17話 襲撃を迎撃する黒幕幼女
流れるような周りの風景を気にもせずに、ガイぼでぃを操るアイは王都へと戻ってきていた。その足は速く馬に勝てるかもしれない。異世界なので、馬も速さが違うかもだけど。
「王都にこの速度で入ると怪しまれちまうぜ? どうするんだ?」
「らくしょーでつ。ガイを格納!」
ゲームキャラであるガイは格納できるのだ。狼も格納しておいてある。抜かりはないのだ。
「気配潜伏、ゴブリン500を消費して、すばやさを5あげまつ」
ガイが消えて、ゲーム筐体から飛び出て自らのすばやさをあげる。もったいないが、ここでケチって拠点がやられたら元も子もない。
気配潜伏を使用して、平民たちには気づかれなくなり、王都のやる気のない門番の横をすり抜けて、てってこ幼女は駆け抜ける。汗が額に落ちるが気にしない。今は休みをとる時間ではないのだから。
するすると人混みを小柄な身体を利用して、子犬のように上手くすり抜けて、一気にスラム街へと入る。気配察知で周りに人がいないのを確認して、再びガイを召喚して、ゲーム筐体を出して飛び乗りゲームを始めちゃう。
「急ぎまつよ。どうやら苦戦しているみたいでつし」
「気をつけろよ。もうゲーム時間が30分しかないからな」
マコトが忠告してくるが、幼女はムスッとご機嫌斜めな様子を見せながらレバーを握りしめ、可愛らしい声に怒気を纏わせて言う。
「安心するでつ。そんなに時間はかけないでつから」
「怒っているわけね」
当然だろと、俺は思う。俺は家族が襲われるのが大嫌いなのだ。未だに家族とは言えないスラム街の者たちだが……。
「あたちの支配する地域を襲うだけでも、万死に値しまつ」
犬歯を見せながら、アイは子犬が唸るように声をあげるが、幼女なので怒る姿に迫力はないのだった。
家々は砕けたり、ひび割れたり、天井もなかったりと酷い様子で、石畳もないところもあり、みすぼらしいスラム街。だが、この区画は俺のものなのだと、プンプン怒って、頬をプクッと膨らませながらガイを走らせる幼女。走るはボタンを押し込めば、オートで走るのである。ガイが後ですごい疲れるかもだけど。
そうして、ゴミが散らばる汚らしい街路を駆けてゆくと、喧騒が耳に入ってくる。いっそう足を早めてアイが進むと、アイの家の前の広場で数十人の人々か戦っているのが、目に入ってきた。
どちらも棒切れ程度の武装だが、数人が剣や槍を持っている。ケインがそいつらを抑えているが、数に負けて圧されていた。どうやらケイン程ではなくても、ステータスが高い模様。
援軍に入るかと、ガイぼでぃに意識を移す。ステータスの高さで蹴散らしてやると踏み込んだ時に、目の前にドワーフが現れた。錆びており、止め金も壊れそうなボロい青銅の鎧を着込み、50センチ程の丸い盾を装備しており、片手斧を構えていた。
「お前がガイか! 俺の名は」
「邪魔だ!」
山賊アイは斧でドワーフを両断せんと、攻撃を仕掛けるが
「はっ、気が早いな! 盾技 ビッグシールド!」
茶色の光る盾が丸盾を覆い、さらに大きくなり、斧の一撃を防ぐ。ニヤリと得意げに笑うドワーフをアイは冷たい視線で見据えながら、ドンッと石畳を踏み斧を腰に戻して、ふわりと逆さまにジャンプする。
「格闘技 腕力強化」
腕に赤い光を纏わせて、アイは飛び越えそうなドワーフの頭を両手で掴む。
「は?」
ドワーフが予想外のことに、戸惑いの声をあげるが、気にせずに容赦なく身体を捻り
「ふんっ!」
当然、頭を掴まれたドワーフを首を捻じられて、ゴキッと嫌な音をたてて、あっさりと倒れ伏す。
「斧技 トマホーク」
ガシャンとドワーフが着込んだ鎧の金属音を聞きながら、山賊アイは大きく踏み込み、斧を投擲する。激しい回転をしながら、正確に敵を斬り裂くトマホーク。
そうして、一気に踏み込んで突如現れた敵に動揺する敵へと片手剣を回転しながら振るう。
「剣技 ソードスラッシュ」
もちろん、剣の間合いを伸ばして。
「ぐけっ」
「そんな」
「うおっ」
ケインと戦っていた者たちや、辺りに散らばる敵を横薙ぎにして、血の花を咲かせて敵は倒れ伏す。断末魔をあげながら、敵は一気に10人近い味方をやられて、蒼白の表情になる。
「な、話が違う! あんなに強いのか!」
「鉄のロウバフが殺られちまった!」
「に、逃げろ、逃げろ〜!」
あっという間に戦意を無くして、武器を捨てて逃げ始める敵。
「逃すか! 追撃をするぞ、お前ら!」
だが、山賊アイは逃さない。その狂暴な笑みで追撃を仕掛けるのであった。
敵の死体から武器やら服を剥ぎ取って、王都の外へと荷物を装って捨てに行くケインたちを見ながら、幼女は腕組みをしながら嘆息した。
ふへぇ、と疲れた声でいるが、その姿はそれでも可愛らしい。というか、お昼寝でもする? とララが尋ねてきたので、マスコット枠かなとも思う今日この頃です。
というか、この凄惨な殺し合いの現場を見ても、気にすることがないララに、やっぱりスラムの人間なんだなぁと思っちゃう。
ララが気遣ってくるので、これも幼女の姿のせいかと思いながら、マーサたちに視線を向けると、彼女はコクリと頷き返す。
そうして、ガイとマコトを連れて、アイはなにがあったのか、自分の部屋で聞くことにしたのであった。
「なにがあったんでつか? あいつらは何者たちでつ?」
アイはコテンと首を傾げながら尋ねる。なんなのあの人たち。挙兵して3か月は侵略禁止でしょ。なんでたったの5日で攻めてくるわけ? 幼女はご機嫌ななめでつよ、まったくもぉ〜。
椅子に座って、不満そうに細っこい足をプラプラさせながら尋ねるアイにケインが一歩前に出てきて口を開く。
「あいつらはドワーフの戦士、鉄のロウバフのシマの者です。鍛冶の腕がありながら、スラム街に堕ちてきたロウバフは、その鍛冶の腕で武器防具を作り、戦士の腕も持っているので、ここらへんではそこそこ大きな勢力でした。まぁ、兄貴にあっさりと殺られたので、もはや過去形ですが」
その言葉に、フッとニヒルな顔つきで笑みを作るガイ。親分の功績を自分のものにすることに、躊躇いはない小物中の小物である。
「消耗素材、人7、知識因子が槍術1、盾術2、鎧術2、鍛冶3レベルが手に入ったぜ」
マコトがこっそりと耳元で教えてくれるので、頬がピクピクしちゃう。もちろん嬉しさで。無欲だ、無心の勝利だ。やっぱり物欲センサーは悪かった。これからは無欲で欲しいものを狙おう。
あまりの収穫に、内心で小躍りしちゃう黒幕幼女である。はたして無欲で欲しいものを手に入れるという矛盾したことをできるのだろうかは、幼女にしかわからないであろう。
不機嫌な幼女はいなくなり、ご機嫌で足をパタパタさせちゃう。やったね、これなら人型をたくさん作れちゃうよ。
なぜかご機嫌な様子をみせるアイに戸惑いながらもマーサがケインのあとに話を続ける。
「襲われた理由ですが、どうやらどこかから金貨を手に入れたとの噂が流れたらしいです。その為にロウバフに目をつけられたみたいでして」
「だが、やつのシマも奪い盗りました。兄貴の力を恐れてあっさりとだいたいの奴らは降参したんです。さすが兄貴ですね」
ガイを褒め称えるケインたち。やんややんやと褒められて、鼻高々なガイである。
胸をそらして、得意げなガイにジト目を送りながらも俺は気になることがあると、ケインに尋ねる。
「ロー、なんちゃらのシマには鍛冶ができる炉があるんでつか? そこは手に入れましたか?」
「はい。もちろん手に入れましたが、鍛冶職人はいないので、持ち腐れになるかと」
「ほっほ〜。それはそれは……。これは良かったでつね。ドワーフのシマの住人は何人ぐらいでつか?」
フンフンと鼻息荒く幼女は尋ねる。炉があるとは鍛冶スキルが役にたつじゃん。ラッキー。やっぱり神様は見ていてくれるんだね。
多分女神様は関係ないと思うが、それでも拠点整備にはちょうど良い施設を手に入れて嬉しさ爆発な幼女である。他にも有用な施設を持つ敵が襲いかかって来ないかなと思ったり。
「俺たちよりもたくさんいます? あそこは武闘派でしたので」
ケインがマーサの代わりに答えてくる。うん、数を数えられないのは知ってた。マーサに先生役をやってもらおうかなぁ。せめて数は数えられるようになってほしい。
「明日にでも、そいつらを集めて炊き出しをしまつ。お金はまだありまつか? お肉もまだある?」
「まだ多少残ってるよ! でも数日分かなぁ?」
は〜いとララが手を挙げて発言する。たしかに大量にあるから、まだ大丈夫かな? でも、いつもお肉を用意するわけにもいかない。解決策はあるが、後でにしようっと。
ふわぁとあくびをして、お疲れ幼女になる。今日はかなり頑張りました。もう幼女はおネムの時間に入るのだ。
手を振って、マーサたちを下がらせる。気配察知でも、遠ざかったのを確認したアイは寝る準備に……もちろんならなかった。
「マコト! 自我のあるキャラの条件はなんでちたっけ?」
「お、初めての自我あるキャラを作るつもりだな。作り方は簡単だぜ。消耗素材を100使えば自我あるキャラを作れるぜ」
目を輝かせて、アイが玩具が欲しい幼女のように目をキラキラとさせるのをみながら、マコトが空中でクルリと回転しながら教えてくれる。なるほど、消耗素材100はある。
「それにキャラを作る時なんだが、職業に気をつけた方が良いぜ?」
「職業?」
そういえば、そんな項目があったね。飾りだと思っていたよ。偉い幼女にはわからんのです。
「職業は様々な隠し補正が入るんだぜ。剣士なら剣ダメージと技に補正ありとか。作り方はステータスの偏りとか、スキル構成が肝だな」
「あ〜。そういう縛りがあったのでつね。キャラを作る時は全部スキルをつけちゃえば良いじゃんと、思ってまちた」
なるほどねぇ。たぶん補正は高いと見た。それは魅力的であり、キャラ作成にやりこみ要素がありそうだと思う。
楽しくなってきたねと、わくわくするアイへと、さらに情報を伝えるマコト。
「キャラ作成はメインを決めてサブに2体だけステータスや特性を継承できる素材を加えることができるぜ。反対に言うと、一つは必ずメインのステータスになるわけだな」
「その技は自我のないキャラを作るのに使えまつね。うう〜ん、楽しそうでつ! これは迷いまつね」
だが今は楽しむ余裕はない。とっても残念だけど。
金貨10枚ぽっちで襲いかかってくるとは、さすがスラム街。ちょっと甘く見ていたよ。
民忠は宴会で上がったと思っていたけど、ゲームと現実はやはり違う。これからもまだまだ情報を売る人間はでてくるに決まっている。意識的にか、知らず知らずにかはわからないが。
そのたびに襲いかかってこられても困るのだ。拠点を守る者たちが必要なのだ。
「作る前に結果予想は教えてくれるんでつか?」
「あぁ、もちろんだぜ。良いキャラを作るためには必須だろ?」
「親分! 自我のあるキャラはあっし一人で良いと思いまさ!」
ガイが焦ったように意見を言うが、ニッコリとアイは微笑む。
「育成ゲームって、最初はだいたい小器用なキャラを作るもんでつ。次は頼り甲斐があるのを作りまつから、安心してください」
「その発言は全然安心できませんでさ。あっしが頑張りますので、自我のないキャラを」
ガイが手揉みしながら、碌でもない提案をしてくる。まぁ、そんなことは聞かないんだけど。
「おし! このステータスならいけるんでは?」
「お、これなら職業は」
アイとマコトは、新しいキャラ作りに夢中になり、ガイは俺の立場が、奪われませんようにと祈りつつ
ようやく陽が落ちてきて、今日という日は終わるのであった。
ちなみに眠る前に蛇に操作を移して移動すれば速かったと気づき、悔しがる黒幕幼女がいたとか、