130話 パーティーを組めるようになった黒幕幼女
空を飛んでくる赤鬼たち。その数は5体。山なりに落ちてくるので、飛行というより、ジャンプしてきたのだろう。背中から黒い魔力を噴射してるし。
どう見てもバーニアジャンプです。ありがとうございます。そろそろ運営にクレームを入れたいと思います。
バーニアジャンプに呆れちゃうが、幼女は他のことに気を取られていた。モニターにパーティーコマンドが実装されたと出てきたので。
「高速思考」
敢えて、高速思考と口にして世界の歩みから外れる。時の流れが遅くなり、人々の動きが極めてゆっくりとなる。幼女もゆっくりとした動きになるが、思考は遅くはならない。
素早くステータスボードに表示された運営からのお知らせを読む。なになに?
「自分を含めた6人までのキャラをパーティーとして編成できます?」
ピコンと新たなるボードが宙に現れたが、なるほど? 物凄いゲームっぽい。こんな感じ。
アイ ガイ ギュンター
HP 200 300 600
MP 276 228 300
YP ー 100 100
ランカ リン ルーラ
HP 300 500 200
MP 640 328 104
YP 100 100 100
たたかう
にげる
かいほう
「ふむふむ。最初のコマンドのオーダーに従う行動をパーティーメンバーがとれば、戦闘終了までステータスに50%の補正と。個別のコマンドオーダーが補正効果は優先されて、補正効果は重複されない」
かいほうが気になるけど、とりあえずたたかうを選択、と。
ピコンとたたかうを選ぶと、次のコマンドが表示された。それぞれのキャラ名の後にコマンドがそれぞれ現れる。ますますゲームっぽい。こんな感じ。
こうげき
ぼうぎょ
すきる
まほう
どうぐ
とくせい
「選んだコマンドの行動をキャラが取る際に、1回だけキャラのステータスが300%アップ。どうぐだけは使用速度が300%アップ。コマンドのクールタイムは1分。次にキャラがとる行動が違ってもオーダーはキャンセルされません。オーダーされた行動をとる際にステータス補正が適用されることに注意……なるほどなるほど。」
即ち、俺がこうげきをするようにガイにコマンドを出す。その直後にガイがこうげきをしなくて、ぼうぎょをしてもこうげきのコマンドはキャンセルされる訳ではなく、ガイがこうげきした時にステータス補正は適用されると。コマンドはキャラが実際に命じた行動をするまでは待機されるという訳か。かなり使い勝手の良い仕様だな。
……これは極めてまずい状況だな……。幼女は第六感を働かせて、冷や汗をかいちゃう。なぜ、ここまで凄いバージョンアップが行われたかを予想したのだ。
ま、とりあえず、考えても仕方ないか。使ってみようっと。赤鬼の力を見てから。高速思考解除っ。
時の流れを戻して、落ちて来る赤鬼たちへと視線を向ける。肩に棘を生やして赤鬼は突撃をしてきていた。
「そんな直線的な武技があっしに通じると思うなよ!」
アホが叫んで、またもやフラグをたててくれた。あとでフラグシップガイにはご褒美をあげないとな。
予想どおり、赤鬼は黒い魔力を足に集めて噴射して機動を変えてきた。敵の直線上から回避しようとする俺たちへと鋭角に曲がって角度を変えて迫りくる。
「ていっ」
再び高速思考を使い、接近する赤鬼のショルダーアタックから、当たる寸前に鋭く踏み込み横ステップで回避して短剣を投擲する。赤鬼の目へと短剣は命中するが、カチンと音をたてて弾かれてしまう。
やっぱり鎧に覆われていない部分も鎧のフェイズシフトが適用されるのか。厄介だな。
攻撃を回避された赤鬼は地面へと2メートルはあるだろう棘を突き刺してしまうが、そのまま棘が地面に食い込んで動けなくなるという間抜けな姿にはならなかった。
「グォォォッ! 炎の鼓舞っ!」
棘は溶けるようになくなり、赤鬼は態勢を戻し地面に立つ。そして、その長い牙を覗かせて、特性だろう力を込めた咆哮をあげてきた。
その咆哮は空気を僅かに熱したかと思うと、周囲のオーガたちを突如炎に包み燃やしていく。いや、燃えてはいなかった。
炎に包まれても、ピンピンとしながらオーガたちは攻撃してきたのだ。
「炎の鼓舞は味方100人にファイアボディを付与する特性だぜ。ファイアボディは攻撃してきた敵へと炎のダメージを与えて、力を+10上げる技だな」
マコトが炎の軍団と化したオーガたちを見て説明してくる。
「あいつはレッドオーガ。平均ステータスは63。とてもちからがたかくて、とてもとてもすばやさが低い。特性炎の鼓舞、鈍足。スキルは空中機動2と魔装2と魔技だなっ。魔装は100までのダメージを防ぐぜ。弱点は氷、水にとてもとても弱い」
「地味に嫌なスキルでつね。高レベルオーガでつか」
普通に戦うとフウグたちがダメージを負うな。なら、使ってみるか。
「ランカッ! オーダー!」
魔法フリーズストームを使うように選択して、ランカを見る。どうなるのかな? ちゃんとオーダーは口にしないと駄目なのかなと思っていたら、ランカは目の前に現れたボードを見て驚いていた。オーダー内容がキャラの目の前に表れる仕様なのね。
ニヤリと悪戯そうにランカは笑みを浮かべて、くるりと手に持つ杖を回転させて、口を開く。
「月の光の下に!」
叫ぶランカ。そのセリフと同時にランカの身体を闇と瞬く星の光のような粒子が空中から生み出されて覆う。
まるで宇宙に瞬く星の光を宿したように狐人の美少女魔法使いは美しかった。誰もがその姿に見惚れてしまう神秘的な姿であった。
あからさまに私はパワーアップしましたエフェクトだな。なんか凄そうなエフェクトである。女神様がこのバージョンアップにどれだけ力を入れたかわかっちゃうな。
「フリーズストーム!」
ランカは漲る魔力を杖に集中させて、オーガの群れへと魔法を解き放つ。炎の鼓舞にて暑くなった戦場が魔法少女の力にて急速に冷えていった。
レッドオーガたちを中心に、氷の竜巻が巻き起こり、オーガたちを巻き込んでいく。
その魔法は今までとはまったく違う威力を発揮していた。今までは吹雪の中に尖った10センチ程度の鋭い斬れ味を持つ氷柱が無数に舞い敵を傷つけ凍らせるのだが、中の様子はなんとか確認できた。吹雪と言っても暴風の中にチラチラと雪が存在する程度であったのだ。
しかし、オーダーにてステータスが跳ね上がったランカの魔法。ステータスにより効果と威力が仕様変更されたために、以前とは格が違った。
吹雪というより、雪の渦巻く白きコクーンに敵が包まれており、無数の氷の欠片は1メートル程の切れ味鋭い円盤となり、敵を斬り裂いていく。
レッドオーガはその攻撃を防ぐどころか、吹き荒れる雪に身体を凍結させられて、氷の円盤にてあっさりと斬り裂かれ、氷の破片となって砕けるのであった。
鳴り物入りで現れて瞬殺されちゃう出落ちな敵だった。正直すまないと思っている。連邦の機体は既に数世代先の力を持つのだよ。
「まだ僕の魔法は終わりじゃないよ。トドメのフリーズソーサー!」
杖を構えて魔力を維持していたランカが得意げに杖を振ると、フリーズストームが霧散して、舞っていた氷の円盤が勢いをそのままに周囲へと飛んでいく。
氷の円盤はランカにより操作されているようで、フリーズストームの効果範囲にいなかった残りのオーガたちへと軌道を変えながら飛んでいき、猛回転しながら突き刺さる。
「グオッ」
「ガッ」
「ゲッ」
次々と断末魔の声をあげるオーガ。氷の円盤が突き刺さった箇所からオーガの身体は凍っていき、その息の根を止めるのであった。
「エグいまほーになってまつ。強すぎでつね」
「ランカのパワーアップしたステータスによる補正は半端ないからな。凄いな、社長の新しい力。ゲーム操作していなくても、仲間が強化されたんだぜ」
「……そうでつね」
マコトがふわぁと口をあけて、感心するので同意はするけどなぁ……。
「ふぉぉぉぉ! リンも! リンにもオーダーを! かっこいいセリフでお願いする!」
圧倒的な魔法の力を見て、リンが興奮してこちらへとキラキラしたおめめを向けてくるけど、素で充分だろ。
敵はゲームキャラじゃない。ヒットポイントが尽きるまで戦うのはアンデッドのみ。普通の敵はヒットポイントが3割以下になれば蹌踉めき倒れて死んだも同然だから、リンの一撃で倒せるでしょ。しかも首切りしているから、クリティカル発生でタフネスのオーガも一撃死しているしな。
問題は弱いキャラなのだ。というかガイ。ドワーフの手斧の方が強いなんて……正直すまん。
「ガイ! こうげきを承認しまつ!」
残り僅かとなったオーガと戦う勇者ガイへと声をかける。
「おおっ! 月の光の下にっ!」
幼女の言葉に満面の笑みとなり、ガイはビシリと天に右手を掲げて叫ぶ。敵を目の前に隙だらけのポーズをとる勇気あるものがここにいた。
ガイもランカと同じく空中から生み出された闇と瞬く光の粒子が身体を覆う……。覆わなかった。三日月型のチョコクッキーが掲げた右手にちょこんと落ちてきた。
クッキーには、ホワイトチョコを使い汚い文字でげっこ〜と書かれている。
「あれぇ? あっしのエフェクトが少し違いません? あっしはヤッターなマシンですかい? あっしはびっくりどっきりメカを出せば良いんですかい? あ、このクッキー美味い」
首を傾げて不満そうにおっさんはクッキーをもしゃもしゃ食べる。おっさんと美少女との格差を感じる悲哀が見えるガイ。
「グォォォッ!」
寂しくクッキーをもしゃもしゃと食べるおっさんへと、オーガが棍棒を振り下ろすが
「攻撃に繋がる動きならステータス補正なんですよね」
サマルなガイはオーダーにより、どこまで補正効果が適用されるか瞬時に理解していた。さすがは頭の切れる勇者である。ゲームオタクだから理解できたんだろというツッコミはなしでお願いします。
クッキーを食べながら、ガイは冷静にその動きを見切っていた。半歩後ろに下がるだけで、棍棒はガイの目の前を過ぎていき、カウンターで斧をその頭に叩き込む。一撃でオーガの頭は砕けて地面へと砕かれた頭をオーガはめり込ませる。
「クッキーが美味いから、別に良いですかね」
口元についたクッキーの欠片をぺろりとなめ取り、ガイは大物ぶりを見せるのであった。戦いながらクッキーを食べるのは大変そうなんだけど……。たんなるエフェクトで、食べなくてもステータス補正が上がると信じたい。
リンが残りの数体を不満そうに倒していき、オーガの軍団を殲滅させる。
「オーガ✕11、レッドオーガ✕2、知識因子、空中機動レベル2✕2、魔装レベル2✕2、武器素材として鬼の角✕2、赤鬼の角✕1を手に入れたぜ」
「レッドオーガの特性炎の鼓舞をあたちが貰っておきまつ。鈍足はいりましぇん。空中機動2、魔装2もあたちが頂きっ」
特性って、いらないのは取得しないようになっているので、もちろん鈍足は捨てる。幼女が鈍足だと、ぽてぽて歩くから見た目は可愛いだろうけど。硬いキャラを作るときに鈍足をつけるかなぁ。
オーガのドロップが悪いような気がするけど、きっと気のせいだと思いつつ、アイは久しぶりのパワーアップにウキウキしちゃう。武器スキルも上げたいなぁ。
「そなたたちは何者じゃ? 狐人の今の強力な魔法の力はいったい?」
ランカのエフェクトを見たバッカスがこちらへと目を細めて警戒を顕にして威圧してくる。ガイのエフェクトは気にならなかった模様。クッキー食べただけだからな。
「むふ〜っ。今のは月光の加護による魔法。月の光を受けて数倍の力を発揮できる」
「ぬぅ……故に月光……か。なるほどな。恐ろしい力を持つようじゃの」
厨二病なリンがすぐさま設定を口にしてくるが、バッカスは納得してしまった。武技のエフェクトはそれぞれ違うし、そこは気にしていない様子。
月光の加護という、怪しげな力による威力アップに納得してしまったバッカスである。神器や加護はそれぞれの神により違うらしいからあり得る話だと考えたのだろう。
「どうやらスノー皇帝は頼りになる者たちを寄越してくれたみたいじゃの。悪いがこのまま砦まで急ぎたい。なにがあったのか確認が必要じゃて」
「わかりまちた。オーガの角を回収したら出発しましょー」
たまたまドロップが悪かったからな。現物を確保しないとだぜ。
なぜ角を? とバッカスが不思議そうにしているが、無視をして角を集め終えた後に出発する黒幕幼女であった。