185話 黒幕幼女は開拓をする
神聖なる光が森林に満ち溢れ、全ての魔物はその光から立ち去るべく一時的に逃げ去った。かなりの数だが大森林の広さに比べたらちっぽけなものだ。スタンピートなどにはならないだろう。
たぶん大丈夫だよねと思っていたら、ちょっと甘かった。なにが甘かったかというと、魔物たちが逃げようとしていくが、木々の間に張られた糸で動きを絡め取られていくのだ。
ラングの助力もあって、ガイが広大な範囲を糸で囲んでいたのである。まさしく蜘蛛の巣であり、小型の魔物はすり抜けていくが、大型の魔物は捕まっていった。モニター越しにガイがドヤ顔で糸を掴んでアピールしているのでわかった。
わかったというか、きっと皆にモニター越しに見せているのだろう。
「へへへっ。新型となったあっしの力を見せる時。見せるというか、魅せますぜ。操糸術 操糸念撃」
捕まった魔物たちは、魔力の籠められた糸により切り裂かれていく。キラキラと糸がきらめくと、鋭きワイヤーブレードとなった糸は魔物たちを容赦なくバラバラにしていくのであった。
「やるじゃん。ドロップはかなりたくさん……。素材のドロップは魔猿、魔狼、魔蛇、猪、兎、鳥、合わせて1500ぐらいだな。これ、使わない弱い素材のドロップは管理大変だな。ちょっと待ってろ」
マコトがドロップしたリストを見て考え込む。たしかにステータス10から20程度のドロップはそろそろ多くなりすぎて管理が面倒くさい。
数分、動きを止めた妖精は、俺へとニヤリと笑いかけた。なにか対応策をしてくれたのかな?
「パンパカパーン! 強くなった社長の素材管理を楽にしたぜ。ステータス20以下は種族ごとに纏められるようになったぜ。獣850、鳥760だな。以降も種族毎に特性を持たないノーマルは纏めれる。レアな特性を持つのは別扱いになるぜ。武器素材も弱いのは種族ごとになった」
「それは便利になりまちたね! 正直言って使わないのは面倒くさかったから助かりまつ」
「だろう? それで、次がもっと凄い新機能なんだぜ。フッフッフッ」
含み笑いをして、期待感を持たせようとするマコト。むむっ、そんなに凄い機能が? ワクワクしちゃう幼女に、シャララと翅を羽ばたかせて銀色の粒子を空に撒き散らし、くるくると身体を回転させて。イベントっぽくするマコト。
ビシッと指を突きつけてきて、教えてくれる。
「素材合体ができるようになったぜ! 結晶石を使うことによってできるようになったんだ。結晶小石はステータス30以下を。中石は50以下、大石は100以下、超石は無制限の素材合体をできるようになったんだ」
「なんと! それなら強力なノーマルが作れまつね! 凄いバージョンアップでつ!」
それは凄い! 喜んじゃうよ。幼女はぴょんぴょん飛び跳ねて喜んじゃうよ! ぴょんぴょんと飛び跳ねて、クネクネダンスを踊っちゃう。幼女のそんな姿は愛らしい。
「名付けて妖精の館! 今日はどのような合体をするのじゃ〜」
サングラスをかけて、神官のような服に瞬時に着替えたマコトが楽しそうに言う。どうやら、新しいバージョンアップは俺だけではない模様。マコトめ、早着替えの能力を手に入れたな。
「思い切りパク、いや、オマージュの館でつが気にしましぇん。新たな種族とかになるんでつよね?」
どっかで聞いたことのあるシステムだけど、きっと気のせいに違いない。幼女は覚えるのが苦手なので、思い出せません。
それにしてもどれぐらい強力なキャラが作れるのかしらん。俺は女神の転生ゲームが大好きだったんだ。いつも全書をコンプしてたんだよ。合体事故とか起きないかなぁ。
「基本、社長は人しか作らないからな。ゲーム仕様を楽しんでないからちょうど良いよな」
「そう言われるとそうでつけど。まぁ、今度試してみましょー」
苦笑いをして頷く。たしかにラングと狼、蛇ぐらいしか作ってないからなぁ。必要がないしね。でも、これからのことを考えると、もっと使った方が良いか。
「それと新たに結晶量産石が加わったぜ。これと結晶石を加えると、量産型は100ずつ合体できるようになるぞ、というわけで、ドロップは結晶量産石3、結晶小石114だぜ」
「痒い所に手が届くバージョンアップありあと〜でつ。それじゃ、今回の作戦にピッタリのキャラを……ん? そうか……」
合体と聞いてピンとくる。これが作れれば……いや、きっと作れるはず。
ポチポチとステータスボードを押して、また想定外の使い方をしようとするが、暇そうなガイが話しかけてくる。ごめん、忘れてた。
「親分、魔物は倒し終わりましたぜ。開拓を始めて良いですかい?」
「うん、どんどん木を切り倒して、拠点を製作してくだしゃい。あたちも合流しまつね」
幼女の聖域は1日が限界なのだ。その間に木々を切り倒して、柵を作っちゃおう作戦が、今回の目的であるのだ。ちなみに魔法付与で聖魔法はつけられなかった。聖属性をつけて、多少の追加ダメージを与えれるようにするぐらいだ。かなり聖魔法は特殊なのだろう。
「了解でさ! きたれ、赤竜の斧よ!」
素早く移動を開始して、ガイたちのいる場所に向かう。勇者は手を掲げてイベントっぽく赤竜の斧を召喚する。
見ただけで、その強大な力を感じさせる竜の意匠が彫られている紅い斧がガイの手に収まる。
集合地点へと到着すると、ガイは斧を試すようにぶんぶんと振っていた。振るたびに、その軌跡が紅い光として残りかっこよい。周囲のラングや妖精たちがその様子を感心してみている。
「あっしの力を魅せる時! 大木断っ!」
大声で叫び、決め顔になりながらガイが聳え立つ大木へと一閃する。10メートルは横幅がある幹に紅き軌跡が残り、ズルリとずれて倒れていく。
ガイは結果を確認せずに、高速で次々と他の木を倒していき、みるみるうちに視界が開けていく。普通ならば魔物たちを倒しつつ、ちっちゃい田畑を作るために苦労をしていたのだが、幼女聖域とガイの力によりあっという間に開拓がなされてしまう。
「フハハハ! 赤竜の斧の力を見たか! 大魔王タイボクーン! オラオラオラ〜」
折角の新武器のお披露目が木を切るというガイに相応しい形であったが、現実逃避をして勇者は大木を魔王とみたたて戦っていた。少しだけ可哀想な感じがするけど斧だし、ピッタリじゃね?
「タイボクーンは雷を放った! でろでろでろ」
倒されていく大木から雷が放たれる。タイボクーンが反撃に転じたのだ。
「こら、セフィ! 危ないだろ、やめろって」
雷の軌道に斧をあてて弾く勇者。もはや低レベルの魔法なら通じないのだ。木陰に隠れているセフィが楽しそうに魔法を唱えている。きっとタイボクーンの参謀に違いない。
「魔法を弾くとは腕を上げましたね。次はもっと高い魔法を使いましょう」
バシバシと魔法が放たれて、ガイとセフィがコントをしながら木々を倒していく。
なかなか面白いねと、マコトがコントの実況サムネをどうしようかなと考えていたりするが、スルーして根っこだけになった地面を見る。
「だんちょー、根っこは力技でとっていく? 大変そうだけど」
リンの言うとおり、大木の根っこは深く張っていて除去は面倒そうだが、皆で頑張って除去していくしかないだろう。
と、さっきまでは思っていた。
「大丈夫でつ。さっき、対応策ができまちた。簡単でローコスト。即ちキャラ作成。量産!」
ちっこいおててを素早く動かし、ボタンを押下する。リンたちがなにを作るのだろうと、興味津々で見てくる。
「獣と獣を掛け合わせ、今ここに獣を超えた者が出来上がる。即ち、精霊型ドローン召喚!」
とやっとおててを掲げてダンシングするアイの言葉と共にたくさんの魔法陣が空中に描かれると、クリスタルの下級精霊たちが現れる。
残念ながら、断食う牙ではない。ふよんふよんと現れるのは新型タイプの精霊だ。水タイプと土タイプがたくさん眼前に現れる。
「なるほど、同種合体なら精霊タイプになるのか。考えたな」
そのとおり、獣と獣を掛け合わせたら、水、土のどれかの精霊を作成できるようになったのだ。鳥は火と風。なので、獣を400使って、水と土を作りました。
「下級精霊は意思を持たないドローンでつし、弱くても物理耐性が高く、簡単な魔法が使えるから開拓にはちょうど良いでつ」
満足そうに精霊たちを見る。今は待機モードでふよんふよんと浮いたままだ、それぞれ色が違うだけで六角形のクリスタルだ。周りに水玉が浮いていたり、土玉が浮いてるので色と浮いている物で精霊の種類がわかる。
オマージュしている合体システムなら、絶対に精霊は作れると思ったんだよね。
量産石を2個使い100ずつ水と土の下級精霊を作ったのだ。精霊系統は強いのだ。女神な転生3なら、初期に出てきて無茶苦茶苦労したのだ。あいつら、ゲームバランス壊しているだろ。
「ん、使い方の予想はできる。誰が操る?」
ドローンなので、管理者が必要だけど、もちろん作成済みである。幼女はめいいっぱいキャラ作成をしちゃうのだ。某おっさんと違い、溜めておくコレクターなところはないので。
「サモン、ウンディーネ、ノーム!」
さらなる魔法陣が追加されて、人型の水でできている青色のドレスを着込んだ美しい少女と、トンガリ帽子を被った茶と緑の服を着込んだ少女が現れる。
「ルナプリンセス、水のウンディーネここに」
「ルナプリンセス、土のノームここに」
シュタンと地に足をつけて跪く精霊たち。忠誠心抜群の疑似精霊たちである。
こんな感じ
下級精霊 平均ステータス10
中級精霊 ウンディーネ、ノーム、平均ステータス30
まあ、簡単で良いだろう。能力値に合わせて各属性を操るぐらいなので。地味に幼女の眷属強化もプラスされると、かなりの強さになる。
「ノーム、木の根っこをドローンを使って排除。排除が終わったら、土を耕してくだしゃい。ウンディーネ、耕した土に水を撒いてくだしゃい。ラングはその後に種を撒いていってくだしゃいね」
「はい。根っこ排除、耕して」
「水撒きを開始して」
精霊たちはその声に従い、動き始める。木の根っこ付近の土を柔らかくしていき、根っこを持ち上げる。大木の根っこといえど、土から出てきたら簡単に除去できる。妖精たちがヒョイと拾い上げて運んでいく。ちっこい妖精が一人で大の大人でも数人がかりでないと持ち上げられない大きさの物を運ぶ姿はシュールだ。
「木の精霊が作れればもっと楽だったのでつが……木系統の素材はないからつくれましぇんでした。残念」
それなら柵とかも簡単にできたんだけどね。まぁ、無いものを望んでも仕方ないか。
「1日で拠点作成できまつかね?」
ステータスを生かして、皆が柵を作ったりしていく。常識外の早さで砦は完成していった。
「ん、これなら大規模な田畑ができる」
「マグ・メルの隣に作りますからね。私たちも張り切ります。なので果物を植えましょう」
「セフィ、ここに作るのは砂糖、香辛料、それにウンディーネとノームの欲しい食べ物でつ」
新しい果物を食べようとするセフィである。汗だくでガイは倒れ込んでいたのに、ピンピンとしているのはさすがである。食い意地もさすがだけど。
「ルナプリンセス、私は水の林檎でお願いします」
「私は土のさつまいもでお願いします」
てこてことウンディーネとノームが近寄ってきて、食べたい物を要求してくるが……なんじゃらほい?
「あたちは地球の物しかつくれましぇんよ?」
コテンと首を傾げて不思議に思っちゃう。ウンディーネたちは知ってると思ったんだけど。
「作物作成一覧で、上上下下左右左右ダブルクリックで裏メニューが開きますよ」
「なにそれ、昔のゲームみたいでつ!」
ウンディーネの言葉に従い、ポチポチと押して見ると作物作成一覧がひっくり返り、新たなメニューが表示された。な、なに、これ!
「雪のイチゴに、甘露の桃? な、なんでつか、これ! 地球縛りじゃないの!」
口をあんぐりと開けて驚き、マコトへとどういうことか視線で尋ねると
「あ〜……。これらも地球で作られているぜ。地球といっても、あいつの神域で作られているんだ。味の追求をしているから、変わった物が多いな。特殊能力はついていないけど美味しい物があるんだぜ」
ポリポリと頬をかいて、バレちゃったかと舌をペロリと出す妖精。な、なるほど、女神様の神域で作られていたのね。珍しい物ばかりじゃん!
「水の林檎に土のさつまいもの種籾作成っと」
「むむっ、貴女の信仰している女神の力ですか。珍しいんですか? ねーねー、私も欲しいです」
ステータスボードが見えないセフィが髪の毛を引っ張ってくるが、俺も欲しいよ。特にこれ。
「ミルクの実が作れるミルクの木! これがあれば、あたちの料理もさらに美味しくなりまつ!」
豆乳だと限界を感じていたのだよ。やはり煮たりするのに豆乳だと味が違うので。ミルクの木は最高級品質のミルクが採れる実が生ると書いてあるので。
「おいおい、砂糖や香辛料を作るんじゃないのか? 他のを作ると田畑の作付面積がなくなるぞ」
マコトが呆れてツッコミをいれるが、それどころではない。
「田畑はもっと広げれば良いんだし、大丈夫でつ!」
「そのとおりです。馬車馬のようにガイも働きたいと言ってますし」
「言ってないですぜ? あっしの言葉を勝手に代弁しないで」
「髭もじゃはお疲れだから、木の上で寝てもらおー」
「髭もじゃはお疲れだから、木の上で寝てもらおー」
「髭もじゃはお疲れだから、木の上で寝てもらおー」
勇者は疲れているので、優しい妖精たちが一番高い木の上までゆっくり休めるように運んでいく。
「ん、リンはこの綿飴小麦というものが気になる」
「良いでつね。この水晶米というのも気になりまつ」
皆で一覧を見て、見えないセフィは説明を求めて、ワイワイと騒ぎながらなにを作るか話し合う。
なんだかんだと話し合いを終えて、広大な田畑が作られるのであった。育成期間が短いので、様々な物を次々と育てることに決めて。
こうして、黒幕幼女は砂糖などの大規模供給拠点を手に入れたのであった。
注意するところはマグ・メルとの妖精の通り道をセフィたちが作成したことであるけど。