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黒幕幼女の異世界ゲーム  作者: バッド
12章 貴族とやり合うんだぜ
170/311

170話 買収しちゃう黒幕幼女

 ジロンの屋敷に入り、食堂に腰を落ち着けて、皆は近況を話し合っていた。特にマーサが懸命に誤解を解こうと頑張っていた。既に自己紹介は終わっていた。


 勇者はサイレスがかけられたのか、押し黙っていた。こういう場合、自分が説得しようとすればするほど、疑いを持たれると理解していたので。


 さすがは勇者。じゅもんつかうな、を自ら実践している頭の良さを見せていた。


「申し訳ありません、ガイ様。酷い勘違いを致しました」


「てっきり姉さんを食いものにしている小悪党かと思いました」


 サマンサとタロンが申し訳なさそうに、テーブルに手をつけて、深々と頭を下げる。マーサの懸命な説明と、ララの言葉にようやっと自分たちが勘違いしていたと、反省していた。


 まぁ、無理もない。月光商会のナンバーツー。マーサの雇用先のお偉いさんを小悪党と言ったのである。しかも土下座付きで。フォローをしようにも難しい。娘の勤め先の役員を小悪党呼ばわりしたということだ。社会的地位を考えると、役員は烈火のごとく怒り、マーサを首にしていてもおかしくない。


 ハードな異世界だから、文字通り首を物理的に斬られてもおかしくない。


 だがガイは男である。弱者を守る強くて優しくてかっこいい勇者である。


 なので、朗らかに笑いながら山賊の親分よろしく鷹揚に許した。


「気にしなくて良いでさ。あっしはそういう外見ですしね」


 その言葉に、夢から醒めたようにサマンサとタロンはガイを見直して、立派な男だと感動していた。メンツの問題もあるのに、この人はなんて懐が深いのかと。


 ガイはよく見ると、目がバッシャバッシャと泳いでおり、魚群が見えるほどであったが。


 なにせ自身の精神干渉スキルで、相手は小悪党呼ばわりしてきたのだ。ハッキリ言ってこの事態はガイのキャラ特性のせいである。望みもしていないのに、デフォルトでつけられた小悪党スキル。ガイのせいではないが、わたしのせいじゃないよ、ダイスの目が小悪党の産まれだと決めたんだよと言う女神様の幻聴が聞こえてくるので仕方ない。神がサイコロを振った結果だからして。なので、これで怒ったら気まずすぎる。


 先程こっそりと魔法操作にて小悪党スキルオフと願ったので、威力が緩和されたのである。完全にオフにできないところに、このスキルの悪辣さが透けて見えた。


「マーサ、……お帰りなさい」


「お帰りなさい姉さん」


 涙を溜めてサマンサと、タロンがマーサへと優しい笑みで歓迎する。先程の小悪党から守ろうとした二人の行動にマーサも態度を緩和していたので、小さくただいまと答える。


 正直、ここで悪態をつけるほど、マーサの性格は悪くないし、空気を読むとそうなるよなとアイは思う。人間、余程憎しみを持たないと、ここでやり返すことは不可能だ。好きな男が隣にいるとなれば、なおさらね。


 幼女は椅子の上でパタパタ足を振りながら、幼女らしからぬ大人な分析を冷静にしていた。中の人が幼女に悪影響を与えているのは確実なので、そろそろ眠りにつかせないといけないだろう。


「あの……それで、その子はまさか……」


 アイを見てサマンサが期待の籠もった目で問いかけてくるが、残念ながら孫じゃないよ。


「この方は月光商会の当主であらせられるアイ・月読様です。私の雇用主であらせられます」


「よろしくでつ! 仲直りをして良かったでつね。あたちはハッピーエンドはだいしゅきでつ!」


 マーサの紹介で無邪気な笑顔で手をあげてご挨拶。幼女は挨拶ができる良い娘なのだ。こら、ララさん、いつの間についてきたのとかいう顔をしない。俺がこんな楽しそうなイベントを見逃すわけないでしょ。


 それに、再び経済界に進出する時だし。貴族の人脈も太く広がってきたしな。


「こ、これは、失礼を。私はジロン商会の当主ジロンの妻、サマンサと申します」


「私はジロンの息子、タロンと申します」


 二人は立ち上がり、慌てて頭を下げてくる。月光商会の当主はもはや王都1。失礼なことはできないと。


「わ、私の名前はジロン。このジロン商会の当主です。アイ様にお会いできて光栄です」


 謎のインコの来襲からようやく脱出したジロンが揉み手をしながらやってくるが、幼女は冷めた目で見返す。


「こんにちは、ジロン元商会長。これからはのんびりと暮らしてくださいね」


 その幼女らしからぬ皮肉めいた言葉にジロンは鼻白み、その内容に眉をひそめる。


「それはどのような意味でしょうか? 私は元ではありませんが」


 それでも目の前の幼女は月光商会の当主。愛想笑いを浮べようと口元を引きつらせて尋ねてくるので、フッと笑い肩を竦める。幼女なので、背伸びをしているようにしか見えなかったが。


「もはや、この商会は死に体でつ。あたちがマーサについてきた訳は、この商会を買い取るためでつ。そこにジロンの存在は必要ありません。娘を勘当するような輩には。冷たい人間には冷たいお返しをあたちはするのでつよ。マーサは月光商会の一員でつからね」


 幼女らしからぬ冷たい視線と声音にジロンは威圧される。このような幼い子供に威圧されるとはと、戸惑いながらも背筋が冷たくなる。


 これが月光商会の当主であるのかと。本能で器の違いを感じてしまい、どう答えようかと考えが纏まらない。


「手持ちの資金がなくなり、火の車らしいでつね。現金が枯渇する商会は長くない。取引先への支払いも滞っている。もはや潰れるのも時間の問題。ジロンはそれを懸命に隠していたようでつが、あたちの目は誤魔化せません」


 その内容にサマンサとタロンはジロンへと驚きの表情で顔を向ける。厳しい状況だとは知っていたが、そこまで追い込まれているとは予想していなかったのだろう。


 ジロンは悔しそうに顔を俯けており、なにも答えることはない。他人の力を借りるには余裕がないと駄目なのだ。特に出資者は選ばないとね。狡猾なやつは良いが、悪辣な相手は出資者に選ぶべきではなかった。


 幼女は闇に生きる黒幕ぽいねと、ふんふんと鼻息荒く、によによとご機嫌な様子で得意気に語っちゃう。その姿は会話の内容を気にしなければ普通の幼女であった。


「わ、私が当主の座を引けば、助かるというのかっ? この商会を救ってくれると?」


 あくまでも商会の存続を望むのかと、憐れな男を見る。全てをかけて商会を大きくしてきて、家族をも道具にしてやってきたからなのだろう。この男には商会しか見えていない。商会が全てなのだ。


 未だにマーサへの謝罪の言葉もないのだから。


 商会を大きくするのは、家族を守るため、幸せな生活をさせるため、そして儲けると楽しいためだと俺は思う。最後は仕方ないよね? 商人のアイデンティティだもん。


「そのとおりでつ。マーサ、この商会が潰れることを望みまつか? それとも月光商会が買取ろうとして良いでつか?」


「……タロンたちの暮らしもありますし、潰れることは……望みません、アイ様」


 マーサが視線を合わせて、しっかりとした声音で言う。それならば問題はない。


「タロンしゃん、金貨4万枚でこの商会を買い取りまつ。傘下商会の商会長として貴方にやってもらいまつが、毛糸の仕入先牧場から、糸紬の職人、取引先の顧客まで全て月光商会が引き継ぎまつ」


 借金返済をしても手持ちは残るだろうし、良い契約内容だ。相手にとっては。もちろん俺にとっても。


「それは……商会は続くと?」


「そのとおりでつ、タロンしゃん。でも、もはやジロンには口出しさせませんよ? あたちの部下を数人送り込みますので」


 商会が残って、自分は口を出せない。悔しいだろうとは思う。これって、ザマァになるのかなぁ。


「正直、毛糸はもう時代遅れだし、困っていたんです。契約内容を確認できれば、話し合って検討します」


「そうでつか! ありあと〜でつ。布問屋がほちかったんでつよね」


 タロンがホッとしたように表情を笑みに変えて頷くので、ニパッと笑顔で返す。


 きっとこの契約を受けるだろう。買収と聞いて、ジロンは無念そうに悔しさを堪えているが、タロンはホッとしていた。


 自身の受け継ぐ商会の逼迫した状況を把握しておらず、買収と聞いて笑みで答える……。マーサには悪いが、気弱そうだし、大きな商会の下についた方がタロンは良かったと俺は思う。


 一国一城の主としての気概が足りないのだよと、幼女は冷酷に考えちゃう。人間としては最低でゴミ箱に入れて焼却したいジロンであるが、商売人としてはタロンよりも上だった。


「私は少し休ませてもらう……」


 生気をなくしたように、ふらつきながらジロンは部屋を出ていく。ジロンもアイと同じ考えに至ったのだろう。この厳しい状況の商会をタロンが経営していけるのは無理だと、今更ながらに気づき、自身が排除されたことに絶望して。


 家族を捨てた奴だ。悪いが俺は同情しないぜ。


「さて、あたちはお土産を持ってきたのでつ。やっぱりお世話になっているマーサの実家でつものね」


 んせ、と紙の箱を取り出す。ケーキの詰め合わせだ。紙の箱からケーキまで全て植物なので倉庫に入るのである。テーブルに置いて、中身を皆に見せる。


「す、凄い!」


「色とりどりだ〜」


 悪くなった空気をタロンの子たちが目を輝かせて、ケーキを見て歓声をあげて吹き飛ばす。いつもの世も、悪くなった空気を吹き飛ばすのは子供なのだ。


 なので、きゃ〜と幼女もおててをあげて、喜んじゃう。さっきのアイ様は幻覚だったのかしらと、周りの大人が目をごじごしと擦っているが、きっと幻覚でつ。


「ガイ様、お酒をお飲みになりますわよね? ワインを持ってこさせますわ」


「そうだね、お義兄さんと呼ぶことになるんだろうし、家族付き合いをしないと」


「あの、母さん? タロン? 私とガイ様はその……」


「あ〜、お母さんが照れてる!」


 マーサたちはワイワイと話し始めて、明るい雰囲気となり、テンプレな幸せ家族のような会話をする。ガイはどう答えれば良いかと戸惑っているが、任せるよ。


 俺的には、この商会を皮切りに他の毛糸を扱う商会を買収する。4割は王都の毛糸商会を買い取りたい。


 毛糸は綿布に押されて、もう時代遅れ? この異世界は遅れた技術で毛糸を紡いでいる。ゴワゴワの毛糸だ。


 だが、毛糸には様々な種類がある。艶々の毛糸も作れるし、魔法のある世界ならではの物も作れる。錬金で面白いこともできるだろう。


 まぁ、買収が終わったあとに動こうと思う。真似されたら困るしね。この世界は特許がなくて困っちゃう。


 まずは単純に棒に巻いて保管してある毛糸を、毛玉にしてもらうところから始めるかな。カーテンから、絨毯。パッチワークも楽しいし、使い道はいくらでもあるんだよ。


 商人たるアイは、密かにほくそ笑む。これこそ、技術チートなのだ。周りに気軽に教えずに、真似されても問題ない規模で始めることが。


 毛糸を支配できれば、あとは目ぼしい物は武器屋かなぁ。まぁ、それは後にしておこう。


「拡大する領土、需要が高まる香辛料や、砂糖のためにも、新たな田畑が必要でつ」


「魔物を倒しまくるのか?」


 こっそりと肩の上に隠れていたマコトが聞いてくるが、かぶりを振り否定する。


「魔物が産み出される地域で田畑を作る前に、セクアナ神の浄化システムを見に行きたいと思いまつ」


 上手く利用できるシステムなら、森林内に密かに田畑を作るのに利用したいんだけどね。


 家族団欒にガイが戸惑う姿を優しい笑みで見ながら、そろそろまた旅の時間だと黒幕幼女はケーキにかぶりつくのであった。

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商店傾かせたのはタイミングが悪すぎたとしかいいようがないけど、利益のために娘をクソ貴族に人身御供に出した上に孕まされたら保身のために勘当だからな 名目上は勘当して何処かに匿うとか支援やってりゃまだしも…
[一言] 黒幕幼女の新しい旅が始まるんでしょうか。 どこかのおっさん女神軍団が多分あっさり倒したと言えど旧神の遺産。 どんなのが出てくるんでしょうか。
[良い点] 山賊勇者のコミックコントな流れでマーサさんたちのしがらみが霧散し、お見事なる和解劇(^_^)まあジロンさんは下手を打ちすぎたから仕方ないよね、商会が残って不幸な身内も出なかったのだから丸儲…
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