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黒幕幼女の異世界ゲーム  作者: バッド
11章 だいちょーへん、黒幕幼女と紅き竜なんだぜ
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137話 嗤う紅亀

 バッカス王国のドワーフ戦士団。勇敢にも炎の魔物へと相対して、斧を振るい城壁を守っている。攻撃すれば自分たちも火傷を負うにもかかわらず、懸命に戦う姿は感心をしてしまう。


 だが、着実にダメージを与えていく炎の軍団により次々とドワーフたちは斃れていく。地力が違うのだ。接近戦では炎の身体を持ち、体力に勝る魔物の方が圧倒的に有利である。


 その光景を溶岩溜まりに浸かる巨大な体躯の紅亀は満足そうに眺めながら、口元を歪めた。既に体長変化スキルにより、身体は全長100メートルまで変化済みだ。


「紅蓮様は陽動で良いと仰っていたが、なに、倒してしまっても構わないのだろうて。ホッホッホッ」


 余裕の表情で、周囲に取り巻く自分よりも小さな赤い亀たちへと命じる。体長5メートル程の紅亀の下位互換のような魔物たちである。口から炎弾を吐き出して、城壁上のドワーフたちを攻撃していたのだ。


「そろそろ城壁に取り付くが良い。もはや敵は死に体。ここでトドメを刺すのじゃ」


 命じられたとおりに炎弾を撃ち出して支援砲撃をしていた赤亀たちは、のっそりと動き出す。そうしてふわりと身体を浮遊させて、城壁まで飛んでいく。


 回転しながら飛ばないので、どこかの亀さんではない。浮遊の特性を持ち、城壁上のドワーフたちの真上へと移動する。


 もちろんドワーフたちも手をこまねいていたわけではないが、弓兵は足りず、指揮官も混乱しており、接近を許してしまう。


 ドワーフたちの真上に位置した赤亀たち。


「くそっ、弓兵、攻撃をしろっ。撃ち落とすのだ!」


 明らかにまずい状況だとドワーフの指揮官は周りに残る弓兵に命じるが


「だ、駄目です。かすり傷をつけるのが精一杯です。なんて硬さだ」


 腹を狙い撃っても、カンカンと乾いた音をたてて、矢は弾かれて、赤亀はまったく痛みを感じていない様子であった。


 そうこうしているうちに、赤亀の甲羅が赤く輝ぎ、パラパラと火の粉が甲羅から生みだされ、ドワーフたちへと降り注ぐ。


「なんだ、これは? 火の粉?」


 ドワーフたちの周りを舞うように火の粉が散る。触れると一瞬痛さを感じるが、皮膚を赤くする程度で、ダメージを受ける程ではないとドワーフたちは戸惑いを見せるが、火の粉の意味はすぐにわかった。


「魔技 ヒートネット」


 魔力を集中させて、赤亀がポツリと小さな声で呟くと同時に、その身体から炎の網が真下に放たれた。


 炎の網はドワーフたちを捕らえて、その体を焼く。


「うぉぉ、こ、これは?」

「馬鹿なっ、これしきの炎で」

「ぐぬっ、これは……」


 ファイアアローよりも弱い力のヒートネット。ドワーフたちならば、その頑丈な身体で引き千切り、脱出できそうであったが、実際は悲鳴が響き渡り、動きを止めてしまう。


 炎に触れた途端に力が抜けて、動けなくなり、ヒートネットの熱で焼かれてしまうのだ。


 悲鳴が響き渡り、阿鼻叫喚の光景となる城壁上。炎の身体を持つ魔物たちはヒートネットに動きを阻害されることもなく、動きの鈍くなったドワーフたちへと猛然と襲いかかっていった。


「ホッホッホッ。火の粉は炎耐性を1下げる。それに加えて敵の動きを鈍くする熱系統魔技ヒートネット。炎の魔物たちはそれらの攻撃の影響を受けない。この連携でもはやドワーフたちは終わりであろうて」


 紅亀は得意気に口元を歪め、戦況を眺める。それぞれは弱いスキルであるが、巧妙な連携をとれば、極めて強力なスキルへと早変わりするのだ。これらスキルを与えてくれたじ〜えむ様に感謝の念を送る。


 与えた本人が見れば、単発で使ってくださいよと、口を尖らせて文句を言うのは間違いない。きっと運営の想定を超えた使い道をされましたと言い訳をするだろう。


 ポンコツな運営なので、これからも想定外でまくりであるのは明らかだったり。


 そんなアホな運営の思惑をもちろん紅亀は知らず、ヒートネットも火の粉も通じない強者たちを探す。


 身体能力の高い者たちには、弱きちからの赤亀の攻撃は通じないのだ。しかし、それらの強者は紅亀が倒せば良い。


 動けないドワーフの戦士の中で、奮戦しているものは目立つ。目を凝らして観察すると、未だに斧を振るって戦う者たちを見つける。


「さらばじゃ、勇敢なるドワーフたちよ。やはり儂だけで問題はなかったようじゃな」


 嗄れた声を出しながら、口を開く。口内に高熱で真っ赤に輝く炎が渦巻き始め、最初に目をつけたドワーフの強者を狙い撃とうとして


「むっ? これはっ!」


 突如として城壁上に白き光が十数も通り過ぎっていた。それら白き光は軌道を変えて、赤亀たちを斬り裂き墜落させていく。


 ぼうぎょだけは硬いはずの赤亀たちであるはずなのに、あっさりと甲羅を斬られ地へと次々と落ちていった。


 紅亀は目を見張り、その様子を見て驚愕し、思わず口内の炎を消してしまう。


 シュインと空気を斬り裂く音が聞こえ、白き光は確実に赤亀たちを殲滅していき、ヒートネットが消失したことにより、ドワーフたちは態勢を取り戻す。


「氷系統? しかし氷に脆弱な赤亀とはいえ、一撃で倒す威力とは」


 斬り裂かれた赤亀が真っ白な氷に覆われ墜落していくのを見て戸惑う。タフなヒットポイントと硬い甲羅と高いぼうぎょを持つ赤亀は弱点を攻撃されても、そうそう倒せないはずなのだ。それを一撃?


「ピーッ」


 なにが起こったのかと疑問に思う紅亀だが、周囲へと響き渡る鳥の鳴き声に目を細める。


 空を巨大な新雪のような白き隼が氷の噴煙を羽根から噴き出して現れたのだ。


 高速で飛行する白き隼は、美しい氷の翼を広げ空を斬り裂き周囲へとその圧倒的な姿を見せる。


「ピピッ」


 隼にしては、小鳥のような可愛らしい鳴き声をあげて、口を開くと、再び白き光線を発射させて、残りの赤亀を殲滅していくのであった。


「月の光のもとにっ。エリアアンチドーテ!」


 高らかに少女の声が放たれて、城壁上のドワーフたちを広範囲に渡って淡い光が覆う。火の粉の毒を打ち消したのだ。


 炎耐性が低ければ、炎の身体を持つ魔物たちとの戦いが不利になると考えたのであろうが……。


「たった一回の魔法のようじゃな。……それにしては効果範囲が広すぎる……」


 人間にあのような真似をできるのだろうかと、白き隼を睨むように観察する。


 白き隼の上には、よくよく見ると人間が二人乗っていた。魔法使いと思わしき狐人の少女とそれにハーフリング? そして、それ以上に見逃せない者が。


「妖精っ! 英雄いるところ、必ず妖精が付き従う……。そうかそうか。なるほどな。オーガたちが破れた訳がわかったわ」


 妖精がハーフリングの肩に乗っていた。その様子を見て紅亀は理解した。なにが起こっているのかを。


 城壁上はいつの間にか冷気漂う霧に覆われ、部下たちは動きを鈍くしていた。好機とばかりに反対に勢いを取り戻したドワーフたちは鬱憤を晴らすかのように部下を倒していっている。


「強大な魔が生まれし時、人の中に英雄現る……。人間共の御伽話とばかり思っていたが、どうやら真実じゃったか」


 先程までの戦況が嘘みたいひっくり返り、されどその様子を見て、紅亀は動揺を見せずに、口元を歪め不敵に笑う。


「紅蓮様に思わぬ土産ができたわ。英雄とは嬉しい限り」


 英雄が呼び出したのであろう氷の力を持つ巨大なる白き隼。神器で呼び出したのか、英雄の能力か……。それに周囲のドワーフたちを広範囲に癒やす魔法使い。


「どちらにしても、問題はない。この紅亀が相手になろうではないか。三ポケ将の一人、溶岩渡りの紅亀がな!」


 叫ぶように呟いて、紅亀はのっそりと溶岩からその身体を這い上がるのであった。




 高速で飛行するゼーちゃんの背中に幼女は懸命になってしがみついていた。風圧がぷにぷにほっぺを歪めて、おさげをバタバタとたなびかせる。


「ひゃー。速い、寒い、風が強いでつ!」


 ちょっと速すぎです。幼女には厳しい環境だ。ジェット戦闘機の屋根にしがみついている感じ。スーパーヒーローじゃないんだぞ。


「うひゃー。これ気持ち良いな! 昔と違って安心してこういった乗り物に乗れるぜ」


「む、昔も乗ってたんでつか?」


「あぁ、タライが一番大変だったぜ」


 しみじみと昔を懐かしそうに語る、まったく風圧の影響を受けないマコト。タライとジェット戦闘機を比べるんじゃない。タライなら俺だって余裕だぞ。


「アイたん、城壁上の戦況は持ち直したみたいだよ〜」


 ランカが下を見ながら報告してくる。たしかに霧氷に覆われて、ドワーフたちは元気になっていた。暑かったのだろう。そして炎の魔物たちは目に見えて動きを鈍くしていた。


「リンの霧氷刀。ようやく力を発揮できまちたね」


 疾風のように城壁上を駆け回り、敵を斬り裂いていくリンを見て大丈夫そうだなと安心する。氷の刀は冬ではまったく意味がなかったが、炎渦巻くこの地では最強である。


 霧氷刀はその力を発動させると、周囲を冷気の霧で覆う。ドワーフたちも冷たいだろうが、火傷しまくっているし、魔物の発する熱で暑さが尋常ではないから、ちょうど良いだろう。


 リンは十全にその力を使い、敵の弱体化と殲滅をしていた。さすが殺してでも欲しい氷の刀だな。剣だったっけ?


 ギュンターたちも無双っぷりを見せつけている。問題はなさそうである。


 制空権ももはやこちらのものだ。空飛ぶ魔物たちはゼーちゃんの拡散フリーズビームで倒し終わっている。目に入る限り、もう敵は存在しない。ビーム系統は射速が速いから、ヒクイドリも回避はできなかったし、亀も強化されたビームには耐えられなかったのだ。


 パーティー編成でルーラを外して、ゼーちゃんに変更したのだ。ごめんね、ルーラ。その代わりにゼーちゃんのフリーズビームは敵を一撃で沈めることができたよ。


「魔物の群れは迎撃できそうだね。僕たちはボスを倒せば良いのか〜?」


「そうでつね。弱点のはっきりとしたボスは、対応方法をもっていればボーナスキャラと言っても良いのでつが……。あの亀怪しすぎない?」


 遠くに布陣する紅い亀をジト目で眺める。周囲を燃やしていく溶岩溜まりの中にいる巨大亀。こちらを敵と認識したのか、溶岩溜まりから這い上がり、ゆっくりと歩き始めていた。


 が、問題はあの甲羅です。さっき倒した赤い亀は赤い以外は普通のザラッとした甲羅だったけど、あのボス亀の甲羅は鏡みたいだよ?


 幼女はあのような敵と過去に戦ったことがたくさんあるのだ。ゲームの中だけど。その経験から照らし合わせると、あのボスの能力はわかりやすい。


「ん〜。どう見ても、あれはねぇ……」


 苦笑しながら、ランカもボス亀を眺めている。やっぱり同じ考えだよな。まぁ、試してみるか。


「コマンドオーダー、ゼーちゃん、フリーズビーム発射!」


「ピピッ」


 インコのような可愛らしい鳴き声でゼーちゃんは了承して、口を開けて魔法を発動させる。コマンドオーダーにより強化されたフリーズビームを放つ。数メートルはある太い極光が生み出されて、空気を冷やし紅い亀まで高速で飛んでいき命中をするように見えた。


 だが、ボス亀の寸前で氷のビームは紅いフィールドに阻まれて、その力を押し留めていく。


 そうして攻撃がやんだあとの、次の結果を見てアイは思わず叫んじゃう。


「やっぱり跳ね返してきまちたか!」


 攻撃が止むと同時に放った氷の光線が跳ね返ってきた。ビームの威力をそのままに軌道を曲げて、黒幕幼女たちへ飛来するのであった。

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― 新着の感想 ―
タライでようやくマコトの中の人分かった ていうか名前そのまんまかw
[一言] あのタライはただのタライでしたからね… マコトも逞しくなるはずです。
[良い点] 紅亀「強大な魔が生まれし時、人の中に英雄現る・・・」 バランス調整に失敗したしたから幼女が強化されたのか、あるいは、そもそも幼女がいたからこそのバランス調整なのか・・・ いずれにせよ、…
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