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黒幕幼女の異世界ゲーム  作者: バッド
11章 だいちょーへん、黒幕幼女と紅き竜なんだぜ
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140話 勇者はドレイクと戦う

 ガイは目の前の強敵、ファイアドレイクを見てニヤリと不敵に笑う。久しぶりに強敵を前にして、戦士の本能が沸き立つ。


「ふっ。親分、そろそろそっちの戦闘終わりません? パイルダーアイ、パイルダーアイが必要なんですが」


 沸き立つ本能は古ぼけたやかんに入っているらしい。あっという間に水漏れして、消えていく模様。というか、勇者的に戦うのは厳しいと思うのだ。神樹に供物を与えれば、ガイは勇者であるとタイトルが空に浮かんで敵を倒せるのかな?


 おっさんの場合は神樹が供物いらないからと、拒否してくるのは確実だ。おっさんは供物にならないのであるからして。精々供物を運ぶために大八車を牽く役が良いところだろう。


「ガイ、あいつの名前はファイアドレイク。平均ステータス100、バランスのとれたモンスターだな。特性はジャマーブレス、炎の戦士、これは炎の身体の力に加えて全体のステータスを40%高めるんだぜ。スキルは格闘技6、拳技6、蹴技6、闘気法3、セージ4だな。闘気法は魔力を闘気に変えて様々な補助や攻撃技を使用できるんだぜ。水、氷にとてもとても弱いな」


 モニターに映るマコトがふんふんと興奮気味に語ってくる。物凄くバランスの良い魔物なので、嬉しそうである。


「モンクとしてこれ以上ない構成でやすね。ドレイクのステータスと強力な爪と硬い竜鱗。タフネスそうな体躯。モンクにするならこれ以外ないって程の魔物ですぜ。運営に文句をつけて良いですかい?」


「今の発言で室温が0.1下がったかもな。まぁ、頑張るんだぜ。あたしは亀退治に戻るからな。ちょっとこっちの魔物も強いんだぜ」


 パチリと妖精はウインクをして、モニターが消える。ガイは敵のステータスが丸裸になったと嬉しく思う。敵を知り己を知れば百戦危うからず。


「あっしじゃ敵わないな。無理じゃね? パーティーで戦う敵ですぜ」


 己を知るおっさんなので、ドレイクに敵わないのは理解してしまう。ステータスも装備もスキルも全部負けているのだ。勝っているのは顔だけだろうと。


 かっこよさで見たら、山賊はドレイクに負けると思われるが。ゲームでどちらを仲間にしますかと選択肢が出たら、殆どのプレイヤーはドレイクを選ぶだろう。山賊を選ぶのはネタキャラで遊ぶのが好きな物好きな人だけであろう。


「まぁ、仕方ないよな。こちらは手持ちで頑張るとするか」


 親分曰く、テンプレで街中に坑道から攻めてくる魔物がいる可能性があるから、ガイはここへと配備されたのだ。坑道に繋がる道ってどこですかいとドワーフに尋ねたら、ジロジロと風貌を見られて鉱石を盗掘しに行くのかと疑われたので、説得にだいぶ時間がかかったけど。


 時間稼ぎをすれば親分たちが助けにくるかもしれないが、のんびりとドレイクは待ってくれそうもない。


 ならば仕方ないと、バッカスから貰った手斧を持ち身構える。


「武器がないと困るだろ? ほらよっ、返すぜ」


 戦う気になったガイを見て、ドレイクが受け止めた斧を勢いよく投げてくる。武技に劣らぬ速さを見せて、斧が高速で飛んでくるのを手を突き出して、ドレイクと同じように受け止めようとするガイ。


 荒々しい動きで手を突き出して受け止めようとするその様子にドレイクは技は未熟だなと薄く口元を曲げる。きっと受け止めることに失敗すると予想をしていたが、ガイはその手に投擲された斧がぶつかる瞬間に大袈裟に手を振り払う。


 斧を弾くような、雑な手振りを見せるガイ。その動きでは手を怪我すると思われたが、不思議なことに斧はガイの手に納まっていた。


 その様子を見て、ドレイクの顔が険しくなる。今の動きから斧を掴めるとは思えないからであった。自らの格闘スキルがガイの体術は拙く低いと見抜いたと思っていたにもかかわらず、相手が斧を手にしていることに疑問を浮かべる。


「ふっ、トカゲにはわからねぇだろうなぁ。頭の悪いトカゲじゃな。お前の脳味噌はほんのちょっぴりなんだろ? ゴゴゴゴ」


 奇妙な立ち方をして、腕をへんてこに組んで髭もじゃのおっさんはからかうように言う。擬音まで口にしているのがアホさに磨きをかけていた。もしかして、どこかの吸血鬼退治の男を真似しているのだろうか。


 リターンにて斧を手に戻しただけなのだが。手に当たるスレスレでリターンを行ったから、まるで見事な体術で受け止めたように見えるのであった。


「……良いだろう。てめえの力を今度こそ見極めてやるぜ」


 己をからかう人間へと、僅かに苛立ちをもち、地を蹴るドレイク。一気に間合いを詰めてくるドレイクへと、からかうような表情のまま、ガイは手のひらを相手へとひらひらと振ってみせる。


「ぬ?」


 ガイの手のひらの動きに合わせて、空間から水が大量に生み出されて、ドレイクへと向かってきたので、意外な攻撃に立ち止まってしまう。


 遅い速度であるが、その攻撃に警戒してドレイクは口を開きジャマーブレスを吐く。魔法ならば打ち消せると自信を持っていたが、ジャマーブレスにより大量の水は多少消えるだけで、ほとんどはドレイクに迫り来る。


 手のひらを突き出して、水を受け止めると、ほとんど水圧も感じずに雫となって周りへと水は飛び散るのであった。


「はぁん? クリエイトウォーターかよ。なるほど、俺のジャマーブレスがエネルギー系統しか効果がないと見抜きやがったか。だが、クリエイトウォーターには攻撃力はねぇんだよ。俺の弱点をついたつもりなのだろうが、この程度じゃ効かねぇな」


 拍子抜けしたと、ドレイクはガイへと馬鹿にしたように告げる。少し警戒しすぎたかと苦笑を浮かべるドレイク。


 クリエイトウォーターはガイの後方に位置する魔物たちが放っていた。倒したはずの者も血を流しながらも立ち上がり魔法を使ってきていたが、弱き魔物ではいくら集まっても無駄なのだ。


「そうか? お前の頭を冷やせればと思ったんだが、あっしの心遣いがわかんねぇかなぁ。もうトカゲの脳味噌は沸騰しちまってる?」


「減らず口だけはたいしたもんだ」


 クリエイトウォーターとわかったからには、警戒することもないと、未だにからかってくるガイへと再び間合いを詰めるドレイク。


 業物の短剣のような鋭い爪を繰り出して、ドレイクはガイへと肉薄する。その突きは暴風を巻き起こし、鉄をも貫く威力を秘めてガイへと迫る。


「だりゃぁ」


 ガイも負けじと荒々しい動きで斧を繰り出す。ドレイクの爪を弾き攻撃を与えようとするガイであったが、ついっとドレイクは繰り出す拳を僅かに揺らすと、ガイの斧がすれ違う瞬間にその手の甲で弾く。


 弾かれて軌道がずれたガイの一撃はドレイクに掠ることもできずに、反対にドレイクの一撃はガイの肩を貫く。


「グッ。ヒール!」


 鮮血が散り、痛みに顔を顰めながらも、即座に回復魔法にて出血を止めるガイ。怯まずに斧を即座に戻してドレイクへと再び繰り出す。


「根性だけは認めてやるぜ。無駄な足掻きだがなっ」


 ドレイクも拳を引き戻し、再び攻撃を繰り出す。お互いの攻撃が交差して、激しい戦いとなるが鮮血が舞い、傷が増えていくのはガイだけであった。


 軽やかに手を動かしてガイの一撃をドレイクは滑らかに受け流していくのだ。斧を振り下ろすと、半歩横にずれて回避し爪を横薙ぎに振るってきて、痛みを我慢して歯を食いしばり、下からすくい上げるように斧を振り上げると、スウェーにて紙一重で空かされる。


 大きく踏み込み、強引に胴体へと攻撃を繰り出すと、片手で難なく受け止められて、空いたもう片方の手にて掌底を受けて仰け反ってしまう。


 子供と大人の戦いよりも、なお酷い。隔絶した技の差がそこには存在した。


「どこまで耐えられるか見物だなぁ。俺との力の差がわかったか?」


 傷一つないドレイクはガイを見て、先程のお返しだと嘲笑う。そんなドレイクではあったが、隙を見て撃ってくるクリエイトウォーターに身体を濡らされて多少不愉快でもあった。


「ヒールッ! つつぅ……力の差はわかってら。だが、頭の差はどうですかね?」


 血だらけになっても、戦意を失わずにガイは先程から変わらずからかうように言う。


「頭の差? てめえの頭の差ってのは魔法のことか? フリーズスタチューを使う気なんだろ? この大量の水を使ってな」


 地面は既に水浸しで水溜りができていた。天井も壁も同じく水が滴り坑道の温度を下げている。


 そしてドレイクも水を被りびしょ濡れであったが、だからこそ敵の狙いをドレイクは簡単に予想できていた。


 クリエイト系統で攻撃力を持つ魔法。フリーズスタチューで大量の氷を作り出し己を封ずるのだろうと。簡単な推理だ。敵はこちらを魔物だと見くびっているのだろうが、自分たちは他の魔物と格が違うのだ。


「わかっているなら、話は早え。これで終わりだ!」


 ガイが一歩下がるのと同時にラングたちがフリーズスタチューを使う。極低温の氷がドレイクの周囲の温度を下げて、飛び散った水を凝縮させて尖りし氷の柱となり、天井から、壁から、地面から生えてドレイクを襲う針襖となる。


「わかってたぜぇ。闘気フォースフィスト! 拳技 スピンクロウ!」


 オーラで爪を覆いその間合いを剣のような長さまで伸ばすドレイク。その場で身体を捻ると、小竜巻のように回転をして迫る氷の柱を砕いていく。


 バラバラと氷の欠片が舞い散る中で、回転の勢いをのせたままドレイクはガイへと飛び掛かる。


「魔技 スピンファング!」


「グハッ」


 大口を開けてガイの肩へと牙のぞろりと並ぶ口で噛み付く。肉を食いちぎる音をたてながら、さらにドレイクは身体を回転させて、ガイを咥えたまま持ち上げる。


 そうして回転をしたまま持ち上げたガイを地面へと叩きつけるのであった。


 グシャリと嫌な音をたてて倒れるガイから口を離す。コキコキと肩を鳴らしながら、口を曲げるドレイク。


「雑魚にしてはなかなか楽しめたぜ、人間とお前は言う」


「雑魚にしてはなかなか楽しめたぜ、人間」


 倒れたガイへと告げるドレイクは、その前にガイに言われたセリフにギョッとする。睨むように倒したはずの男を見る。


 多少よろけながらも立ち上がってくるガイに驚きを隠せない。


「手応えはあったはずだ。どんなトリックを使いやがった、人間?」


「へへっ。ぼうぎょをしたんだよ、オーダーどおりにな」


 コマンドにて待機状態であったぼうぎょをガイは叩きつけられる寸前で使用したのだ。さしものドレイクもオーダーぼうぎょしたガイを一撃で倒すことは不可能であった。


「まぁ、ボコボコボコボコ殴りやがって、このトカゲ野郎。人間様の頭の差ってやつを見せてやるぜ」


 ガイは不敵に笑うと手にした糸を引っ張る。いつの間に糸など手にしたのかと疑問に思うドレイク。そのドレイクにふわりと覆うように地面から糸が現れた。


「グッ? これはいったいどこで!」


 その糸は氷に覆われた糸であった。ドレイクが砕いた氷、周囲に生える氷の柱を支柱として、いつの間にかドレイクの周りに張り巡らされていた。

 

 フリーズスタチューに紛れてラングたちが糸を張り巡らせて罠を張っていたのである。


 そうして、ガイが、ラングが手に持つ糸を一斉に引き、ドレイクの身体を拘束する。ご丁寧に口を何重にも糸で縛りあげる。


「これでジャマーブレスは吐けないだろ! フリーズストームだ、ラングキャノンたち!」


 ガイの指示により、フリーズストームを使うラングたち。氷が弱点のドレイクはジャマーブレスを吐けずに身体を徐々に凍らされていく。


 これが目的だったのかと、ドレイクは感心しながらも、身体に力を込める。筋肉が膨張し、氷の糸がぶちぶち切れていき、オーラを口に集めて勢いよく巻かれた糸を千切って大口を開く。


「感心したぜ、人間。だがステータスの差でそもそも効かねぇんだよ!」


 眼前は渦巻く氷の嵐で周りの様子はわからない。が、ジャマーブレスを吐けば良いと大口を再度開いた瞬間であった。


 嵐の中から現れたガイが口へと剣を横に差し込んできたのだ。


「もちろんわかってた。だからこそこれを狙っていたんだよ、トカゲ野郎」


 最初からラングの魔法は防がれなくともダメージを入れることは無理だとガイは考えていたのだ。ならばこそ、敵が作る決定的な隙を狙っていた。


 驚愕に目を見開くドレイク。どこから剣を? 先程の斧を使っていた時よりも、剣の腕のほうが高い? 疑問が渦巻く中で、相手は口の端になぜかクッキーを齧りながら呟く。


「剣技 ムーンソードスラッシュ」


 かぶりとクッキーを飲み込むと、ガイは武技を使い、赤い光に包まれた剣はオーダースキルによる補正を受けて、ドレイクの口からするりと切り込み、その頭を上下に分かつのであった。


 ふぅと、疲れて息を吐き、頭を切られて倒れるドレイクを見ながら、ガイは肩をすくめる。


「トカゲじゃ、人間様の知恵は超えられないってことだ」


 そうして、あぁ疲れたと凶悪な魔物に打ち勝った勇者は地面に寝っ転がるのであった。

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― 新着の感想 ―
[一言] さすがガイさん、僕は信じていましたよ() いや、でも正直ガイさんがタイマンで勝てるとは思ってなかったです。 伊達に幼女が最初にクリエイトしたわけでは無かったんですね…
[良い点] いかにステータスやスキルで勝れど生まれて1年やそこらのひよっこでは、コンハザの崩壊した世界を戦い抜いた勇者を倒すには役不足でしたね。 ラングキャノンともども満身創痍になりながら、ついに食ら…
[良い点] (°4°)oh!!うそ!完璧なジャイアントキリング!しかも相手は油断も慢心もなかった強者。ただひとつファイアドレイクが嵌められたのはガイを支えるラングを排除するのを後回しにしたため山賊勇者…
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