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黒幕幼女の異世界ゲーム  作者: バッド
12章 貴族とやり合うんだぜ
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167話 メイドは相談する

 マーサはアイ様の執務室に戸惑いの表情を見せて立っていた。幼女は幼女専用椅子に座り、んせんせと、様々な書類にペタコンと印章を押して執務をしている。


「アイ様。それは本当なのでしょうか?」


「本当でつ。ガイが散歩をしていたら、空から飛んできた羊皮紙に書いてありまちた」


 ペタコンペタコン。ペタコンコンと、書類に印章を押しまくって一見遊んでいるようにも見えるアイが言う。ちなみに一休みと称して、お爺さんはここにはいない。一枚の羊皮紙をひらひらとちっこいおててに持って、フリフリと振りながら顔をあげてマーサを見つめてくる。


「これが空から飛んできたキツグー伯爵家との借用書。あたちが手に入れても、債権化はできませんが。残念でつ」


 まぁ、盗んだ借用書を使って、借金の取り立てなどできるわけないし、真っ当な借用書だから、相手が無くしても、知らぬ存ぜぬは商会はできない。よくある勧善懲悪の話みたいに、借金の証文を盗んで借金などないと、知らぬ存ぜぬはできないのだ。それをしたらその商会の信頼は地に落ちて、誰も取り引きはしなくなる。商会にも控えはあるだろうしね。再発行となるだろう。


「いくつかの商会がキツグー伯爵家に首根っこを抑えられていまつ。これによると、毛糸を扱う商会やお肉を扱う商会が金を出し合って、南部地域にあるバッカス領の炎の羊狩りを行う傭兵団を雇ったらしいでつよ。キツグー家にも出資をお願いしてまつ」


「それが失敗したのですか?」


「そのとおりでつ。傭兵団は全滅。出資者のキツグー家には出資した金を返せず。多大な損害を与えて、違約金も含めて借金という形になりまちた。貴族に出資をしてもらい失敗したのでつから、仕方ないといえまつ」


 ふぅ、と椅子に持たれかかり、おててをあげると、ララがココアを作り始める。最近ガイ様がお作りになった保存の銅瓶から温かいお湯を出して、ココアの粉を溶かし、アイ様のテーブル前に置く。なぜかカップは2つあり、もう一つを執務室に備え付けられているソファに座り、ララも飲み始める。後で説教ね……。


「ジロン商会の借金は金貨28000枚。まぁ、たいした金額じゃないでつけど」


 アイ様はのほほんと言うが、平民にとっては大金だ。ジロンの商会は中堅だが、返すのに厳しい金額に間違いない。以前いた時は、年に金貨3万枚程の売上だったはず。昨今は毛糸の売上も落ちているだろうし。


「どうしてそれを教えて頂けるのでしょうか?」


 そこが問題だとマーサは戸惑う。私に何をアイ様は求めているのかと。


 だが、アイ様はひょいと肩をすくめるだけだった。


「特に何も? マーサの実家というので、一応教えただけでつよ。この情報を聞いてマーサがどうするかはお任せしまつ」


「……ありがとうございます」


 頭を下げて、部屋を退室する。ココアを飲む娘の耳を引っ張って一緒に連れていきながら。


「あぁ、毛糸業者を傘下にしてまつので、覚えておいてくだしゃい」


 扉を閉める寸前にアイ様は軽い感じで言ってきたのであった。




「ねーねー、お母さん。実家に顔を出すの?」


 メイドの控室に戻り、お説教をたっぷりと聞かせたララが興味深げに尋ねてくるので、どうしようかと迷う。正直言うと、あまり行きたくはなかったのだが……わざわざアイ様が教えてくれたのだから、なにはともあれ行く必要があるだろう。


「そうね。……ガイ様に相談しましょう」


 ご迷惑をかけるのは心苦しいが、ガイ様に相談することに決めて、作業室に向かう。道すがら同僚たちへと会釈をして、作業室に着き、中へと入る。


 様々な鉱石やなにに使うかわからない物がある中で、ガイ様は椅子に座って難しい表情で作業机で何かを作っていた。手元には何人かの妖精もいた。


「永続魔法付与」


「保存」


 二人が魔法を使うと、淡くその物は光る。ガイ様は魔法付与した物を慎重に眺める。少しの間眺めるとおもむろに頷き、付箋を貼って棚に置く。


「永続魔法付与って、面倒くさいよな。まだ3割程度しか魔力籠められていないし」


「毎回同じ魔法を使わないと付与は完成しませんしね。それでも私たちの膨大な魔力だからこそ3割なんです。普通の共人なら、ほとんど魔力を籠められません。精緻な魔法操作と膨大な魔力。それにより数年かかる魔法付与を3日程度で作れるのですから」


 ガイ様が肩をほぐすために回しながら言うと、妖精はその言葉を鼻で笑って言う。


 たしかセフィというマグ・メルの第一王女だ。王族、しかも妖精の王族とあって、最初は緊張したが


「ガイ、おやつの時間にしましょう。飴細工がかかったココア味のケーキで良いですよ」


「良いですよじゃねえよ! 魔法付与より疲れるじゃねえか。ドーナツで良いだろ、ドーナツで。焼きたてがそこの保存箱に入ってるから食ってくれ」


 指差す先にはそこらへんにありそうな変哲ない一抱え程の大きさのド〜ナツ保存箱と書かれている木箱が置いてある。その箱が開き、妖精たちがずらっと顔を覗かせて、蓋を持ち上げて腰をフリフリと振る。


「もう食べちゃった〜」

「もう食べちゃった〜」

「もう食べちゃった〜」


 声を揃えて仲良く口を開く妖精たち。中身はとっくに空らしい。


「ふざけんなよ、お前ら! さっき100個作ったばかりじゃねぇか! そろそろデブるぞ! オーク妖精とか言われるようになるからな!」


「小悪党さん、小悪党さん。私のおやつも欲しいのです。私のおやつもその木箱に入れておいたのですが、食べられてしまったようなので」


「嘘つけ! さっきお腹が空いたと食べてただろ! というか、あっしの呼び名は小悪党さんに決定なの?」


 この間、どこからか保護してきたらしいマユという少女がガイ様に飄々と嘘を言って怒られる。当初来たときは痩せすぎていて、枯れ木のような身体だったが、アイ様の回復魔法とガイ様が用意した山のような食べ物で、健康な体格になっている。


 どうやら精霊魔法を使えるようで、魔法付与を手伝っているらしい。無限の水差しを一つ作っていた。特性で水精霊の召喚と水作成の魔法に魔力消費がほとんどないとのこと。


 その特性が少しばかり羨ましい。私もガイ様と一緒に作業ができればと、多少なりとも思うので。


 相変わらずガイ様の周囲は騒がしいと、クスリと笑いが漏れてしまう。楽しそうな空間をガイ様はいつも作っている。


「ん? マーサじゃないですか? なんのようですかい?」


 おやつを作れと、髪の毛を妖精に引っ張られて、少女が腰にクッキーを入れていますね、下さいと小袋をとろうとするのを防ぎながらガイ様が私に気づく。


「はい。少しご相談がありまして」


 ペコリと頭を下げて、私は用件を口にする。少し考え込み、ガイ様はニヤリと笑う。


「わかりやした。そういうことなら、あっしに任せてくだせえ」


 



 平民地区を馬車で移動して、他の地区にある月光街へと私たちは移動していた。石畳の上をゴトゴトと揺られ、窓ガラスの嵌った窓から外をちらりと見る。


 この間王都に持ち込まれた王都内専用の月光馬車である。


 馬車が通り過ぎて行くのを物珍しそうに人々が眺めて、子供たちがこちらへと手を振ってくる。月光商会の馬車は独特であり、馬ではなく、大きなウォードウルフが牽く。しかもゴムタイヤを使っているので、揺れが少なく、重量軽減の魔法がかかっているので、動きも軽やかだ。


 そして月光商会の紋章が入っており、窓ガラスから始まり、馬車の意匠も凝っており白塗りのアイアンツリー製の豪華な作りとなっている。サスペンションとかを使用しているらしい。中も保存からコンロ、冷蔵庫と魔法道具がふんだんに置かれている。食べ物や飲み物は言わずもがな、素晴らしい物を取り揃えている。


 正直いって目立つ。しかも自称平民の馬車であり、様々な物を取り扱う有名な月光商会の物なので、興味津々な子供たちに人気があった。貴族の馬車だと手を振るなどとんでもない話だからだ。


「こんにちは〜。飴いりまつ?」


 窓を開けて、身を乗り出す幼女が子供たちに山なりに飴を投げていますし。


「いる〜」

「女の子だ〜」

「あま〜い」


 きゃあきゃあと喜んで飴を受け取り、満面の笑みで子供たちがもっと激しく手を振って、アイ様にお礼を言うのを横目に、マーサはガイへと声をかける。


「月光馬車をお使いにならずとも良かったのですが……どこに行くのでしょうか?」


「いやぁ、王都って広いですぜ。馬車を使わないと移動が大変でさ」


 なぜか御者をしているガイ様。私に御者席に繋がる小窓から話しかけてきたりする。御者はいるのに、なぜか自分で牽きたがる人である。


「王都専用馬車って、使うと思って3台も本国から送って貰ったのにまったく使わないでつからね……。使わないと損でつ」


 子供たちが離れていき、アイ様が席に戻り、言ってくる。たしかにこの馬車が動いたところをあまり見たことはないわ……。


「あ、ついたみたいだよ、お母さん」


 馬車が止まり目的地に到着したのだろうと、娘の言葉に頷き外を見て驚く。


「ここはハラット月光洋裁店?」


 南西地区に作られた月光の洋裁店。なぜか私たちはそこに到着した。腕の良い職人が作った服を売る店である。高価な大きな窓ガラスが店頭に嵌め込んであり、マネキンと呼ばれる人形に洋服が飾られており、しかも型紙からパターン化されて縫製されているから、そこそこ安い。


 そして、元私の雇い主であった店だ。ついこの間まで針子として私はこのお店に雇われていた。元は古着屋であったが、いち早く月光傘下に入ってきて改装された新品を扱う店となった。安い新品の洋服に押されて、古着屋は厳しい状況となっているから、ハラットさんは頭の良い判断だった。


「ちーすっ。元気にやってまつか〜?」


「やってるのか〜なんだぜ」


 アイ様と、その髪の中からマコト様が現れて、ベルのついた扉を開き中に入っていく。


 店内は明るい内装で、吊り下げられた洋服を大勢のお客が見て、買おうかどうしようか迷っていたり、連れの夫や恋人に強請ったりしている。結構繁盛しているようである。


「これはアイ様! ようこそいらっしゃいました! 言ってくだされば、こちらから行きましたものを」


 広い店内で、吊り下げられている服を見ていたお客と話していたハラット夫人がアイ様たちに気づいて、慌てて揉み手をして近づいてくる。なんだか久しぶりに会った感じがする。まだ1年も経っていないのに。


 ハラット夫人は新品の服を着込んで、前よりも綺麗になっている。いや、疲れた感じがなくなっているのだ。目が生き生きとして、生活が充実しているとわかる。


「気にしないでください。今日はガイのお出かけについてきただけなので。あたちはついでに、ハラットしゃんに会って、経営に問題ないか聞いてきまつね」


 幼女らしくない言葉を告げて、てこてことマコト様を連れて、アイ様は店の奥に行ってしまう。


 ハラット夫人はこちらへと視線を向けて、笑顔になる。


「これはガイ様、ご訪問ありがとうございます。マーサさん、久しぶりじゃないの。元気でした?」


 昔に練習していた礼儀作法を使い、綺麗な所作でカーテシーをして、悪戯そうに笑う。そこには、過去にあった暗い笑みはなく、明るい様子だ。


「元気そうで、何よりです、ハラット夫人。私も元気にやってますよ」


「そう、素敵な旦那様を見つけたものね。今日はどのような用件ですか、ガイ様?」


 ハラット夫人が頷いて、ガイ様へと尋ねる。旦那様……そういえば、以前に会った時に否定したかしら? よく覚えていないわ。


 顔が知らず赤くなり、隣にいるララがウシシと笑う中で、ガイ様も悪戯そうに笑い、口を開く。


「マーサとララに最高の服を用意してくれ。それと隣のアクセサリー店からも最高のアクセサリーを持ってきて欲しい」


 そうして、私たち母娘はあれよあれよと言う間に、店中の服を着させられて、アクセサリーをつけられるのであった。


 しばらくしたら、見目麗しい母娘がそこには現れたのである。

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[一言] ガイさんはほのぼのも戦闘も似合う三枚目小悪党ですね。 黒幕幼女から主役の座を奪うまであと一息ですぞ!
[気になる点] 誤字報告です 【子供たちがこちらへと手を降ってくる】降ってくる→振ってくる 変換ミスかと。 【私は御者席に繋がる小窓から話しかけてきたりする】「話しかけてきたりする」に合わせるなら…
[良い点] (´ω`)ガイのイベントツリーが解放されました、読者に愛されるサブキャラの話は大変美味しゅうございますバッド先生。あとお久しぶりのハラットさんも生き生きとして、ダークファンタジーの澱みから…
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