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黒幕幼女の異世界ゲーム  作者: バッド
10章 戦争を再開するんだぜ
113/311

113話 戦争再開をする黒幕幼女

 吹きすさぶ吹雪。凍りつく平原。寒さで震える都市。南部地域西部にあり、センジンの里より南、魔帝国を西に持つ要塞都市である。その名はトアーズと言った。


 いくつかの衛星都市を持ち、その全てが砦でもあり、魔帝国の侵攻を防ぎ平時は西部の交易都市としての側面も持つ。平野も広くディーアに匹敵する都市へと変わる可能性を持ちながらも、たびたびトアーズ南部にあるバッカス都市国家や、魔帝国との小競り合いにより荒らされてしまい、大都市にはなれない都市国家である。


 その人口は11万人。広い土地を数枚の城壁で守っている。広大な土地を使い作られた都市の大きさに比べ人口が極めて少ない。その倍はいてもおかしくない土地であるが、それは数に含まれない者たちが実際は多数存在するからであった。


 農奴。そう呼ばれる者たちを3万人近く持っているのだ。それらはいないものとして、トアーズは扱っていた。なので人口にも数えない。


 城塞都市と呼ばれるだけあって、高さ30メートルを誇る城壁を持つ都市であるが、農地はその中にはなく、外に作られていた。1メートル程の壁で囲っているが、そんなもので魔物から防げるはずもなく、たびたび襲撃されている。


 が、襲撃はいつもあっさりと撃退していた。なぜならば、農地のすぐそばに魔物の餌として農奴と呼ばれる者たちを住まわせているからだ。近隣地域の農奴の扱いを見ても特に農奴の扱いが酷い都市。それがトアーズである。


 日頃は農業にて酷使して、魔物による襲撃時には囮として使い、魔物が農奴を喰っている最中にトアーズの騎士たちは魔物を撃退していた。


 魔物退治など簡単なことだと嘯きながら。


 今日もまた身体の半分が埋まってしまう雪の中で、農奴は騎士たちに使われていた。


 緊急時の使い方。即ち、魔物の餌として。


「ギャッハッハッ! おい、サッサと逃げないと死んじまうぞ」


「そら、その雪の中にいるかもなぁ」


「逃げろ逃げろ」


 騎士たちが少し離れた先で懸命に走り回っている中年の夫婦をみながら嘲笑っていた。二人は小さい男の子と女の子を抱えながら、雪に足をとられながら、懸命に走り回っている。


 この寒さの中で湯気がたつほど汗をかき、ボロボロの服から覗く肌には切り傷や咬み傷をつけながら。


 血を流しながら、息せき切って走る中で、雪の中から突如としてゴブリンが現れて、噛み付こうとする。


「くそっ」


 痩せた腕で目の前に現れたゴブリンを殴る男性。ゴブリンの方が弱かったので、あっさりと撃退できるが


「きゃあっ」


 後ろの妻の悲鳴に振り向くと、顔を雪から突き出したゴブリンが足に噛み付いていた。


「離れろっ、ゴブリンがっ!」


 倒れてしまう妻が子供を抱え込む。その隙を狙い次々とゴブリンが雪の中から現れて、食べようと歯を剥き出しに遅いかかり、夫が離れろと叫びながら腕を振り回す。


「おとうちゃーん、おかあちゃーん」


「わ〜ん。やめろよ、この化物めっ」


 子供が血だらけになっていく両親を見て、火がついたように泣き叫ぶ。


「あんだよ、もう少し粘ると思ったのによぉ」

「やっぱり農奴なんてあんなもんだ」

「しょうがねぇな。そろそろ仕事すっか。あのゴブリンたちが農奴を食べ尽くす前にな」


 10人はいる騎士たち。下衆な笑いを見せながら、罪悪感の欠片も見せずに、それどころか面倒くさいとばかりに話し合う。


 ゴブリンが数十匹現れたので、撃破の命令を受けてやって来たのだ。


 そしていつも通りに農奴を餌に敵を集めて倒すつもりなのだ。


 いつも通りに。


 いつも通りにはいかなかったが。


「では、餌の追加をすれば良いと思いますよ?」


 後ろからかけられてきた声に、騎士たちは笑い合う。


「そりゃ駄目だ。この寒さで結構な人数の農奴たちが死んでいるからな。遊びはこの程度に抑えとかないと」


 いけないだろと、最後まで言えなかった。なにかが首に巻き付かれると、その身体が勢いよく投げられたからだ。ゴブリンたちが集まる農奴のところへと。


 何体かのゴブリンを巻き込み、雪の中に転がる騎士。その身体はピクピクと痙攣をしており立ち上がることはできない。


 突如現れた新たな餌にゴブリンたちは抵抗する農奴を放置して、騎士へと襲いかかる。


「や、やめ……」


 たった一度投げられただけで、身体が動かなくなくなった騎士の言葉などゴブリンたちが聞くはずもなく、噛み付いていた。ただステータス差のために、その肉体には僅かにしか歯は食い込まないが。


 その方が痛みが続き、騎士にとっては悲惨な事になったが。


「ふむ、やはり騎士を餌にした方が効率が良いのでは? なかなか食べられそうもありませんし」


「な、何者だっ、貴様っ」


 皮肉げに告げてくるその声の元に慌てて騎士たちは振り返る。剣を引き抜き、身構えながら振り返った先には灰色の髪をした狐人の少女がつまらなそうな表情をして立っていた。


 冷ややかな声音で狐人はこちらを見て告げる。


「餌と話す口は持っていないのであります」


「なっ、なにを、きっ、うぉぉぉぉ」


 残りの騎士の首にもどこからか鎖の鞭が巻き付いて、先程の騎士と同様に投げ飛ばされる。


 ゴブリンたちの集団へと投げ飛ばされるが、何人かの騎士たちは身体を捻って着地する。装備が鋼に見えるので、上級騎士なのだろう。


「舐めたマネをっ! 剣技 ソードスラッシュ」


 餌が増えたと喜び襲いかかるゴブリンたちを騎士たちは剣技にてあっさりと倒し、その後周りにいるゴブリンたちをすべて斬り裂いたあとに、怒気を纏わせ不意打ちで投げ飛ばしてきた者たちを睨みつける。


「人を餌にしなくとも倒せるではないですか。つくづくクズな騎士ですね。もしかしたらゴミナイトという新種の魔物でしたか?」


 狐人の少女は見下げ果てる者たちだと冷たい声音で呟き、いつの間にか現れた騎士たちを投げ飛ばしてきた者たちも軽蔑の眼を向ける。


「ゴミだとっ! どこの奴かは知らないがこの冬で食料を求めにでも来たんだろうがっ! 頭を下げて頼みに来たんじゃねぇのか?」


 最近は各都市から食料支援を求める者が大勢来ていると、言外に伝えてくる騎士へと狐人らはキョトンとした表情になり、その後にニヤリと笑う。


「この都市は食料が余っているのでありますね。それは良いことを聞きました。攻略しに来たメリットが増えたというものです」


「攻略……? なにを戯言をっ! そんな数でトアーズを落とせるかっ! 俺たちの国は騎士3000、兵士7000の兵力を持つのだ。どこぞの馬の骨に落とされる小国ではないわっ! すぐに援軍を呼ぶから待ってろ」


 そう言い放つやいなや、懐から羊皮紙を取り出す騎士。羊皮紙を空へと放ると、羊皮紙は青白く光り、軽い爆発音とともに赤い煙が生みだして、燃えて消える。赤い煙はそのまま残り、上空へと伸びていく。


「スクロール! 魔法のスクロールでありますか。なぜそんな物を?」


 僅かに驚く狐人。魔法のスクロールは地味に初めて見たのだ。しかも攻撃魔法が封印されているのではなく、狼煙の役割を果たすスクロール。


「ハッ! 田舎者が。こんな物は魔帝国に行きゃ、金貨10枚程度で買えるんだよっ」


 得意げに教えてくる騎士。この狼煙ですぐに異常事態と気づいて仲間たちがやってくるのだと、余裕を取り戻している。


「意外と高いでありますね。魔帝国……噂に聞いてはいましたが、魔法が発達していますか」


 魔法により様々な物事を解決しているのだろうかと、少女は考えるが、騎士の怒鳴り声にそんな場合でもないかと気を取り直す。


「お前ら、武器を捨てろっ! どこから来たのか尋問しねぇとな。テメエから酷い目にあわせて」


「自分は陽光騎士団副団長のルーラ・フウグ。閣下にお仕えする忠実なる騎士です。此度はトアーズを攻略しに来ました」


「騎士団? なにを言って……。何だありゃ?」


 騎士の言葉を遮り、ルーラが名乗ると同時に騎士は遠方から雪煙が近づいて来たことに気づく。もうもうと噴き上がる雪煙に、ちらりと見えた軍隊を見て驚愕する。


 かなりの数だ。数千はいるだろう。馬ではなく、狼に乗って近づいて来ていた。


「自分はセンジンの里から来ました。この意味がわかりますか?」


「う、ま、まさか……」


 ゴクリとつばを飲み込み、後退る騎士。騎士はセンジンの里へと向かった軍には参加していなかったが、戻ってきた者たちから、その話は聞いていた。


 少数ながら、あり得ない練度の騎士団と戦ったと。狭い地形では戦えないとも。


 トアーズは城塞都市だ。城壁は高くその周辺は開けている。そしてセンジンの軍隊は小国を攻めただけでトアーズには攻めてくる素振りを見せなかったので、戦うこともあるまいと、騎士は高を括っていたのだが……。


「多すぎるっ! なんだあの数は? 衛星都市はなにをしていたんだ?」


 トアーズを攻める前にはトアーズの周辺にある衛星都市を攻めねばならない。東西南北に5000人程度の衛星都市があり、鷹の目をもつ者たちが見張りを務めていたはずなのにと、戸惑いながら叫ぶ騎士。


「あぁ、特性鷹の目はなかなか使えますね。閣下がやったよと小躍りして喜んでいました。ですが、この冬のさなかで真面目に見張りをしているとどうして考えるのです? もう北は落ちました」


 平然とした様子で、小石を退けておきましたとでも言う狐人の言葉に騎士はさらに後退る。


 自分の住む都市へとちらりと素早く視線を向けるが、軍隊が迫っていることに気づいたのだろう。開いていたはずの門は閉め始めて、援軍は来る様子はない。


 自分が窮地に陥った事に気づいた騎士たちは口元を引き攣らせて、手もみしはじめた。


「ハハッ。ど、どうでしょう? 俺は上級騎士だ。雇えば、いや、雇って頂ければ役に立ちます。トアーズの弱点なんかも教えられますよ?」

「あ、あぁ、センジンの噂は聞いていました。俺たちは強力な軍隊を持つセンジンの一員になりたいと常々思っていたんだ」

「そうそう。騎士として憧れていまして」


 うへへと笑いながら媚びる騎士たちに、ルーラたちは呆れ果てて嘆息する。本当にこの者たちは騎士なのだろうか?


「残念でつが、来世の活躍をお祈りしておきまつ。さようなら」


 騎士たちの後ろから可愛らしい声が聞こえてきて、慌てて振り返ろうとするが


「フリーズストーム」


 振り向いた先にいた幼女の呟く声を聞いたのが最後だった。無数の鋭い氷の刃が騎士たちを竜巻となり覆い隠し、斬り裂き凍りつかせて、その命を奪ってしまうのであった。


 ルーラは慌てて敬礼をする。


「閣下、来ておいででしたか。ここは予想以上にクズの集まりみたいであります」


「そーでつね。エリアヒール!」


 ちっこいおててを掲げる幼女。そして一人にしか効果のないはずのヒールを倒れ込む二人の農奴へとかける。ステータスの違いにより効果も色々と変わった魔法。ヒールも複数人にかけれるようになったのだ。幼女のステータスだと三人が限界だけど。


「まぁ、クズな騎士や王様には退場願いましょ〜。それに農奴とかいう職業はあたちはいらないと思うんでつ」


 身体の傷があっという間に治って、ありがとうございますと農奴の夫婦が頭を下げて、子供たちが笑顔でお礼を言うのを聞きながら、アイは犬歯をチラッと見せて子犬のような獰猛な笑みを浮かべる。


「非効率で非生産的。陽光帝国では農奴は禁止でつから」


 追いついてきた軍隊をみながら、黒幕幼女は戦争の再開をするのであった。

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― 新着の感想 ―
[一言] 農奴はWW2まではおったので (日本も小作人という名の農奴だった) まぁ時代的によしとするとしても 労働力を囮 しかも遊興のためのはあり得ないですね まぁ、国家としてはなりたってるんでしょう…
[一言] 陽光帝国の登場が悪の帝国っぽいんですが。 さすが黒幕幼女の率いる軍団ですね。
[一言] 冬でも自由に動ける軍vs自由に動けない軍って騎馬兵相手にしてる歩兵の如く刈り取られますよね
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