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黒幕幼女の異世界ゲーム  作者: バッド
10章 戦争を再開するんだぜ
116/311

116話 支配することの意味を知る黒幕幼女

 トアーズ城内。石造りの城の奥。執務室と称した王の遊び部屋にてアイは感心していた。悪い意味で。


「あまり物がない世界でも、下品な内装ってできるんでつね」


 ペイッと手にした金でできたコップを投げ捨てて呆れた声をあげる。


 トウッと投げ捨てられた金のコップをダイビングキャッチで受け止める勇者。そのまま飾られていた魔鉱の鎧に突撃して、どんがらがっしゃんとうるさい音をたてていた。常に笑いを取ろうとする山賊に妖精が凄えぜとメモをとっていたりもした。妖精は女優さんじゃなかったっけ?


 コントを繰り広げる二人とは別にスノーたちもいる。やはり呆れた様子で部屋を眺めていた。


 暖炉には乾いた薪が大量に燃え盛り、床には毛足の長い絨毯が敷かれて、アイアンツリー製の執務机、巻物が大量に置かれている戸棚、長椅子にテーブル。壁には裸婦画。まぁ、そこまでは良い。


 問題は積み重ねられたワイン樽、やけに意匠が凝ったギラギラ光る金の鎧が飾られて、金の器や金のお皿に黄金の剣、絵画の枠も黄金で金ピカな趣味の悪い部屋であった。


 ありがとうございます。暴君間違いなしの部屋です。


 大量に金が産出される異世界だからこそできたのであろうが……。


 執務室にしては広すぎる部屋の隅に憎々し気な視線を向ける巨漢の男が正座をしている。その周りにはそこそこ美しい女性たちもいた。制圧に向かったら女性たちとお楽しみ中であったらしい。戦争中でなかなかの度胸である。


 武装解除されたトアーズの護衛騎士たちも青褪めた顔で座っており、我が身がどうなるか不安そうだ。


「ふん! おかしいおかしいと思ってはいたのだ。センジンにディーア連合軍を倒せる程の軍がいるとは思わなかったからな。他国の支援があったのか。どこの国だ? タイタンか? 魔帝国か?」


 巨漢の男。この都市を支配していたトアーズ王が憎しみを込めて吠える。まぁ、馬鹿でも他国の支援があるとわかるよな。


 俺とマコトとスノー。そして団員ガイ、ギュンター、ランカ、リンの7人の零細企業の支援だぜ。零細すぎて真実を知ったら驚愕するだろうね。


「え、と。私はスノー。陽光帝国の皇帝です。この南部地域に建国予定なのです」


 スノーが吠えるトアーズ王の言葉に淡々と答える。トアーズ王は大声でがなりたててくるが、特に気にする様子も見せない。黄金の剣を手にして、これはあの人には見せられないですとか呟いていた。


「スノーしゃんたちは流れの傭兵たちで、建国できそうな土地だったので挙兵したのでつ。この場合は南部連合はどうするんでつかね? 南部地域には貧乏な国からあぶれた人たちがたくさん傭兵としていたでしょ?」


「傭兵の集まり? そ、そんな馬鹿な言い訳があるかっ! どこに貴様らのような装備を整えて能力が高い傭兵がいるかっ」


「いたでしょ? ルノスとか。そんな感じの傭兵さんたちでつ。支援をする商会もたくさんいるんでつよ」


 アイはむふふと可愛らしい笑みを湛えてトアーズ王へと告げる。あからさまに嘘なのはわかってはいるよ。でも、そういう触れ込みにしておくのだよ。


「え、と、この話を聞いて、積極的に連合軍を動かす都市国家はいるんでしょうか。ディーアが統一戦争をしている最中で。過去には傭兵が都市国家を乗っ取ったりもしていますが、その際に連合は他国の侵略行為だと軍を動かしたんですか?」


 実際にルノスは王位を簒奪しているのだ。スノーが疑問の声音で口を挟む。それに対して、ようやくトアーズ王は状況を理解したらしく顔を青褪めさせる。


「そ、そんなことが……。き、貴様らはタイタンか魔帝国の者ではないのか?」


「知っているはずですよね? タイタン王国も魔帝国も南部地域に侵攻する余裕がないからディーアが統一戦争を始めたと」


「そ、そのとおりだが、貴様らは傭兵を大きく逸脱している。馬鹿な……まさか、こんな言い訳が通じてしまうのか?」


「通じるかは春になればわかるでしょー。その前にトアーズ王は敗戦の報いを受けまつが」


 ニコニコスマイルの幼女であるが、目はまったく笑っておらず、トアーズ王は幼女のその視線にぞくりと恐怖を覚える。いったいこの幼女は何者なのかと疑問に思うが、それもスノーの言葉に消えてしまった。


「え、と、トアーズ王は処刑。一族は国外追放の刑にします。安心してください。春になったら一族は国外追放しますので、野垂れ死ぬことはないと思います」


 あっさりとトアーズ王へと告げるスノーの表情にはなんの感慨もなく、平然としていた。このような沙汰を決めるのは慣れていると言わんばかりに。


「ま、待て! いや、お待ちを! 俺は役に立つ。周辺の都市国家に顔は利くし、魔帝国の有力者にも知り合いは多い。配下にしていただけないでしょうか?」


 頭を床へとつけて、態度をいっぺんさせるトアーズ王。本当に死刑にすると、スノーの興味のなさっぷりを見て悟ったのだ。


 スノーはたしかに冷酷だ。いや、冷酷なのではない。たぶん興味がないのだ。興味がないから情を持つこともない。どこかの女神様と同じような性格だ。さすが女神様に俺を手助けするように言われるだけはある。皇帝の器を持つ少女だ。


 俺がフォローをすることを前提にしてだけどね。ゲームで言うところの委任状態の領主と同じである。能動的には動いてくれなさそう。黒幕幼女の指示を前提にして送られてきたのだ。


「申し訳無いですが駄目です。最低限のラインとして軍を率いている、というのが採用ラインでした。農奴の扱いは過去から綿々と続く慣習だと思うので、疑問にも思わなかったのでしょうから、私はなにもそのことについて言うつもりはありません」


 ちらりと幼女へと視線を向けてきながらスノーは告げる。あ〜、はいはい、俺だってそこらへんは考慮するぜ。考慮はするよ? 処刑ラインを突破した状態から、相手を見定めるのだ。余程のことがない限り処刑決定ということだけど。


「ですが、攻められているのに、軍を率いてもいないのは、雇用した時の結果が予想できるので困ります。残念ですが来世のご活躍をお祈りますね。スノーハルバード」


「助け、ギャハッ」


 スノーは生み出した氷のハルバードを手に持ち、瞬速で長椅子から立ち上がると、大上段にてトアーズ王へと振り下ろす。


 頭から唐竹割りにされ、斬られた箇所から凍りつき氷像となって、トアーズ王はその生涯をあっさりと終えるのだった。


 前言撤回、バリバリ能動的に動くわ。ごめんなさい、スノー。甘く見てた。俺と意見が合わないこともあると理解したよ。だけども、その方が助かる。話し合いはドンとこいである。今まで周りにいなかったタイプだからな。


「ダツたち、この氷像を墓地へと埋めて来なさい。さて、残りの騎士たちは自分の仕事をしていました。どうしますか? 私に雇われるか、え、と、国外追放か。どちらでも好きな方を選んでください」


「貴方様に忠誠を! わ、我らはスノー皇帝陛下に従います!」


 ガツンと絨毯なのに痛そうな音をたてて、騎士たちが床に頭をつけてひれ伏す。目の前にトアーズ王が二つに断たれた氷像があるので、恐怖倍増、これまで落とした都市と同じ感じ。


 恐怖支配はする気はないが、最初はある程度は仕方ない。だが……。


「え、と、だ、駄目ですよ、アイさん。彼らは農奴の扱いを慣習という形で受け継いだだけです。街を守るのに剣をとりました。騎士としては合格点です。……それともすべての騎士をダツでまかないますか? 私は最低限必要な分の騎士と、高位の人間の幾人かにキャラは使えば良いと思いますが」


 スノーの視線はこちらを試すような平静であり、静かな水面のような目であった。その視線を幼女に向けながらモニター越しにスノーが忠告してくるので、幼女は頬を膨らませてむくれちゃう。


 ちくしょうめ、俺に支配者の器があるか試してきたな。反論したい。とってもしたい。


 ……が、ため息を吐いて頷く。頭ではわかってはいるのだ。感情任せに動くことは許されないと。


「農奴はなくなりまつし、以降平民たちを理不尽に扱う者たちはきっちりと罪に問わせまつ。悔しいでつが、正論でつし」


 これ以降も魔物の餌にしようとした奴らは、報いを受けさせるけど……意識改革ができるなら仕方ない。諦めよう。農奴の扱い以外はここの騎士たちは平民へ重税で苦しめたりはしていなかったみたいだしな。


 ちくしょー! こういう国が一番面倒くさい。悔しいぜ。


 気に入らないから皆殺しをする訳にはいかないのだ。暴走幼女にはならないのだ。


「ふふっ。それでこそ女神様が選んだアイさんです。聞き入れられなかったから、どうしようかと思ってました」


「タイミングが良すぎる参加をしてきたスノーしゃんには負けまつよ」


 俺を止めるストッパーとしても送り込んで来たんだろ。女神様の慧眼は相変わらず凄いな。祈っちゃうぜ。ありがとう女神様〜。魔王幼女にならなくてすみました。


 俺の方が恐怖政治をしそうだった。正義の名の下に行動するつもりはなかったけど、結果的にそうなるならまずい。おっさんは歳を食ってるぶん、そういった理解が早いのだ。葛藤する若い主人公とは違うのである。

 

 スノーは平伏する騎士たちへと、ニッコリと微笑んで告げる。


「良いでしょう。これからは陽光帝国のために頑張ってくださいね。まずは貴方たち以外に降伏してきた騎士、兵士で陽光帝国に加わりたい人たちがいるかの聞き取りを命じます」


「ハハッ! 皆へと陛下のご慈悲を伝えてまいります!」


 敬礼をして恐怖に震える騎士たちは去っていく。ご慈悲じゃなくて冷酷なところを伝えるつもりでしょ。王殺しをあっさりとやる人間だって。


 古代相当の文明であり、王はそのほとんどが強力な特性と身体能力を持つから、侵略しても殺さないのがデフォルトらしい。将軍として使えば役に立つしな。この世界は人間以外の敵が多すぎるし、対応できる者は希少なのであるからして。


「ギュンター、ランカ。農奴を含めて街の住人を集めてくださいでつ。農奴解放宣言及び炊き出しをしまつから」


「了解しました、姫」


「アイたん、任せて〜」


 ギュンターとランカが幼女の言葉に従い部屋を出ていく。俺はそのままガイたちへと顔を向ける。


「ガイ、炊き出しは冬用で。リン、農奴の中で体調が極めて悪い人たちを探すのでつ。死にそうな人から順に治していきまつから」


「了解でさ。お前らついてこい。ガイ原士郎の出番だ」


「ん、エリアヒールをバンバン使っていけば、癒やしきれない人がわかるはず。救世主タイプに変身する」


 ダツたちを数人連れてガイも出ていき、リンは尻尾の数を変更していた。行動により、尻尾の数を変えるらしい。実況プレイには必要な個性だそうな。実に頭が悪いやり方だと思うのは俺だけだろうか。


 テキパキと命令して、幼女は金ピカアイテムを見て、エイッと蹴る。ご機嫌ナナメな幼女なのだ。ガシャンと音をたてて金の器がテーブルから落ちる中で、ルーラへと告げる。


「宝物庫は全て押収。どれだけあるか目録を作ってください。食糧倉庫も同じように数量調査。帝国の地盤を固めるためにも早急に手に入れた財貨は使いたいので」


「はっ! 了解しました閣下。ブンカンを何人かお借りします。それでは」


 ふんふんと鼻息荒く命じられて嬉しいと尻尾をぶんぶん振りながらルーラも出ていき、指示を幼女は終える。


 ふぃ〜と長椅子に凭れ掛かり、可愛らしい息を吐く幼女に精霊少女がおずおずと声をかけてくる。


「え、と、まだ女性がいるんだけど、大丈夫かな?」


 ほえ? と部屋を見るとたしかにトアーズ王に侍っていた女性たちが部屋の隅に立っていた。すっかり存在を忘れていたぜ。女性たちは信じられないような表情で幼女をみてきていた。


「スノーしゃんに命じられたとおりにあたちはできまちたか? キャッ」


 顔をちっこいおててで隠して、照れちゃう幼女。恥ずかし〜。


「酷い誤魔化し方だぜ」


 ドン引きするな、マコト。迂闊だったけど、そこは火事場の幼女パワーで誤魔化そうよ。


「そ、そうですね。私の命じたとおりにできたと思います。え、えらいえら〜い」


 口元を引き攣らせながら頭を幼女の頭をスノーはナデナデしてくれる。一応演技に乗ってくれる様子。


 幼女なんだから、学芸会レベルの演技でも、微笑んで誤魔化されるよ。きっとそうだよ、間違いない。人は信じたいものだけを信じるのだから。


 だから、今の幼女の行動はなかったことにしてねと、冷や汗をかいちゃう黒幕幼女であった。

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― 新着の感想 ―
[一言] まぁ、かなりお盛んな王みたいだから一族追放してもそこら辺に子孫がたくさん紛れてそうですな。
[良い点] 正座→土下座→お祈りメール→頭から半分になって氷像の流れがシュールな笑いを誘う。埋葬してくれるみたいですし、趣味の悪い部屋の一部にならなくて幸いでしたね(*´ω`*) [気になる点] 誤字…
[一言] 黒幕幼女にしては珍しい失態でしたね。 でもこういう人間味のあるところが幼女の魅力です。 しかしスノーたんはなかなかドライですね、二重の意味で(*^ω^*)
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