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黒幕幼女の異世界ゲーム  作者: バッド
10章 戦争を再開するんだぜ
114/311

114話 トアーズ都市攻略戦をする新皇帝

 新皇帝。新皇帝ってコロコロ変わり過ぎではないのかなと、スノーは小首を傾げちゃう。リンは絶対に元皇帝だと誰も覚えてはいないはずなのに、早くもスノーは皇帝2世となっていた。適当すぎる。1世で良いんじゃないかな?


 まぁ、私は指示に従うだけだ。そうするように命令を受けているのだから。世界の難易度が上がっちゃったよ、しょうがないから運営のお詫びとして手伝ってきてと、縄でぐるぐる巻きのミノムシに銀の女神をしながら女神様は私に指示を出して苦笑してたけど、アイさんへの優しさからだろう。


 銀の女神はぶらーんと天井にぶら下げられながら


「セーブ機能がないのがいけないんです。私は悪くありません、ご主人様。あと魔物に特殊能力を与えるのって楽しいですね、テイマー系ゲームっぽくて」


 と、まったく悪びれていなかった。どうやら失敗したとは気づいたが、反省はしていないらしい。いつものことだけど。


 そして既に魔物全体の設定を変えたあとらしい。検証をしないダメダメSEさんだった。


「設定を変えるのは面倒くさいんです。なのであの似非幼女に頑張ってもらいましょう」


 と、飄々と言ってきたが、その時怪しい笑みを一瞬浮かべたので、なにか企みがあるのかなと少し思ったけど。


「敵が城壁の上に現れ始めましたぞ、スノー殿」


「あ、はい。意外と早い反応ですね。たびたび戦争をしてきた国というのは伊達ではないんですね」


 ギュンターさんの言葉に回想を止めて前方へと視線を向ける。城壁には騎士や兵士たちが姿を表していた。が、寒そうにしている。城壁の上にも積雪があり、足が太ももまで雪に埋まっているからだ。


「まさかこの冬の中で攻めてくる敵がいるとは考えていなかったのでしょう。このまま包囲しているだけで降伏しそうでありますな」


 ルーラさんがスノーウルフに乗りながら言ってくる。たしかにこの寒さに耐えられそうもないけど、そうはいかないのだ。


「待っている時間はありません。さっさと片付けて農奴を助けるんでつ」


 ムスッとした声音で、アイさんが口を挟む。周りに見える家々。ボロ小屋であり、人が生き残っているのが嘘のような環境に、農奴は住んでおり、窓やドアからこちらをこわごわと覗いている。皆、この寒さで着ているような服ではない。薄着であり痩せこけている人々だ。


 アイさんはその姿が気に入らないのだ。頬をプクッと膨らませて不満そうにしている。


 ここに来るまでに落とした都市国家や衛星都市でも農奴はいたけど、ここは人数も多く環境が極めて悪い。まさか魔物の餌に使っているとは、私も不愉快に思う。


 でも、それは後回し。優先順位が違うのだ。


「農奴を助けるのはこの都市を落とした後です。アイさん、そこらへんは変更できませんよ」


「もちろん承知してまつ。この都市は規模からしたら最大規模でつが、あたちたちの相手ではない。スノーしゃん、新皇帝の力の見せ所でつ」


「はい。それではササッと陥落させますね。これまでの都市国家と同様に」


 ここに来るまでに、5万人程度の都市国家2つと、5000人規模の街をいくつか陥落させている。今回はその倍で城塞都市でもあるが……問題はないと思う。


「これまでに支援魔法レベル3エンチャントマジック、ストレングス、アジリティアップ、プロテクション、レジストボディと、炎魔法3ファイアーボールを複数手に入れまちたから、この都市もなにが手に入るのか楽しみでつ。あたちも覚えられたし」


 コロッと表情を嬉しそうに変えて、むふふと笑う幼女。この人は本当にチートである。敵を倒して手に入れた素材で作ったダツたちを支配後の人員に使うのだから。まさか敵も倒されれば倒される程、敵の人員が増えるとは想像もできないだろう。


 ここでも同じことになるだろう。


 とはいえ、女神様も首を傾げちゃうほどドロップ率が悪いのでいまいち活用できないけどね。300人倒せば150はドロップできる緩い設定なのに48人しか素材のドロップなかったし。ある意味神がかっている。


 まぁ、支配後の人員としては十分かな? 降伏した国の軍はうちの軍隊に恐怖してたしね。


「え、と、全軍ゆっくりと前進。ラングキャノン、先頭に立ち砲撃態勢をお願いします。敵が集まったら戦いを始めましょう」


「わかりました。陛下」


 炎魔法3へと改修したラングキャノンたちが、雪を蹴散らして先頭に進み、後続がスノーウルフに乗って整然と前進を始める。声をたてずに静かに。


 冬の軍隊は死神となって、新たなる都市を攻略せんと進軍していくのであった。




 城壁の上にて、急遽敵襲だと集められたトアーズの兵士たちは眼下に見える軍隊を見てボヤいていた。


「なんだよ、奴ら俺らの半分もいないじゃないか。ビビって損したぜ」


「そうだよな。門を開けて野戦をした方が良いだろ」


「さみぃーし、酒場へ繰り出したいよな。ねぇ、騎士様?」


 雪かきをしていない城壁の上。ある程度は凍っているとはいえ、それでも太ももまで足は雪に潜る。毛皮の装備をしていても冷たい。寒空の中で長時間戦うのは辛いものがある。倍の人数なのだから、こちらが有利だとそばに立つ騎士へと声をかける。


 彼らは幾度もの戦いを経験して自信があった。それに見合う給料も貰っており凄腕だと自負しているからである。


 そうだよなと言う同意の声がかかってくるとばかりに思っていた兵士たちだが


「……なぜあんなに数がいるんだ? そ、それにあれはアラクネ? 操っているのか?」


 身体を震わせて顔を青褪めさせていた。寒さではない。恐怖から身体を震わせて。


 周りに立つ騎士たちの何人かも顔を青褪めさせているので、何かが変だと兵士たちは感づく。たしか、この騎士様たちはセンジンと戦って帰還してきた者たちだとも気づく。


「あ、あの……騎士様? 敵は危険なんですか?」


 倍の人数がいて、城壁もある。それなのに騎士たちは恐怖に震えている。兵士たちは戸惑い顔を見合わせるが


「不安がるな! 心配は無用だ。これまでに何度敵の攻撃を跳ね除けたか覚えているか? トアーズは陥落せん!」


 騎士隊長が声を上げて叱咤をする。苦々しい表情で恐怖に震える騎士を蹴り飛ばす。


「お前らもしっかりしろ! 盾兵、対弓陣形。魔法使い、弓兵は敵の魔法使いと思われる奴を優先的に攻撃だ」


「はっ! 陣形を組め! 戦闘準備、戦闘準備だ!」


 気を取り直して、士気が取り戻されて皆は行動を始める。魔法使いがいたら最優先で狙うべく、目を凝らしながら近づく敵を観察し始める。


 いつもの戦いなのだと緊張に身を包ませて、陣形を組む。そうして弓の射程まで待ち構えるが


「ん? 奴ら少し前で停止したぞ?」


「もしかして包囲戦かよ?」


「それは勘弁だぜ。こんな寒い中でよぉ」


 ピタリと弓の射程から少し遠いところで軍は停止してしまう。時間をかける気かと考えてうんざりしていたが、それは間違いであった。


「なんだありゃ? アラクネ……か?」

「アラクネってのは、あんななのか? 随分と色っぽいな」

「たしか老婆だったはずだが……」


 先頭に現れた魔物を見て、ざわめきが起こる。その魔物は見たことがないほど美しかった。上半身のみであるが美しい顔立ちとメリハリのある胴体。これで下半身も人間ならば、目を奪われていただろう。


 蜘蛛の下半身は真っ赤であるが不吉な感じを受けない。鮮烈な赤であり、従来の不気味なアラクネとはまったく違う姿である。


 そのアラクネはこちらへと手を掲げてくる。なにをするつもりだろう? 魔法の射程は弓よりも全然短い。こちらの弓兵の矢が届かない距離だから、魔法は意味を成さないはずだと眺めていると考えていたら、その手に人程の大きさの火球が生まれた。


 そうして、敵の隊長らしき人間が手を掲げて指示を出し始める。言葉までは聞こえないが不吉な予感に顔を顰めると


 ドォ〜ン、ドォ〜ン


 と辺りに鳴り響く轟音とともに大きく山なりに火球は放たれた。


 弧を描いて、空を飛んでくる火球。その数は20程が速度を落とさずに飛んでくるのを兵士たちは眺めながら、不安を押し隠そうと呟きにも似た声をあげる。


「と、届かないはずだ……」

「そうだよ、あれはファイアーボールだから……」

「勢いが落ちていない……落ちていないぞ?」

「逃げろっ! 届くぞ!」


 火球は魔力を失い雲散することもなく城壁まで飛んできて、兵士たちは慌てて着弾地点から逃げ始める。30メートルの城壁だけあり、城壁の上も広いのだがそれでも多くの兵士たちが逃げるのには限界があった。


 着弾するや爆発を起こして、周辺へと炎を吹き散らす火球。その炎により次々と兵士たちは燃えていく。


 すべての火球が狙い違わず城壁上に命中して、火災を起こし、兵士たちは混乱し右往左往してしまう。


「敵の火球が届いたのはたまたまだ。それに火球は魔力消費が激しい魔法。連発はできん! 負傷者を回収して陣形をく」


「また来るぞぉ〜っ!」


 隊長が再び叱咤するが、その間にもアラクネは再び火球を放ってきた。放つ際の轟音と着弾した時のファイアーボールにはあり得ない爆発と範囲に皆は混乱して、炎から逃れようと階段へと殺到するのであった。


 叱咤していた隊長は火球により吹き飛ばされて焼かれて倒れ込み、その様子を見た騎士たちも兵士たちを押しのけて階段へ駆け寄る。


 押しのけられたり、踏みつけられる人々。それによる負傷者の方が皮肉にも火球が及ぼす効果よりも高かった。


 何発撃ってきたのだろうか? 騎士たちも階段へと避難して、身を潜めていたら、ようやく轟音が鳴り止む。


「おい、ようやく魔力が尽きたみたいだぞ」

「あぁ……。なんて恐ろしい魔物を引き連れて来やがるんだ……」

「地面が雪で助かった……」


 炎はすぐに消えてしまった。魔法の弱点でもあり、短時間で効力を無くしてしまうのだ。


「よ、よし。静かになったな。全員配置に戻れ。敵が近づいて来るぞ」


 そっと騎士が立ち上がり、そろりそろりと通路を歩き、外の様子を窺いビクンと身体を震わす。


「こ、これは。こんなことがっ!」


 騎士が驚愕で声を震わせて叫ぶ中で、続く兵士たちも外の光景を目にして唖然として口を開けてしまう。中には手に持つ槍を落とすものもいたが、注意する者は誰もいなかった。


 なぜならば聳え立っているはずの城壁はなかった。いや、外に積もる一面の雪が浮き上がっていたのだ。信じられないことに地面に積もる雪が持ち上がり、なだらかな坂を作り上げ城壁までその坂道は続いていた。


 敵の兵士たちは既に横一列に並び槍を構えて突撃態勢をとっている。


「夢なのか……」

「俺たちの城壁が……」

「こんな……敵はなんなんだ?」


 兵士たちが陣形もとらずに、ただ立ち尽くす中で、雪を蹴散らして敵が疾走してくる。騎乗している狼は雪に足をとられずに、あっという間に坂道を駆け上って来た。


「盾だ。グレートウォールの陣を組めっ! す、すぐに敵はやってくるぞ! 急ぐんだっ!」

 

 真っ青に顔色を青褪めさせて叫ぶ別の騎士隊長。


「このままだと蹂躙されるぞっ! 陣形を組めっ!」


 たしかに敵の騎狼隊がやって来れば、このままだと蹴散らされてしまうと判断して、兵士たちは陣形をなんとか組む。今までの戦いによる経験が身体を自然と動かし、敵が辿り着く前になんとか陣形を組み終わり、槍兵たちはチャージを放つ準備をする。


 だが、10メートル程手前でピタリと敵は停止して、真っ白な狼たちは口をこちらへと開いてきた。その様子に兵士たちは嫌な予感を掻き立てる。


「ま、まさか、ブレスか? そんなまさか!」


 兵士たちが絶望に心を支配される中で、狼の放つ氷のブレスがトアーズの軍を覆い尽くすのであった。

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― 新着の感想 ―
[一言] > とはいえ、女神様も首を傾げちゃうほどドロップ率が悪いのでいまいち活用できないけどね。300人倒せば150はドロップできる緩い設定なのに48人しか素材のドロップなかったし。ある意味神がかっ…
[一言] 今更ですけど、夏とか半端ない暑さになりそうですねー。
[一言] 安定の銀の女神。そろそろ天罰が…考えてみれば痛い目に遭っても変わってないんですよねぇ。
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