192話 孤島攻略を行う黒幕幼女
敵を蹴散らしたアイたちは、洞窟入り口に到着した。次々と鳥さんたちが舞い降りて、騎士たちを降ろしていく。
「CHQ、CHQ、こちらチャーミングガール隊。敵洞窟の入り口を制圧。橋頭堡の確保にせいこーでつ」
「了解だせ。チャーミングガール隊はこのまま敵軍の制圧をせよ!」
もちろん、幼女たちもゼーちゃんから降りて、シュタッと岩陰に隠れると通信兵ごっこを始めた。しっかりと軍人ごっこをするべく軍服に着替えもしたアホな幼女と妖精の二人である。
洞窟内は木箱などが散乱しており、多くの木製、石製の建物が見える。最近になってアンデッドが攻めてきたことを考えると、それほどこの基地の建造に時間はかけられなかったはずなのだが……。
「魔法を駆使したというところでつかね」
岩陰から顔を覗かせて奥を見ると横幅5メートルぐらいの掘られた道もある。壁を見るとツルツルでもあるので、人力だと無理だろう。
「さすがは魔帝国ってところでやすかね? 重機がなくても魔法で解決ですか」
毛皮を羽織った山賊が隣に来るので、ちっこいおててを顎につけて考え込む。重機持ちならやばい。今後のことを考えると、第二次世界大戦時のアメリカと大日本帝国との戦いみたいになっちゃう。アメリカは重機を駆使して飛行場とか建設していたのに、日本は人海戦術だったからな。
「……これが当たり前なら他の国と国力が違いまつよ。これが当たり前ならでつが」
「ん、敵を捕まえて尋問する。拷問官ガイに任せる」
「あっしのメンタルは拷問官にはふさわしくないからなっ」
侍少女が無茶振りするが、心優しい勇者では拷問官は無理な模様。というか、拷問は幼女も嫌だ。それに金を積めば教えてくれる奴はいるだろうし、いなければ連れ帰って、セフィの魔法に頼ろうっと。幼女は痛いの嫌なのだ。
「まぁ、良いでつ。港を放棄した海賊たちは奥にいきまちた。たぶん防衛線が張られているはじゅ」
「社長の中では海賊になったんだな、あいつら」
なんだか呆れたようにマコトが言うけど、とりあえず海賊で妥協しておくよ。と言う訳で、数の差を縮めておきまつか。
こちらは30人程しか兵がいないのだ。気配察知によると、この基地には500人程の兵士たちが駐留している。それに一般人も……一部の一般人の様子が変だな。
とりあえずこちらも数の差を埋めるべく、地面にコトリと幼器ミスリルの卵を置く。マコトがそれに気づいてニヤリと笑う。
「ひらめー、かれいー、たいー」
「さしみー、につけー、やっきざかなー」
いつもの通り、二人で卵の周りで踊る。今回は海バージョンである。適当に自分の食べたい魚の詠唱をしながら、ちっこいおててを振り上げて二人で楽しそうに踊り、ピタリと止まる。
「しょーかんっ! マジックウルフ!」
「こいっ! マジックウルフ」
やっぱりセリフを合わせられない二人であった。マニュアルつくる? と話すアホ二人は放置されて、銀の毛皮の凛々しい狼たちが次々に空中に描かれた魔法陣から現れる。
新型ウルフのマジックウルフである。来る前に作っておいたのだ。その数は100体。
こんな感じ。
マジックウルフ ノルベエと他99体
平均ステータス30、すばやさ50
特性:量産、体長変化、バルカン適性
スキル:炎魔法4、水魔法4、雷魔法4、回復魔法4、闇魔法3、空中機動5、魔装2、気配察知5、気配潜伏5、氷の息吹1、炎の吐息1、影術5、無詠唱、魔法操作
素材として魔犬100を使って作り上げた新型だ。量産でステータス+5、幼女の加護でさらに+20のステータスアップをしているから、とんでもない性能の量産型となっている。作ったときに、悪魔系ドロップの素材を使うと凄いことになると感心しちゃったよ。
なによりも、物凄い特性を持っているのだ。即ちどんな特性かというと
「きゃんっ」
リーダーのノルベエが尻尾をフリフリ、可愛いオメメで見てくるので、そっと頭を撫でてあげる。
「可愛いでつ。ガイを戦わせれば良いんじゃないでつかね?」
体長変化で20センチ程の子犬に変化しているノルベエたち。可愛くって仕方ないよね。皆でほんわかと癒やされて頭を撫でちゃう。子犬サイコー。
「いやいや、戦わせてくだせえ。そのために呼んだんですし」
「仕方ないでつね。ノルベエ、遠距離で戦うんでつよ? バルカンで敵をなぎ倒すのでつ」
「わうっ」
子犬の可愛らしさがわからないなんてと、むくれる幼女であるが、ノルベエは空気を読んでムクムクと身体を大きくする。10センチから10メートルまで体長を変えられるのだ。今回は洞窟内の戦闘なので、3メートル程の体格に変えている。場所によって大きさを変えるなんて、なんて良い犬なんでしょー。ナデナデしとこう。
バルカン適性とか言うのもついたけど、一つの魔法を無数の弾丸に分裂させて発射できるらしい。威力が分散するから強力な魔法でないと敵へとダメージを与えることができないけどね。
マジックウルフの魔力を考えると、バルカンは10斉射ぐらいしか使えないかな。充分か。
「ゴーッ! 防衛線を突破しまつ!」
備えは充分だ。単発の魔法弓とバルカンの違いを見せてやるぜ。
「了解でさ! こいっ、スレイプニルッ!」
「自爆攻撃を使いそうなシチュエーションなので、本機の召喚は不可能となります」
手を掲げてかっこよくスレイプニルを召喚させようとした勇者だがお断りの声だけが響くので、ショックを受けていたがスルー。
「とてちてたー」
「とてちてたーだぜ」
幼女は掛け声をあげつつ妖精と一緒に短剣を構えて、洞窟内に入っていくのであった。
魔帝国、第5魔法大隊は混乱の極みにあった。精鋭である彼らは去年のナーガ、リザードマンとの戦争でも活躍した。彼らは簡易魔法武具に身を包み、その魔法の力で敵を蹂躙してきた。
50人の魔法使いと、500人の精強なる上級騎士からなる大隊はどんな敵にも負けぬと自負していた。
先程までは。
だが、秘密任務で孤島に駐留していた彼らは突如として襲いかかってきた敵軍に驚愕していた。
「隊長っ! 敵軍は未知の魔法を使用しますっ。あれほどの連弾が可能な魔法、しかも魔獣がそれを放ってきます!」
万が一として作られた防衛拠点。細い通路を通り過ぎると、石壁が建てられた広間がある。そこで兵を展開させて、敵の進軍を止める予定であったのだ。狭い通路から現れる敵は矢と魔法により倒れていき、突破してきても騎士たちが剣にて倒す。防衛拠点として充分な場所であったのだが……。
「また来たぞっ!」
焦る理由は敵軍にあった。通路から銀の狼が5匹現れる。それを見て、魔法の矢を放つ。魔法使いが待機状態にしていたウインドボールを放つ。
追跡能力のある風の矢に、敵に命中すると爆発して、衝撃波を生み出して、身体の平衡感覚を失わせるウインドボール。これらにより大軍であろうとも片付けられるはずであったが
矢もウインドボールも銀の狼たちへと飛んでいくが、途上で空中に光るなにか糸のようなものに弾かれて、力を失い落ちていくか、爆発してしまう。
「なんだあれはっ! 敵の防御魔法なのか?」
こちらの遠距離攻撃が弾かれて歯噛みをして悔しがる。先程から同じなのだ。糸が空中を漂っており、こちらの攻撃を弾いてしまう。
倒すどころか、敵に届かせることもできないのだ。動揺する彼らへと狼が氷の礫を放ってくる。一発ではなく、無数に。
「伏せろっー!」
矢よりも速く飛来する氷の礫により、伏せることが間に合わなかった騎士や魔法使いたちがバタバタと倒されていく。
それを見てとった狼たちはすぐに通路へと戻っていき、入れ替わるように新しい狼が現れる。そうして、また見たこともない魔法を放っていくのだ。
じわじわと削られていく味方に隊長は焦りを覚える。今はまだ守りきれているが時間の問題だ。士気も下がっていき、栄えある魔法大隊は崩壊するに違いない。
それにスクロールを使用する際の魔力も尽きる。金貨30枚の弓のスクロールと、金貨10枚の矢。特別に100人の弓兵に与えられたその数はセットで1万個。常ならばそれだけの数があれば、10倍の数の敵軍を粉砕できるはずなのに、今回は傷も与えられない。既に1000個以上使っているにもかかわらず。
魔帝国でも貴重なるスクロールを使いながら。
「致し方あるまい。白兵戦に移行するっ!」
剣を抜きながら隊長は決意をするが
「待ちなよ、僕が行こうじゃないか」
後ろからキザっぽい男の声が聞こえてくるので、振り向き安堵する。
そこには純白の鎧を着込んだ青年が立っていた。フワサと髪をかきあげ、キラリと笑みを浮かべて歯を輝かす。鎧には金で複雑な意匠が彫られており、白金の剣を手にしていた。
「おおっ! マシュー将軍、来ていただけましたか」
兵士たちがその姿を見て安心の表情へと変わる。彼は通常ならば軍団を預かる将軍であり、今回の秘密任務の為に配置されているのだ。
「僕の神器ハオマの鎧は無敵だし、敵の数は少数なんだろ? ちょっと行って全員片付けてくるよ」
「敵は未知の魔法を使います。お気をつけください」
余裕の表情のマシュー将軍へと隊長は一応忠告しておく。だが、マシューはフワサと髪をかきあげて、かぶりを振ってくるのみだった。負けることはないと思っているのだ。
「マザーナーガでさえ、僕には敵わなかった。この程度の雑魚なんか相手にならないよ。マルクへのお土産にしようじゃないか。新しいアンデッドが手に入って、あの変態は喜ぶだろうしね」
ククッと笑いながら無防備に通路へとマシューは向かう。たしかに彼を倒すことは不可能だろうと、皆がその頼もしい姿を見ていると、狼たちは奥へと逃げてゆく。
力の差がわかったのだろうか? それならば今度はこちらが反撃する番だ。マシュー将軍があの狼たちを殲滅してくれたあとに。
なんとか勝てるだろうと、兵士たちが思う中で、ノソリと通路から何者かが現れた。手には軍旗を持ち、大柄な体躯の小悪党だった。
小悪党に気づき、マシュー将軍は立ち止まり、ニカリと笑う。
「なんだい、君は? 旗持ちの力自慢な騎士というところかな」
「……あっしの名前は魔獣将軍ガイ。陽光帝国の客将にして魔法爵だ。魔帝国の兵士たちへと告げる。武器を捨て降伏せよ」
目をキョロキョロとさせながら落ち着きなく言ってくる小悪党に、皆は失笑してしまう。陽光帝国は傭兵団の集まりだと聞いていたが、山賊くずれを将軍にしているとはと。
「やれやれ、山賊くずれが将軍とは陽光帝国の力もわかってしまうね。古代から続く我が魔帝国とは違うとはいえ……。正直、帝国などと名乗るのもおこがましい」
「やっぱり魔帝国でやしたか。実は隠遁していた無害の魔法使いたちの集団かもと少しだけその可能性を恐れていたんで」
ふっーと、安堵の息を吐き、堂々たる態度を見せる山賊くずれに皆は戸惑う。魔帝国と確信して安心する様子を見せてきたので。普通は恐れて身体を縮こませるところではないだろうかと。
「……魔帝国の力を知らないのかな? 頭が悪そうだから無理もないか。僕の名前はマシュー。魔帝国のマシュー・サンカイ。侯爵家の次代当主であり、栄えある将軍の一人だよ」
「将軍までいるとは予想外でやすが、問題にはならないでしょ。で、答えを一応聞いておきやすぜ」
「言ってくれるね。もちろん答えは、いいえ、だ。君たちの方こそ降伏した方が良いよ」
魔帝国の将軍と聞いて、恐れることもなく、平然とした表情のガイとかいう小物に苛立ちを覚えて、マシューは魔法剣を敵に向けて構える。自分の恐ろしさを知らしめねばなるまいと、冷酷な笑みを浮かべて。
「ここで降伏すると、親分からお仕置きを受けちまうんでね。それじゃ戦うとしやすか」
二人の将軍は相手を睨みつけて、戦いの空気を醸し出すのであった。