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黒幕幼女の異世界ゲーム  作者: バッド
14章 海でバカンスなんだぜ
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190話 魔帝国のネクロマンサー

 イーノからしばらく沖合を進むと存在する孤島。そこそこ大きな島は森林が形成されており、川も流れているが、陸地から遠いために無人島であるはずだった。


 しかしながら、その島は無人島ではなかった。3本のマストを立てた立派なガレオン船が数隻、外と繫がる洞窟奥の港に停泊していた。


 もちろん、人為的に作られた洞窟と港である。洞窟を魔法を駆使して掘り、ガレオン船が停泊できる喫水の深い港を作り上げたのだ。普通なら長い期間をかけて作られるだろうその港は苔の付き方や、貝の繁殖、雑草の繁茂がほとんどないことから、短時間で建造されたとわかる。


 港から進むと、そこには兵舎や鍛冶場、倉庫など様々な建物が存在しており、これらの施設を作り上げた者たちが潜んでいた。


「いったい何が起こったのだ? なぜ千里眼の水晶が爆発した?」


 海岸に近く、そのため湿気により石壁が濡れており、ぴちょんぴちょんと水が流れているジメジメとした施設。日光に当たることない施設の一つから怒声が響き渡る。


 洞窟奥の石造りの建物の中で嗄れた声音で、苛立たしげに一人の老人が部下へと怒鳴り散らしていた。老人たちがいる部屋は広く作られており、中央には赤黒い魔法陣が描かれている。


 不気味な光を放ちながら脈動する魔法陣と、周囲には他のローブを着込んだ者たち。魔法を知るものならば、アンデッドを作成するための死の呪いを使う禁忌の魔法陣だとわかるだろう。


「はっ! 我が師よ、いつもどおりスケルトンの実験をしておりましたところ、突如として千里眼の水晶が爆発。魔力を籠めていた者たちは爆発の余波で、重傷を負いました。原因は不明です」


 老人へとローブ姿の男が肩を縮こませて、震える声で答える。その様子をじろりと睨みつけながら忌々しそうに老人は言う。


「砕かれ捨てられたスケルトンの破片により、死者の呪いがイーノへと流れ込み、そろそろ実戦でモトが使えると考えていた矢先にこれか。陛下より頂いた千里眼の水晶が壊れたのは痛い。遠隔でモトを操れないからな」


 千里眼の水晶をひとつ作るには10年はかかるのだ。魔帝国でも10個程度しかない貴重品である。


 そう、彼らは魔帝国の魔法使いたちであった。ある目的のために、魔法を駆使した隠し拠点を短時間で作り上げ、魔物が住まうこの島に住むことを可能としていた。


「恐らくは連続的に使用したことにより、ヒビでも水晶に入ったのかと」


「ちっ。少し間を空けるべきであったか。モトを使えると焦りがあったか……」


 手に持つ骨だけで作られた杖を強く握りしめて、目を細め後悔する老人。


「マルク師匠。それとキュベレーの神器の魔力がごっそりと減りました。どうやら小舟が倒されたようです」


「千里眼の水晶が破壊されたことに驚き、撤退の指示を出せなかったからな。イーノの魔法使いたちが倒したのであろう。特に気にするほどでもあるまいて」


 その言葉に部下はホッと安堵の息を吐く。さすがに小舟がなぜ破壊されたと怒る師匠ではなかった。


「しばらくは千里眼の水晶が帝都から送られるのを待つ形でしょうか?」


「うむ……ここで焦り、我らがモトに乗艦して操ろうとすれば、幽霊船の強みを消してしまう。業腹だが我慢するしかあるまいて」


 マルクは魔法使いらしく合理的であり、武官のように功を焦ったりはしない。無理だと思えば引く勇気を持っている。


 深き知識と優れた判断力を持つネクロマンサー、マルク。魔帝国の誇る宮廷魔法使いの一人である。


 皺だらけの老いた顔つきであるが、目は爛々と猛禽のように光り、貪欲な性格をしていた。魔法のローブを着込み、骨の杖を持つ強力な魔法を操る老人は今回の挽回をするべく指示を出す。


「キュベレーに生贄を。魔力がなくなれば、折角の神器が無駄になる。かくも素晴らしい死と再生を司る神器がな」


 冷たい凍えるような声音で、目をギラつかせて部下へと命じたあとに、マルクは部屋の奥へと歩いていく。魔法陣を通り過ぎていく際に、その中心を見てニヤリと禍々しい笑みを浮かべる。


 魔法陣の中心、そこには脈動する心臓が浮いていた。善良なる者が見たら、恐怖から逃げ出すだろう死を感じさせる不吉にして不気味な心臓。魔法陣の血のような光を集めるそれはキュベレーの神器であった。


「素晴らしい魔力だ。これ程の力をナーガ共は祈りを捧げるだけの偶像としておいたとは……所詮、魔物か」


 キュベレーの神器。死と再生の心臓は、あらゆる生き物を蘇らせる。蘇らせた者たちは以前の姿ではないが。


「師よ。モトを使えず残念でしたな」


 高弟がこちらへと歩いてきて、歪んだ笑みを浮かべる。その様子を見ながらマルクも同意する。そろそろモトを使えると、心待ちにしていたのだ。


「昨年の蛇と蜥蜴の襲撃。魔帝国はかなりの損害を受けたが、これだけの神器が手に入った。実験が成功すれば、世界は魔帝国の下に統一されるであろうに……残念だ。あぁ、本当に残念だ」


 苦々しい表情へと変えてマルクは悔しがるが、高弟は肩をすくめるだけであった。


「急げば来月には水晶は輸送されてくるかと。再開までは一休みをしてもよろしいのでは?」


「ふんっ! それまでに死の呪いが解ければおしまいだ。死の呪いは短時間で消えるからな。それだけが欠点だ」


「その場合はまた最初からやり直しですか……もう強引に攻めてもよろしいのではないでしょうか。それだけの軍団は作り終えております」


 扉を開き先に進む。じっとりとした石の床を歩いていき、目指す目的地へと辿り着く。


「たしかにイーノの者たちを殺して回れば、楽に死の呪いは広がる。アンデッドに殺されし者は高確率で死の呪いを撒き散らすからな」


 目の前の扉を開くと、そこは洞窟の港湾であった。先程のガレオン船が停泊していた港とは違う、もう一つの港だ。そこには150メートル程の大きさの黄金色に輝く巨大な船があった。黄金の船体にはびっしりと古代文字が彫られており、紫色の靄を纏っている。5本のマストが立っており、ボロボロの帆がしがみつくように垂れ下がっている。


「いつ見ても美しい……。蜥蜴の持ち物だったとは思えぬ」


 モトはリザードマンたちの拠点で発見した神器だ。生命の死をエネルギーと変えて駆動する幽霊船である。常に周囲に死が存在していなければ動かない。拠点に攻め込んだ際は、最初に突撃した3000の精鋭騎士団は全滅。リザードマンたちが自らを生贄として稼働させたモトにより、抵抗も碌にできないまま殺されてしまった。


 モトは即死の呪いを放つのだ。そうしてモトは敵を殺して、その命を喰らう。


 圧倒的な力を持つモトであったが、魔法使いたちの遠距離攻撃により、じわじわと力を削られて動かなくなった。勝利したあとに判明したのだが、モトは死を食べて周囲を浄化するのが目的であったらしい。


 モトはリザードマンたちの死体も騎士団の死体もあっという間に喰らい尽くし、そうして動きを止めた。モトはかなりの燃費の悪さを見せつけたのだ。


 しかしそのような力を持つ神器、リザードマンが敵を倒すことにモトを使ったように、魔帝国もその力に目をつけた。


 死の呪いを撒き散らせれば、無敵の船となるのだから当たり前でもあった。


「キュベレーによる死の再生によるアンデッド作成。そのアンデッドをモトの餌として動かす。これこそ天の配剤の組み合わせよ」


 スケルトンは砕かれてもしばらくは消滅しない。破片となっても力を失っていないのだ。そのため、スケルトンをイーノに送り込み、わざと破壊させてアンデッドの死の呪いを撒き散らしていた。


 しかし高弟の言うとおりにした方が良いのかとしれぬと、マルクは考える。視線はモトに乗船している黒い光沢のスケルトンへと向けられる。


 その黒いスケルトンたちは、シミターとバックラーを手に持ち、その身体から放つ魔力は尋常ではなかった。センスマジックを使える魔法使いならば、その凶悪な魔力に息を呑むだろう。


 キュベレーの神器を使い、作り上げたダークスケルトンウォーリアである。その力は上級騎士並みであり、死を恐れずに戦うために、生半可な腕前の者では相対できないであろう。


 そのダークスケルトンウォーリアがおよそ1000体乗り込んでいた。


「無限に増やすことのできるアンデッド軍団……。もはや通常の軍隊では相手にならぬ。都市連合がタイミングよく分裂したことも幸運だ。陽光帝国などという小国になったのだからな。個別撃破をして、都市連合を食い潰せる」


 自分が搭乗して、指揮を取れば万一もあるまいと、多少心が揺れ動くが、理性が我慢をしろと伝えてくるので、息を吐き落ち着く。もう少し、あと一歩なのだ。千里眼の水晶があればこそ完璧な戦いとなる。


 お伽噺のように、魔物を操る魔法使いがその軍団に混じっていて、英雄に倒されるなどあってはならない。


 軍団の中にいなければ、魔法使いはやられることもなく、軍団がバラバラになることはない。


 それにモトとキュベレーを操ることのできる魔法使いは魔帝国でも自分だけであろうとも考えていた。なので、自分は死ねないのだ。


 自身とキュベレーはそれだけの価値があり、周囲へと撒き散らすモトの即死の呪いに自身が巻き込まれる可能性もあるのだから。ここは我慢をする時である。


「おらっ、さっさと歩けっ」


「お前らは魔帝国の役に立てるのだ。光栄に思えよっ」


 鞭のしなる音が聞こえ、奥の牢屋からずるずると引きずるような音が聞こえてくる。見ると、奴隷たちが疲れて絶望の表情を浮かべて引きずるように足を動かしていた。看守だろう男が鞭を鳴らしながら下卑た笑みで叫んでいる。


 キュベレーの生贄とするのだろう。あの神器は血を吸えば吸うほど、命を吸えば吸うほど魔力が増して、アンデッドを作成、操作を行えるのだ。奴隷は絶対に必要だった。


「今回の生贄で奴隷はほとんど使い切るな……。新たな補充を頼むか」


 魔帝国では奴隷制度がとられている。しかも他国と違いその扱いは苛烈極まる。主人が奴隷を自由にしても良いと法で決められており、その命を使い捨てにしても罰は受けない。完全に物扱いなのだ。


 それでも使い捨てにする程、奴隷を粗雑に扱う者はいないが、今回のような生贄を扱う際には助かる。


 次の補充の際には奴隷も品目に入れようと考えていた時であった。


 洞窟が突如として揺れ爆発音が辺りに響く。パラパラと天井から石くずが落ちてきて、足元がふらつく。


「何事かっ? 何が起こったのだ?」


 最初の揺れがおさまる前に、さらなる揺れが発生して、周囲は騒然となり慌ただしく部下たちは事態の確認に走り出す。


 この孤島であのような音と揺れ……。魔物が現れたのだろうか。孤島の為に、時折強力な魔物が現れるのだ。


 だが、ここには500の騎士が詰めているし、50の魔法使いが駐留している。皆、他国では不可能であろう統一された優秀な装備に身を包む精鋭だ。


 報告を受けるべくキュベレーの間に戻ったマルクは、少ししたあとに息を切らせながら駆けてきた部下の言葉に驚きを示す。


「師よ、敵襲です! 魔鳥に乗った兵士が急襲してきました! すでにガレオン船は全て沈没!」


「な、なに? ガレオン船がっ!」


 3本マストのガレオン船は魔帝国でも貴重な船であり、魔物の攻撃に耐えられるように様々な素材を使っているのだ。サハギンたちの攻撃でも耐えた船が全て沈没したと聞き、ネクロマンサーはすぐに護衛のアンデッドを召喚するべく魔力を杖に注ぐのであった。

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― 新着の感想 ―
[一言] アンデットを燃料にするなら死都に設置すればとも思うけど今度は食べすぎた神器からボスが出てきそうですな。
[一言] 紛う事なき純度100%の悪ですね~。 黒幕幼女も躊躇う事無く殲滅出来ますねこれは。
[良い点] ネクロマンサーは幼女に対して相性最悪ですねぇ。私が魔帝国の立場なら泣きたくなります。 虎の子のダークスケルトンウォーリアも、もはや幼女光の前に何秒もつかというレベル(;´Д`A トトカルチ…
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