108話 新たなるバージョンアップを喜ぶ黒幕幼女
「消耗素材、雪鰐1(特性雪化粧、雪鱗)、雪蝶5(特性雪鱗粉)、武器素材、雪鰐の鱗。氷石27、凍石3、源素材、結晶小石19、結晶中石1だな! 知識因子は氷魔法フリーズビームをゲットだ」
静寂が戻った植物園にて、マコトが踊りながらドロップを教えてくれるが、源素材? なんだろう? ちなみに踊りが盆踊りに見えるのは女優さんだからだねと思います。そういうことにしておくよ。
「へへん。バージョンアップがあったんだぜ。源素材は力の源。小石100で、中石なら10、大石なら1で特性を素材を使わずにキャラにつけられるんだぜ! 他の使い道は検討中」
「おぉ、特性を消費せずにでつか。それは助かりまつ」
特性は使い切りだったから、珍しい特性はもったいなくて使えないんだよな。使っちゃったけど。テヘ。
幼女は容赦なく必要となれば、エリクサーとかを使いまくるタイプなのだ。
「それと補助アイテムも作れるようになったぜ。武器や防具の一時的な強化及び攻撃アイテムだな」
「ほぉほぉ、で、なんで、精霊の消耗素材がないんでつか? これだけ倒したのに」
俺のドロップ運が悪いだけじゃないよね?
「精霊は消耗素材を落とさない。エネルギーの塊だからな。ゴースト系とは少し違うんだぜ。その代わりにバシバシ武器素材と源素材を落とすんだ。それと地味に魔物から武器素材を手に入れる仕様も追加されたぜ。落とすのは稀だけどな。だから諦めろよ?」
「かなりの仕様追加でつね。了解しまちた。何を諦めるのかはちっとも心当たりはありませんが」
地味に武器素材の仕様変更は嬉しいな。精霊は美味しい敵、と。稀に落とす=俺ではドロップは無理というのは数でカバーするに決まってるだろ。
さてと、一通りの説明を聞いたので、周囲を見渡す。全員回復しており、欠員はいない。うむうむ、優秀な奴らだ。
「それじゃ、妖精樹は道を真っ直ぐらしいから先を急ぎまつか。敵が再召喚をすると、面倒くさいことになりまつし」
さすがに元は植物園。ダンジョンみたいに妖精樹は奥深くにあるのではなく、植物園の目玉として中心に置かれているそうな。
サクサクと雪を踏みながら、てこてこと歩き始めると、皆もついてくる。ギュンターが監視を強くするためにダツたちに斥候をさせて、カープビットと懲りないガイも格好をつけて、周囲へとスノーカープを向かわせる。
それを見ながら、相変わらず足りないものが多いなぁと落ち込んじゃう。
空飛ぶ敵を感知できる方法が欲しい。遠くから監視されたらカウンターができる魔法が欲しい。
欲しい欲しいとは常日頃から考えているが、その方法がないんだよなぁと考え込みながら、ラングの背中によじよじと登り、歩くのをやめる幼女である。幼女は長く歩いていると疲れちゃうのだから仕方ないよね。
「しかし、雪に覆われているのに、植物は枯れないんでやすね。神器の力ってやつですか」
歩きながら周りを見るが、たしかに青々とした植物が繁茂しており、この寒さでも枯れる様子は見えない。ふぁんたじ〜な光景だ。
「せっかく採取できるのにできないのは惜しいよな。少し持っていかないのか?」
「マコト……ここにはセージ持ちはいないのでつ……。適当に刈っていって雑草だらけとかやりたくないでつ」
悔しいが仕方ないのだ。やっぱり鑑定スキルが欲しいよなぁ。うぬぬとちっこいおててを握りしめて悔しがる幼女である。
「念の為に再確認しまつが、ここらへんの植物を刈ったら、敵扱いで素材をドロップしないでつよね?」
「ないんだぜ。魔物系の植物を探すんだな」
ま、そう上手くはいかないか。魔樹ねぇ。神器の使われる植物園には魔物系の植物は沸かない予感。あぁ〜、錬金術レベル2だと碌な知識がない。なんだよ、重曹と中和剤の作り方って。その先の知識が必要なんだよ。素材を読み取る知識とか。
「それよりも、武器素材で消耗アイテムも作成できるようになったのは地味に良いでつね。っととスキル一覧が数十ページ出てきたんでつが? しかもほとんどグレーアウトしているんでつが」
一瞬驚いたが、検索機能もついていることに気づく。なるほど、素材がないとアイテムがグレーアウトすると。なかなか親切設計。
ポンポンとコンソールを叩き、今の素材のみで作れるアイテムだけにして、と。
それでも結構な数が一覧に出てくるが、その中でも耐性アイテムのみに変える。ズラッと出てくるのは面白いアイテムもあったが……。
「オーソドックスにしておきまつ。氷耐性をと。ふむ、氷石で1時間氷耐性5、凍石で1時間氷無効、耐性アイテムは最後に使ったアイテムの効果に上書きされるのでつか」
氷無効を1つ、氷耐性を5つ作っておく。
決定ボタンを押下すると、キラキラと宙に金色の魔法陣が輝きながら描かれて、光の粒子を残しながら指輪が6つ生み出されて、ゆっくりと落ちてくる。
ヒョイと掴んで、手の中で観察すると、青い水晶の指輪だった。すべてが半透明の水晶で作られており美しい。
「む、使用キャラを限定しまつかと出まちた。それと自動帰還」
「あぁ、盗難防止だろ。他の人間に使われないようにセーフティをかけているんだぜ」
「手がこんでまつね。使い切りなのに」
スティールとか言って盗まれたら困るが、使い切りだ。まぁ、助かるんだけどね。
無効は俺専用だ。耐性は俺が1つ、ガイたちに1つずつ渡しておく。もちろん使用キャラは限定しておいてと。
「氷耐性5は5割ダメージ減少か、低レベルの氷攻撃無効もついていると、高位精霊が現れたら使いまつよ」
もはや気分はボス戦である。早速指輪は嵌めておく。サイズ調整ができるようで、ピッタリと人差し指に嵌まってくれた。
そうしてしばらく道を歩いていく。途中で精霊とのエンカウントはまったくなかった。どうやら正面玄関に集めていたらしい。
それかボスと一緒にいるか。
魔物はスノーフロッグという新たな魔物が数匹にスノークロコダイル、スノーバタフライがちょろちょろ出てくるだけで特に苦戦はしない。
「スノーフロッグは平均ステータスは7、特性は無し。雪玉を飛ばすスキル持ちだな。食べると美味い。っと、消耗素材雪蛙7、武器素材雪蛙3ゲットだぜ」
「あたちはフグの唐揚げが良いでつ」
「そういえば、カエルの唐揚げって食べたことがないですな。フグの唐揚げはあるのですが」
「ギュンター爺さんがそこまで言うなら、あとで作ってあげまつ」
そこまで言うなら仕方ない。あとで作ってあげまつ。たしか高級食材だった覚えがあるんだよなぁ。デザートとかに中華料理で使われていたような気がする。漫画からの記憶だけど。
よっしゃあと、勇気ある者が犠牲を免れたとガッツポーズをとっている。さすがは勇者、自分が最初の試食をすることになるのではと恐れていた模様。
「では美味い焼酎も一緒にお願いします、姫。唐揚げとなれば美味いでしょうから」
飄々と酒を求める爺さんである。特に蛙を食べることに拒否反応はない様子。ええっ、と小物がその様子を見て驚いていた。なんでいつも比較されるようにリアクションをするのかなガイは。
「ちなみに食べると6時間氷耐性+1になるんだぜ。もちろん最後に食べた物で効果は上書きされるから、ごっちゃに強化料理は食べないことだな」
「ふむ、ギュンター、あとでなんの焼酎が欲しいか決めておいてくださいね。料理は便利でつね。食べきらないと駄目でつか?」
「6割食べれば効果は発動するんだぜ。ギトギト背脂ラーメンでもスープを残せる仕様なんだ」
凝ってるなぁ。なんとなく理解したぞ。低級素材は耐性5、料理なら耐性1、中級素材なら無効、料理なら耐性5、上級は吸収で、料理なら無効っと。
これステータスアップ系も同じ仕様だと思う。50%、100%、200%攻撃アップとかじゃないかなぁ。かなりの効果だけど、消耗品として使うならそんなもんか。上級とか消耗品として使いたくないしな。
まぁ、戦略の幅が広がったと考えよう。素材……入るかなぁ。
新たな力を手にした黒幕幼女たち一行は妖精樹へと近づいていくのであった。
繁茂する草木を掻き分けて、ダツリョウサンは三人編成で斥候をしていた。目指すは高位精霊である。
念話による意思疎通ができるダツたちは無駄口を叩かずに、周囲を偵察しながら先に進む。枝を掻き分けて、積もった雪がパラパラと落ちていく中で、広場へと辿り着く。
かつては観光客がお昼でも食べれるようになっていたのではなかろうか。結構な広さの広場の中心に見事な樹が聳え立っている。一回り20メートルはありそうな幹、ピンクや赤、緑に青と様々な色の木の葉を生やす不思議な樹である。
広場は多少の積雪があり、敵の姿は見えない。木の根本に座る氷のゴーレムと少女以外は。
5メートル程度の巨体。半透明な氷でできている体を持つ由緒正しい古くから愛されたフォルムの無骨なゴーレムである。
そのゴーレムは器用にあぐらをかいて座っており、その膝の上に肌襦袢のような白い着物を着た少女がちょこんと座っている。
髪の色は水色で俯いてよく見えないが美少女であろう年若い感じを与えてくる。
「どう見ても敵だな」
「あぁ、あれでボスでなければ嘘だ」
「きっと微笑みを見せて敵意はないよと演じながら、笑顔で俺たちを倒すんだぜ」
よくあるテンプレだよねと、地球の知識を持つ3人は念話で語り合う。きっと俺たちをやられ役にするつもりだよと、アニメとかならあっさりとやられちゃう役だよと頷き合い踵を返す。ダツたちはそんな手には引っ掛からないのだ。
敵を確認できただけで目的を達成したとダツたちがもと来た道にて帰還しようとして、ぎょっと驚く。
「か、悲しいじゃないですか。このまま帰るなんて」
ふんわりとした優しそうな顔立ちの少女がいつの間にか立っていた。水髪の色が雪によく似合っている。そしてその悲しげな表情も。
「フッ」
息を吐いて、先頭のダツが剣を突き出し、残りの二人は左右から斬りかかる。話す間もなくこの敵は危険だと、容赦のなさを見せるダツたちの連携プレーによる攻撃。
「息のあった良い連携プレーだとは思いますが、え、と、基本に忠実すぎます」
敵は勢いよく前へと踏み出してきて、ダツの突き出した剣をそっとそえるように右手で突きの軌道を変え受け流す。突き出した剣の軌道には左から斬りかかっていたもう一人のダツの剣があり、慌てて斬りかかるのをやめる左のダツは剣を引き戻す。
少女は更に一歩踏み出して、右からすり抜けていき、最後のダツの切り払いも間に合わず、完全に少女の動きにおいて行かれてしまう。
だが、すぐに反転して攻撃を繰り出そうとする右のダツ。その動きは素早かったが、少女の方が速かった。
雪を蹴散らし、鋭角に反転してきた少女が右横から入ってきており、肩からぶつかってくる。
身体全体を使った体当たり。その小柄な身体ではあり得ない衝撃をダツは受けて、他のダツたちを巻き込んで吹き飛ばされる。
雪の上をゴロゴロと数メートルも転がり、雪まみれとなり、受けた衝撃の強さに息ができなくあえぐ3人。それでも立ち上がろうとするが
「スノーウェイブ」
横から軽く手を振った少女から放たれた雪崩の如き雪の波に覆われて、その身体は凍りつきバラバラに砕かれてしまうのであった。
「あぁ、雪はウツクシー。冬はすべてを覆い隠す。えーえんにこの季節が続けば良い。……そう思いませんか、え、と、貴女も」
死体すらも雪の中へと消えていく様を眺めて、うっとりとした表情で少女が呟き
「思いませんね。春が来なければ冬に価値はありません。即ち、冬のみを望む貴女もまた価値がないと思いますよ」
少女の後ろから刀を携えた侍アイが冷たい声音で答えるのであった。なんだか棒読みっぽい話し方をする精霊なのが気になるけど。