺れれながら疾走をしていた。本日は雲一つない綺麗な青空。絶好の釣り日和である。
「あづ〜、頑張ってくだしゃい」
絶好の釣り日和なので陽射しがきつくなった今日この頃。幼女は甲板でパラソルの下、椅子に寝そべりぐったりとしていた。
暑いので、遂に幼女は活動限界となったのだ。
「暑いでつが頑張ってくだしゃい。スノーしゃん、お爺さん、ルーラ」
モニターに映る仲間とお話をぐでっとしながら話していた。アチアチなのだ。幼女は暑さに弱いのだ。
「はい、閣下。どうやら中央都市連合はディーアよりもこちらを危険視したみたいであります」
ルーラが敬礼をしながら、不敵な笑みにて報告をしてくるが、ディーアよりもこっちかぁ。嫌われたもんだ。
「え、と、敵は10万の軍を編成しています。これは敵の予想動員数の7割ですね。決戦を挑み、勝利したあとにディーアと決戦を臨むのでしょう」
スノーが平然とした表情で髪を触りながら言ってくる。
「目の前の敵を倒すつもりがあるとは、たいした自信でつね。危険視ではなくて、舐められているんじゃないでつか?」
中央都市連合はその名のとおり、都市連合の南部中央にある大都市が連合を組んだものだ。総人口は調査したところ、200万人をくだらない。異世界の状況から予想するに、騎士たちはだいたい人口の2%といったところだから、騎士4万、平民で優れた者たちを選抜した兵士11万が中央連合の最高動員数のはず。
というか、もはや都市連合なんてないよね。俺たちのせいだけど。
そのうち10万人とは勝負に出たな。紛うことなき決戦であるとは思う。敗れたら中央連合は崩壊するだろうし。
「んで、こちらはどれぐらい動員したんでつか?」
こちらは130万近い人口だ。国力の差はあるけどどうなん?
「1万2千人程度ですな。ダツたち2000人と、各都市の騎士たちのみで構成されている軍ですぞ」
「さよけ」
お爺さんの言葉に動揺を見せず、パインジュースを取り出してクピリと飲む。ふ〜ん、敵との差は10倍程度かぁ。通常ならば、いかに練度や装備に差があっても対応できないよね。
普通なら。
「ん、と、驚かないのですね? 全然数を揃えていないことに」
アイのそんな態度を見て、クスクス笑うスノーだが、当たり前でしょ。
「驚くことはないでつよ。そちらには新型量産機を送っていまつ。ルーラたちも新型にしましたし。それよりも殺しすぎないでくだしゃいよ? マトモな騎士や兵士たちは後々部下になるんでつから」
多数の次世代新型量産機を配備したのだからして。負ける要素はないでしょと、幼女はひらひらと手を振る。それよりも心配は殲滅しちゃうことだ。統治に影響があるので手加減してほしい。
「そこは任せてください。敵を瓦解させたあとに、圧政を強いる都市の軍隊を個別で倒す予定ですので」
「そうでつか。お爺さんにはバカンスではなくて、戦いをお願いしちゃったので、後で報酬を奮発しまつね」
全力でお酒を作ろうっと。酒飲み爺さんには最高の報酬となるはずだし。
「ありがとうございます、姫。とりあえずは中央都市国家連合を倒してきますので、吉報をお待ちくだされ」
お爺さんは幼女が本気で酒を作ると感じとり、嬉しそうに深く頭を下げてきた。
「んと、アイさんの期待に応えますね」
クスリとスノーが笑みを浮かべるので、肩をすくめて椅子に幼女は凭れかかる。
「では、勝利の報告を待ってまつ。通信終わり」
ルーラがこのやりとりが心の琴線に触れたのか、了解ですと嬉しそうに敬礼をして、他の面々も頷き通信を終える。
人間相手の戦争はスノーに任せるよ。ん〜、あたちって黒幕っぽいかな。黒幕っぽいやりとりだったねと、幼女はちっこい手足をパタパタさせて喜んじゃう、ふふふ、世界を牛耳る黒幕なのだと、幼女はご機嫌だ。
「私は自衛や仕方ないとき以外は人は殺さないんだし?」
後ろから今のやりとりを聴いていたトモが声をかけてくるので、ちらりとトモへと視線を向ける。
「あの宇宙戦艦は人相手には強力すぎまつし、別に良いでつよ。武蔵撫子はホテルで良いでつ。今は」
「意味深な言い方だし? 魔物の軍勢とかと戦う可能性があるんだし?」
「そうでつね……。あると予想してまつ。この異世界はどうやら神の滅亡と共に急速に悪化しているので」
神の支配が終わったあと、地球と時間の流れが同じはずなのに、なぜこの異世界はトモを拉致してから数万年経過しているのか? そして、神の支配がなくなっても、瘴気の淀みはなかったのに、なぜ神々が滅んだら急速に悪化してきたのか。
推論しているが……確証は持てない。だが、強力な魔物の軍勢は現れると思うのだ。その時が武蔵撫子の出番だろう。
「なんか、アイは幼女っぽくないね。女神様にスパルタ教育でも受けたし?」
「ソウデツ、アタチハスパルタキョウイクヲウケタカミノシトデツノデ」
片言の棒読みになったけど、ふ〜んとトモは納得するので、冷や汗をかいたぜと、汗を拭うアイであった。
きっと中のおっさんはスパルタンの戦士に倒されれば良いのにと、紳士たちなら口を揃えてツッコむだろう。
気を取り直して、甲板に目を向けるアイ。そこには釣り竿を持った仲間がいる。
「つりゅ?」
可愛らしい妹分のポーラが、とやぁっと釣り竿を振り、ぽちゃんと海に針を入れる。
「重いでしゅ」
普通の幼女ではやっぱり釣り竿は重かったみたいである。
ふらふらとなって釣り竿を落としそうになっちゃうので、とやぁっとスライディングでアイが滑り込み竿に手を添える。
「ありあと〜、アイおねーちゃん」
ニパッと微笑むポーラにアイもニパッと笑みで返す。
「二人で一緒に釣りをしましょー」
「うん! すりゅ!」
仲の良い姉妹みたいに、力を合わせて幼女ズは釣り竿を持つ。が、すぐにアイがへたりこむ。暑い。パラソルの下でやらない?
「日焼けしちゃうし、パラソルの下で釣りをしましょー」
「うん!」
てこてことパラソルの下へと、甲板に寝っ転がり撮影をしていたケモ娘ズを踏みながら移動する。水着の撮影は有料でつ。
アイとポーラ、ララにモルガナとマユはセパレートタイプの水着を着ている。もちろん撮影チャンスを見逃さないランカとリン。その二人はビキニを着ているから、自分を撮影した方が良いと思うのだが。
それか、本日は中世ヨーロッパ風船長服を着ているトモとかな。
「船は停止させたから、のんびりと釣ってほしいし?」
トモの言葉に頷いてララたちは釣り竿を垂らす。
「私、釣りなんか初めてだよ」
「ララさん、ララさん。とれたての海の魚って美味しいのでしょうか?」
ワクワクとした瞳で初めての海釣りに期待するララと、食い意地だけは張っているマユ。
釣れれば良いけど、異世界ってどうなんだろ? 鰹は大物だからなぁ。
「ん、だんちょーの為に大物を狙う。きっと新鮮な餌なら大物が狙えるはず」
リンがふんふんと鼻息荒く、新鮮な餌を釣り針にひっかけて、釣り竿を振りかぶる。
「任せるんだぜ! きっと大物を釣ってくるんだぜ」
新鮮な餌こと、元気すぎる妖精が手を伸ばして高々と宣言をする。相変わらず酷い扱いを受けても気にしない模様。
「やっ!」
「マコト、いっきまーす!」
じゅわっちと、勢いよく海に飛び込もうとするマコト。なにげに服はビキニタイプにしてあった。というか、マコトのメンタルはオリハルコンを上回るな。
が、この異世界はハードモード。最近は皆のステータスも上がり装備も充実してきたので忘れがちだが、幼女に厳しい環境なのだ。
パクリ
海中に飛び込む前に、飛び出てきた魚に小虫かなにかだと速攻食われる妖精がここにいた。
「ん、フィッシュ!」
平然とマコトが食われたことに動揺もせずに、リールを巻く銀髪狐娘。しっかりリール付き海釣り用釣り竿をガイに作って貰ったのだ。そのガイはバカンスをモンド子爵の屋敷で、シルとマーサと一緒に送っているけど。
魔帝国の陰謀を防いだので、お祭り騒ぎとなり歓待されているのだ。まぁ、たまには良い思いをガイもしなきゃねと、幼女は笑顔で二人の女性にドナドナされる姿を見送ってあげたよ。
リンが釣り竿を勢いよく振り上げると、バシャンと海水から5メートルぐらいの魚が持ち上げられて甲板に落ちる。
だが、地球ならビチビチと跳ねるだけであるのだが、異世界は違った。
甲板から数センチ浮いて、こちらへ空中を泳いできたのだ。
「突撃マグロだな! 平均ステータスは8! 特性:浮遊を持つが鰓呼吸だから、そんなに長い時間は地上での活動は無理だぜ」
アストラル体へと変化して突撃マグロから出てきたマコトが教えてくれる。なるほど、マグロか。捨てるところのない魚だね。そして、食べられても、まったく動揺しなくなった妖精。
「適刀流 活け締め!」
砲弾のように空中を飛んでこようと突撃マグロはしたが、リンが横から手を振り銀閃を繰り出す。
キラリと光ったかと思うと、胸鰭と尻尾に切れ目が入り、突撃マグロは大量の血を流し、あっさりと力をなくして甲板に落ちるのであった。活け締めじゃないと不味くなるので、ナイスだリン。
「ひょえ〜! こっちも釣れたよ〜」
「ララさん。釣れたとは言わないのです。あれはこちらを食べようとしているのです」
うひゃーと釣り竿を放り投げて逃げ始めるララ。それを冷静にマユがツッコむ。
バシャンバシャンと3匹の魚が海中から躍り出てきたのだ。ずらりと並ぶ牙から魔物っぽい。
「なんというか……釣り竿いらなくないでつか?」
さすがは異世界。自分から飛び込んでくるとは。
「あれは鰹エリートだな! 平均ステータス7、特性は浮遊だぜ! 鰓呼吸だから同じく外には短い時間しかいられないな」
「うりゃあ!」
鰹へと猛然とモルガナが近づき、釣り竿で叩く。そういえばモルガナだけ港の漁師に譲って貰った釣り竿を使っていた。見た目が棍棒みたいだから、なんでなんだろとは思っていたけど……。
「この地方の釣り方は聞いてきたんだよっ! こうするらしいぜ!」
まさしく使い方は棍棒だった。おりゃあと叫びながら鰹エリートの頭を狙い叩くモルガナ。荒々しいけど、残念ながら釣りには見えないな。
意外と魚たちは空を泳ぐ速度が遅くて、モルガナのちからでもダメージは多いようで、あっさりと力をなくし甲板に横たわる。
「まだまだきたんだぜ!」
バッシャバッシャと海水の中から鰹エリートたちが顔を覗かせる。それを見てララは俺へと向かってくる。
「アイちゃん、棍棒貸して!」
もはや釣りではなくなった瞬間であった。勢いよく言ってきて、手を差し出すララである。
「仕方ないでつね。はい、どーぞ」
地球産樫の棍棒を手渡してあげる。
「アイ様、私にも一つ。食べられるために来るなんて気前の良い魚ですね」
マユも近づきそんなことを言う。ま、気持ちはわかるよ。そんなに強くない魚だからな。海の中ならヤバいかもだけど、外だと子供でも倒せそうな遅さだし。
そうして、ぺしぺしと鰹エリートを懸命に叩きまくる面々。アイとポーラ以外は。幼女はパラソルから出たくないのだ。あとで頑張るよ。
そうして鰹や他の魚たちが釣れまくり、釣りと言ってよいかは首を傾げてしまうけど、釣りの成果を見せつつ海釣りは終わったのであった。
「さて、鰹節の作成ができるかチャレンジでつね!」
「うん、がんばりゅ!」
黒幕幼女は料理少女と共に手を突き出して、遂に鰹節の作りに挑戦するのであった。美味い本節を作るぞぉ〜。