176話 スタッフ専用エレベーターを使う黒幕幼女
ぐんぐんとエレベーターは上昇して、アイたち一行は塔を登っていく。ボタンが1階と99階しかないから直通便ぽい。
「ねーねー、アイちゃん。小部屋で待機? なんか変な感じがするんだけど。耳がキーンとする」
不思議そうな表情で、クイクイとアイの肩を引っ張るララの言葉に苦笑しちゃう。そういや、なにも説明せずにエレベーターに入ったわ。この世界の人なら理解不能なはず。なるほど、そう考えるとたとえエレベーターを見つけても、普通なら隠し部屋としか思わないだろう。
ゲーム脳な俺たちは普通にエレベーターを見つけたと考えちゃったよ。
「あぁ、この小部屋はエレベーターといって、小部屋自体が空を飛んで最上階に向かっているのでつ。なので、次に扉が開いた時は最上階でつよ」
「え〜っ! そんなのあるんだ。アイちゃん物知りだねっ」
「それほどでもありまつ」
テヘヘと身体をクネクネさせて照れちゃう。もっと褒めて良いよ。幼女は褒められて伸びるのだ。
最近、幼女化が激しいアイ。褒められると、すぐに嬉しくなっちゃうのだ。クネクネダンスを幼女は踊り、魔法少女と侍少女が興奮気味に撮影する。二人の少女の変態化も激しい。
ダンジョンアタックなのに、まったく緊張感を見せない一行であった。
とはいえ、エレベーターが揺れて止まると、真面目な表情へと戻る。お遊びは終わりである。幼女は仕事と遊びをちゃんと分けられる良い子なのだ。
ちらりとギュンターへと視線を向けると、手慣れた様子で盾を掲げて皆をガードできるように聖騎士は立つ。
扉が開いた瞬間に敵の攻撃が飛んでくるパターンを警戒したのだ。エレベーターで敵に襲われるパターンや、扉の外から攻撃してくるパターンは映画とかでよくあるテンプレなので。
だが、扉が開いても外は静かなものであった。シンと静まりかえっており、天井から降り注ぐ蛍光灯のような灯りが何もない小部屋を照らすのみであった。
「こちら幼女、こちら幼女。待機部屋らしきところにしんにゅー」
コロリンとでんぐり返しで部屋に入り、ササッと部屋の隅にへばりつく幼女。その姿はごっこ遊びをしているようで、可愛らしい。
「どうやら待機部屋らしいな。社長、周囲に敵は見えないぜ」
なぜか軍服を着込んだマコトがノリノリで答えてくる。二人はカサカサと周囲を調べ終えると、ふぃ〜とかいてもいない汗を拭うフリをする。
「ん、何もない。倒れている奥さんもいないし、ラスボスの写真もない。サービスの悪いダンジョン」
「ゲーム脳だなぁ。見る限りスタッフルームという簡素な部屋だよね」
リンがイベントがないことに文句をつけて、杖で肩をトントンと叩きながらランカがいうが、たしかにそのとおりだ。何もない小部屋で、少し先に扉がみえる。
スタッフ専用通路は一度使ってみたかったんだよと、クフフと笑い次の扉横にコロリンと転がって移動して、そっと扉を細く開く。
「ドローンにて偵察をしまつ」
肩の上のドローンを掴み、ていっと細く開いた扉から外へと放る。
「しゅい、しゅい〜」
ノリノリで擬音を口にしながら空を飛び次の部屋を調査し始めるマコトドローン。モニター越しにマコトを覗いていると、中の様子がわかってきた。
ガラスの柱がたくさん設置されており、中身は緑色の水に、変異化した人々。顔がふたつあったり、腕が4本生えていたり、肉塊にたくさんの顔が浮かんでいるのもいた。
異形の姿と変わっている人々は死んでいるようにも見えて、標本のようだが……。弾丸やハーブはそこらに落ちてはいないが、ヤバそうな雰囲気がする。
「リン、ララを連れて下に戻ってください。ヤバそうな敵がいるかもなので、とりあえずララは安全な場所に避難させておきましょー」
ちょっと部屋の雰囲気がヤバそうなのだ。壁際には机、その上に羊皮紙の束。そして椅子には人骨、ガラスの柱もいくつかが割れている。
どう見ても人体実験場です。ありがとうございます。どうやらここは清浄なる神の塔じゃなさそうだ。なにか裏の真実が隠されていそう。
ゲームでよくある場所なので、イベントボスかと警戒はするが、非道なことをとか怒りはしない幼女である。ゲーム脳に侵されすぎでもある。幼女は1日1時間にゲームは抑える方が良いだろう。
「む〜、仕方ない。危険なら呼んで」
「危ないところなら仕方ないね」
リンが不満そうにとんぼ返りとなったことを愚痴り、ララは真剣な幼女の言葉に頷いてエレベーターの中へと戻る。なんとなく危なそうな雰囲気を感じた模様。必要な時にまた呼ぶよ、ごめんね。
エレベーターが閉まり、ふたりが下へと戻って行く中で俺は考え込む。
「これ、ボス戦でつよね? 確実にボス戦でつよね? こっそりブリザードを扉の隙間から放てませんでつかね?」
ゲームじゃないから、特に行動制限は無いよねと、常に効率的に動こうとする幼女である。敵の姿は見えないけど、先手必勝といきたい。
「なぁ、次の扉があるんだぜ」
マコトドローンが奥に進み、大扉を見つけて指差していた。大扉は赤黒い光の障壁で覆われていて、開かないようになっている様子。
「手順を踏まないで最上階に来ちゃったけど、本来は1階から宝箱とか開けていかないといけないんじゃないかな?」
扉の様子を見てランカが苦笑混じりに言うけど、それは現実だと無理だろ。
「99階クリアなんてやってられましぇん。ネトゲーアニメ版でもショートカットしていたでしょ?」
何年かければクリアできるかわからないし。アニメ版ではサブヒロインが振られて可哀想だったな。あんなに主人公に尽くしていたのに、第二部後半であっさりと主人公は捨てたからな……。
余計なことを考え始めたので、幼女は頭をふるふる振って気を取り直す。とりあえず駄目元でマコトへと指示を出す。
「ボス戦っぽいでつね。中の様子はどうなってまつ?」
なにか封印を解く鍵でもないかなぁと、期待せずに言ったのだが
「中にボタンがあるぞ。たぶん押したら解除できそうだぜ」
封印も扉もガン無視して、アストラル体へと変化すると、ニュッと中に入ってしまい、教えてくれる妖精。
「………」
「………」
「………」
さすがに予想外であったので、3人共黙ってしまう。そんなんあり? そういや、マコトはそんな技を持っていたな。魚に食われたり、鳥に咥えられたりする時しか使わないから忘れてたけど。
「ププッ。なんかあれだね、管理者権限コマンドを打ち込めるゲームを思い出しちゃったよ」
「恐竜の世界でクラフトして遊ぶサバイバルゲームな感じでつね。あれは使いすぎるとフラグたてがおかしくなって、ストーリー進行できなくなりまちた」
管理者権限コマンドを打ち込むと壁とかをすり抜けることができるゲームがあったのだ。恐竜の世界にタイムスリップしたと思ったら、実はその場所は……ってゲームだった。SFな武器や建物を造れたから楽しかったな。
「マコト、そのボタンを押してみよ。封印が解除できるか試してみようではないか」
「わかったぜ。ポチッとな」
ギュンターの指示に、なんの警戒もなくボタンを押下するマコト。そのまま消えたかなと、扉を頭だけ突き抜けて確認する。このドローンはゲームブレイカーであった模様。
「お、消えてるぜ。それじゃ、この部屋も探索するぞ。しゅい〜ん」
再びマコトドローンは擬音を口にしながら先に進む。なんだかなぁと、微妙な表情になりながらもモニターを見ていると、どうやらかなり広い部屋っぽい。
というか……。
「凄いぞこれ! 仕込み無しで、こんな建物があるなんて思わなかったぜ!」
なんだか不穏なことを口にするアホ妖精。まぁ、この間の竜は酷かったからなと苦笑をしつつアイたちもその光景に驚く。
部屋の中心に向かい円形にコンピュータ回路のような複雑極まる魔法陣が床に刻まれていたのだ。回路は赤く光っており、まるで未来的な光景にも見える。
中心には柱が立っており、その柱は何かを収めていたのか、観音開きで解放されている。いくつものコードが柱の中に見えるが、収まっていただろう物はない。
柱は天頂まで向かうように立っているので、この上から浄化の水とやらが生み出されていてたのではなかろうか。
そして、柱の側には切り裂かれて倒れている数人の死体……。
「なにやら、イベントがあったぽいでつね。なんのイベントがあったかは……だいたい想像つきまつが」
実は最初から予想していた。キツグー伯爵家はお取り潰しレベルで勇者のせいでピンチに陥ったはずなのだ。なにせ、神器を破壊されたのだから。幼女がドロップしたとも言う。神器が壊れたのはマコトから教えてもらった。
どうやら力を抜き取ってしまうから、魔法武器や神器は壊れてしまう時があるとのこと。そういえば始めてドロップの説明を受けた時にそんなことを言っていたと思い出したものだ。
お取り潰しにならなかった理由は神器もそうだが、この塔と湖。浄化の水があれば、それでも今まで通りになんとかなったのだろうが、だが爵位が下げられるのは逃れようがなかったと推測する。
強欲な伯爵家ならば耐えきれまい。なので、どうやってか知らないが、状況を知った伯爵の一族が事態の改善に神の塔に登ったのだろう。なんで神の塔に登ったのかは知らないけど。なにかしら秘密があるんだろうね。
そして、なにかをやろうとして失敗したと。ここを見る限り神の善意で浄化の水が生まれる塔という感じはしなかったし。小神とも聞いている。小神ということは、人間が神に至ったのだ。何かの実験をしていた人間が神になっても実験していたんだろうね。
「しゅいしゅい〜ん……。調査を開始……できなさそうだぜ」
魔法陣の中にマコトが入ると、光が強くなり床から漆黒の鎧を装備した騎士たちが姿を現し始めたので、マコトは少しビビっていた。無敵なのは身体だけなヘタレな妖精モドキである。
お揃いの全身鎧にタワーシールドを持ち、長槍を持っている。邪悪なるオーラを漂わせて、身体がゆらゆらと蜃気楼のように揺れている。
そうして中心の柱の前から、一際身体が大きな闇の騎士が現れる。装飾がしてあり、分厚い重装甲の全身鎧と紋章が彫られたカイトシールドを手に持っている。しかしいかにもボスですといった姿だが、武器が短剣である。ボスなのに武器はしょぼそうだ。
ボスを合わせて13体の闇の騎士が一斉にマコトへと襲いかかってくる。
「タスケル……アクマヲモドス……」
たどたどしい言葉がボスから漏れ聞こえて、甲高い金属音が響き渡る。ゲームならばボス戦の始まりだと、気合いを入れるところだが、ひょえ〜とマコトは怯むが、蒼い半透明の障壁が発生してまったくダメージは負っていない。あの障壁最強すぎだろ。
「なるほど……わかってきまちたよ。あのボスは本来は神器の剣を持っていたと思いまつ」
小さなアホ妖精を懸命に叩く騎士たちを見ながら納得する。たぶん、クズ貴族たちは神器をかっぱらいにきたのだ。昔に剣を盗めたのだろうが、今回は失敗したと。
まぁ、鎧を盗るならば中身も動かさないといけないからな。柱の中から取り出したのだろう。そうして結果は邪悪なる騎士たちが産まれたと。
ゲームではよくあることだと、あっさりとなにが起こったかを看破しながら、さて、あの防具が神器だとするとヤバいかもと、どうやって倒すか考え始める黒幕幼女であった。