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黒幕幼女の異世界ゲーム  作者: バッド
1章 プロローグなんだぜ

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10話 魔眼の少女は戸惑う

 ララはスラム街の生まれだ。母が身一つで、なんとか産んだのがララである。


 よくある話だ。貴族の屋敷に奉公していたメイドが主人に手を出されて妊娠した挙げ句に捨てられる。着の身着のままで捨てられた母は貯めていた給金でなんとかララを産み、今は古着屋のお針子を安い賃金でやっている。


 それでも良い方なのだろう。仕事があるのだから。そして、幸運なことに、そこまで上納金に悪どくない縄張りのボスの支配する区画で暮らすことができたのだから。


 稼げる相手にスラム街は厳しいが、僅かな賃金を全部奪っていくほど、ボスは頭が悪くなかった。一応金づるということで守ってもくれたし。僅か銅貨数枚の金であるが。


 そしてそのボスは最近失脚した。虎人のケインがふらりとやってきて、ボスを倒してしまったのだ。その時期は他にも何人かの他区画のボスが失脚して、獣人のボスに変わったので、なにかしら獣人の集落にあったのでは噂されたものだ。


 そのケインはスラム街にあるまじき善良な人で、もっと上納金は軽くなった。具体的には7割から5割に。即ち、仕事の後の銅貨が毎回手元に5枚も残るようになったわけだ。……泣けてくる。


 それでも余裕ができた母は私に読み書きと礼儀作法を教えてくれた。母は商人の何番目かの娘だったので、教養があったのだ。妊娠した母を貴族の怒りを買いたくないために勘当する優しい親だったらしいが、教養は武器になると教えられたらしい。


 教養を武器に貴族の屋敷に奉公に行って、私を妊娠して勘当されるとは皮肉なことである。


 私としては、教養なんて何も役に立たないと思う。なんの役に立てれば良いのだろうか?


 商家に奉公する? 信用もないスラム街の小娘が? 無理だ。絶対に雇ってくれない。他のところも同様。下手をしたら人狩りにあって奴隷にされるかもしれないし、教養があると、賃金をぼったくれないと反対に雇う側は嫌がるのだ。


 なので、教養を母から学びながらも、ララは諦めを8歳で悟り、王都門でお客を探していた。


 ガイドの役である。知り合いの宿屋に紹介すると、銅貨をくれるのだ。旅の商隊の殆どは既に宿を決めているが、ときたま小さな商隊や傭兵、そして王都で一花咲かそうとやってくる田舎からの人をつかまえることができる。


 もちろん、ライバルはたくさんいる。同じことを考える子供たちが門の陰に蹲り、爛々と目を輝かせお客を探していた。


 ララも負けじと、お客を探していたが門を通る人々の中で奇妙な二人組を見つけた。


 大柄な体格に毛皮を着込み、斧と剣を持ち武装している悪党っぽい男。そして、その男に偉そうに話している幼女。


 幼女の方は見たことのない仕立ての上等な服を着ているし、男の方はへりくだって話している。


「魔眼 見抜く瞳」


 こっそりと顔を見たことのない貴族から受け継いだ力。魔法を感知する魔法の瞳を発動させる。なんとなくあの洋服は変だからだ。  


 魔法の瞳。スラム街に住む自分にはまったくといって良いほど役に立たない。そもそも魔法を使える人間などスラム街にはいない。貴族だって、なんの役に立てているのか疑問に思う。


 しかし今日はその力が発揮された。発揮してしまった。


 ハッと息を呑む。幼女の着る服は魔法の力で薄く覆われており、男の持つ斧も剣も同様に魔法の輝きを発していたからだ。


 二人組は話す口調は少し変だが、流暢な純粋共通言語であった。母に純粋共通言語を使う人間は貴族に関係するから、気をつけなさいと口を酸っぱくして注意されたことを思い出す。


 そして魔法の武器に、幼女に誂えたような魔法の服。どちらも金板を積まないと買えない。幼女の服は何百枚かもしれない。なにしろ誂えたような大きさなのだ。途方もない価値があるとわかる。


「貴族だ……」


 魔法の武器なんて、魔物を倒した時にときたまやる騎士団のパレードでの騎士団長と宮廷魔法使いの持つ剣と杖しか見たことがない。パレードを見た時にも、なんとなく騎士団長と宮廷魔法使いの持つ剣と杖が気になり無意識に使ったのだが、その時に仄かに輝くその光に驚いたものだ。


 周りの人々は誰もその光が見えておらず、不思議に思い母に尋ねたところ、大層驚いてそれは奉公先の貴族が持っていた固有スキルだと教えてもらった。そして、その力を持つことを誰にも言わないようにと。


 その魔眼は正しく相手の魔法の武器と服を看破していた。貴族に違いないと確信する。


 そして、武装をしている悪人面も手伝って、他のガイドは二の足を踏んでいた。武装をしている悪人は危険だ。案内してくれと頼んできて、そのまま人気のない場所へ行き子供たちを攫ったり殺したり酷いことをするからだ。


 だが私は危険だとは思わなかった。隣を歩く幼女を守る姿は悪人らしくなく、へりくだって話すその姿は情けなかったからだ。今にも揉み手をしそうな小悪党に見えたし。


 なので、同情を買うべく、大人しい少女のフリをして、勇気を持って声をかけることにした。


 歩く二人組へとゆっくりと近づき、オドオドとした表情で声をかけるのだ。最悪逃げれば良い。幸い貴族からは多少ではあるが身体能力も受け継いでいる。逃げるぐらいはできるはず。


 そうして、二人組へと声をかけるのであった。




「でね? 簡単に演技が見抜かれちゃったの! しかも幼女の方に!」


「そう……貴族は子供の頃から知識も力も凄いからね。まったく無茶をしたね」


 あれからアイたちを宿屋へと案内し終わったララは興奮気味に母と一緒に持ち帰った鶏の丸焼きを食べていた。腐ると困るし。食べないと勿体無いと、先程たらふく食べたのに、ララは再び食べていた。スラムに住む者として、食べれる時はチャンスを逃さない。


 骨はスープに入れて、まだ残る鶏肉をフォークで刺して、私は信じられない物を見たのだと。


「酒場でいきなり1番高い物をくれと男は女将さんに言ったの。周りの人たちはビックリしていたわ! しかも頼んでおいて、食べないの! 不味いって、ガイさんが呟いたのを聞こえたの。鳥の丸焼きなんて、私は食べたこともないし、物凄く美味しいと思ったのに」


 アイもガイも申し訳程度に、肉とスープに手をつけただけで、パンには手もつけなかったのだ。残すとわかってララは喜んで全部貰ってきた。


「それは間違い無く貴族ね……。落ちぶれたのに認めることができない貴族なのかしら……。それにしては、魔法の武器を持つなんて少し変ね……。なんにせよ、ララが無事で良かったわ」


 母は安堵の息を吐きながら、優しい笑みを浮かべてくれた。


「でもあれほど貴族には近寄ってはいけませんと注意したでしょう? 今回は大丈夫だったみたいだけど、次は駄目よ? 貴族に関わると碌なことがないに決まってるんだから」


 説教へと母が話をシフトしてきたので、私はボロい椅子をガタガタと揺らしながら素直に頷く。母の小言には素直に頷く以外に選択肢はない。5歳の頃にそれを悟ったのだ。


「でも、ガイドの賃金もたっぷりとくれたよ。なんと銅貨50枚! ジャジャーン!」


 ポケットから銅貨を出して胸を張る。ジャラジャラと古びて傾いているテーブルに銅貨が落ちる。これは家の月の稼ぎの半分だ。気前の良い幼女であったのだ。普通なら銅貨1、2枚。酷い時は用は済んだと金をくれない人もいるのに。


 こんなに大金を前にして、胸が踊る。貯金できれば今度の祭りで屋台の食べ物も買えるかも!


 ニコニコ笑顔の私に母も驚いていた。

 

「なにもされなかったのね?」


 心配げに確認してくるが、幼いなりに私は母の言葉の意味を理解してコクリと頷く。


「えっとね。通貨の価値とか、この国の名前とか聞かれたよ? あとはなんだったかなぁ、とにかく色々!」


 王都は他国に隣接する場所にある。他国と比べると、安全な場所に王都がないのは珍しいが過去に南の領土を他国に奪われた結果だ。都市が神器なので遷都をすることもできずに今があるらしい。


「う〜ん、これから再興を考えようと王都に来た元貴族なのかもしれないわね。本当にもう近づいたら駄目だからね?」


「は〜い。わかりました〜」


 カチカチのパンを塩っ気の薄いスープへと浸しながら素直に答えて、内心でベロを出す。ふふふ、近づかないなんてそんなわけないよ。またなにかしら仕事が無いか会いに行こう。


 あれだけ太っ腹なお客はそうはいない。危険そうなら逃げればいいのだと、ララはパンを口に放り込む。味のないふやけたパンはあまり美味しくなかった。





 翌日、私はアイちゃんたちの元へは行けなかった。日課の水汲みを終えて、母の手伝いを終えてからすぐにボスからのお呼びがかかったのだ。


 私たちだけではなく、周りには大勢の人々が同じように呼ばれて、ボスの住む家へと集まっている。私たちよりもボロボロの穴だらけの服を着て、痩せこけて青白い顔をした人々。泥に塗れて汚れを気にすることもできないくらいに困窮している人々。あれでは平民地区へと出歩くこともできない。


 よく見ると隣の地区の人もちらほらと見える。2つの地区の人間が集められているのだ。


 集められた理由はなんとなく推察できて、顔を顰めて嘆息する。


「母さん、これって……」


「ララの考えは正しいと思うわ。見なさい、ケインの部下が怯えた顔をしているよ」


 ボスの家の前に並ぶケインの部下。いつもは威張った顔をしているのに、今日は肩をおとして意気消沈していた。その様子から確信した。


「ボスが変わったんだ……」


 隣の地区の人もいるということは、ケインは負けて殺されたか、配下になったのだ。隣の地区のボスはあくどいと聞いている。上納金も高いし、もしかしたら奴隷として売られるかもと思うと心が落ち込む。母なんか娼館に売られるかも。


 せっかく昨日嬉しいことがあったのにと、せっかくお祭りで食べ物を買える貯金ができると思ったのにと、悲しく思い涙が知らずに浮かんでくる中で、家から誰かが出てきた。


 ケインが先に出てきて、辺りを見渡して集めた人数が揃っていることに頷いて、後ろへと声をかける。


「支部長、シマの連中はだいたい揃っているようです」


 支部長? 聞き慣れない言葉に首を傾げてしまう。なんだろう支部長って。


 コツコツと足音がして、家から二人の男女が歩み出てきて、その姿に周囲はざわめき、私も驚きで目を見開く。


 幼女であった。艷やかな黒髪をおさげにして、その肌は傷一つなく輝くようで、プニプニなほっぺをした生意気そうな目つきの可愛らしい顔をした美幼女。見たことのない仕立てのフリルがついた美しいドレスを着た、そのドレスに負けない可愛らしい魅力的な幼女。


 その皆が見惚れる存在感の溢れる姿に、隣の小物っぽい男の存在感はなくなる。


 昨日出会ったアイちゃんが堂々と物怖じせずに立っていた。薄く笑みを浮かべて、ちょこんとスカートの裾を摘みながらカーテシーをしてくる。


「初めまちて、皆様方。あたちはこのたびこの地に配属しまちた月光の支部長、アイと申しますでつ」


 可愛らしい小鳥の囀りのような声でアイちゃんは挨拶をしてきて、その可愛らしさと幼女らしからぬ美しさに周りは静かになり


「月光の下にあなた方は暮らすことになるでしょう。よろしくお願いしまつね」


 人々を支配することに慣れているとわかる姿で見惚れる微笑みを魅せるのであった。

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― 新着の感想 ―
[一言] 奉公に出した娘が孕まされたらせめて手切金なりを渡さないと奉公する人間なんて誰もいなくなりませんか?それなのに商人の父親は貴族の怒りを恐れて勘当って正直状況がよくわらないんですが。
[一言] 月光…一体どんな組織なんだ!?(迫真
[良い点] ララが語る出だしのオッさん幼女の考察とリアル中世のビター風味、最後ついに始まる だ〜くふぁんたじ〜粒餡風味 茶番を添えて(^ ^)裏と表の温度差に神視点の毒者もワクワクです。 [気になる点…
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