175話 ふぁんたじ〜バトルな黒幕幼女
デーモンドッグの次に現れたのは、ぬるぬるしていそうな爬虫類っぽい黒い肌を持つ二本足で立つ人型の魔物であった。
爬虫類っぽい肌なのに、トゲトゲしたハリネズミのような毛を生やしており、硬そうでもあるので触ったら痛そう。頭はコウモリであり、目は赤く光り小さな牙がびっしりと口内に見える。手には黒光りするナイフのような爪を生やしており、ニタリと笑うその表情は不気味で邪悪さを感じさせてきた。
「レッサーデーモンだぜ! 平均ステータス37、火魔法3、闇魔法3を使う低級悪魔だな!」
パラパラと銀色の粒子を翅から放ちつつ、マコトが説明をしてくれる。新たに現れた魔物を見てテンションが高そうな妖精である。
「闇魔法スキルでつか。強いスキルでつか?」
「闇魔法は呪い系統だな。敵の精神を削るマインドアロー、恐怖を与えて動きを阻害させるフィアー、敵のヒットポイントを奪うドレインタッチを使えるぜ。ちなみに光魔法は属性でないから。闇魔法だけだな。光は聖属性になるぞ」
「それ……月光の面子に効果あるんでつか?」
デフォルトでゲームキャラは精神攻撃、呪いは無効となっているはず。敵にキャラを支配されないようにするための仕様だ。
「あ〜……そうだな。悪魔系統は呪い攻撃がメインだから、女神の祝福を持つ月光の面子には相性抜群の敵かも。でも、他のスキルも悪魔は色々持っているし、ステータスも高いから油断はできないんだぜ」
やっぱりなと、アイは頷く。呪い、精神攻撃無効はかなり良いチートスキルなんだよな。アンデッドや悪魔は涙目になって良い存在が俺たちだ。
「それじゃ、バーンしゃんたちは厳しい相手だと」
「アイ様、私たちも祝福は貰えませんか?」
近づくレッサーデーモンに盾を構えて警戒しながら、バーンは聞いてくるがもちろん無理だ。
「女神の祝福は本国の大神殿で洗礼を受けた時に貰えるんでつ。この地では無理でつね」
ぺらぺらと嘘設定を騙る幼女である。嘘も方便だよねと、平気な表情でバーンたちへと告げる幼女であった。凄えと、キラキラした瞳でアイを元女優さんが見てくるがスルーしておく。
「仕方ないですね。そう簡単には祝福は手に入りませんか」
加護を受けるとアホになるしね。祝福も悪影響あるんじゃないかなぁ。あるとすればだけど。最近、暇な時間は子供たちと遊ぶのが楽しい幼女なのでつよ。
バーンは苦笑いをして、ダランたちとアイコンタクトで陣形を作る。等間隔にて盾を構えて、支援を後ろに立つ者がするオーソドックスな陣形だ。フリーウォールだね。パーティーに補正はないが、使いやすい陣形だ。ゲームだと。
ちなみに今のメンツは、アイとマコト、ギュンター、ランカ、リン、ララ、ダツリョウサン12人、バーン、ダラン、レミー、ダランのウルフ隊10人だ。大人数だが、探索するのに、これぐらいは必要だと思うのです。漁村に50人程のダツを待機させてもいる。
「くるぞっ!」
ギュンター爺さんが鋭い声を発するのと同時に、レッサーデーモンは唸り声をあげて駆けてくる。敵の数は50程。10程度は後ろで詠唱を始めている。ファイアーボールを使われると集団戦は厳しい。
「てーてーてー、てろれっとれとれとー」
「てーてーてー、でろでろでろでろ、でろでろでろでろ」
アホな幼女とアホな妖精が戦闘BGMを口ずさみながら、戦闘が開始する。可愛らしい声音でのBGMなので、気が抜けそうな感じもしちゃう。それと、ランカとリンが録音、録音しなくちゃと慌ててカメラドローンを操作し始めて、戦闘をボイコットし始めたので、仲間へのデバフ効果もある模様。
「まずは後衛を撃破しまつ。魔法操作 範囲化 フリーズスタチュー!」
アイの発動させた魔法により、氷の棺に包まれる数匹のレッサーデーモン。ギュンターたちは敵の繰り出すひっかき攻撃を盾で受け止める。ギュンターと対峙したレッサーデーモンは盾に触れた瞬間に聖なる力で燃え始めて苦しみ悶える。
他の者たちは、剣を振るい敵と打ち合い始める。なんというか、ギュンター爺さんだけチートだ。
キンキンと金属音が塔内に響き、武技の光が時折輝き、激戦が始まる。獣の動きで爪を繰り出す邪悪なる悪魔に、バーンたちも負けずに盾で防ぎ、後衛が隙を見つけて剣を繰り出し、悪魔を傷つけていく。こちらも無傷とはいかず、鎧には引っかき傷がはいり、鮮血が空中に飛ぶ。
数で勝るレッサーデーモンだが、やはり集団戦ではダツたちの動きが際立つ。一つの生き物が敵を捕食するように、淀みない連携の動きで次々と倒していく。
「ファイアーボール」
「マインドアロー」
「フィアー」
「フィアー」
「マインドアロー」
「うぉー! ファイアーボールを落とせ! アホビットでつ!」
倒しきれなかった後衛のレッサーデーモンが詠唱を終えて、魔法を発動し始める。すぐに頼りになるビットを掴んで、ピッチャーアイは投擲する。
「マコトビットだぜ!」
相変わらず、ビット扱いされても嬉しそうに飛んでいくマコトが、ファイアーボールに激突して爆発する。もちろんマコトは無傷だ。
「てやっ! 幼女を虐めると逮捕されまつよ」
黒い球体や、闇の矢が飛んでくるので、アイもダッシュして味方を通り過ぎて魔法の射線に入っちゃう。マインドアローもフィアーも幼女には通じない。が、バーンたちには通じるのだ。精神回復系統の魔法を持たないアイたちなので、恐怖状態にバーンたちがなったら困っちゃう。
幼女に当たるが、弾けて消えていく闇魔法。それを見てレッサーデーモンが突出してきた幼女へと爪を振り下ろす。タップを踏むようにアイは身体を揺らして、その攻撃をすれすれで回避しながら、短剣でカウンターを繰り出す。
的確に繰り出される幼女の攻撃に、レッサーデーモンは腕を切り裂かれて、痛みに耐えかねて押し下がる。その隙を見逃さずにアイは短剣を大上段に構えて
「剣技 ソードスラッシュ」
赤い魔力の刃を剣身から伸ばして、レッサーデーモンを頭から真っ二つにするのであった。
横合いから追加のレッサーデーモンが攻撃を仕掛けてくるが、すぐにギュンターが後ろから助けに来てくれて、アイとレッサーデーモンの間に立ちはだかる。触れたその瞬間に敵は燃えて、ギュンターの剣にて倒されていく。
「姫、あまり前に出ないようにお願いしますぞ」
苦笑しながらギュンターがレッサーデーモンを倒していくのを見て、てへへと幼女は舌を出して悪戯そうな笑みとなる。
「なんだかふあんたじ〜。とってもふぁんたじ〜なのでワクワクしちゃいまつね」
キャッキャと可愛らしい笑みで楽しそうにしちゃう。そろそろサイコロを用意しておきたい幼女である。サイコロを使うとゴブリンにも苦戦するだろうから、幼女は使わない方が良いだろう。
レッサーデーモンはギュンター爺さんのチートスキルと後衛が潰されたことにより倒されていく。少しあとには、全員を倒し終えて、皆は一息つくのであった。
「魔犬8、魔人17、知識因子影術3、闇魔法3を複数ゲットだな」
「闇魔法と影術をあたちも覚えておきまつ。……魔人?」
「こいつらは魔法により悪魔化した奴らだぜ。だから、キャラ作成時には人として作れるな」
予想外のことをマコトが言ってくるので、アイは意外な内容に多少驚く。なるほど……そうなると、基礎ステータスが高いノーマルキャラを作れるな。
「魔人が悪魔ではなくて、人が悪魔化したら魔人? 純粋悪魔は別にいまつ?」
「もちろんだぜ。純粋悪魔は魔法か魔法武器しか通じないし、滅多にいないと思うんだぜ」
「なぜ悪魔化したのか……。瘴気の影響ではないでつよね?」
瘴気で悪魔化するなら、さっきのゾンビはなんなのという話になるしな。予想は当たっていたようで、マコトは頷きで返す。
「これは呪い系統の魔法の影響だぜ。どうやら過去に悪魔化しようと考えたアホがいるみたいだな」
「さっくりとバックストーリーがわかっちゃうのが、あたちたちの優位なところでつね。それにしても魔人でつか……もっと強い敵もいそうでつね」
敵を倒し終えて、奥を見ると扉があり、その中を覗くと階段があった。どうやら上の階層に向かうことができる様子。
ふむぅ、とアイは顎にちっこいおててをあてて、中には入らず、ぽてぽてと広間に戻る。
「どう考えてもキツグー家はこの広間で全滅確定と思われまつ。でも実際は最上階に向かい、余計なことをしたと予想されまつ。余計なことをしたから悪魔たちが現れた可能性も高いんでつが……そうなるとゾンビ化していた騎士たちはなぜここで死んでいたの? となる。皆で移動していたら、ここに騎士は残っていなかったと思うんでつ」
「それは騎士たちがここで待機しておかないといけない理由があったということ〜?」
「ランカの言うとおりでつ。たぶん見抜く目の力がここでも発揮されると思いまつ。スタッフ専用通路……あると思うんでつよ」
現実なので、絶対に通路があると思うんだよな。テレポートでもない限り。それに毎年登っていくの大変すぎるだろ。
「ん、それじゃ、皆で柱を調べる。この並んでいる太い柱、絶対にどれかは隠しエレベーターがある」
「たしかに。テンプレでつからね。ララ、柱をペチペチ叩いていくので何かあったら教えてくだしゃいね」
窪みとかを重点的に調べましょー、とバーンたちがなぜ俺たちがそういった思考に辿り着くのか戸惑う中で、柱を調査していく。
悪いね。テンプレなんだよ。コンピューターゲームだと専用の鍵か、フラグがたたないと発見できないけど、現実ならどうかな?
皆でペチペチ柱を叩いていく。たぶん大人がちょうど手を当てれるぐらいの高さが怪しい。即ち幼女には届かない場所なので、ぴょんぴょん飛び跳ねながら。
「可愛いよ、アイたん」
「むふーっ、もっと笑顔できらきらジャンプでお願い」
「仕事しろでつ!」
ゴロンゴロンと床に転がり、興奮気味にアイを撮影するアホな二人にツッコミつつもしばらく調査を続け
「アイ様、ありました! なんだか小さな蓋が壁に!」
レミーのはしゃぐ声に、てててと駆け寄っていく。なるほど、ありがちな隠しパネルがあった。継ぎ目がほとんどなく、わかりにくい。
「レミーしゃん、ありあと〜! ララ、開け方わかりまつ?」
蓋を開くとパネルがあったので、ララへと尋ねると、ふんふんとララはパネルを見て
「パネル横に魔力で押し方の順番が書いてあるよ! この通りに押せば良いみたい」
「セキュリティガバガバでつね……開けてくだしゃい」
「は〜い! えっとルーザーっと」
ピコピコとボタンをララが押下すると、プシューと音がしてパネル横の柱が開きエレベーターが現れる。物凄いテンプレである。
「なるほど。だから騎士たちを待たせていたんでつね」
エレベーターは小さく6人も乗ればいっぱいになりそうな広さであった。最大6人は乗ることができるんだろうけど……。
「あたちとギュンター、ランカ、リン、ララで行ってきまつ。余裕をもたせないと、エレベーターが罠の時は困りまつしね」
エレベーターの天井が開いて魔物が現れるかもしれないしね。
常にゲーム的展開を警戒しつつ、アイたちはエレベーターに入り、最上階を選択する。
「バーンしゃん、待機組も警戒していてくださいね。強力な魔物が現れるかもしれませんし」
「わかりました、アイ様もお気をつけて」
一応バーンにも注意するように告げておき、エレベーターの扉が閉まっていくのを黒幕幼女は見るのであった。
活動報告を新たに記載しました。