136話 炎の軍隊対黒幕幼女
とてちたと、幼女は外へと走っていた。高ステータスの幼女なのでドワーフをあっさりと置き去りにしちゃう。
そうして外へと出たアイの目に入るのは
「あ〜……これはまずいでつね。炎の魔物勢揃いって感じでつ」
城壁に纏わりつく燃え盛る炎の蛇や、よじ登ろうとする赤い毛皮のゴリラ、空を飛ぶ炎の鳥に、トドメとばかりに遠くから火球が飛来してきているのだった。
なので、幼女はプルプルと恐怖から震えて呟く。たぶん恐怖から。ジト目になっているけど。
「なんで、いつもいつもあたちが新しい都市に到着すると、魔物が攻めてくるのでつか」
新しい素材がわんさかいるけど、イベント発生多すぎない? ここはゲームの世界だっけ?
「すいやせん、親分……。あっしの強力な主人公補正が、イベントを発生させちまうんでさ」
神妙そうな顔で戯言を言うガイ。悲痛な表情をしている演技力を見せてきた。実にどうでもよい。
「ギュンター! 指揮をとって救援に向かいなしゃい! ガイとルーラ隊は街の人の護衛と救援。リンは大物を狙って、ランカは対空戦。あたちは傷ついている人を治して周りまつ!」
ゲームの中ではないのだ。死者が多数出そうなこの状況。素早く行動せねばなるまい。先程の幻聴はスルー。幼女は長旅で疲れているのかな?
「無視は可哀想なんだぜ」
ハバロネの妖精が小袋から脱出して、幼女へとパンチを入れてくる。辛かったようで、少し怒ってもいたが、辛いものを食べると優しくなるの?
「マコト……。主人公なんてこの世界にはいないんでつよ。小悪党なモブ役はいまつが」
「ひでえっ。もう少しリアクションしてくだせえよ〜」
嘆く山賊であるが、外見から主人公補正はマイナスに入っているだろ。
アホな山賊に主人公補正はないから。いくら嘆いてもガイにイベント発生能力はないから。あるとすれば、俺の幼女補正? 可愛すぎるしな。
お互いに主人公補正があると信じるアホな二人がここにいた。
それはともかく、皆はそれぞれ敵を倒すべく行動を開始するのであった。
ドワーフの将軍。ロウ将軍は己の持つ両手斧を振り回す。豪腕から生み出される一撃は襲ってくるファイアコングを斬り裂き、蹴りを繰り出し城壁から叩き落とした。
部下がファイアスネークに巻き付かれているのを、ムンズと手で蛇を掴み無理矢理剥がして、魔物の頭に斧を叩き込む。
「あ、ありがとうございます、将軍」
「うむっ。他の者を助けに……くっ」
身体をよろけさせて、痛みに顔をしかめる。手を見ると火傷で爛れており、その身体もあちこちが焦げていた。
「厄介な魔物たちめっ。身体が炎に覆われているとはっ……」
襲いかかる敵のすべてが見たことのある魔物であったが、苦戦をするほどではなかった。夏頃までは。
突如として新たな能力を身につけた魔物たち。炎に覆われたその身体はドワーフたちにとって相性が悪すぎた。近接戦闘を得意とし、豪腕にて敵を粉砕していくドワーフの戦士は攻撃を繰り出すだけで、敵の炎に巻かれてしまう。
今まではここまで大群で攻めてくることはなかったのだが、今回は敵の様子が違うと、ロウは外へと視線を向けて歯を噛みしめる。
外には無数の魔物たちと、離れた場所に煮えたぎる溶岩溜まりがあった。もちろん、都市のそばに溶岩溜まりなどあるわけがない。見張りの言葉では、丘を中心に溶岩が噴き出したとのこと。
原因も明らかであった。溶岩溜まりの中に巨大な体躯の亀が鎮座しているからだ。炎に包まれ、溶岩の中にいるにもかかわらず、まるで水の中にいるように、平然としている亀。初めて見る魔物であるが、明確な意思を持って行動しているのは明らかだ。
魔物たちが布陣する後方で、戦況を眺めているように見えるからだ。鏡のような甲羅を持ち、その口は牙がゾロリと生えており、いかにも指揮官といった威容を見せている。
「あれを倒せれば、魔物の群れは解散するのか? しかし……」
周りでは爆発音が響き、戦士たちが吹き飛ぶ。空からも魔物が攻撃をしてきているのだ。炎の鳥の群れが、一際大きい鳥を中心にこちらへと爆発する少火球を撃ち込んできていた。
パラパラと土片が舞い散り、ドワーフたちが痛みで呻き声を上げる中、戦況は圧倒的に不利だと理解して、部下へと指示を出す。もはやドワーフたちでは敵を迎撃することは無理だ。
「バルルフェンッ。大魔法使いのランカ殿を呼んでまいれっ。魔法の一撃にて戦況を変えねばならぬっ」
「ははっ。すぐに」
急いで部下が城壁から降りていく。あの狐人ならこの戦況を変えることができるはずだ。オーガの群れをただ一撃で全滅させて、小さいながらも宿場町ごと敵を氷漬けにした強力極まる魔法を使うあの娘ならば。
他国の者に頼らなくてはいけないとはと思うが、そんなくだらない自尊心より、民を守り国の滅びを防ぐことが将軍としての自分の役目なのだと、ロウ将軍は再び斧を振るうのであった。
炎の鳥が街を爆撃していっている。石作りの家を破壊するほどではない。また、魔法の炎のためにすぐに鎮火もしていくので、一羽以外はたいしたことではない。
一羽以外は。
炎の鳥たちは1メートル程の大きさで生み出す炎もバレーボール程の大きさの火球でしかない。爆発するが、それでもたいしたことはない。
しかし、一羽だけ巨大な鳥がいた。細長い首を持ち、スリムな鶴みたいな体格の鳥である。真っ赤な炎に羽毛を変えて美しい鳥であったが、生み出す火球の大きさは他の鳥とは比べ物にならない。2メートル程の火球を生み出し、撃ち出してきて、命中すると爆発をして周囲を燃やす。
燃やしていく。そう、この鳥の使う火球はクリエイト系なのだ。消火しなければならないのだ。
その危険性に気づき、弓兵たちがパワーアローにて狙っていくが当たることはない。
空中を鋭角に動き、矢はすべて掠る事もなく、魔法使いの魔法も軽やかなロールで回避していく。
広げた羽根から炎を噴き出しながら。
「あれは鳥じゃありましぇん! どう見ても鳥じゃないでつよね?」
羽根からジェット噴射してるだろと、幼女は空を飛ぶ魔物を見てツッコミをいれちゃう。おかしいだろ、あれ。
「あれはファイアイーグルだな。平均ステータス50、ぼうぎょがとてもとても低くて、すばやさがとてもとても高い。特性は高速移動。ヒットポイントを半分にする代わりに、すばやさを倍にする能力なんだぜ。それと炎の身体と炎のデコイだな。炎のデコイは敵の遠距離攻撃を代わりに受けるんだぜ。スキルは空中機動5、火魔法5、クリエイト系統のファイアランチャー。ファイアバルカン。炎系統だから水、氷にとてもとても弱いんだぜ」
いつも通り、敵の解析をしてくれる妖精。自分で説明しているにもかかわらず、口元を引き攣らせていた。マコトもドン引きの性能だよな、この魔物。それにあれは鶴だろ。なんでイーグル?
「周りの鳥はヒクイドリ、平均ステータス15、特性炎の身体、スキルは小火球だな。炎系統だから水、氷にとてもとても弱い。弱点は共通だから、他の魔物の説明でも省略させてもらうぜ」
「ランカッ! 制空権をとりまつよっ!」
無数に舞う鳥の群れに、ドワーフたちは城壁に兵力を集中できていない。まずは制空権を確保である。頼む、ここは頼むぞっ。
おててを合わせて、お祈りする幼女である。もちろんランカが敵を倒せるようにと祈っているのだ。
「ドロップ、ドロップでつ。初めての空系統。乗りたい、ほちい」
呟くそのセリフはランカの身を心配している。なにしろ強敵なので。ランカよ、気合をいれるのだ! はんにゃはらみたー。
夢中になって祈る幼女である。周囲の人々からはそう見えた。
「任せてっ! 月の光のもとにっ! 拡散フリーズビームゥ!」
ランカは吸魔の杖を振りかざし、逃げ惑う人々の中で、月の輝きを身に纏う。その神秘的な姿に周りの人々が足を止めて、見つめる中で、氷のビームを発射させた。
フリーズビームは空へと放たれていくが、中途で暗闇をライトアップするがのごとく、十数本もの氷のビームへと拡散してファイアイーグルへと襲いかかる。
「ピギッ?!」
己の逃げ道がビームにより塞がれたことに驚くファイアイーグル。得意の空中機動にて身体を翻すが、回避しきれなく、翼を凍らされてしまう。その隙を逃さずに、他のビームがファイアイーグルへと包むように集まり、あっという間に氷の鳥と変えていくのであった。
力なく墜落して、地面に落ちて粉々となるファイアイーグル。キラキラと氷の欠片が舞い散り、周囲の人々は驚きで目を見張る。
「ま、ざっとこんなもんだよね〜」
クルリンと杖を回転させて、肩に担ぐランカは不敵な笑みを浮かべるのであった。
「す、すげえ!」
「あんな凄い魔法見たこともないぞっ」
「助けてくれてありがとうっ!」
周囲の人々がざわめく感謝の言葉を紡ぐ。
「キターッ! キタキタキタ〜ッ! やったでつ! 全ドロップ!」
アイもランカの凄い魔法を見て、感動の踊りを見せる。ちっこい身体をくねくねと、黒髪おさげをぶんぶん振りながら、レッツダンシング。物凄い可愛らしい幼女の姿に大魔法使いはパタンと倒れていたりもしちゃう。
「おぉ〜、やったな。最近ボスキャラからまったくドロップがなかったからな……。平均で見ると、まだまだドロップ率は悪いけど」
平均? 平均は今日から計算をしようぜ。ファイアイーグル、空中機動5、炎の魔法5ゲットだせ。ファイアイーグルの見せどころがなかったけど、ゲームじゃないからね。ごめんな、ファイアイーグル。
すぐにポチポチとステータスボードのボタンを押下してキャラ作成。
ミスリルの卵を取り出して、マコトへと顔を向ける。コクリとマコトも頷いて、二人で手を掲げてポーズをとる。
「でんがらどんがらすきやきくいたい」
「でんがらどんがらとんかつがよい」
二人で卵の周りを回りながら儀式をする。周りの人々がこんな時になにをと疑問顔になる。保護したほうが良いかしらと、世話好きな女性が迷う中で、踊りは終わって、はいポーズ。
「きたれっ! 氷炎の鳥、カオスイーグル! ゼーちゃん!」
「サモン、混沌の魔物、カオスイーグル! ゼーちゃん!」
やっぱりセリフが合わない二人であった。そろそろセリフをあわせようよと、二人が顔を見合わせて、ほっぺの引っ張りあいをする。じつにしょうもない二人である。
そんなアホな二人はおいておいて、空中には巨大な魔法陣が描かれていく。蒼い光の線で複雑な立体型魔法陣が描かれて、ゆっくりとその中から魔物が現れる。
それは10メートル程の巨大な鳥であった。短い首に、つぶらな瞳で、体型は隼である。そしてその羽毛は真っ白に輝いていた。周囲に冷気を撒き散らし、地に足をつける。
なんだなんだと、突如として現れた美しい魔物の鳥に人々はざわめく。
「安心するんだぜ! この鳥は聖獣カオスバード。名前はゼーちゃんだぜ」
すぐさまマコトがフォローの言葉を叫ぶ。ナイスマコト。妖精のキグルミって役に立つよな。
「おし! ゼーちゃんに乗って敵を殲滅しまつよ」
「なぁ? 今キグルミって思わなかったか? あたしはキグルミじゃないからな」
「拡散ビーム砲を期待するよ。っと」
妖精が髪の毛を引っ張ってくるのをスルーして、よじよじと登る。ランカもほいっと軽やかにゼーちゃんの背中に飛び乗る。
「ピーッ」
カオスイーグルに相応しい鳴き声をあげて、羽を広げるゼーちゃん。やる気満々な模様。
「それじゃ、離陸〜っ!」
幼女がちっこいおててを掲げて合図を出すと、ゼーちゃんはふわりと羽を羽ばたかせて、空へと飛び立つ。
ちなみにゼーちゃんはこんな感じ。
ゼーちゃん
種族:カオスイーグル
体力:200
魔力:300
こうげき:66
ぼうぎょ:20
すばやさ:100
特性:呪い、精神攻撃、寄生無効、高速機動、炎の身体、氷の身体、雪化粧、雪鱗、搭乗者への炎、氷の身体によるダメージなし。炎のデコイ、氷のデコイ、体長変化、身軽
スキル:炎魔法5、水魔法5、空中機動5、魔装2、気配察知3、気配潜伏3、氷の息吹1、炎の吐息1、無詠唱
「スノークロコダイルとファイアシープ、アラクネを合成しまちた。ステータスは弱めでつが、炎と氷をつけたら、氷の身体もつきまちた。体長変化は30センチから10メートルまで、体格を変更できる特性でつね。氷のデコイは炎のデコイと同じ効果」
ちなみに、呪い、精神攻撃、寄生無効はデフォルトであるので、これからは表記からフィルターで記載されないようにセットしとこ。
「気合いをいれたキャラだぜ。すぐに撃墜されないように気をつけるんだな」
「ゼーちゃんは大事に使いまつ。名前が既に固定されていまちたし。偶然にも昔に飼っていたインコの名前でつので。ステータスも強化できまちたし」
「新キャラだったのか……」
「ピーッ」
インコが、いや、隼が元気よく鳴いて、敵の真っ只中へと突撃する黒幕幼女たちであった。