198話 黒幕幼女の洞窟攻略戦の報酬
敵を殲滅した洞窟拠点の港湾。そこで、ぶんぶんとお祓い棒を懸命に振る幼女の姿があった。巫女服を着て、とやぁっ、とお祓い棒を振りながら、艷やかな黒髪のおさげを振りながら。
黒目黒髪で艷やかな黒髪を一本のおさげに編んで、その目つきは少し鋭そうだが、やんちゃな子猫を思わせる可愛らしい顔立ちの幼女だ。ぷにぷにほっぺに、つやつやお肌、抱っこしやすさそうな小さな体躯の誰もがその姿を見れば癒やされる。そんな美幼女だ。
中に何かが巣食っているが、除虫薬で退治をしたい今日この頃です。
「まだまだ振りが足りないんだし。もっと振りを鋭く、オーバーアクション気味に振るんだし?」
後ろで、やはり巫女服の少女が腰に手をあてて指示を出していた。やはり黒目黒髪であり、腰まで伸びるストレートヘア、大和撫子なおしとやかに見える優しい顔立ちの美少女だ。
外見だけは。
「こうでつか? ていていっ」
ますます激しくお祓い棒を懸命に振り、汗を流しながら頑張る幼女。その名はアイ・月読。世界を支配せんとする謎の組織、月光の黒幕である。たぶん。
「こうだし。こうだし? こんな感じだし?」
自らもお祓い棒を手にして、ぶんぶんと振って、見本を見せようとする美少女の名は水無月トモ。大和撫子な外見に似合わない軽い性格の少女である。
「こうでつか、こうでつね?」
ウオーッと叫び、コロンコロンと床を転がりながら頑張る幼女。でんぐり返しもできるんだよと、コロンコロンと転がっちゃう。物凄い可愛らしい頑張りを見せるので、バタンとケモ娘たちが倒れた音もしちゃう。
うんうん、バッチリだよと、その無邪気な様子を見て、コクコク頷くトモ。どこらへんが、バッチリかは二人にしか理解できないであろう。理解しようとはしない方が良いこともある。
「祈りのすべてを今ここに! タンメン、ツケメン、ひやしちゅーか!」
本日は麺類が食べたい模様。
ていやぁっ、と踊りおえて、ジャンプして1回転。シュタッと床に足をつけて、待ちくたびれて、コクリコクリと眠りかけている妖精へと手をビシッと掲げるアイ。
「神ドロップを期待しまつ!」
「ふぁいよ〜、え〜と素材は神霊船1、霊舟21、人111だな。結晶超石1、結晶小石55で、ヒロインノカネ100、オリハルコン2、死の心臓、ミスリル14、女王蛇の瞳」
あくびを一つしてから、マコトは身体をクルリンと宙で回転させて翅を広げて、ムフンと息を吐く。
ふんふんとマコトの告げる内容にぎゅっとちっこいおててを握って聞く。かなりドロップが良いぞと幼女は顔を輝かす。
「知識因子は、水魔法8、風魔法8、重力魔法5、召喚魔法1、魔力看破4、空間隠蔽4が単発だな。あとは複数の風、土魔法3、工作魔法3だぜ。空間隠蔽は魔法探知からも隠れることができて、工作魔法は攻撃系統はなく、文字どおり工作系で占められているんだぜ! 召喚魔法は1レベルにつき、なにか一種類だけ契約した生命体を呼び出せる魔法だな。ちなみに呼び出された奴を帰還もできる。即ち、実体だから殺られたら死ぬから。あと、拒否されることもあるな」
「良いでつね! 魔力看破と空間隠蔽、低レベル風、土、工作魔法はあたちが覚えまつ。なかなか良いドロップでちた」
むふーっと、満足げに息を吐き、ぽてんと地面に腰を下ろす。まぁまぁのドロップだったな。魔力看破は魔法を看破できる模様、インビジブルとかの魔法も気づけるし、不意打ちで死なないように幼女が覚えるのが良いだろうと考えたのだ。
「ドロップは終わったし、私の身体を創って欲しいんだし?」
実はアストラル体のままでいるトモがお願いをしてくるので、コクリと頷く。どう考えてもおかしいドロップがあるからな。これを使えということだろう。
「ヒロインノカネ100、死の心臓、女王蛇の瞳、浄化のサファイア、赤竜肉6、赤竜鱗、赤竜骨、赤竜の血、悪魔の角10、悪魔の毛皮10、悪魔の爪10、デモントパーズ5、人1:(特性腐敗なき世界)、神霊船、結晶超石を使い合体融合!」
ここは太っ腹で大量素材を使っちゃうぜと、アイはポチポチボタンを押下する。フハハ、錬金術フルパワー。合体っ!
「うむ、今こそ合体じゃ〜」
マコトがノリノリで叫び、洞窟内に光が満ちてくる。キラキラと大量の黄金の粒子が生まれて、一つに集まってゆく。
皆が目を細め、その眩しさに驚く中で、一際輝くと荘厳な威容の船体が目の前に現れた。青を基調とした純白のラインが入っている。特に意匠はなく、すべすべした金属の光沢を見せて、船体には武蔵撫子と書いてあった。
「おぉ! 私のアバターとか言うのができたし! これで異世界を遊べるんだし」
半透明であった身体が実体を持ち、ペタベタと創造された身体を触ってトモは顔を綻ばす。
なにやらトモは巫女服と軍服が合体したような服装に変わっている。ぶっちゃけコスプレっぽい。
「これが飛空艇ですかい。トモの身体はこの船体とリンクしているんですかい?」
はぁ〜、と創られた船を見て感心しながらガイが尋ねてくる。
「そのとおりでつ。まぁ、半径30キロ以内制限だからほとんど意味はない制限でつけど」
「制限なくても良い感じがするね。それだけ距離が長いと」
苦笑するランカ。まぁ、そのとおりだが、元は幽霊船だからな。主は必要なのだ。
「ん、でも一つだけ疑問がある。だんちょー、これ飛空船?」
リンが目の前の船体を指差して聞いてくる。その表情はワクワクと輝いていたりする。
たしかになぁと、半眼になっちゃうアイ。
「あたちの作りたかったのは、プロペラがたくさんあるタイプだったんでつけど……」
「私はキャプテンなんだし! こういうのを操艦するのはロマンだし」
「それは否定しませんけど……」
ため息をつきながら眺めて一言。
「これ、宇宙戦艦でつね」
目の前には未来的な滑らかな流線型フォルムの宇宙戦艦があった。もちろんマストはないし、ジェット噴射口もない。重力エンジン搭載だ。無駄に艦橋があったりして、バルカン砲やカノン砲が取り付けられている。たぶん船首は割れて、強力な砲を放てる予感。
全長500メートルのアニメでありそうな宇宙戦艦が目の前にはあったりした。
こんな感じ。
艦名:武蔵撫子
艦種:弩級空中戦艦
艦長:水無月トモ
耐久力︰15000
魔力︰3200
ちから︰220
ぼうぎょ︰550
すばやさ︰220
特性︰呪い無効、精神攻撃無効、寄生無効、腐敗なき世界、浮游、飛行、パーティ参加不可、カノン適性、バルカン適性、ゴーレム創造:ステータス20のゴーレムを1500人まで創造可能、水無月流刀術
スキル︰格闘5、刀術5、砲術8、闘気法3、魔装2
重力魔法5、水魔法8、風魔法8、土魔法3、工作魔法3、セージ4、召喚魔法:ゴーレム
無詠唱、魔法操作、空中機動5、魔力レーダー8、空間隠蔽7
鍛冶7、錬金術7、魔法付与7、魔獣工7
装備︰超重力砲、3連装重力砲12門、重力バルカン40基、日本刀(攻撃力60)、巫女服(防御力60)、自動修復、自動帰還
パーティ参加不可なのが残念極まる戦艦武蔵撫子。それだけのポテンシャルはある物凄い戦艦である。ゴーレムは乗員なのだろう。魔力レーダーとか、空間隠蔽はデフォルトで搭載されている模様。というか、未来的すぎる戦艦だろ。
タラップから艦内に入ってどうなっているのか見てみる一行。シュインと自動でドアが開いて、優しい光沢の床や壁、天井は蛍光灯もついていないのに明かりが灯っている。
「八咫烏の小型艦みたいでつね」
地球で有名な空中戦艦を思い出しちゃう。あれは強力な超弩級戦艦だった。たまにミュータントの群れなどを薙ぎ払っていたのを思い出す。
「ふぁんたじ〜な異世界で、これはいいんですかね?」
「良いんじゃないんでつか。ふぁんたじ〜なファイナルゲームでもこんなのありまちたし。あたちは諦めまちた」
食堂や研究所、倉庫などを見てからブリッジへと移動する。どこもSF映画に出てくるような感じだった。
ブリッジは天井一面がモニターとなっており、艦長席やオペレーター席にもモニターとコンソールがついている。
無駄にレーダーぽいのとか、クロノメーターがなく、宙にモニターが浮く今時のタイプなので、なにを元にしているかわかっちゃう。グラビティ兵器だしな。コックが活躍するやつだろ、きっと。あれは劇場版を見て、主人公の悲惨さに衝撃を受けたけど。
ぽふんと艦長席に座り、ニヤニヤと嬉しそうに笑うトモがえっへんと咳払いをしてこっちを見てくるのでコクリと幼女は頷き返す。うんうん、わかってる。なにが言いたいのか。
「これは秘匿艦にしまつ。霊舟の艦長もよろしくでつ」
「えぇ〜っ! 進水式は? 私が艦長なんだし」
「駄目に決まってるでしょ! はいはい、ミスリルと霊舟合体で作成っと」
強力すぎだろ、この戦艦。いや、そこまで強力ではないかもしれないが、この艦体は目立ちすぎる。なにかのイベントで使うよ。武蔵ホテルとして、それまでは使っておこう。
なので、当たり障りのない平凡な船を作ります。
ピコンと全長30メートルのガレオン船ができたとモニターに表示されるので、艦長はトモに決定。
こんな感じ
艦名:サケトバ
艦種類:ガレオン船
耐久力:2000
ステータス平均50
特性:浮游、飛行
嫌だぁと泣き叫ぶトモをズリズリ引っ張り、サケトバに移動する。艦長席に座らせてあげたから良いでしょ。合体予測結果を見て最初は出すのもやめようと思ったんだし。
ガレオン船はミスリルの竜骨を使われたアイアンツリーの船体だ。元幽霊船なので、帆も勝手に張られたりする。武蔵撫子だとメンテナンスや操艦が難しくて、ゴーレムが必要みたいだけど。
「これなら目立ちませんね。普段使いにしましょー」
「あぁ、あたしも目立たないと思うぜ。見かけは普通のガレオン船だしな」
そうでしょと、マコトの同意に幼女スマイルで答える。
空を飛ぶぐらいなんでもないよねと、二人のアホはキャッキャッと笑う。宇宙戦艦に比べれば目立たないと思うのだ。
比較対象がおかしい気持ちもするが。
「ま、いっかぁ。のんびりとアンティークな船で楽しむのも」
トモも肩をすくめてを諦める。この船も立派だしね。
「せっかく異世界はアバター? とかいうので遊ぶことができたんだし。異世界料理とか楽しみだし」
そのとおり。トモは女神様の選択肢で地球と異世界両方を選んだのだ。その答えに爆笑して女神様はアバターを用意して、その中に魂を送り、異世界をトモが楽しめるようにした。スノーと同じである。ちなみに地球の知識は流せないようにブロックが適当にかけられているらしい。
というか、いつでも止められるので、VRゲームと変わらないだろう。
異世界ゲームのプレイヤーがまた一人増えたのだ。
「異世界の料理は期待しない方が良いでつよ……」
気持ちはわかるけどね。幼女は異世界の野菜が苦手なので、顔をしかめて伝えておく。きっと地球の方が美味しい料理がたくさんあるだろう。特にレベルの高い料理とか。
そうなん? と首を傾げてトモはふと気づいたように聞いてくる。
「そういえば、異世界に来たら一緒に暮らすことになるおじさんと優男がいないし? あの人たちはどこにいるわけ?」
ふむふむ、なるほど? アイは頷きながら服を水着へと変えて、浜辺から海の中に飛び込む。
バッシャバッシャと幼女クロールをして泳ぎながら
「あのふたりと年若いトモが暮らすのは事案になるので、やめたみたいでつよ。あたちたちと暮らしましょー」
おじさん? 優男? そんなのはいないな。いるのは幼女と髭もじゃだよ。
背泳ぎまでも見せながら、黒幕幼女は囚われていた奴隷や、魔帝国の雑用係を連れて帰りますかと思うのであった。