138話 ポケットのモンスターマスターをする黒幕幼女
キュイーンと擬音を口にしたくなるほど速い白き隼ゼーちゃん。その速さはいかなる攻撃も回避できるかと思われたが、しかしながら、反射されたビームはホーミング機能つきらしく、軌道を変化させて接近してくる。
「ゼーちゃん、氷の身体っ!」
気分はポケットに入るモンスターのマスターな幼女。迫りくるフリーズビームを見て、鋭い声音で命じる。えっと、コマンド、すきる、氷の身体っと。ポチポチ。
「ピッ」
インコな隼は可愛らしく答えると、その身体を変化させる。オーダーにより強化された美しく煌めく氷の身体へと変化させ、周囲の温度を一気に低下させていく。
霧が発生し、チラチラと氷の欠片が宙を舞う。ゼーちゃんの氷の身体が強力すぎて、周囲まで極低温にしていっているのだ。
そうして、反射されたフリーズビームが命中するが、氷の身体となったゼーちゃんには効かなかった。あっさりとビームは霧散して、隼は何もなかったように飛び続ける。
「不思議とあたちたちは寒くないでつね」
ステータスボードに記載されたとおりに、氷の身体はアイたちには効果を及ぼさない。冷たくもないので、幻かと思うぐらいだ。
「気をつけるんだぜ。氷の身体は強化されたけど、それは弱点も深刻化しているということなんだぜ」
「受けるダメージが、二倍ダメージから三倍ダメージになると言うことでつね? か弱い戦闘機なゼーちゃんじゃ炎の攻撃一発でも墜落の可能性ありと」
「そうだな。それとあいつの名前は紅亀。ステータスは平均80。ぼうぎょがとてもとても高くて、すばやさがとてもとても低い。リフレクトエネルギーフィールドを発生させる特性鏡の甲羅、ぼうぎょを二倍にしてすばやさを半分にさせる亀のぼうぎょ、自分の周りに溶岩溜まりを作る溶岩に住むものを持っているな。それと体長変化。もちろん炎の身体もあるぜ」
妖精は相変わらず呑気に敵のステータスを教えてくれるが、え? マジで? なにその特性。
「スキルは炎の魔法6、魔法操作、炎の吐息6、セージ4、無詠唱だな。魔法操作は魔法の多重詠唱、威力の集中化、分散化、魔力の籠め方で変化する威力操作、命中力アップだ。あたしたちはステータスの力で無理矢理使っているけど、このスキルがあれば同じようなことをできるわけ。弱点は水、氷にとてもとても弱い」
「明らかにボスでつね。しかも今までにないしっかりとした構成でつ。簡素ながら使い勝手の良い強さを持っていまつ……もしかして、運営に良いSEが入りまちた?」
「ボスキャラはあの娘が手伝っていたからな……。いや、なんでもないぜ。あたしはし〜らね」
ピーピーと口笛を吹く妖精。雑な誤魔化し方だけど、なんだろう、世界を滅ぼしたいのかな? たしかに女神様は当初そうなるとは言っていたけど……。まさかふぁんたじ〜な世界観にしたいからとか、そんな適当な理由じゃないよな?
アイは正確にアホな運営の考えを予想したが、まさかそんなことはないよなと、別の考えがあるのだろうと思ってしまった。たぶん、それだけ世界に瘴気が溜まるんだろうなぁと。
幼女はこれでも常識人なのであった。合理的に考える幼女では、アホな運営の気持ちはわからないのであった。運営は本当に碌なことをしないのだけど。
気を取り直して、前を見る。紅亀はゆっくりと歩いてきており、その周りを溶岩流がついていく。巨大な亀と溶岩溜まりが街に辿り着けば終わりであるが、紅亀はこちらを見上げていた。どうやら俺たちを倒す気らしい。
「多重詠唱ファイアアロー」
紅亀が呟き、巨体の周囲に炎の矢が無数に現れる。魔力操作により強化して、多重詠唱と分散化にて矢の数を増やしたのだ。
炎の矢は順番に発射されて、空中にて軌道を曲げながらこちらへと向かってきた。今までにない速さであり、ホーミング性能も高い。
「ランカ。悪いでつけど、地面に降ろしまつ。他の魔物を倒しておいてくだしゃい。ゼーちゃん、ランカを降ろすので地面スレスレに移動してくだしゃい」
ゼーちゃんが翼から氷の魔力を噴射して、横滑りをしながらファイアアローを回避していく中で俺はランカへと伝える。このままだと敵の攻撃にゼーちゃんが当たってしまう。俺たちというお荷物がいるので、全力で飛べないのだ。
「了解だよ。それじゃ、屯している魔物へとフリーズストーム!」
氷の嵐を魔物の群れへと撃ち放つランカ。氷に脆弱な魔物たちはあっさりと凍りついていく。
「ピピッ」
ゼーちゃんは炎の矢を回避しながら地面へと急降下する。幼女は懸命にしがみついて、ランカは地面が近づくと、恐れを見せずに飛び降りる。
「おし、これで大丈夫でつね」
ちっこいおててに金色のコインを握りしめ、不敵に笑う幼女。
「獣系統を操るのは何気に初だろ? 大丈夫なのか?」
「あたちは戦闘機を操るのは得意だったんでつ。こちらメビウス、こちらメビウス、敵を発見した、でつよ」
「本部了解。迎撃許可を出すんだぜ」
二人でキャッキャッとコントをしながら、金色のコインをアイは翳して
「ゲームの始まりでつ」
氷の身体により発生した霧に紛れ込みながら、ゲーム筐体へとアイは飛び込むのであった。
紅亀は炎の矢にて敵を牽制しながら、機を伺っていた。敵の様子を見るに氷系統の魔物である。ならば炎に脆弱なのは簡単に予想できる。鳥系統のために、その身体もひ弱であろうとも。
そのために炎の矢を連射していたのだが、顔を顰めて敵の様子を見る。
急に敵の速度が上がったのだ。一気に加速して炎の矢はホーミングも間に合わなく、置き去りにされていってしまう。
「力が増大したじゃと? なにかの力が加わったか?」
これでは炎の矢は通じないだろう。同じくファイアストームも。敵に通じるとすれば……。
「速さだけでは儂には敵わんと教えてやろうかの」
ニヤリとほくそ笑み、次の魔法を紅亀は準備するのであった。
隼アイは高速で飛行していた。加速速度が凄すぎる。敵のファイアアローなんて目じゃない。
「ロック機能、と。フリーズアロー発射!」
のそのそ動く地上兵器など相手ではない。幼女の中のおっさんは対地戦闘機を愛機として多数の地上兵器を倒しまくっていた経験があるのだ。
隼のつぶらな瞳がキラリと輝き、氷の矢を連射していく。戦闘機の高速攻撃に紅亀は回避することはできずに、全弾命中する。が、リフレクトフィールドが働き、跳ね返ってきた。
「エネルギーフィールドは魔法系統を全部リフレクトするのでつか?」
氷の噴煙を後に残しながら、隼アイが空を飛ぶ中で、マコトに問いかける。
「エネルギー系統じゃなければ通じるんだぜ。クリエイト系統ならダメージが入るな」
「なるほど、通常魔法は全部エネルギーの塊という訳でつか」
ならば戦いようはある。高速ですぎていく光景をモニターで見ながら考える。ブリザードって通じたのかな? ランカにブリザードを撃たせるか?
「環境変化系統はエネルギー系統とクリエイト系統両方が混じるから止めといた方が無難だな」
「ナイスアドバイスでつ。それじゃ、ゼーちゃんで倒すしかないでつね」
なにしろあの亀の周りは溶岩なのだ。近づくだけで人間は燃え尽きるので地上からの接近戦は不可。通常魔法も通じない。あいつチートじゃね?
よっと、レバーを倒して急降下をするアイ。
「戦闘機の戦いは一瞬で終わるんでつ」
「やられるなよ、なんだぜ」
妖精の応援を背に、ゼーちゃんぼでぃに意識を移す。視界には巨大な亀が近づいてきていた。
遠近感がわからなくなるほど巨大な亀に接近をしつつ、魔法を準備する。クリエイト系統で勝負である。
溶岩の熱気により、空気が揺らめく。氷の身体にて周囲の温度を下げながら隼アイが急降下していくと、亀の目がピクリと動いた。
「ちっ、反転!」
嫌な予感を受けて、身体をロールしながら急上昇へと切り替える。
「ボルケーノ!」
亀の声が聞こえると同時に溶岩溜まりからマグマの柱が噴出してきた。しかも一本ではなく、次々と。あたりに溶岩を撒き散らし、真っ赤な熱で輝くマグマの柱。
ロールをしながら、柱のぎりぎりを通り過ぎ躱していく。撒き散らされた溶岩が当たり、羽根が僅かに焦げて、ヒットポイントが減っていく。
「回避先を予想されているぜ!」
「わかってまつ!」
マグマの柱が隼アイを燃やさんと次々と噴き出してくるが、その攻撃により逃げる場所が限定されていることにアイは気づき、マコトが肩の上で大声で叫ぶ。
ちらりと亀を見ると、口内に炎を溜めている。逃げ道を塞いでブレスで倒すつもりなのだろう。頭の良い奴だ。
風を切り、マグマを回避しながら隼アイは大きく縦に旋回して紅亀へと向き直る。
「一か八か、接近戦にて勝負でつ!」
翼からアイスジェットを噴射して全力で加速をしながら、猛禽の目を鋭く細め、紅亀へと迫るのであった。
紅亀は敵の様子に感心する。頭の良い鳥だ、ボルケーノにて逃げ道を抑えられて、炎のブレスに焼かれるのみだと理解したのだ。そのため、接近戦へと切り替えたのだろう。だが、問題はまったくない。
「詰みじゃて。か弱い鳥では、儂を傷つけることもできんよ!」
加速して、目の前に現れるボルケーノを回避しながら迫り来る隼に、口を大きく開けて向ける。口内に溜められた炎が高熱により白く輝き灼熱となって解放され、一条の光線と化す。
「クリエイトウォーター!」
隼も対抗するためか、大量の水を周囲に解き放つ。津波の如き大量の水はボルケーノによって生まれた炎の柱にも当たり、水蒸気が発生して辺りを霧へと包む。
「無駄じゃっ! 貴様の姿は捉えておるっ」
敵の姿は見えなくなったが、動揺はしない。ボルケーノが敵の行動範囲を狭め、どこに来るかを予想できるからだ。
冷えかけた溶岩が飛び散り、紅亀へとかかってくるが、たいした影響もないと、ブレスを吐き続け、水蒸気でぼんやりとしか見えないが、その身体へと命中させる。
手応えを感じたと紅亀は嗤い、ブレスの命中した鳥はこちらへと勢いをなくし墜落してきた。
墜落し、ガリガリと地面を削りながら、鳥が目の前まで転がってくるのを、紅亀は勝利を確信し、見つめるが
「な、なにっ? 氷でできた鳥? これは?」
転がってきた鳥は氷でできた彫像であり、隼ではないと、紅亀は驚く。慌てて周囲を見渡すが水蒸気により視界は塞がれており、どこにいるか確認できない。
「奴は炎の柱に逃げ道を塞がれていたっ。どうやって逃げたのじゃ? どこに消えたっ?」
自らの作戦は完全だったはずだと、動揺しながらキョロキョロと辺りを見回し
「ピーッでつ!」
冷えかけた炎の柱から、炎の鳥が鳴き声と共に現れる。動揺する紅亀へと炎の身体を氷の身体へと切り替えて、嘴を突き出して接近する。
「幼技 幻想連撃! クリエイトアイスブレード、ソードスラッシュ!」
クリエイトアイスにて作り上げた氷の剣を嘴で咥えて、横薙ぎに甲羅を斬り裂く。ガリガリと嫌な音をたてて、紅亀の甲羅が傷つきひび割れる。甲羅が砕け蹌踉めく紅亀へと、縦旋回にて再び肉薄して、隼アイは鳥であるのに、悪戯そうな笑みを浮かべる。
「炎と氷の属性? 相反する属性を持つ鳥だとはっ!」
力をなくし、弱々しく言葉を吐き出す紅亀。あり得ない力を持つ鳥だと驚きが混じっていた。
「ヒャッホー! 今日は大量でつ!」
隼アイは身体を回転させ、砕けた甲羅から覗く内臓へとフリーズビームを撃つ。そうして中から低温にて、その体内を急激に凍りつかせていく。
「も、申し訳ありませぬ、紅蓮さまぁぁぁ!」
部位破壊にて甲羅を破壊され、リフレクトエネルギーフィールドが消失した紅亀は断末魔をあげて、内部から爆発するように氷の柱が突き出してきて、その命の炎を消されてしまうのであった。