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黒幕幼女の異世界ゲーム  作者: バッド
12章 貴族とやり合うんだぜ
155/311

155話 世の中は金なのだと黒幕幼女は騙る

 アイ様の発言をハウゼン男爵はどんな解決策なのだろうと耳を傾ける。小さな手で書類を見ながら、むじゅかしいでつと顔をしかめて呟くが、周りに丸聞こえで、そのいじらしい可愛らしさに、思わず顔を綻ばせてしまう。幼女には難しい内容が書いてあるに違いない。


「えっと、と〜じしゃたちがいるから、差別問題は出るんでつ。多少のお金では差別を緩和できても、なくすことはできましぇんでちたね。はんせ〜しまつ」


 えっと、えっとと、チラチラとギュンター卿を見ながら話す姿は愛らしい。これも箔をつけるためなのだろう。なかなかギュンター卿はスパルタである。


「なので、当事者同士が顔を合わせないようにしまつ」


「ん、と、の、農奴をどこかに移動させるのですか?」


 スノー皇帝がおずおずと尋ねてくる。移動とはどういう意味だろうか?


「農奴を知っていても、見たことがない都市。小都市へと移動させまつ。ん〜、むじゅかしい」


 ウルウルした目でギュンター卿を見るので、仕方ないとギュンター卿は話を受け継ぐ。


「悪く言うつもりはないが、ブナダンたちの都市は農奴を雇う資金もなく、今までいなかったであろう? そこに移住させる。調査したところ、2万人は余裕で暮らせる水の神器と空き地があるはずだ」


「なるほど……知識では知っている者もいるかもしれないが、我らの都市に住まう者は元農奴と言われてもピンとくるまい。だが、畑はどうするのですかな? 雑草が生える土地は作物が豊かには育たない。貧民になりますぞ」


「それに、農奴解放により、景気が良くなってきた都市への保障はどうしますか? 一部の差別主義者により、全ての平民が影響を受けてしまいます。元農奴がいなくなるとすると、耕していた農地が放棄されるわけですし」


 中年男性の武官が顎を擦りながら、疑問点を口にして、スノー皇帝も同じように欠点をあげる。たしかにそのとおりだと思う。私も農奴解放の理由は聞いている。たしか農奴解放により、使う金が増えて景気が良くなるという話だ。不満が続出するに違いないが、その点はどうするつもりなのであろうか?


「農奴はいくつかに分けて、小都市へと移住させる。その際に、畑には豊穣の魔法水を使う。それと共に農奴が移住して空いた農地を格安で売る。他都市の平民から移住者を募集して、その者たちに売ると言う形でな。国家が金を貸し購入資金とさせると良い」


「な、なるほどです。各都市に住まう次男、三男を移住対象として募集をかけるのですね。農地を分けることができない貧乏平民はたくさんいます。そういった家に限って子沢山ですし。スラム化も防ぎ、自分の農地を貰えるとなれば、移住を求める者たちもいるでしょう。そういった移住を繰り返せば、誰が元農奴で、誰が平民かなんて、わからなくなりますものね。これは良いアイデアです」


 パチンと手を合わせて、スノー皇帝はふんわりとした笑みを浮かべる。なるほど、移住民でシャッフルすれば、元農奴が誰かなんてわからなくなるだろう。ただ、移住には金がかかるのが難点だが。


「豊穣の魔法水とはなんでしょうか? それに農奴の住まう地は城壁がありませぬ。その点はいかがしますかのぅ?」


 老齢のされど目は鋭く、年経た知識を持っているのだろう男性が手を挙げて興味深そうに尋ねてくる。ギュンター卿は懐からガラスの小瓶を取り出して、皆へと見えるように置く。


 幼女なアイ様は会議に飽きられてしまったのか、宙を見ながらボーッとしていた。幼女にはつまらない話だから仕方ない。


 ガラスの小瓶の中には金色の水が入っていた。明らかに魔法のポーションだと分かるが……?


「これは作る際に定めた作物しか育たなくなる魔法水だ。だいたいの作物が育つように設定してある。生命の樹に生える生命の葉を使い本国が作り上げた特殊ポーションだ。副作用はなく、効果は10ヶ月。とりあえず20万人が平均的に持つ農地分はある」


「ふふっ。深遠なるマグ・メルが生命の樹から採取したのです。希少な品なのですよ。生命の樹の精霊へと、特殊な儀式を行い、特別な魔法を用い、踊りを3日3晩の間奉じまして手に入れました」


 おっとりとした口調で、されど威厳を感じさせる妖精の女王様が頬に手をあて説明してくれる。


 おおっ、と皆が画期的な力を持つ小瓶を見て驚く。そのような貴重な魔法のポーションを20万人分もとは! 妖精の国が帰属している月光の本国の未知の技術に総毛だつ。


 雑草の繁殖が強く、畑を作るには数年は土を掘り返して雑草が生えないようにして、作物が育つように変えていくのだ。それが、この魔法水をかけるだけで解決するとは、開拓に革命が起きる!


「城壁については問題ない。調査した結果、そもそも都市内に農奴を住まわせることができる土地が余っていると判明している。たんに区別をつけるために農奴を外に住まわせていたにすぎんでつ。コホン、すぎん」


 豊穣の魔法水を見せられて熱くなった場を冷やすためだろう。アイ様の口調を真似するギュンター卿のお茶目な気遣いに皆がクスリと笑う。


「あぁ、都市は常に余裕を保たせていますからね。それだけ死者が多いと言うことでもありますが。平民は病気や毒、魔物に弱いですし」


「将来的にはドンドコ人口は増えていく予定でつが、数十年は問題ないでしょー。なので、新たに城壁を広げる必要はないでつ。んと〜、だから全部お金が解決してくれるんでつよ! 農奴問題解決! これからの、んと〜、方向性は決まりまちた。首都を作るにあたって、大量に人々を雇用もしていきまつよ。南部とーいつ後に備えて、少しずつ首都を建設していきましょー」


「いくら金があっても足りん話となるな。国庫は大丈夫なのか?」


 スノー皇帝がギュンター様の話に納得なされて、アイ様の提案に、バッカス侯爵が疑問を口にする。たしかに、移住には様々な物資が必要だ。まさか裸一貫で移住させる訳でもないだろう。


 移動中の食糧から、到着時の家屋や種籾、ざっと計算しても莫大な金額が動くことになる。


「軍を整備するお金に比べたら、全然大したことはありません。軍備って莫大なお金がかかりますから……」


 手をフリフリと振って、スノー皇帝が苦笑いをする。移住費用よりも軍備の方がお金がかかるのか……。


「当面の費用は帰属しなかった6つの都市の王や貴族から没収した金貨1700万枚がありますので大丈夫です。500万枚程予算に上げておけば問題はないでしょう」


「国庫を空にせねば問題はあるまいて。奴ら、そんなに貯め込んでいたのだな……」


 呆れた様子でバッカス侯爵も苦笑いで返すが、たしかに物凄い金額だ。金庫に山となっているのだろうか、自分では想像もつかない。あっさりと500万枚を予算にあげると言う皇帝も、予算額には驚かない侯爵たちは雲上の人だと改めて認識してしまう。


「え、と、税金もかなりの黒字ですからね。税率を下げても、なにしろ搾り取っていた貴族たちも騎士たちもいなくなったので、それだけ余裕が生まれましたし」


 お金は今のところ潤沢にありますと、気弱そうにしながらも、嬉しそうに語るスノー皇帝。


「良いことでつ。では、農奴問題は終わりとして、次にお金の話にしましょー。月光商会との取引の話でつ」


 こちらへと視線を向けてくるアイ様に、ゴクリと息を呑む。


「事前に話したとおり、フロンテしゃんが、陽光帝国の作物の一部を扱いまつ。それと、砂糖やお醤油などの取引状況などはハウゼンしゃんたちに尋ねてください」


 アイ様が手をこちらへと向けて告げてくるので、フロンテ殿共々素早く椅子から立ち上がり、スノー皇帝たちへと頭を深々とさげる。


「ハウゼン・ライズ男爵です。アイ様の下で拙いながらも、経理をさせて頂いております。昨今は急速に高まる需要の為に、砂糖などの価格が値上がり傾向でありますので、なんとか陽光帝国に供給できるように働きたいと思います」


 遠回しにだが、供給が難しいとも牽制しておく。王都では貴族たちが砂糖などの味を知り始めて、高値で大量に買っていく事態が増えているのだ。平民の口に入るようになんとか調整しているが、量が圧倒的に足りない。陽光帝国に回す量は厳しいと言わざるを得ないのだ。


「フロンテ商会の当主フロンテと申します。この度の取引。望外の念を禁じ得ません。必ずや、お役に立てることを誓います」


 大商会当主のフロンテ殿もさすがに汗をかき緊張していた。今までと比べても、比べ物にならない量の作物を扱うことになるのだから当然の話だ。


「フロンテさんは、革や肉も扱うとか。魔物の素材の輸送を含めてもよろしいでしょうか? これからは魔物の素材に価値がでてきますし。一部の革もついでに扱って頂けませんか?」


「は? ハハッ! もちろんお任せください。我が商会の全力を持ってあたりましょう」


 魔物の素材に価値が? 狼の毛皮や肉のことではないようだ……。なんの素材が役に立つのだろうか? スノー皇帝の言葉に首を傾げてしまうが、いち早く気を取り直したフロンテ殿は勢いよく頷き了承した。


「砂糖などの供給が難しいとなると、酒はどうなるのじゃ? 優先的に回して貰えねば困るぞ?」


「ラム酒を含めて、酒類はあまり王都では出回っておりません。月光酒場が主に取り扱うのみですね」


 バッカス侯爵の問いかけに、酒はまだ大丈夫だと答えると、あっさりと満足そうに頷いてくれた。


「それならば問題はない」


 さすがはドワーフである。


「酒だけで満足しないでくださいっ。そこのところはどうなっているのですか? 数は揃えられますか?」


 スノー皇帝はさすがに頷いてはくれなかったが、その返答に困ってしまう。王都に持ち込まれてからが自分の仕事であるのだから。


「なんとかしまつよ。やはり今考えているのは、首都でサトウキビを育てる方向でつね。パパしゃんに種籾を用意して貰うようにお願いしておきまつ」


「その場合は、耕作する農家には一定の給与を保障しての、全量買い取り制ですね。どう考えても、サトウキビの育生を個人農家に任せることはできませんし」


「ラム酒の製造工場も隣に作れば良いでしょー」


「ラム酒の製造工場はバッカス都市に誘致をお願いしたいぞ」


「作る端から飲んじゃう未来が予想できるので駄目です。妖精の飲んだ分と言って、ほとんど飲むでしょう?」


 妖精の飲んだ分と言われるのは困りますねと、ティターニア女王がケーキを食べながら口を挟み、バッカス侯爵も口を噤み悔しそうにするが反論はしなかった。


「情報共有を密にして、失敗を余りしないように頑張っていきましょー。主題はこれぐらいでつかね?」


「そうですね。では、次は商隊が頻繁に交易に来るようになって、小さい都市では宿屋が足りなくなったことと、傭兵たちによる諍いが多くなったこと。帝国に推薦すると浪人に詐欺を働く人間への対応などを話し合いましょう」


「そろそろお布団敷いても良いでつか? あたちはお昼寝の時間でつ」


 冗談でも駄目ですよと、スノー皇帝が笑って、会議はそれ以降も続き、様々な事柄を話し合うのであった。自分たちが聞いても良いのかと戸惑うが、それは今更なのだろう。月光商会に務めることになった時から。

 

 軽くため息をつきながらも、ハウゼン男爵は、今まで参加したこともない雲上の人々の話を聞くのであった。

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― 新着の感想 ―
[一言] 会議前にしっかりと主題とカンペを用意しておく黒幕幼女素敵ですね。 会議は踊るなんてのはもう時代遅れですから(遠い目
[気になる点] 誤字?報告です 【バッカス侯爵も口を紡ぎ悔しそうにするが反論はしなかった】もしかして、紡ぎ→噤み ですかね?反論はしなかった(≒黙った)と続いているので、そうかなと思いました。 [一…
[一言] 豊穣の魔法水って悪いことにも使えそうだなと思いました。 敵国の農地にばらまいて作物を取れなくするとか雑草などの邪魔な植物しか生えないようにして農地を荒れさせるとか 10ヶ月ならともかく1…
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