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黒幕幼女の異世界ゲーム  作者: バッド
11章 だいちょーへん、黒幕幼女と紅き竜なんだぜ
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134話 鍛冶の都市へと入る黒幕幼女

 鍛冶の国。ドワーフの住む街とはよく言ったものである。目の前に拡がる雄大な山々。だが、殆ど木は生えておらず、地肌を見せており、人の手により、坑道が作られて穴だらけになっていた。山裾にへばりつくように石と鉄により街が作られており、煙が無数の鍛冶場らしき建物の煙突から吐き出されている。


 丘の上から街並みを見渡せると聞いて楽しみにしていたが、確かにふぁんたじ〜世界でドワーフが住みそうな街であった。


「山中に宮殿が作られておりましてな。バッカス神の神器、神の鍛冶場も宮殿内にあります。後ほど見学致しますか? マグマを封ぜし部屋の中心に鍛冶場があるので、一見の価値はありますぞ」


 ぽてぽてと歩いてバッカス都市に入ろうとする幼女へと、ロウ将軍が気を遣い声をかけてくる。街道を封鎖していたオーガ軍団を倒してからというもの、下にも置かない高待遇っぷりである。


 ついでになんかへんてこな植物で覆われていた街をランカが氷漬けにしてきたのも関係しているかもしれない。あの植物ドロップ判定自体なかったんだよなぁ。ただの炎に強い植物だとマコトは推測していた。なんとなく嫌な感じだな。


「おぉ〜。それは楽しみでつね。わくわくしまつ。仲間と一緒に勇者の剣を作れまつかね?」


 むふふと口を手で覆い、楽しみだと顔を輝かせる幼女である。勇者の剣より魔王剣がゲームでは欲しかったと思っちゃう悪のおっさんが影で笑っているので、そろそろ勇者の出番が必要だろう。


 そんな正義の勇者はどこにいるのかというと


「親分〜。やっぱり羊を全部運ぶのは無理がありやすぜ〜」


 と、後方から泣き言を叫ぶのであった。


「ファイアシープは、最近火山付近にいることが多くなったから、滅多に狩れなくなっちゃったらしいでつよ。一匹残らず持ち帰りまつ!」


「そんな無茶な〜」


 キシャーと小動物が威嚇するように口を尖らせて、幼女は振り返って勇者へと答える。そんな幼女の視界には馬車に無理矢理乗せられているファイアシープたちの氷漬けがあった。


 バージョンアップで、レアな食材に変化する物ってゲームではあるあるネタだよねと、ファイアシープ計300頭とビッグファイアシープを運んでいるのだ。


 もちろん一回で全部は運べないから、見張りをたてて、小分けにして運んでいるが、それでも幼女が降りないと馬車は動かない程の重量です。幼女のせいじゃない。バージョンアップが悪いんです。アイは気遣いのできる幼女なのだ。幼女が降りても重量は変わらない? 気持ちの問題だよ、気持ちの。


「ピリ辛ならば、酒に合うだろうよ、ガイ。頑張って運ぶのだ」


「爺さんは自分で運んでないから良いだろ! 親分、なんであっしだけピラミッドの石を運ぶ奴隷みたいな扱い?」


 セイントホースに乗りながら、聖騎士の爺さんが山賊を励ます。セイントホースも一頭ファイアシープを牽いていた。これが本当のハイパワー馬力、なんちて。


 そして山賊もファイアシープを縄で括って、えっちらおっちらと苦労して運んでいた。スレイプニル? 保険が下りない使い方をしたから、バッカス都市までは召喚できませんと断ってきたらしい。ガイの自業自得だと思います。


「うっ、急に寒くなったぜ! 社長から冷気が!」


「サトリか! 最近あたちの心を読みすぎでつよ!」


 俺が内心で呟いたことをツッコむんじゃない、マコトよ。


「働け働け〜」


「リン! テメー、降りろよ! いつの間に羊の上に乗りやがった」


 ペチンペチンと拾った小枝を振りながらリンが楽しそうに言う。ガイの運ぶ氷漬けの羊の上に乗りながら。


 ガイが邪魔をするリンへと怒鳴りながら運んでいて、周りの戦士団も幼女を手伝ってくれて、ワイワイとおしゃべりをしながら羊を運んでくれている。


 街道を封鎖していた巨大羊とオーガキングが倒されたので、その表情は明るい。だいぶデカ羊に苦戦していたらしい。商隊の馬車を燃やされるのを防ぐことができなかったとか。


 まぁ、マップ兵器持ちの敵から馬車を護るのは難しいよね。運営にクレームものだとは思うよ。


 しかし、明るい表情の戦士団とは別に暗い表情のドワーフが一人いた。誰あろうドワーフの王バッカスである。


「儂は……儂はもう駄目じゃ。加護を失うとは……バッカス神よ、儂はなにか罰を受けることをやりましたか〜」


 のそのそと暗い表情で歩きながら、嘆くドワーフ王。身体を縄でグルグル巻きにされて戦士団に運ばれながら。


「のぅ? これだけ儂は嘆いているのじゃから、酒に溺れても良いと思うんじゃが? 少なくとも縄でグルグル巻きにされて運ばれるような状況にはならないと思うんじゃが? 儂は王じゃぞ?」


「黙れっ! 月光の新酒を樽ごと飲もうとは、重罪だっ! おら、キリキリ歩けっ」


 嘆いているバッカス。先程、儂はもう駄目じゃぁ〜と馬車に乗っていたラム酒の酒樽を1樽飲み干してくれたのだ。本人曰く、嘆く男は酒浸りになるのが普通らしい。


 呆れちゃう幼女であったが、それを聞いたドワーフたちは怒髪天をつくといった感じで、よくも俺らの酒をと、バッカスをグルグル巻きにして罪人扱いとしたのであった。


 さすがは酒好きなドワーフ。王でも容赦がない。まぁ、裏では加護を失った王ということで、わざと罪人みたいな酷い扱いをしているんだろうけどさ。


 戦士団に慕われている王みたいだけど、加護を失ったのはやばいということだろう。民たちに見せる必要があるんだろうね。王が罪人扱いは酷いんじゃと、同情される可能性は高いと思うし。


 加護を失った理由はただ一つ。バッカス神の機嫌を悪くするようなことをした時だけらしい。過去では、供物の酒の質を落としたり、量を減らした王が加護を失ったらしい。極めてしょぼい理由である。


 ……ラム酒を捧げれば、機嫌を良くして加護を復活させてくれるだろうと、ドワーフたちは呑気に考えているようなのだが……。


 悪いけど知らないふりをしておくぜ。幼女は秘密にすることが多いのだ。


 ガラガラと馬車の車輪の音を響かせて、ようやく月光一行はバッカス都市に辿り着いた。門番のドワーフへとロウ将軍が説明して、月光はフリーパスで中へと入る。


 ドワーフの門番がキラキラした瞳を向けてくるが、漏れ聞こえた話だと、ラム酒を運んできたと説明していたような……。もう少し説明の仕方があるんじゃない?


 それはともかくとして、アイは都市を見渡して、感動しちゃう。


「ふわぁ〜。凄いでつ。鉄の階段、鉄の空中通路、鍛冶の音が遠くから聞こえてきまつし、まさしくドワーフの国ってやつでつね」


 今までの国とは違い、目に入る住民たちのほとんどがドワーフである。共人や獣人は少ししかいない。エルフはまったく見ない。


「そうだね〜。鉱山に繋がる階段が鉄だよ。なんだか無計画っぽく、縦横に建物から建物へと通路が張り巡らされているし、今までで一番凄い街だね〜」


「ん、どこにシドがいるか確認する。きっと飛空艇が隠されているはず」


 ランカも俺の言葉に同意して辺りを眺め、リンが必ず飛空艇が隠されているはずだと、興奮気味に口にする。気持ちはわかるけど、たぶん無いよ。


「アイ殿。とりあえず外交官用の迎賓館にご案内致します。羊はいかがいたしますか?」


「う〜ん、食糧確保に厳しいと聞いていたんでつが、まだまだ余裕があったのでつね。それなら肉屋さんに売りまつ。燻製肉にもしたいので、どこか燻製工房を貸してもらえまつか?」


 街道が封鎖されたのは最近だからか、人々は余裕を見せていたので、羊肉の無料配布はなしにしておく。まぁ、外部からの食糧輸入に頼っている国だ。いざという時のために、食糧は溜め込んであるか。


「わかりました。では肉屋の紹介と燻製室をお貸しするように取り計らいます」


 ロウ将軍が頷き、部下へと指示を出して、ガイがその燻製は誰がするんですかいと尋ねてくるが、答えなくても理解しているはずだからスルー。


 てこてこと雑踏の中を歩いていく。石作りの豆腐の形をした建物。山裾に建てられていることもあり、階段のように配置されており、鉄の階段が行き来を簡単にするためだろう、それら建物を繋いでいる。まるで外国に来た感じ。まぁ、異世界なんだけど。


 久しぶりの馬車群に人々は道路脇に立ち、こちらを見てくる。ごつい鉄の胸当てや、ツルハシを肩に担いで、鉱石掘りをしているのだろう汚れた服装をしている。


 残念ながら、女性も小柄でビール樽のような外見だ。まぁ、古風なふぁんたじ〜なら当たり前か。女性は髭もじゃではないので、見分けがつけやすい。


 見物客たちは戦士たちへと話しかけている者も多い。どうやら封鎖されたことは周知の事実らしい。砦が陥落しているから当たり前か。


「見る限りでは武器屋が多いですな、姫」


「なにか良い出物があるか確認するであります」


「たしかに多いでつね。商人たちが買い漁っているみたいでつし」


 ギュンターの言葉どおり、辻ごとに武器屋があった。盗まれないために店内に置いてあるが、ずらりと並び壮観である。目利きのできる幼女アイは店内に並ぶ武器が業物だと見抜いていた。他の都市の武器とはひと味違うようだ。さすがはドワーフの国。ルーラはこの機に武具を一新する模様。


 俺らが辿り着いたことから、商人たちは街道封鎖が解けたと理解して、武器の取り引きを声高にしていた。


 これ程の武器ならば外に持っていっても、高く売れるだろうね。俺も装備を一新しようかなぁ。武器素材で専用装備を作るかな。


 坂をぽてぽてと登りながら、そんなことを考えながら、アイは迎賓館と呼ばれる建物へと案内されるのであった。




 迎賓館。ドワーフの迎賓館とはどれ程のものかと思っていたが……。


「凄いでつね。まさにドワーフって感じでつ」


 感心しながら、ていっと長椅子にダイブして、ゴチンと痛そうな音をたてちゃう学習能力のない幼女。


「綿は出回っていないと、そろそろ理解しないとだぜ」


「いてて……。ついつい忘れちゃうんでつよね」


 身体を擦りながら、マコトへと言う。長椅子を見ると飛び込みたくなるんだよね。幼女の習性かな?


「アホなアイたんも可愛いから大丈夫だよ〜」


「むふー。また一つアルバムの写真が増えた」


 ランカとリンよ。俺は全然大丈夫じゃない。そろそろ写真撮影は有料にするぞ。


「この彫刻も絵画も凄い出来ですぜ。こんな細かい彫刻を作れるとは、さすがドワーフ。長椅子とかにも細かすぎる意匠が掘られてやす。あっしも一つ作るかなぁ」


 ガイ原ガイ山としては、対抗心を煽られるみたい。好きにしてくれ。


 ガイの言うとおり、迎賓館は彫刻やら絵画がこれでもかと飾られていた。しかも、全て良い出来だ。ドワーフの凄さを思い知らされる館となっていた。外交官用と言っていたから、相手へと自分たちの国の力を見せつける意味もあるんだろう。意外と抜け目がないな。


 というか、ドワーフは鍛冶だけじゃなかった。彫刻とかも器用に作るんだよな。すっかり忘れていたよ。


「閣下に似合う宝石がありそうですよ。宝石商を呼んでもらいましょう」


 フンフンと鼻息荒くルーラが言ってくるが、たしかに宝石とかも、地球の機械によるカットを上回るカットとかしていそう。魔法の力を宿す宝石とかもありそうだしな。ちょっと、いや、かなり期待できちゃうぜ。


「まぁ、それは後でにしましょー。それよりもこの状況……。植林だけで終わるストーリーではなくなったと予想しまつ」


「そうだな。ゲームでよくある長編ストーリーが始まった感じだな」


 マコトの言葉に頷く。ゲームではよくあるパターンだ。手紙を届けに行ったら、いつの間にか世界を救う流れになっていたりな。だが、それは幼女的に困るのだ、


「あるあるなストーリーでつが、巻きでいきまつよ。スキップを多用してクリアを目指しまつ」


「ディーアとの戦いもありますからな。ここに長い時間はかけられませぬ」


 腕組みをして、ギュンター爺さんが言うが、そのとおりだ。やることはたくさんあるので、ゲームの主人公みたいにストーリークリアをのんびりとはしていけないのだ。


「ゲームの始まりでつが、周回プレイみたいにあっさりと終わらせまつよ」


 ふふっと可愛らしくも、妖しい笑みを……普通に可愛らしい笑みを浮かべてちっこい足を組もうとして、コテンと長椅子から転げ落ちる黒幕幼女であった。

 

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― 新着の感想 ―
[一言] 某銀のGM作成の脚本は大体が雑なので黒幕幼女なら抜け道探してすいすい行ける気もします。 ただ、黒幕幼女は課金してないからなぁ…
[気になる点] 【ファイアシープは普段は最近火山付近にいることが多くなったから】普段、最近と時期指定?のワードが一文に含まれているので微妙に読みにくい気がします。たとえば、「最近では、ファイアシープは…
[一言] 月光メンバー装備を一新するのかな?ガイは自分で作っちゃいそうだけど・・・神器の鍛冶場って正に勇者の武具が作られそうな場所!まあ似合うかどうかは別にして・・・
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