191話 海ではテンションが高い黒幕幼女
孤島へと海面ギリギリに飛行する鳥の群れがあった。鳥が通り過ぎていく中で、巻き起こした風により波しぶきが作られていく。
その鳥の群れは純白の翼を広げて高速で飛行していく。正確に隠された洞窟へと向かっていた。
鳥の上には武装した騎士たちが数人ずつに分かれて乗っている。
鳥たちは全長30メートル程の巨大な体躯を持ち、猛禽の鋭き目つきで視界に映る停泊しているガレオン船を見る。
明らかに普通ではない鳥の群れは、大きさと色を気にしなければ元は隼であるとわかる。
「ピピッ」
「くるっぽー」
「くるっぽー」
つぶらな瞳にふわふわの羽毛に包まれた体躯、そしてその鳴き声は肉食獣であり、恐ろしい威圧感を見る人に与えるだろう。
先頭の隼が口を開き、星の輝きを持つ魔力を溜めると、白き光線を吐き出す。光線は海面を突き進み、後に凍っていく波を残しながらガレオン船へと命中する。
ガレオン船の船体を貫き爆砕しても、その力はとどまることはなく、洞窟の壁まで貫いていき、ようやく止まるのであった。
ガレオン船は命中した箇所からバラバラになり沈んでいく。
「ヒャッハー! 幽霊船を早くも一隻撃破でつ。幸先いいでつね」
「社長、あれはただのガレオン船だぜ」
「ヒャッハー! 次の幽霊船も撃破をお願いしまつ、ゼーちゃん」
妖精がなにか言ってきたが気にしない。あれはどう見ても幽霊船でつ。幼女ダンス、幼女ダンシング。幼女のご機嫌な踊りを見せちゃうぜ。次にドロップしなかったら、運営にクレームを入れるつもりだ。幼女のギャン泣きを見せてやるぜ。
ゼーちゃん以外の残り10羽の鳥。新型のキャラたちだ。やはり強力な鳥、隼をメインに作った。
こんな感じ。
グラスバード 計10体
平均ステータス 20 素早さ40
特性:体長変化、身軽
スキル:炎魔法4、水魔法4、空中機動5、魔装2、気配察知5、気配潜伏5、氷の息吹1、影術5、炎の吐息1、無詠唱、魔法操作
鳥10体を合体して1体のグラスバードを作りました。いつもの身軽をつけたのが、グラスバード。隼タイプの新型キャラとなる。同種を重ねて合体させると、すこーしだけステータスが上がったんだよね。ソシャゲの同じキャラを重ねてレア度と性能を上げる感じだ。精霊にしないと、こうなる。なので、10体作るのに鳥素材100体を使いました。
「くるっぽー」
……隼です。
ゼーちゃんに続き、一列に横並びしグラスバード隊もフリーズビームを放つ。煌めく白いビームが列をなし、洞窟へと一斉に向かっていく。あっという間に残りのガレオン船が次々と凍っていき動かすことができなくなる。
「威力のないフリーズビームだと、撃破はむじゅかしいでつね」
ゼーちゃんのコマンドアタックなら、高威力の為に幽霊船を倒せるが、通常なら凍らせるぐらいであるために、幼女は顔をしかめちゃう。
「社長の中では幽霊船は確定なんだな……問答無用で攻撃するし」
「こんな孤島に隠れ住むのは、幽霊船にしか見えましぇん。っと、回避行動にうつってくだしゃい!」
どう考えても敵だろあれ。幽霊船が普通のガレオン船に擬態しているのだ。間違っていても、敵なのは確実なので気にはしない。テンションマックスの幼女は誰にも止められないのだ。
洞窟から兵士たちがバラバラと出てきて、弓を構えてくるので、横滑りにゼーちゃんたちは敵の射線から逃れるべく移動する。
敵の兵士たちは弓を身構えて、こちらを狙ってくるが、高速で飛行するゼーちゃんたちには命中しないと思っていたが
「ん? なんだかあの弓矢変じゃないでつか?」
敵兵の持つ弓矢が緑色に仄かに輝いているのに、目敏く気づく。なんだあれ?
「ん〜、あれは、風の弓矢だな。魔術文字を刻んでいるぜ。敵兵のステータスは平均30、スキルは武術系スキル3だな」
雑魚だし敵の持つスキルの詳細説明を省く妖精。それは良いが、悪いこともある。
「魔法武器? あいつらの持つ弓矢は全部魔法武器?」
マジかよとマコトの言葉に驚く。そんなに凄い武器を揃えられる訳?
「いや、あれはスクロールを焼き付けているんだぜ。使い捨てだぞあれ」
「マジですかい! 財力から見ても魔帝国だと丸わかりでやすよ」
「そういうとこで、驚くのがあたちたちらしいでつが」
ゼーちゃんに一緒に乗っているガイが敵の武器の凄さでなく、財力に驚くので苦笑しちゃう。たしかに金余りな組織だから、国絡みだとわかるな。
「ん、隠す気はないということ」
「目撃者は消せってやつでしょ〜」
もちろんランカとリンもゼーちゃんに乗っている。たしかに皆の言うとおりだ。それだけ敵を仕留める自身がある敵なのだ。
「きまつっ!」
弓兵が矢を放つと、風を纏わせてゼーちゃんたちへと高速で向かってくる。しかも風の魔法の力か軌道を変化させて。
魔力の風に覆われた無数の矢は鋭く角度を変えて、追いかけてきた、なかなかのホーミング性能である。
ゼーちゃんは洞窟から離れて、急上昇し敵のホーミングアローから逃れようとする。後ろから飛んでくる矢も軌道を曲げて追いつかんと接近してくる。
「あれ一発で弓は使えなくなるとか……回避しきれまつかね?」
かなりの風圧におさげをバタバタと煽られながら、アイは冷静に近づく矢を観察し、射程距離を測っておく。
こちらの高速機動に矢は追いつこうとするが、急上昇するゼーちゃんに耐えきれなく、すぐに速度を失い木の葉のように落ちていく。
「射程距離は1.5倍、速度は普通より少し速い。特筆するところはホーミング性能でつか」
グラスバードたちも敵の矢を回避できて、問題なさそうだ。まぁ、高速での空中機動が可能な戦闘機に多少ホーミングが備わったとはいえ、射程距離の短い矢が命中することはないか。
「ギャー」
「速い、速すぎる!」
「落ちる〜」
しがみついているダランたちは死にそうな悲鳴をあげているけど。死ぬよりは良いだろう。
「この世界の厳しいところ。ステータスの高低で戦力がまったく変わるというところでつね」
ステータス30ぐらいじゃ幼女の眷属強化を受けたグラスバードを倒すことはできないのだよ。
「あっ! 見て、だんちょー。あのリムは多層みたい」
「多層? あぁ、使い捨ての弓とか勿体ないと考えまちたが、リムにスクロールを貼り付けていたのでつか」
リンが洞窟の弓兵を見て教えてくれる通り、弓のリムの部分に羊皮紙が貼り付けられており、敵は魔法が発動して使い終わったスクロールを剥がしていた。剥がしたあとにはまたスクロールが顔を覗いてきたので、数枚のスクロールを貼り付けてあるのだろう。
考えてはあるが、疑問が浮かぶ。
「あれ、いくらかかってるんでしょー。戦国時代の鉄砲、種子島は100万ぐらいしたらしいでつけど、あの弓矢は金貨お幾ら? たぶん矢にも手が加えられているみたいでつし」
「ですね。見てくだせえ、この矢」
イフリートの腕輪を糸へと変えて、接近してきた矢の一つを器用に絡めとった手癖の悪い山賊が見せてくる。使い終わっているので、文字が崩れてなんと書いてあるかわからないが、矢にも魔術文字が描かれているのがわかる。
「これって、恐ろしくお金かかってるよね」
まじまじとランカが矢を見て呆れたように言う。たしかに呆れて良いレベルの兵器だ。
敵兵は二斉射目で、こちらへと矢が当たらないと理解して弓を構えながら待機している。こちらが再びガレオン船へと攻撃を仕掛けてくるタイミングを狙っているのだろう。まだスクロールは残っているようである。
「銃弾に例えると、一発数万の金額になりそうな予想ができまつ。工場で機械による大量生産でも無い限り、羊皮紙代にスクロールにする手間暇……最低でも金貨数枚はかかるんではないつかね」
きっとそれぐらいはすると思うのだ。もちろん原価である。定価だと金貨10枚はするんじゃないかなぁ。強力な武器であるが、金がかかりすぎる。
「大規模な戦争には使えない武器でつ。恐らくは精鋭に与えられて、小規模な絶対に負けられない戦いに投入するタイプ。即ち、あの洞窟は」
キリリと真面目な表情になる。かなり危険な場所だと理解した幼女である。
「幽霊の巣食う洞窟でつね。きっと、あの弓兵はアンデッドでつ。敵の持つアイテムも洗いざらいゲットしましょー」
面白そうなアイテムがたくさんありそうな洞窟だと理解した幼女であった。もちろん危険とは、ドロップが危険すぎると判断したアイである。きっと凄いのがドロップすると思うので。
フンフンと鼻息荒く敵を見ながら言う幼女である。アンデッドの巣食う洞窟は殲滅しないといけないよね。幼女は正義を愛する良い娘なのだ。
「と、言うわけであそこに並ぶ弓兵たちを排除して、上陸しまつよ。ガイ、ランカ、射程外からの攻撃の恐ろしさを見せてあげなちゃい!」
「へいっ。イフリート杖の型」
「了解だよ」
リンは杖を持っていないから、待機。ガイとランカが杖を持ち魔力を集中させていく。
コマンドたたかうをポチリと押して、さらにゼーちゃんの使用スキルをポチリ。
まだまだ敵の洞窟までは遠く、弓が当るどころか、届きもしない距離であるが、高ステータスの二人にとっては射程距離だ。
「うぉぉぉ! 魔法操作 広範囲化 ファイアバルカンっ!」
「ほいっ、ファイアバルカン」
「ピピッ」
力ある言葉と共に、杖から火の粉がチラチラと舞い始めて、乾いた爆裂音をたてながら、バレーボールほどの火球が洞窟へと放たれる。一発ではなく百発近くが連続で。ファイアバルカンに相応しい弾丸の数である。二人と一羽、合わせて300発以上の炎弾がばら撒かれる。
その炎の炎弾の射程距離は矢の数倍を持ってもいた。
海面上を水平に向かっていく炎の連弾に、洞窟入り口に並んでいた弓兵たちは慌てて散っていく。しかしながら、時すでに遅く、ファイアバルカンは逃げ散る敵の中へと撃ち込まれて爆発していく。
「ぐはっ!」
「ギャッ」
「ぶへっ」
次々とファイアバルカンは洞窟に叩き込まれて、轟音がするたびに逃げ散る弓兵たちは吹き飛び、燃えていく。あっという間に敵の陣形は崩れて、奥へと逃げていくのであった。
「退避っ! 奥にて防衛をする!」
「見たことのない魔法だぞ」
「逃げろっ。こちらの射程距離外からだっ!」
ファイアバルカンの威力に恐れ慄き、敵兵が逃げてゆくので、アイはゼーちゃんたちに指示を出す。
「まぁ、こんなものでしょー。近代化されたあたちたちの魔法には敵いましぇん」
「まぁ、金の女神が作った魔法を使えるのは社長たちか、新型の魔物だけだからな。ビームとかバルカンとかナパームとか、敵の魔法使いが可哀相に思えるんだぜ」
マコトが肩をすくめて呆れるようにいうが、たしかにそうかもね。
新型の魔法はゲームキャラか新型魔物しか使えないのだ。そしてその威力は旧型とは一線を画す。
「とはいえ、油断は禁物でつ。きっとこの洞窟、強力なアンデッドがいるでしょーから。幽霊船とか幽霊船とか」
きっと幽霊船が奥にはたくさんいるんだよと、飛空船作りたいレディとなったアイは言う。
「いれば良いよな。ドロップはともかくとして」
「そろそろ課金システムをバージョンアップで実装しても良いんでつよ?」
社会人な幼女は課金システムが欲しいと思いながら、洞窟内に仲間と共に辿り着くのであった。100%ドロップアイテムがすこーしだけ必要だと思う黒幕幼女であった。