119話 会議をする黒幕幼女
アイとスノー、そしてモニターに映る多くのブンカンたち。スノーもモニター越しだけど、プレイヤー同士は話せる仕様らしい。チャット部屋だね、わかります。
月光の幹部が誰も参加しないのは泣けてくるので、ランカとリンは強制参加です。でも二人は俺をどっちの膝に乗せるかで争っている。幼女が泣き虫でも問題ないよな? 泣いて良い? マコトは肩の上でまたウトウトし始めたし。
「アイ様。支配した都市国家3つ。衛星都市4つにありました国庫及び王が溜め込んでいた金貨の数をようやく数え終わりました。およそ800万枚となります」
「ご苦労さまでちた、ブンイーゴ。やっぱりこの世界の金はまったく価値がないでつよね……。神様が決めた価値なんだとは思いまつが」
ブンカンの一人が書類を手に報告をしてくるので、思わず苦笑しちゃう。
溜め込んでいた金貨800万枚って、なんだよ。鉄とか銅じゃないんだぞ。タイタン王国とかなら数億枚ありそうな予感。金は柔らかくて酸に溶けない以外使いみちがない。それに加えて希少価値がないのに通貨として使われているのは神様の支配していた時代の影響だろうな。普通ならゴミ扱いになりそうなのに。
……いや、もしかしたら錬金などの素材になるのかも……。むむむ。ふぁんたじ〜な世界だしな。
斜め上なことで考え込む幼女へとスノーが声をかけてくる。
「アイさん。帝国人口は約30万人になりました。え、と、14万人の都市、5万人の都市ふたつ、5000人の衛星都市4つ、南部連合の北西の端っこの領土を奪っていった為に、たいした人口じゃないです」
「南部地域中央の主要都市国家ならば一国にも負ける人口ですな、アイ様。南のバッカス都市国家群の人口の半分以下です」
ブンカンもスノーの言葉に同意してくる。そうなのだ。南部地域北西を支配したけど、中央部分の都市国家には手を出せていない。ディーア連合に組みしているのが、あまりいないしな。
未だに弱小国なのは変わりない。まぁ、少しづつ支配を広げていくしかないよね。
「バッカスを中心とする都市国家群を手に入れないと、早晩詰むかもしれないでつね。バッカスの状況を見てみる必要があるでしょ〜」
バッカスを中心とする都市国家群はディーアや魔帝国が攻めてきた際に対抗することを目的に結成された都市国家連合の中でも、さらに強い同盟を重ねている都市国家群を示す。連合の中に、さらに同盟国を作るとは本当に仲が良くない都市国家連合だ。呆れちゃうぜ。
「現状、陽光帝国は弱小国の上に、魔帝国との緩衝地帯になっていまつ。ディーアはこれ幸いと陽光帝国は放置して、周囲の都市国家を支配する戦争を続けると予想してまつが……」
魔帝国と南部地域の交易ルートを塞いじゃったからな。バッカスまで迂回すれば問題はない交易ルートだけど。
「ん〜と。冬の被害をどれだけ、あの、防げたかによると思います。春になりましたし、情報を収集させにいくつか商隊を向かわせますね」
「了解でつ。情報収集は大事でつからね」
スノーの提案に頷く幼女。たしかに冬の被害はかなりのものだったのではと予想。実際、どれくらいの被害を他の都市国家は受けたんだろうなぁ。
「うちの領土も被害はありまつからね。予定通り、全人口に金貨10枚を配布。元農奴へはさらに10枚。家々の復旧作業のため、月光街に住む大工たちを商品を積み込んだ商隊と一緒に向かわせまつ。それと春の魔物の確認と駆除をラングたちに任せて安全を確保。復興資金に300万枚ぶちこみまつ」
一気にお金を注ぎ込むのだ。最初に復興が終わった国が優位に立つのは間違いないし。
クスリとスノーが笑うのが見えたので、コテンと可愛らしく首を傾げちゃう。なんか変なことを言ったかな?
「あ、す、すいません。人々にお金を配るって、やり方が同じだなぁって。ふふふ」
嬉しそうに笑うスノー。やり方が同じって……たしかに地球での避難民への救済支援に国が金を配っていたか。金額も同じだしな。テヘへ。
幼女がてれてれと恥ずかしがり
「アイたん、可愛い〜。ナデナデ〜」
「ん、だんちょーの写真をまた一枚アルバムにペタリ」
ランカとリンも喜ぶが、どうでも良いことである。狐の尻尾がぶんぶん振られるので、少しモフモフしたいけど。幼女はちっこいおててを伸ばして、触っちゃうけどね。幼女だから許されるのだ。おっさんならセクハラで社会的地位さようなら。
「残り200万枚は発展に使いまつ。復興特需に湧くのでインフレには注意してください。これを機会に綿布、炭、草鞋などを普及させまつ。月光とは別会社にするから、金庫を空にしないでくだちゃい」
「月光の金庫も一杯にしないでくださいね。結局は陽光と月光の間でお金の行き来をすることになるんですし」
「わかってまつ。お金を回さないと発展はありませんし」
釘を刺してくるスノーへと、ちっこいおててをひらひらさせて答える。それに綿布とかだけじゃ月光にそれほどお金は入らないだろうし。家具は嵩張るから持っていけないしね。
「それで、ですね。え、と、首都はどこにするんですか? 元トアーズ?」
帝都をどこにするかは重要なので、スノーがもじもじと指を絡めさせながら尋ねてくるが、まだ作る気はなかったりして。
「場所は決めてまつ。センジンの森林出口。マグ・メルを後背に置き、南には平原。開拓しなければ厳しい場所でつが、森林沿いに街道を作れば、良き場所になるでしょー」
「な、なるほど。お金も物資も人材も無いから、作る気はないのですか。一から作るのは良い考えだと、え、と、思うよ。では、センジンを仮首都にして活動するね」
ふんふんと頷き、アイの話す内容を即座に理解してくれるスノー。落ち着かないと帝都を作る気はないと理解した様子。都市計画は最初が肝心なのだ。そしてさすがは女神様から送り込まれただけはある、理解が早い。頭をナデナデしてくる少女たちとは違うぜ。気持ち良いから良いけど。
幼女は頭をナデナデして貰うのが大好きなのだ。もっとナデナデしていいよと、おさげをぶんぶん振っちゃう。
「お願いしまつ。それと大工さんたちの出張ついでに、サウナを作りまつ。銭湯を作りたいでつが、お湯を沸かすのは厳しいでつからね」
「サウナ? アイたん、そんなにサウナ好きだっけ?」
コテンと魔法少女が小首を傾げて聞いてくるが、ぶっちゃけそんなに好きじゃないよ。
「サウナに面して酒場や食堂を設置しまつ。娯楽の一つでつね」
「あぁ、だから月光街の酒場は不自然な空き地があったのか。あそこにサウナを建てるの?」
ポムと手を打つランカ。なぜ酒場の隣に不自然な空き地があるのか不思議だったのだろう。
「ん、娯楽場を作るのは納得。娼館は嫌だけど」
少女らしいリンの言葉に苦笑しちゃう。どうやらそろそろ工事が終わりそうな娼館が嫌な模様。
「リンの言うことはわかりまつが、絶対に必要なのが風俗店でつ。違法にしたら、隠れて作るに決まってまつし、奴隷商人がやっている待遇の悪い娼館は潰したいのでつよ」
女衒はやりたくないのは山々なんだが、これまた仕方ないのだ。まぁ、女衒じゃなくて、もっと良心的な方法をとるつもりだけどね。俺が罪悪感をあまり感じない方法で。即ち、犯罪奴隷以外の奴隷からの解放。難しい扱いになるとは考えてはいるけど。
借金で身を持ち崩したりするのは自業自得なら気にしない。そいつが悪い。親に売られたりして、奴隷になって這い上がるチャンスもないなんてのは許さない幼女なのだ。そんな借金奴隷の枠はいらん。
「むぅ。だんちょーは治療以外出入り禁止。管理はガイに任せる。たぶんぴったりの仕事」
「外見だけで決めてまつね。娼館はイメーネに任せまつよ。話の上手さと、リバーシの上手い、頭の良い娘にするべく鍛えてまつし。ガイだと面倒くさい展開になるのが目に見えてまつしね」
お茶だけで終わる高級娼婦が最終目的だ。まぁ、こればかりはのんびりやっていくしかない。奴隷商人からまずは娼婦にされそうな女性を買い取るつもり。
「娯楽かぁ。あとは劇とか、噺家とかがいれば完璧だね」
ランカが珍しく提案をしてくるが、なるほど、それは良い考えだ。
「アイ様。貴族街には立派な劇場があります。平民地区にも掘っ立て小屋ですが、劇場がございます」
話に加わるブンカンの言葉に、ほむほむと頷く。さすがに劇場はあるのか。だけど噺家はいないよな? 吟遊詩人はいるけど。
「劇場……。立派な劇場を建てたいものでつが、それじゃ見習いでも雇いまつか。噺家は落語に詳しいおっさんが一人知り合いにいまちたね。サマルなおっさんが。希望者を鍛えるように伝えておきましょー」
どうやらガイに娯楽部長と言う新たな名称がついた模様。あっしはワゴンで販促するだけで満足していますと答えそうだが。
「話を戻しまつが、サウナはそのような理由で建てまつ。人々の幸福度を高めるのでつ」
ゲーム感覚な幼女であった。どうやら幼女はゲーム理論で街経営をしていく模様。
「シムっぽいけど、わかったよ。それで今回の会議は終了? 国を発展させる計画は、宿題で良いのかな?」
スノーが閉会? と確かめてくるがもう一つあるのだ。
「春の訪れを祝って、祭りを開きまつ。全ての人々にお祭り金として銀貨1枚を配り、ダツたちには春の魔物の確認を含めて都市周囲の魔物の討伐と肉の確保。人口が少ない今だからこそ太っ腹にいきましょー」
国民たちへ帝国が太っ腹で良い国だと、支配当初からアピールアピールなのだ。
「雪解けが完全になくなる前にやるということですね。かしこまりましたアイ様」
ブンカンたちが頭を下げてくるので、幼女はうむ、まかせまちたと偉そうにふんぞり返る。黒幕っぽくない? 凄い黒幕っぽくない? とランカたちへと顔を向けて確認しちゃう。
そんな可愛らしい少女はこれで抜けはないかなと、ちっこい指を一つずつ曲げながら確認する。たぶん大丈夫かな?
「あ、私が他の都市へと向かった際にトアーズの王族が反乱を起こしたから」
「ルーラ隊から報告致します! 密かに反乱を企てていたトアーズ王族と偶然にもラングキャノン隊と共に訓練をしていた我が隊とギュンター様が遭遇。これを撃破しました!」
「姫、些細な戦闘でありましたので、報告が遅れましたこと、ご容赦を」
ルーラとギュンターが映るモニターが加わって報告をしてくる、
「ドロップで人13、そのうち1人だけ特性腐敗無き世界がついていましたので、気づいてまちた。そうでつか。トアーズ王族が……。よくやりまちた。後ほど褒美を与えまつ」
「はっ! ありがとうございます、閣下」
「お気になさらずに。このようなことはこれからもあるでしょうし」
ルーラは満面の笑みで嬉しそうに狐耳をピコピコと動かし敬礼をしてきて、ギュンター爺さんは気遣うようにアイへと優しい目つきで見てくる。
黙ってやがったなと思うが、陽光帝国の管理はスノーに任せている。どうせ俺を気遣ったのだろう。余計なお世話だと怒るほど若くはないつもりだ。幼女だけど。幼女だから気遣われたのかな?
まぁ、ありがとうとは言っておく。幼女だしな!
「では、陽光帝国初のお祭りをよろしくでつ。月光街も派手にお祭りをしまつので」
「わかりました。頑張るね」
むんと腕を曲げてはりきるスノー。気弱そうな少女がお祭りを頑張ると張り切って言うとギャップがあって可愛らしいな。
「それとお祭りで大々的に砂糖のお披露目をしまつ。遂にテンプレの始まりでつよ! 香辛料に調味料もお披露目しましょうね」
バンザーイと両手を掲げて、花咲くような微笑みで皆に伝える。ようやく溜め込んでいた砂糖とかをお披露目するのだ。
「祭りで大々的にお披露目するのはテンプレではないと思うんだぜ?」
「そうでつか? まずは知名度を上げないといけないので、この手法は一般的でつよ」
「地球で企業が商品を売るならな。つくづくテンプレから外れる社長だぜ」
マコトが呆れたように肩をすくめるけど、砂糖の存在自体ない世界だから、宣伝は必要なのだよ。蜂蜜と違ってね。
「それとバッカス国にも、お祭りへの招待状を送りましょー。きっと驚くはずでつよ」
きっとドワーフは驚くだろうと、口元をおててで覆って、クフフと可愛らしく笑う黒幕幼女であった。