153話 戦乱の大地
ある平原にある都市にて、怒号が響き、金属音がそこら中からしていた。大勢の人間が武器を持ち、お互いを傷つけあっている。
騎士や戦士が必死の形相で武器をぶつけ合っているのは、城壁の上であった。血と鉄の匂いをさせながら懸命に戦っている。
「ベイス! 門は開くことはできたのか?」
戦う集団の中でも一際大きい体格を持つ獣人が汗を流しながら声をあげる。立派な鬣を生やした歴戦の戦士といった男である。鈍い光を放つ斧を手に持ち、その豪腕で立ち塞がる敵を叩きのめしていた。
「ルノス様! 門前には敵の王が守りに入っているようです。ケンイチ殿が戦っております」
「ぬぅ、王が前に出てきているのか。クズ王でも危機感はあるのだな」
副官たるベイスと話し合うのを隙と見たのか、敵兵が槍でついてくる。だが、その程度の会話で隙ができるルノスではない。大木すらも砕けよう勢いで斧を振り、槍を砕き敵の頭を叩き割る。
「手助けに行くか? ケンイチ殿では厳しいかもしれぬ」
王となるほどの敵だ。伊達ではない能力を持つはず。特に民に圧政をするクズほど能力は高いのだから。
「ケンイチ殿は新型の魔法武具と、月光の加護を得たので問題ないと言っていましたぞ」
「ならばお手並みを拝見させてもらおうではないか。どけどけ、我こそは陽光帝国の将軍ルノス! 立ちはだかる者は死あるのみ! 死を恐れぬのならばかかってこい!」
両手斧をひと振りして、周りへと咆哮とも言える叫びをあげて、周りを取り巻く敵軍へとルノスは突撃をするのであった。
バッカス王国が陽光帝国に帰属をして、バッカス王国を盟主とした連合全てが同様に帰属をしたかというと、そうはいかなかった。
バッカス同盟国は計16国、バッカス35万、オーマ、デガッサの15万の人口を持つ大国3国、他に5万の国が6国、小国が7国である。
そのうち、農奴を使い、民に圧政を敷く5万の国は全て帰属を拒んだのである。税率7割で農奴を持ち、貴族サイコーを地でいく国は陽光帝国のやり方に従うことはできなかったのだ。
それに対して、スノー皇帝の行動は速かった。月光の面々がバッカスを帰属させることを予想しており、ダツ1500人、各領地から領主を含む騎士1500人、成り上がりを求める陣借りを含む傭兵1000人を既にバッカス連合に進軍させていたのである。
まずは1つの国を陥落。進軍を知ったバッカス王国とオーマ、デガッサのドワーフ戦士たち1000人と途上にて合流。残りの5つの国を1000人からなる5つの部隊に分けて攻めるように指示を出したのである。
そのうちの一つ。バラスクの都市をルノス将軍と3つの街の領主ケンイチが攻めていたのであった。
門前には兵士たちが門を守らんと集まっていた。城壁に梯子はかけ終わり、ルノスたちが城壁にて戦闘をしている中で、ダツ初期型であるケンイチは同じ規格であるケンジとダツリョウサンたちを率いて、門を開かんと城壁から中に入り、門を守る兵士たちへと攻め入っていた。
いや、既に初期型ではない。アイが敵の強化に対抗するために、精鋭部隊の見直しを始め、手始めに初期型のソードマンたちを新型へと入れ替えたのだ。
こんな感じ。
ダツソードマスター
ケンイチ、ケンジ
職業ソードマスター+
ちから30
ぼうぎょ10
すばやさ32
特性:怪力、ホバー疾走、身軽
スキル:格闘技4、剣術5、片手剣4、両手剣4、短剣術4、盾術3、鎧術3、闘気法3、魔装2、騎乗術3、気配察知3、セージ3
装備:火炎の片刃剣(攻撃力72、火炎属性)、結晶魔鉄の鎧(防御力70、魔法耐性+)、結晶魔鉄の盾(防御力70、魔法耐性+)
素材としてオークウォーリアとアラクネ、そして+に人を使用して、新規にスキルを振り直したのである。幼女のお人形遊びが好きな特性が入ると50超えのステータス、それに怪力と身軽もついて、剣術も高い。闘気法と魔装もあり、まさに新型といった感じである。今までとは一線を画した機体と言えよう。
もちろん顔も身体も見かけは同じである。新型となり、能力だけが大幅アップして、装備も武器素材から火炎の片刃剣。結晶魔鉄の防具は幼女がカンカンと槌を叩いて作った物を装備している。キィ、新型になったら、なぜか二枚目だわと、ハンカチを噛みながら妬む髭もじゃがいたとか、いないとか。
武具はミスリルには及ばないが、それでもかなりの高性能な武具となっていた。隊長機としての面目躍如であった。
そんな新型となったケンイチたちは、城門内で激戦を繰り広げていた。半透明で銀色の鎧と盾を身に着けて、赤い刃の剣を持ち、茶色の髪の一見平凡な男。平凡だからこそ、力を得たら、なぜか二枚目となったケンイチは出張ってきた敵の王と戦っていた。
ケンジとダツたちが周りの敵を牽制しながら戦う中で、一騎打ちの様相を見せていた。
相手は傷だらけの顔の大柄な男である。鋼の胸当てをつけ、数人がかりでないと持ち上げることもできなさそうなミスリルの豪槍を構えているのは、この都市の王、バラスク王だ。
荒々しい粗野な容貌を持ちながら、槍を振るうその動きは滑らかであり、かなりの腕を持っているとわかる。
圧政を敷き、民を自分の玩具としか考えないクズ王であるが、槍の修練は怠けていなかったらしい。暗殺者や暴動から身を守るため、鎮圧するためでもあるのだろう。
槍と剣がぶつかり合い、火花を散らしお互い素早い動きを見せる。ケンイチの剣の腕は槍使いであるバラスクの動きを上回っている。踏み込み、間合いに入ると袈裟斬りから仕掛けるケンイチ。
懐に入られても慌てる様子は見せずに、バラスクは槍を横にして防ぐ。切り返して槍を持つ手を狙う剣撃を一歩後ろに下がるだけで回避して、石突にて攻撃をしてくる。
ケンイチも動揺せず、ホバーにて後ろへと素早く下がって、剣を構え直しバラスクを睨む。
「バラスク王。もはやこの地は陥落します。降伏をしてくださいませんか?」
バラスク王の周囲の騎士たちは次々とダツたちの連携により倒されていた。幼女の眷属強化スキルにて、旧型といえどダツたちは上級騎士を上回るステータスを手に入れたのだ。相手にはならなかった。
その様子をバラスクはフンと鼻で笑い、からかうようにケンイチへと答えてくる。
「たしかに俺たちの負けだろうな。だが、まだ俺は負けちゃいねぇし、降伏しても死刑となるのは目に見えている。圧政を敷く奴らには陽光帝国は専ら厳しいという噂は聞いているぜ」
「たしかにそのとおりです。しかし心を入れ換えて生きていくと頭を下げれば、スノー皇帝にも慈悲はあります!」
真面目な青年と言った感じで、主人公然としたケンイチが説得を試みる。が、バラスクは槍を突いてきながら、会話を続けてくる。
「心を入れ換える? わからねぇな、わからねぇよ。力を持つ者が支配をする。小突くだけで死ぬ平民などに媚びて生きろだとも?」
盾にて受け止めながら、ケンイチも剣を振るいバラスクの動きを牽制する。
「媚びる必要なんかない。平民を苦しめる必要なんかないんです。支配階級だからとふんぞり返って平民を見下すことなく、お互いの立場を尊重していけば良い!」
牽制として振られる剣を槍で弾き返して、バラスクは口元を曲げて間合いを取るべく後ろに下がる。
「お断りするぜ! たまにお前みたいな青二才が同じような意見を言ってきたもんだ。だが、そんな奴らは皆死んでいった。俺の槍の前にな! 大層な思想を持っていても、力なくして語ることはできねぇんだよ!」
右足を前に踏み込み、前傾姿勢となり魔力を身体に巡らせるバラスク。武技を放とうとするのを見て、ケンイチも自らの身体に魔力を巡らせる。
「だいたいだ。恵まれた世界に生きる俺とお前。平民なんぞは、そんな奴の話なんざ誰も聞かねぇし、信じねぇよ!」
まるで獣のような空気を纏わせながら、話を続けてくるバラスク。
「その魔法の鎧に、手に持つ魔法の武器。てめえが高位の貴族生まれだと見ただけでわかるぜ。苦労をしたこともないボンボンが、青臭い思想を語るなっ! 槍技 虎王襲槍」
槍から魔力が噴き出して、バラスクが突き出すと、槍の先端に魔力は集まり、虎の頭へと変化して襲いかかってくる。
バラスクの虎王襲槍。突きと共に虎が襲いかかって、噛みつきをしてくる技である。魔力でできた虎とはいえ、その噛みつきは金属の鎧を噛みちぎる力を持っていた。
「ボンボンではない。金貨も手に入れることが難しい時代が俺たちにはあったんだ。その想いが私たちを活かしている! 闘気法 オーラボディ! 盾技 オーラビッグシールド!」
オーラにより身体能力を上げて、盾に力を纏わせるケンイチ。白き障壁が盾から生まれ、敵の突きを受け止めて、魔力の虎を弾き返す。
必殺の技を防がれて驚くバラスクへとケンイチは叫びながら魔力を使う。
「月の光の下にっ! 魔装展開!」
魔力を開放させて、ケンイチの身体が瞬く光に覆われて、結晶魔鉄の鎧の色が変わっていく。半透明の銀の色から、白き色の鎧へと。
「鎧の色が白に変わった? いったいお前は何者だ!」
ケンイチから放たれる気迫と力に、バラスクは知らず気圧されて後退ってしまう。その様子を見ながら、ケンイチは剣を構えて叫ぶ。
「火炎剣を解放! 火炎大剣」
剣から轟々と炎が噴き出して、片手剣を覆い尽くすと、かき消える。炎が消えた後には真っ赤に熱せられた赤き大剣があった。
「想いだけでも! 力だけでも!」
さらなる気迫を見せて、鋭い踏み込みから一気に間合いを詰める。バラスクも戦い慣れているベテランである。すぐに敵が必殺の一撃を放つだろうと推測して槍を構えて、対抗をしてくる。
「俺は負けねぇっ! 槍技 エイミング!」
クルリと槍を回転させて、敵の攻撃を受け流そうとするバラスク。
「大剣技 ムーンクロスブレイド!」
十字に剣撃を放つケンイチの攻撃。その初撃の上からの振り下ろしを風車のように回転させて受け流し、槍をガラ空きの胴へと突きこむ。
勝ったとバラスクはニヤリと嗤う。多段攻撃は一撃が軽く返し技が通用しやすいと経験上知っていたのだ。まともにその胴体へと反撃の一撃が入り、相手の剣士は致命傷を負うだろうと予測していたのだが。
完全に入ったその攻撃はなぜか軽かった。しかも相手の剣士は痛みを感じないどころか、身体をよろめかすこともなく、横薙ぎに移行していた。
「技なんだぁっ!」
トドメの言葉を叫びながら、高熱の剣を繰り出すケンイチ。
バラスクの秘密の固有スキル、超動体視力はその動きを見抜いていた。見抜いていたが、身体は既に突きにより泳いでおり、躱すことも不可能だともわかっていた。
「時代が変わるってやつかよ。ちくしょうめ……」
最後の言葉を口にして、鋼の胸当てごと、高熱を放つ大剣に胴体を斬られ、バラスク王はその生涯を遂げるのであった。
倒れたバラスク王を見て、ケンイチは周囲を見る。既に他の敵兵は倒れ、城門は開かれようとしていた。もはや王も倒れ、敵は総崩れとなるだろう。
その様子を見ながらケンイチは息を吐く。
「やっぱり最後の台詞は装備だと思うんだが、どう思う?」
「ガイ様は想いだけでも、力だけでも、が決め台詞だとしか教えてくれなかったからなぁ。俺は技であっていると思うぞ」
剣を拭きながらケンジが答える。男の言ってみたいセリフということで、ガイから教わったのだが、この台詞は下の句があるんだよな、きっとあのおっさんは教え忘れたんだよと話し合うダツたちであった。
実にしょうもないことを教える山賊には後で漏れなくお仕置きがされるだろうが、とりあえず新型のお披露目は問題なく終わり、春が終わる前に他のバッカス連合も組み入れた陽光帝国はようやく地盤を整えたのであった。
それと槍術4を手に入れたので、ケンイチは幼女から後でご褒美のおにぎりと野菜炒めを貰ったりしていた。
後で詩人が成り上がるケンイチを歌っていたので、ムキィ、と山賊が悔しがってもいたらしい。