129話 オーガ戦だよ黒幕幼女
よだれを垂らし、こちらを餌としか見ていないだろうオーガたちが醜悪な笑みを浮かべて走ってくる。ドスドスと荒い足音をたてながら近づいてくるが……遅い。高ステータスで人型なのになんで遅いんだろ? こちらへ来る前に遠距離攻撃で倒せそう。
まぁ、とりあえず攻撃しようっと。
「瞬発力はあるみたいでつが、長距離走は苦手そうでつね。なら、まずは遠距離攻撃でつ。皆、合わせてくだしゃい」
「シューター、マジシャン! 攻撃準備っ!」
ルーラがアイの指示に頷き、部下へと命令を出す。今回はフウグ30人、ダツ100人を連れてきているが、そのうち、フウグたちがアイの馬車の護衛。ダツたちは間隔を開けているので、少し後方にいるのだ。そのため、フウグたちで迎撃開始である。
全員が鋼装備をしており、その全ては既に魔獣工により重さを軽減されている。そして一番大事なのが、武器に白い皮が貼られているところだ。
スノークロコダイルの鰐皮を合成してある武器装備は氷属性+1。絶対炎属性の敵がいるでしょと、スノークロコダイルを乱獲して作った逸品だ。
まぁ、予想と違い炎属性の敵じゃないっぽいけど。ちょっぴり氷属性の追加ダメージは入ると思う。1ダメとかね。
ちなみに防具にはつけていない。炎耐性つかなかったし。
「てぇっっ!」
「ゴゴゴゴ、フリーズアロー!」
フウグ隊が矢を放ち、ライトニングを飛ばす。あたちは黒魔道士でつと、幼女も両手を掲げて魔法を放つ。
「おらぁ! ファイアーアロー」
「ほいほい。フリーズアローだよ〜」
「ん、フリーズアロー」
ガイたちも魔法を打ち放ち、近づくオーガたちへと命中していく。ガイだけ空気を読まずに火魔法だが。ガイはさすがにそろそろ型落ちだなぁ。
オーガたちは、ガイたちの魔法にて倒れていく。月光幹部の魔法はタフネスそうなオーガたちでも耐えられない威力なのだ。
しかし、予想外の光景が目に入り、アイはわずかにおめめを細めちゃう。
フウグたちの攻撃はオーガたちへとダメージを与えて蹌踉めかせたが、緑の鎧を着込む敵には効かなかったのだ。蹌踉めくこともなく、突撃してきている。
「遠距離攻撃無効? オーガが?」
そんなチートはないよねと、ちらりとマコトを見ると、はぁ〜んと空中を眺めていた。いや、たぶん自分のステータスボードを見ているのだろう。ふんふんと読んでいたが、こちらの視線に気づいて、コホンと咳払い。
「ノーマルオーガの平均ステータスは30、ちからがとてもとても高く、とてもすばやさが低い。オーガ共通特性鈍足を持ってるぜ。これは走る速度が半減する代わりにヒットポイントを倍にする特性だな」
「なるほど。だから遅いんでつね。で、あの緑色のは」
なぁに? と尋ねようとする幼女であったが
「あ〜! 親分っ! あいつら数発の矢を受けたら緑色の鎧が灰色になって砕けましたぜ。雑魚の癖にフェイズシフトする装甲を持ってますよ、あいつら! あっしも欲しい!」
雑魚の癖にと、やられ役のようなことを叫ぶガイの言葉に視線を前方に戻す。たしかに怯みもしなかった緑の鎧を着込むオーガが、これまた敵に効かなかったように見えても動じずに攻撃を続けていたフウグの攻撃を受けて、鎧の色を灰色に変えていた。
そして、先程までの無敵っぷりが嘘みたいに灰色の鎧は簡単に砕けて、オーガたちはフウグの攻撃により身体を蹌踉めかせていた。
……なるほどね。新種ってやつか。ちょっと先進的すぎるスキルじゃね?
「緑の鎧を着込むオーガの名前はグリーンオーガ。自らの魔力を鎧に変えてダメージを身代わりにさせる魔装レベル1を持ってるぜ! レベル1だから50ダメージまでを身代わりにできるな。効果時間は1日。クールタイムが1時間だから、連発はできないけど」
「黒魔道士のスキルと同じでつが……。オーガって魔法使えまつ?」
ネトゲであったんだよ。MPをヒットポイントの代わりとする黒魔道士の技。ちなみに殴られた時点で紙装甲な黒魔道士は終了するので、全然使えない技だった。MPが無くなると魔法使えないし。でも前衛がそれを使えるとなると、使い勝手良すぎない?
「オーガは魔法は種族ペナルティで使えない。グリーンオーガの平均ステータスはオーガと同じだな。スキルとして、追加で空中機動レベル1、魔技スキル持ちだぜ。フェイズシフトだけどふぁんたじ〜だろ? ふぁんたじ〜だよな? ふぁんたじ〜だから気にしちゃ駄目だぜ」
魔法が使えないから、魔力を持つ意味がないオーガにはぴったりのスキルと。敵の能力が上がりすぎて泣けてきちゃうぜ。
ふぁんたじ〜、ふぁんたじ〜とマコトは言い募るが、ふぁんたじ〜なら、なんで効果を失うと灰色になるのか教えて欲しい。何を参考にしたのか、運営に尋ねたいぜ。
そういえば、魔技って手に入らないな。手に入りにくいんだろう。そうに違いない。幼女のせいじゃないよね。
それにスキル編成が変じゃね?
「なぜに空中機動持ち? あのオーガたち飛ぶんでつか?」
「う〜ん……魔力を使って姿勢制御できるらしいけど……空は飛べないはずだよなぁ? なんで空中機動なんてついているんだ?」
そろそろこちらへと到達しそうなオーガたちを見て、マコトは不思議そうに首をひねる。空を飛ぼうとはしないし、スキルもそれに類するものがないからだろう。
う〜ん、悩んでも仕方ないか。
「戦えばわかるでしょー。近接戦闘開始っ!」
「了解であります。突撃開始っ」
ルーラの声に合わせて、狼が走り始める。風を受けておさげをたなびかせて、幼女は身構える。
既に遠距離攻撃にて半分程倒れているのに、怯むこともなくオーガは突撃してくる。騎狼隊が疾走し、あっという間に距離は縮まってきて、オーガの巨体が近づく。
角を生やし、長い牙を持ち、背丈が高い。それだけならば人類側だと思うのだが、その笑みは醜悪でこちらを餌としてしか見ていないと、近寄るオーガを見て悟る。こちらを餌としてしか見ていないと。
「コドモヤワラカイ」
オーガがこちらへと手に持つ棍棒を振ってくるのではなく、空いた手で掴もうとしてくるが
「無礼な奴めっ」
オーガに無視された形となったルーラが、怒気を纏わせて呟き、手首のスナップを効かせて鎖鞭を迫るオーガの手に絡ませて引っ張る。
「幼女を餌呼ばわりとは、通報しまつよ」
トンと狼の背を踏み、鞭に引っ張られて身体が泳いだオーガの手へとアイは乗り移る。そのままトントンと軽やかに飛んでいき、オーガの肩を踏み台にして、短剣を横薙ぎにして首元を狙う。
狙い違わず、オーガの首を切り裂くが敵は身体を蹌踉めかせるだけであった。
「短剣だとクリティカルでも倒せませんか。ほいっと」
「エサクウ」
絡む鞭をそのままに、力任せで手を引っ張り、幼女を捕まえようとするオーガ。だが、アイもその場でのんびりとしているだけでない。ちっこい身体をクルリンと回転させて迫るオーガの手を回避する。
ゴツい節だらけで、泥だらけの汚れたグローブのような手がなんとかちっこい身体を捕まえようとしてくるが、甘い、甘すぎるぜ。フリフリとオーガの肩の上でダンスを踊るように身体をくねらせて、捕まらない。ますます躍起になって捕まえようとしてくる頭の悪さを見せてくれた。
「剣技 ソードスラッシュ」
目の前にいるにもかかわらず、またしてもオーガはルーラの存在を忘れたようで、ルーラの繰り出す剣技により胴体を切られて、痛さで腹を抱えて蹲る。が、血を吹き出すが致命傷ではない様子。
「ソードスラッシュを無防備に受けても致命傷にならないとは……呆れたタフネスさでつね」
今までの敵と違い、簡単には倒せないとオーガの評価をしながら、その隙を逃さずに今度は俺が短剣に魔力を集める。
「剣技 ソードスラッシュ」
蹲り無防備となった首元へと、アイは肩の上から飛び降りて剣技を叩き込む。
オーガの首は斬り裂かれ、ようやく地へと倒れ伏すのであった。
ガイとルーラの乗る狼が倒れ伏すオーガの首へと噛みつき、さらなる追撃をする。マジかとアイは冷や汗をかいちゃう。
ウォードウルフはオーガを倒せていないと判断したのだ。剣技二発でも倒しきれないのかぁ。これは厄介だな。
周囲を見渡すと、リンはオーガに接近したと思ったら、棍棒をオーガが振り下ろす前に飛び上がり、すれ違い様に首を斬り落としていた。ランカはフリーズアローにて、そもそも近づく前にオーガを凍らせている。
バッカス王はというと、斧を重さのないように振り回して力自慢のオーガの棍棒を跳ね飛ばし、胴体を斬り裂き、これぞドワーフという戦いぶりを見せていた。さすがは王だ。ステータスはどれくらいなんだろう。
高ステータスのメンバーはまったく苦戦をしていなかった。圧倒的である。しかしながら、他のメンツはというと。
フウグたちを見ると、敵のタフネスさを理解して狼から降り、連携をしながらリクセンが前衛で戦っていた。シューターとマジシャンが的確に援護をしながら、オーガの攻撃を阻み、狼がオーガの足を齧ったり、引っ掻いたりして集中力を乱して、リクセンが強力な一撃を叩き込んでいた。
それでも互角といったところか。タフネスなオーガは厄介だ。フウグたちは負けはしないが、倒すのに時間がかかっている。敵の数が多いので、少し厳しい。
「とりゃっ、たりゃっ。こいつ倒れねぇ〜」
勇者ガイが連続でオーガへと斧を叩き込んでいるが、全然倒れる様子を見せていない。かっこ悪いところを常に魅せる勇者ガイ。魔法の銅の斧で高レベル帯に挑戦に来たおっさんである。
敵の攻撃はかすることもないが、やっぱり銅の斧だと限界だな。仕方ないか。
「これを使えっ! 御者よっ」
腰にぶら下げている手斧をバッカスが苦戦するガイへと投げる。どうやら身体能力は高いのに、しょぼい武器を使っていると理解したみたい。流石はドワーフだ。目利きもできるのね。
その目利きでも、ガイがただの御者だとか思ったみたいだけど。カモフラージュ能力高すぎな勇者だな。
「ありがとうよっ。これならいけるか?」
受け取った手斧を見て、ガイはニヤリと笑う。さすがはドワーフの王が持つ手斧。斧でありながら、切れ味が鋭そうで頑丈そうだと目利きをする。
そして大きく振りかぶり、身体を捻り、魔力を溜めて身構えながら力を解放させ叫ぶ。
「斧技 トルネードトマホークゥッ」
気分は下駄の主人公だぜと、技名を間延びするように叫びながら、手斧を投擲するガイ。主人公キャラになりたい勇者であった。たぶん無理だと思うけど。精々、主人公と共に戦う各国のモブなスーパーロボットが良いだろう。真っ先に敵にやられるやつ。
しかしながら、ガイは高ステータスだ。そして器用な勇者の力を遺憾なく発揮した。
投擲された手斧は赤き光を纏い、オーガの周りを回る。中の物を削るように高速で螺旋を描きながら回転して、皮剥き機で皮を剥くようにオーガの足、手、胴体を斬り刻む。
「グォォォッ!」
オーガが血塗れになり、ふらつく。一瞬のうちに連続攻撃を受けたオーガ。手斧は最後にオーガの頭上へと落ちていき、その頭をかち割るのであった。
タフネスぶりを見せるオーガであったが、実質武技の連続攻撃を受けたも同然であり、耐えられるはずもなく死んでいった。
「へへっ。あっしの斧だと、切れ味が悪いから足でも斬った日にはそこで止まっちまうが、ドワーフの鋭い切れ味を持つ手斧なら斬り刻めるぜ」
クククと笑う山賊ガイ。エグい武技と得意げに語るそのセリフ。どこからどう見ても勇者であった。まさか、勇者にやられる悪党にしか見えないなんてことはないはずだ。
全体的に戦況はこちらが有利となってきた。数は多いが勝てそうだねとアイが思っていたら
「なにか空中を飛んで来るんだぜ! 速いぞ!」
マコトが空を指さして、警戒感を声音にのせて言ってくる。なんだろうと指差す方向を見ると
「赤鬼でつか……。なるほど、コンセプトが酷すぎまつね」
空を山なりに飛んでくる赤い鎧を着込んだオーガが数体こちらへと向かってきていた。
「赤鬼だぁ、逃げろ〜とでも言えば良いんでつか、っとと、これは?」
オーガの新種を作るにあたり、なにを参考にしたのかわかっちゃうと呆れる幼女であったが、突如目の前にコンソールが出現して驚く。
「幼女のバージョンアップのお知らせ。パーティーコマンドが実装されまちた?」
モニターに表示される内容を見て、これはなんじゃらほいと、黒幕幼女は小首を傾げるのであった。