177話 裏技っぽいバトルをする黒幕幼女
壮絶なる戦いが繰り広げられていた。闇の騎士たちが槍を振り上げ、突風を生み出しながら高速で突き刺し、巨大化させて振り下ろしその質量で押し潰そうとする。
床は揺らぎ、ヒビが入り、魔力の光が武技を闇の騎士たちが使うたびに光り輝き、轟音がビリビリと空気を振動させて響き渡っていく。
「うぉー! ゴールドチャリオッツ! カキーン、カキカキーン」
狙われている妖精も負けてはいない。腰に差していたミスリルの爪楊枝を手に持ち、擬音を口にしながらめちゃくちゃに振り回して敵の攻撃を捌くフリをする。
ノリノリで戦闘を繰り広げる妖精マコト。さすがは元女優、敵の攻撃を受け流す演技は見事なものだった。なにしろすべての攻撃を食らって、振り回す爪楊枝は相手の武器にかすりもしない戦いのセンスの良さを見せているので。
「アアアア……騎士剣技 グランドスラッシュ」
短剣を手にしたボスが天へと掲げると、強烈な光を宿した巨大な剣へと変化する。そうしてその剣をマコトへと振り下ろす。
膨大な光がマコトへと命中した剣から発生し、巨大な塔が振動で揺れて床が砕けていく。妖精を中心に爆風が生まれ、瓦礫が宙を舞う。
「ググッ、やるなこいつ!」
敵の必殺技を受けて、苦しそうに胸を抑えるマコト。まったく意味のない行動をとりながら今の攻撃の威力に驚愕して……。へんてこな表情をつくっておるので、たぶん驚愕をしてるんだと思われる。ちなみに無敵すぎる障壁のせいで、まったくダメージを受けていない。苦戦をしているとみせたいのか、顔や服にペタペタと泥をつけていた。さすがは迷女優だ。
「やりまちたね。敵は大技を使いまちたよ。その騎士の残りえむぴーはどれぐらい?」
こっそりとスタッフルームで様子を見るアイ。キャッキャッと、マコトの大活躍を楽しそうに観戦しながら、敵のMP消費を確認する幼女であった。マコト一人の大活躍により、敵は武技を使いまくっていたりするので。
「今ので残りえむぴーは3割程になったんだぜ 神器の鎧と盾の使用時間はなくなったな。喰らえっ、愚者の砂っ」
粉々に砕けて砂と化した瓦礫を手にして、敵へと投げ始めるマコト。その姿はまさしく愚者である。砂使いマコトと呼んでも良いだろう。その激しい戦いに感動して涙がでちゃう。敵が可哀想すぎる。
「マコト……密かにバージョンアップしまちたね? 敵のステータスの詳細に加えて、武装も解析できるようになったでしょ?」
ガイが神器持ちと戦う時に、マコトが神器の能力も教えてくれたと言ってたから気になってたんだよね。
「バレたか。その通り、解析能力がランクアップしたんだぜ。ちょっと前の赤竜で稼いだエネルギーの余った残りを使ったんだ」
「次はあたちに使い道を相談してくだしゃいね? 幼女との約束でつよ?」
ぺろりと舌を出す妖精に、うるうるオメメでお願いする。解析のバージョンアップは良い使い道だが、いつでもイベントに参加できるスキルの余りというところが泣けてくるので。イベント参加できるスキルを取得しなければ、色々と力が手に入ったと思うので。
それはともかく、敵のえむぴーは無くなり、神器の効果も無くなるとは良いことだ。今回のボス戦は楽勝だねと、むふふとお口にちっこいおててをあてて微笑む幼女。相変わらずずるい戦いをしようとするアイである。
「だんちょー。ちょっとこっちがまずいから、ボス戦を終わらせてほしい」
まだまだ敵の消耗を待ちますかと、ココアとクッキーを取り出して、のんびりとおやつタイムにしようとしていたアイはモニターに映ったリンの言葉に顔を顰めちゃう。なにがあったん?
「悪魔が上から降りてきた。階層を移動するなんて、ゲームに相応しくない敵。ちょっと数が多いから苦戦気味」
「むむ、そうでつか。わかりまちた、リン、もう少し頑張ってくだしゃいね」
フラグをたててしまったかと、失敗を悟る。エレベーターに乗る前に迂闊な一言を言ってきたからなぁ。
リンの後ろでは異形の悪魔たちとバーンたちが戦っているのが見える。悪魔たち相手では厳しいと思うし、バーンたちは死んだら復活できないのだ。
仕方ないので戦うことにするか。幼女パワーが溜まっていれば瞬殺で倒せたのになぁ。
ギュンター爺さんはYP18、リンは22、ランカは3しか溜まっていないのであるからして。
「ガイは72溜まってまつから、たぶんクエスト系をクリアすると多く貯まるシステムだと思いまつ。敵を倒してもあまり上がらないのでしょーけど、ランカサボりすぎ!」
お使いクエストとか、ストーリー系クエストをクリアすれば20とかYPが増えるのだろうと推測する。ニートなランカがまったく貯まっていないことからも、たぶん間違いない。範囲攻撃を得意として大量に魔物を倒しているにもかかわらず、全然ランカは貯まっていないので。
「ダメダメ、僕はお使いクエストとか苦手だからね〜。ガイみたいにはいかないよ〜。討伐は結構しているよ?」
「きっと討伐はあまり美味しくないんでつよ。今度お使いクエスト探しまつからね。たぶん人々の感謝の気持ちがYPに変換されるんでつよ」
「アイたんとデートをしながらなら良いよ」
パチリとウインクをする狐人の美少女に苦笑をしつつ、真面目な表情へと変える。死者が出る前にボスを倒さなければならない時間制限ありのボス戦をクリアしなければならなくなったので。
「ゲームの始まりでつ」
ピンと手に持つコインを弾いて、幼女はふふっと笑うのであった。
ランカに乗り込んで、アイはレバーを握りこっそりと扉の隙間から敵を覗く。未だにチートな妖精を叩き続ける悪魔騎士たちを観察する。
「頭悪そうでつね……。知性がないのはラッキーでちたけど」
知性があれば妖精を無視しているだろう。そこらへんの羽虫と同じ扱いにされるはず。フヨフヨ浮いているだけだしね。
ボス戦にダメージを受けない管理者コマンドを叩いて挑むマナーのなっていないプレイヤーみたいなものである。卑怯な妖精だった。
「ですが、あの騎士たちの動きは凄腕ですぞ。本来はかなりの苦戦をしたでしょう」
同じく覗き見をしているお爺さんが真剣な目で言ってくるが、なるほど、たしかに槍の腕は素晴らしい。多彩な槍技を繰り出して、軽やかにそして豪放に振るうその姿は達人のものだ。
短剣を使うボスも高速思考を使わないと見失う程の高速の突き刺しから、切り払い、切り返しての連続突きと、かなりの腕だ。今までの敵とは一線を画す。
無駄に妖精に攻撃しているけど。
「とりあえす、基本アタックでいきまつ。アイ・月読行きまーつ」
ていっとレバーを引き倒して、ランカの身体に意識を移す幼女であった。
艷やかな金髪をたなびかせて、ピコピコと狐耳を動かしながら魔法使いアイは杖に魔力を籠める。
「連続魔 ブリザード10連!」
扉の隙間からブリザードを放つ。魔力に反応したのか、悪魔騎士たちはこちらを見るが、もう遅い。
怪しげな魔法陣のあるボス部屋は吹雪に閉ざされて、なにも見えなくなる。あっという間に床も壁も凍りつき、視界が白で埋まっていく。
「説明しよう! 雑魚の悪魔騎士たちは平均ステータス70、格闘6、剣術6、片手剣術6、槍術6、盾術6、鎧術6、回復魔法5、闇魔法3、その他補助スキル色々、特性精神破壊の瞳をもっているんだぜ! ちなみに回復魔法は悪魔化しているので使えないな! 物理魔法大耐性、聖なる攻撃に話にならない程弱い、もちろん回復魔法と聖魔法は使えない」
瞬間移動でランカの肩の上に移動してきたマコトがニヒヒと笑いながら説明してくる。なるほど、重装備の上にステータスもスキルも良い敵だ。しかも耐性がエグい。まともに戦っていたら、苦戦は確実だったかも。
「ボスは堕ちたるセクアナ。平均ステータス116、格闘6、剣術7、短剣術7、片手剣と両手剣を統合させた騎士剣術7、槍術7、短槍術と長槍術を統合させた騎士槍術7、盾術7、鎧術7、回復魔法7、聖魔法7、闇魔法5、特性死の瞳を持ってるな。物理魔法大耐性、聖なる攻撃に練習相手にもならない程弱い」
「セクアナ? あれは小神セクアナなのでつか?」
平然と敵の解析結果を伝えてくるマコトだが、その言葉にギョッとしてしまう。セクアナ? あいつセクアナなの?
「魔法武器、光の短剣、斬撃+で攻撃力130、神器は浄化の鎧、防御力175、浄化の盾、防御力180。社長の予想通りに剣は持っていない。使用することにより全ステータスが+60上がるんだぜ。鎧、盾の両方にその効果がついているな。ちなみに神そのものが装備しているから、効果は消えているが、鎧も盾も変わらず使えるんだぜ。他にも効果はあるんだけど、回復系統と異常耐性だから堕ちたるセクアナは使えないな」
「まずいでつ! 一旦下がりまつよ!」
ギュンターへと指示を出し、後ろへとアイは下がろうとする。ヤバいステータスだ。特に防御力が。もしもランカの魔法を耐えきったとしたら……。
マコトの解析を聞いてすぐに退却の判断を下そうとするが、それは遅かった。
「ぐっ」
一条の光線が吹雪舞う広間から放たれて、扉をぶち壊し、ランカの肩を貫く。鮮血が舞い、肩が吹き飛ぶ程の威力を受けて、床に転がってガラスの円柱にぶつかってようやく止まる。
「騎士剣技 閃光剣」
吹雪の中から不気味な嗄れた声が僅かに聞こえてくる。なんとか立ち上がりハイヒールを使い魔法使いアイは立ち上がるが、その傷は深く、身体がふらつく。
「盾奥義 破壊の盾」
再び響く声と同時にセクアナがいる場所から暴風が巻き起こり、ブリザードが消えていく。凍りついた広間に盾を構えたセクアナだけが立っており、こちらを睨みつけていた。
「レベル7以上が使える武技、奥義だな。破壊の盾はあらゆる魔力構成を破壊すると言われているんだ。武技も魔法もあの技を使われると消えちゃうんだぜ」
「マコトの障壁は消えていませんでちたけど?」
「そりゃ、格が違うからな。小神如きじゃ打ち破ることはできないんだぜ」
あっさりと答えるチートな妖精。羨ましい障壁だ。俺も欲しいと思いながらランカのヒットポイントを見ると、4割も減っていた。ハイヒールを使ってもこれかぁ。
「仕方ないでつ。ランカは魔力も少ないでつし、このまま離脱してくだしゃい。あたちはギュンターに移りまつ」
「ギュンターお爺ちゃんじゃ、セクアナの防御力を超えることできないんじゃないかな?」
「そこは考えがありまつ。そんじゃチェンジで」
ランカが心配するのは当たり前だ。ギュンターのちからは60、アイが操作しても180、銀の槍のちからを足しても230だ。かすり傷程度しかまともに戦えば与えられないはず。
コインをさらに投入して、ギュンターに移るアイ。こういった戦いは慣れているし、ゲームキャラと違って敵は装備した箇所しか防御力は増えないのだ。全身鎧だから難しいが、隙間を狙えばなんとかなる。
「本当に隙間を狙えると思っているのか? 敵の方が腕は圧倒的に上なんだぜ?」
「ふむ、姫は他にも考えがあるのだ、マコトよ」
モニター越しに話すマコトとギュンターの言葉にニヤリと悪戯そうな笑みを浮かべちゃう。
「お爺さんの言うとおりでつ。敵は硬いでつが、倒せる方法はいくらでもあるんでつよ。他の敵を先に倒せたから、かなり勝算は上がっていまつ」
自信満々に黒幕幼女は語って、聖騎士の身体へと意識を同化させるのであった。