142話 火口に向かう黒幕幼女
噴煙がたなびく火山。炎が支配する世界の中心、即ち火口に火竜はいる。火竜を見つけたのは火口付近で珍しい鉱石を探していたドワーフだったらしい。突如として現れたので、驚いて下山したので命は助かったとのこと。その後に火山は噴煙を吐き出して、周囲の環境を変えていったそうな。
生命の存在しない炎の世界と聞いていたが……。
「植物は繁茂して、動物、魔物たちが闊歩していまつね。炎の身体はなさそうでつが、熱耐性はありまつか」
視界に広がるのは、極彩色の木々と草、草食動物たちがむしゃむしゃ草を食べており、そこかしこに魔物や肉食動物が隠れていそうであった。というか、自分たちのいる場所も既に同じような環境に変化している。
「ん、ここの食べ物は熱いのかな? それとも辛い?」
幼女と侍少女は火山の山裾から少し離れた場所に寝そべりながら、話とは違う環境の火山を観察していた。双眼鏡が欲しいけど、ないので肉眼で観察である。高ステータスだからこそできる脳筋技であった。
「味はともかくとして、これは少し厄介ですぞ。魔物の数も多く、炎の精霊も彷徨いていますしな、姫」
「たしかにそうでつね。強引に突破するには敵の生息域が広すぎまつ。ランカの魔法で氷漬けにするのは無理でつか……」
ギュンター爺さんもこちらへと近づき、苦々しい表情で言う。まさしく自然系ダンジョンといった場所である。広すぎて手がつけられない。
火口までの道を作れれば良いんだけど、妨害を絶対にされるよなぁ……。密林とはいかないが、サバンナよりは草木が繁茂しており熱帯雨林一歩手前といった感じかな。木々により視界が塞がれてしまうのだ。必ず敵が潜伏しているに決まっている。待ち伏せにピッタリな場所なのであるからして。
敵が頭が良いのはわかっているのだ。
「空から向かったら、怪しすぎる筍に迎撃されそうなんでつよね……」
密林に広がる植物は色鮮やかな様子であるのが見てとれる。毒々しいとも言える目が疲れそうな色彩である。そして、その中で怪しい植物がいた。そこかしこに、ニョキニョキ生えている白い筍が見えた。先端を赤くして、胴体は白い。見覚えがあるミサイル、いや、筍だぜ。
「あっしは戦車を操るゲームで見たことありますぜ。誘爆するわ、金にならないわと、いらないモンスターでしたが」
今週の賞金首にならないと倒さない相手でしたと、山賊がチラチラと目に入る白い筍を指差す。やっぱり他の人も同様の考えらしい。どう見てもミサイルです、ありがとうございます。
「あれは火炎樹の一部、特性増殖のミサイル筍だからな。対空ミサイルとして力を発揮するんだぜ」
「白い筍はえらい目立つよね〜。あれってどれぐらいの距離をカバーできるのかな?」
マコトがしれっと敵の解析をしてくれて、ランカが移動の際の心配をする。というか、解析ができたと言うことは……。
「もしかしてあの筍は常に臨戦態勢なんでつか? 自動迎撃ミサイル?」
解析は敵が戦う姿勢をとればできる。それがマコトの仕様である。そして解析ができるということは、常に臨戦態勢ということだ。
「あぁ、名前は火炎樹。ステータスは平均80、すばやさが練習相手にならない程低いな。特性は増殖。根を張ることによって竹林を形成できるんだぜ。それと自動迎撃化。これは常に敵を警戒していて、自動に迎撃できるんだぜ。炎の身体も持っているぞ。それとミサイル。ミサイルはある条件下の攻撃をミサイルに変える。スキルは火魔法5、火精霊魔法5、魔法操作、気配察知5、セージ4だな」
キラキラと銀の粒子を翅から生み出しながら、自分はダメージを受けないからとお気楽に説明してくれる妖精である。というか、ミサイル化って酷い特性である。キャノンがある時点で予想して然るべきだったか……。
「どう攻略するべきか……。バッカスしゃんたちが来る前に片付けないと大変なことになりそうでつ」
半眼でミサイル基地を眺める幼女である。ミサイル基地と言って良いだろ。しかも文字通りミサイルが雨後の筍の如くあるし。
「バッカス殿たちは武装をして軍を率いて来ますからな。忠告は通じませんでしたし」
苦笑しながら、ギュンターが言うがそのとおりだ。後からバッカスたちが追いついてくる予定なのである。
「まぁ、自国を守るのに、あたちたちだけに頼ることはできないんでしょー。ゲームだったら、王様は主人公たちだけに世界の命運を任せて椅子にふんぞり返るだけでつが」
ゼーちゃんに乗って、俺たちは先行したから数日は時間があるだろう。反対にそれだけしかないから、手早く片付けないとなぁ。う〜ん……。
「攻撃範囲はバッカスまで届くんですかね? 街が植物だらけになっていたのは、あいつのミサイルで種子が飛んで来たんじゃ? 鉄火巻ブレードってアニメで植物の敵がそんな感じで勢力を広めてやしたぜ」
バッカス都市の手前にあった宿場町。なぜかここと同じような植物に覆われていたので、ガイはそう考えたらしい。が、マコトは首を横に振って否定してくれた。
「いや、そこまで攻撃距離はないぜ。1キロ程度ってとこか。あの街は環境を変えるために実験的に種子を魔物が運んで来たんだろ」
「さすがにそこまでチートではないでつか、高空迎撃はできない感じ?」
「高空迎撃距離は3キロまでいけるな。直上攻撃をミサイル筍は得意としているから」
チートだった。チートすぎだろ。なんで高空迎撃距離は3キロ? 戦闘機を迎撃するんじゃないんだぞ。
「増殖ということは、地面の下に火炎樹は広がっているから、敵の本体を倒すのが大変ということでつよね。もぉ〜、倒すの無理じゃないでつか!」
寝っ転がっていた幼女は手足をバタバタ動かして、駄々っ子スタイルとなっちゃう。何気に精霊を召喚もしているようだし、これは無理ゲー。地面を持ち上げれば良いわけ? フレイムなヘイズを支援要請します。クッキーみたいな名前の化け物を倒せる仲間を要請したい。
「しょうがないんじゃない? ど〜も、この地域のボスたちは対魔法特性を装備しているらしいけど、火炎樹とか言うのは増殖により倒されないのが強みっぽいよね。それなら僕がなんとかするよ」
ランカがウインクをしながら言ってくる。ちょっと苛ついている感じなのもわかる。魔法使い殺しとか許せないもんな。貫通スキルが欲しいところだ。俺は持ってるけど。
「……まぁ、パーティー用にバージョンアップされた時点で、総力戦があることはわかってまちた。強化されたということは敵が強くなるということでつし」
しょうがないなぁと、周りを見ると皆はやる気を宿して、素敵な笑顔を浮かべていた。この状況を理解しているのだろう。
ならば、団長たる俺のやることは決まっている。
「お前らっ! あたちについてこいっ!」
「おー!」
幼女がちっこいおててを掲げて叫び、皆も合わせて手を掲げるのであった。
地面に張り巡らせた根のネットワーク。その根から敵の気配を火炎樹は火口にいながらにして感じとった。どこから現れたのか、凄い数の狼だ。およそ500はいるだろうか?
その群れの中心には人間がいることも感じとった。どうやら侵入者らしい。
「速い……行動が速すぎる。紅亀とドレイクを倒した奴らか……。どうやら我が主を倒しに来た、か」
ゆらゆらと身体を揺らしながら火炎樹は敵の距離、行動速度を計算する。そして、張り巡らされた分身たる竹と筍に迎撃指示を出すのであった。
その命令に従い、竹は燃えだし、筍は発射態勢をとり始め、にわかに火山は臨戦態勢へと移行するのであった。
ドドドと多くの足音を響き渡らせて、ウォードウルフの群れが火山へと向かっていた。その数は500匹、幼女が格納されていた者たちを呼び出したのだ。
熱帯雨林のような森を疾走していく。木々の合間から肉食動物や魔物が唸り声をあげるが気にもせず、複雑に絡み合う木々の根っこを飛び越えて、遮る枝葉を無理矢理突破して、狼の群れは走っていた。
中心にはガイ、ギュンター、ランカ、リンが狼の背に乗っていた。厳しい表情で前方を睨んで警戒している。
「来やした、来やしたぜ! 物凄い数のミサイルが!」
空を見て叫ぶガイ。空を埋めるように無数の筍ミサイルが飛来してきたのだ。あとに残す噴煙が雲となり、ミサイルは正確にこちらへと向かってきていた。あれだけの数だと、どんなタフネスでも死にそうである。
「任せるのだっ。盾技 月光大盾」
コマンドオーダーにてギュンターが発動させたビッグシールドが、闇の帳と星の輝きを宿して、盾を中心に障壁となって広がっていき全ての狼たちを守るように覆う。
飛来してきたミサイル群は障壁にぶつかり大爆発を起こしていく。耳が痛くなる程の爆発音が響き、ギュンターたちは顔を顰めるが、障壁は揺らぐこともなく、全ての攻撃を防ぎきる。
「さすが、守りの武技だよなっ。今のミサイルはおよそ5000発。まだまだ敵のミサイルは残っているぞ! たぶん15000発は残ってる」
「そうか……マコトは敵意を持つ相手を解析できるから、自動迎撃のスキルを持つ敵は解析対象になる。即ち解析対象がどれぐらいの数いるかで、ミサイル筍の数もわかるんだ」
リンが納得したように頷く。モニターが各自の前に浮かび、マコトがニカリと笑って言ってきたのだ。平然と言うが、数がおかしい。さすがはミサイル基地というところだ。
クールタイムがあるために、同じ武技は連続で発動できない。だが、もう一人、盾技を扱える男がいた。
誰を隠そう勇者ガイである。おっさんは目を輝かせながら、爺さんの盾技を見て年甲斐もなくワクワクしていた。
「ん、また来る」
リンの言葉に待っていましたと、空を仰ぐ勇者。先程と同程度のミサイル群が飛来してきたのを見て、盾を掲げてあっしの出番だと大音声で叫ぶ。
「ここは通さんっ! ふへへ、ここは通さんっ! かっこよすぎるな、今のあっし。ここはとお」
「早くする」
「ぐへっ」
近づいてきたリンがジト目で殴ってきて、早くも攻撃を通されるおっさんである。味方からというのが情けない。
「いつつ、本気で殴ってない、お前? ま、良いか。盾技 月光大盾」
ガイもミサイルが接近してくるので、ふざけるのは止めだと盾技を使う。コツンとオデコにクッキーが落ちてきて、いつも通りで、いつも通りではない巨大な光の盾が周囲を覆う。
やはり先程と同じように、ミサイル群の攻撃を防ぎきり、爆煙で周囲の視界が悪くなる。
「あれぇ? あっしの盾技おかしくない? 運営へのクレームはどこ宛てにすれば良いんですかね?」
エフェクトが違うと文句を言う勇者。聖騎士のエフェクトは特別な模様。それか、小悪党が弄ばれているか。後者の可能性は極めて高い。
敵のミサイル攻撃を防ぎきり、しばらく疾走していくと、再びミサイルが飛来してくる。だが、先ほどと違い500発程度の小規模だった。
「敵の攻撃が散発的になったね〜。こちらの手持ちのカードを探り始めたね〜」
中心で、いつもののんびりなセリフに真剣さをのせてランカが言う。計算どおりである。一斉攻撃が効かなければ、次は散発的になるだろうと予想していたのだ。
だが、それは敵の戦い方が変わったということでもある。
広がる森林にポツリポツリと存在する竹が突如として燃えだして、燃えゆく竹の中から炎の手が突き出されて、何者かが現れ始める。
「サモンサクリファイスだぜ! 己の命を代償に強力な召喚をするんだ。あれは中級精霊イフリートだぜ」
マコトが敵の正体をあっさりと看破するが、命を引き換えにって、増殖してるじゃん、チートな敵め。
人型の炎の精霊が片刃の剣を生み出して構え、ホバー疾走を始める。一つ目がギロリとこちらを睨み接近して、片手を突き出す。小石程度の無数の炎の弾が手の周囲に現れる。
「イフリート……。なんだか、違うイフリートのように見えるよね〜。ま、予想内に留まるよ」
狐人の魔法少女は風に金髪をたなびかせて、にやりと不敵に笑い、周囲へと指示を出していくのであった。