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私の幼馴染はとにかくモテる

作者: 御雪

ゆる〜くゆるく、よろしく٩(ˊᗜˋ*)و

 


 私の幼馴染はとにかくモテる。



 だから、こうなることは自然の摂理だと言っても差し支えないのかもしれない。



 **




 私には、小さい頃から一緒に過ごしてきた幼馴染がいる。

 容姿端麗、頭脳明晰、スポーツ万能。

 具体的には健康的な色できめ細かい肌、誰もが振り返るほどに整った顔、それ完全に女子に対する嫌がらせだろと思うほどにサラッサラな黒髪。全国模試は常に上位で優れたリーダーシップ性もある。こいつ出来ない競技はないんじゃね?と感じる程になんでもこなす体育の授業。

 更にはとある名家の令息でお金持ちときた。え、ちょっと神様、二物も三物も与えすぎじゃないですか?不公平極まりない。


まあそんな奴だから当然、モテる。10人中20人が振り返り魅了される様は全くどこかの乙女ゲームかと疑いたくなるものだ。




 しかしそんなバカなと思うような人間は実在し、私の幼馴染であり、隣人でもある。



 モテる、ということはそれだけ面倒事も多いということを私は早々に学んだ。家が隣なだけに幼稚園、小学校、中学校と同じところに通ったが、面倒臭いことこの上なかった。何が、とは聞くまでもなく、もちろんそいつ関係の女の子がうっとおしくて仕方がなかったのだ。


 Q.「しょうくんはわたしとあそぶんだから、れいかちゃんあっちいってー」

 A.しょうにいってください。


 Q.「なんか二人っていつも一緒にいるよねー」

 A.ダメですか?


 Q.「翔くんにまとわりつくの辞めてあげてよ!」

 A.あっちが寄ってくるんです。


 Q.「翔くんは優しいからあなたに邪魔って言えないだけなんだよ?」

 A.ぶふっ。や、やさしい……え?


 Q.「あなたと翔様がつり合うとでも思ってらっしゃるんですの?わたくしこそが彼の隣に相応しいんですわ!」

 A.だから翔様(笑)に言って下さいって。こっち来んな。



 とまあ、こんなのはかわいい方で。それに何故かあいつはずっとくっついて来るものだから、妬みや嫌がらせも一度や二度ではなかった。いい友人達に恵まれていなければグレてたんじゃないかな、と思う。


 ……まあ、やられっぱなしにはしませんけどね?そんな可愛らしい性格はしていませんよ、ええ。


 もちろん翔も私に絡んできたヤツらをこう……ぐしゃっとしてた。


 コホン。


 とにかくずっとこんな感じだったから高校は違うところへ行こうと決めた……はずだった。けれども私は今、あいつと同じ高校に通っている。何故か?それは……


「玲花」


 無駄にイケボでもあるこいつが私の志望校に合わせてきたからだ。ここで断っておくが、私は決して頭が悪い訳では無い。むしろ賢いと断言していい。テストではいつも学年二位だし(一位はこいつ)県内一の高校でも余裕で受かる自信があった。ただこいつがそこを受けると聞いたから辞めただけで。


「おはよう」


 私があいさつをすればこいつは未婚女性はもちろん既婚女性ですら見惚れるであろう笑みを浮かべて(まれに男も魅了する)私の手を取る。そしてナチュラルに恋人繋ぎにチェンジ。


「玲花は相変わらず今日も可愛いな。学校なんて行かずに2人で過ごしたいけど、将来玲花を養うためにはそれなりのステータスも必要だしね……仕方ないか」


 はーいちょっと待て。なんかおかしくない?そのセリフ。とここで思った人挙手。それは何に対しての疑問だろうか。確かに後半のセリフは私もちょっと……いや大分おかしいと思う。少なくともこんな道中で高校生が言うことではない。だが恋人繋ぎをしたことに関してはスルーしてくれると助かる。何故なら私とこいつは恋人としての関係もあるからだ。


 中三の時、勝手に志望校を合わせてきたこいつに私はキレた。私になんの恨みがあるって言うんだ!と。

 するとこいつは珍しいことに少しポカンとした後……凄くイイ笑顔で笑った。真っ黒な何かを背負いながら、「そっか、玲花には足りなかったのか」と呟いた。


 そこからこいつは人が変わったように口説きまくってきた。何ヲ?私をだ。目が合えばとろけるような甘い色を浮かべた瞳を向けてきたり、口を開けば可愛い、大好き、食べたいと囁き、ふとすれば抱きつかれ……etc。


 そして中学卒業する前には付き合い始めました。……え、早いって?……ええ、絆されましたが何か?だってこいつ顔はいいんですよ?極上ですよ?そんな奴が大切にする、玲花だけを見る、俺に頼って欲しい、取られたくない、愛してるなんて言って来るんだよ、そんなん惚れてまうやろ!!キュンキュンくるわ!!


 ……コホン。


 とまあ、こういう感じでめでたく恋人になった。

 その時こいつや私の友人達、両親は「良かったな、翔……」としみじみと頷いていた。






 ……ちょっと待とうか、君たち。何故そこでしみじみと頷く!?え、まさかの筒抜けかい!?翔!


「俺は小さい時からずっと玲花が好きだったのに全然気づいてくれなかったから。こんなに愛してたって言うのに酷い」


 ……どうやら昔からバレバレだったようで。あんなにアピールしたのにって言われても知らないよ!まあ、その、嬉しいけど……。



「え、ていう事はお母さんたちも知ってたの!?」

「大体の人はみんな知ってるんじゃないかなあ。別に惚れてるのは隠してなかったし。俺を選んでくれてありがとう、玲花。これからも絶対守るからね」


 ……何これキュン死する!うわあああカッコイイんですけど!


「まあ俺以外を選ばせる気なんてサラサラなかったんだけどね。玲花に寄ってくる虫を退治するのは大変だったんだから。良かったね玲花、父さんと母さんも玲花のことは大歓迎って言ってるから姑問題は解決済みだよ。だから安心して嫁いできてね」


 ……前言撤回、真っ黒なお言葉をいただきました。二物や三物を与えられたとしても有り余る彼の欠点って性格と倫理観かもしれない。そして気が早い。もう結婚(そこ)までいっちゃう?ま、まあ、嬉しいけど私ばっかりな気が……いや、私だって……!


「……翔さん翔さん」

「ん?」


 ぎゅっ。

「うわっと」


 ─────大好き。


「っ……!」

「ふふ、仕返し。顔赤い」


 理性が……!とか呟いてるけどなんか勝った気分。ほら、私が勝てることって少ないし?



 友人A「今日も平和だ……砂糖吐きそう」

 友人B「あらあら良かったわねぇ翔くん」

 友人C「このバカップルどもめがっ滅びろ!」


 ちなみにこの後、友人Cの「あの人でなしでも手こずることがあったのか……」という呟きを拾った(ひとでなし)が友人Cを引きずってどこかへ消えていったことをここに記しておく。何処からか誰かの悲鳴が聞こえてくること以外は実に平和な一日を過ごした。



 そう、平和なハズだった。だったのに。









 ………わぁお、ド修羅場。




 いや、予想はしてたけどね?こうなるんじゃないかなーってことは。ただ中学校生活中はほとんどなかったから、ちょっと感慨深いなあって思っただけで。



「ちょっとあんた何してんのよ!どこの誰だか知らないけどわたしの翔に近づかないでくれる?まったく、翔にまとわりついたって迷惑なだけって分かってるのかしら?」

「はぁ?あなたこそ誰なんですかぁ?翔くんは私のことが好きなんですぅ。そっちこそ勘違いなぁんて恥ずかしいですねぇ!あなたみたいなKYはお呼びじゃないからぁ、お帰りはあちらですぅ!」


 ……うん、どっちもどっちかな。




「お、久々の修羅場じゃん!スレンダー美人vsゆるふわ巨乳ちゃんかあ、タイプとしては超ベタね。中学ではこういうのあんまり無かったから懐かしいなあ」


 私は今、友人Aこと小学校から一緒だった彩耶(彩耶)と共に翔の修羅場を上から見学中。別に見たかったわけではないが、教室で彩耶と話していると甲高い声が聞こえたのでもしかしてと思い、二階の窓から下を覗いて見たらやっぱり居た。


「そうだね。……あれ、かまってちゃんからのかまってコール(いやがらせ)ってなんで中学校くらいからほとんど無くなったんだっけ?私が懐かしいって思えるほどの期間かまってコールがなかっただなんて……!」


 私は驚いた。


「……聞きたい?」

「え、知ってるの?」


 彩耶はどうやら理由を知ってる様子。なんで当事者である私は知らないのか気になるけど、それにしてはずいぶんと躊躇っているような……。はっ、もしかしてそんなに酷い理由なの!?翔が魔王化してあの美しいご尊顔と多大なる権力で学校中を脅したとか?


「彩耶、気になる!」

「えーっとぉ………………………同情?」


「同情」


「同情。」

「同……情……」

「同々情々」

「同ー情ー!」

「同情……。」



「大変だ同情さんがゲシュタルトに亡命して崩壊しだした」

「一時の逃避旅行だから気にすんな。同情さんはお疲れなんだよ、そのうちゲシュタルトから帰ってくる」

「で、同情さんのその心は?」

「翔があんたにこれでもかと言うくらいのアピールをしていたにも関わらずスルーされ続ける姿に『可哀想かよ……』『いや、ないわ……』『さすがにアレは……』『翔くん憐れすぎん……?』などなどの意見多数。結果、さすがに見ていられないからちょっと応援してあげようか……という方向で満場一致した」

「わあ」

「さらに翔はこれを知っていながら黙認……というか大歓迎。大いに利用してた」

「利用」

「クラスメイトなどは特に気を利かせて、2人きりにする機会を大量生産。その際に翔への激励とあんたに胸きゅん話をすることを忘れず行ってた」

「………胸きゅん話……アレか!」

「私がついにあいつら付き合い始める、と伝えた時の喜びようといったら言葉に表すのが難しいほどだった」

「マジか」


 わあ……。


「確かになんか二人きりになる機会は多いなあって思ってた……」

「気づけよ」

「うん、なんかごめん……」


 微妙な空気がただよい始めたところでどちらからともなく目を逸らす。うん、マジごめん。



「まあそんな感じで同じ中学校の子たちは憐れんで応援してたから、あとはたまーに違う学校の子が絡んできたくらいだったのよ。胸きゅん話は無駄以外の何物でもなかったけどね」

「わあ……衝撃の事実……」


 翔、憐れまれてたのか……。ほ、ホント再三ごめん。


「大丈夫だって。翔なんだからあんたが可愛く『ごめーん(はーと)』って言っときゃ何とかなるわよ」

「そんなに『ごめーん(はーと)』って有効?」

「あんたに限り」



 そんな会話をのびのびとしていたらまたしても甲高い声が聞こえてくる。正直ちょっと鬱陶しくなってきた。


「めんどくさいわねー、翔もさっさと切り上げればいいのに」


 クルクルとシャーペンを回しながら彩耶が呟く。ちなみに彩耶はいま課題の再提出用プリントに取り掛かっている。昨夜宿題をせずにそのまま寝てしまったらしい。


「なんか全然見当違いな感じで修羅場ってるから面白いんじゃないの?」


 甲高い声をBGMにどんどん空欄を埋めていく。彩耶は頭はいいのになんでも適当に済まそうとするから先生からの評価はイマイチだ。勿体ない。


「見当違い?あ、たしかにあんたが絡まれてるのはよく見てきたけど当事者(あんた)抜きの勘違い×勘違いの修羅場はあたし初めて見たかも」

「確かに珍しいよね」

「あたしからすればどっちもイタイ野郎だけどねー。頭大丈夫か……っぶはっ!見なよ玲花、翔の顔!いかにも何人か殺ってそうな目してんじゃん!全然面白がってなかったわってか気づけよ勘違い×2!」

「ぶふっ…た……確かに……っ」


 上から見えた翔は今一見普段通りの笑顔だが、とにかく目が怖かった。背後になんかおどろおどろしいものがいても驚かないと思う。呪詛にまみれて濁った……みたいな瞳?で今数人殺ってきました、的な雰囲気が滲み出てる。


「ふっ……ふは……っ…あはっ…」

「はぁー、笑った笑った。そろそろ過呼吸から戻ってこいよ友人A。てゆーか、叫んだ方がいい?“命が惜しくば今すぐそこから避難せよ!”的な」

「友人Aて。あー、気づいてないからいいんじゃない?でもあたしがあの状態の翔と対峙してたら叫んで欲しいかな。あいつに向かって笑顔を見せてくれるとなお嬉しい。あいつは玲花が自分に意識を向けると機嫌が良くなるから、その間に逃げる」


 おおう、クマ並みの対策だな。でも分かる。アレはキツイ。至近距離でじとっと見られるとやましい事がなくても冷や汗の量が半端ない。やましい事があった時はもはや蛇に睨まれた蛙どころじゃない、魔王とオタマジャクシだ。


「玲花……なんか俺に言うことあるよね?」

 という言葉と共に冷気を放ち、ガクブルになったところで、


「そっか、言えないのか……。でも隠し事は悲しいな……」

 なんてシュンとした顔とともに言われてみろ、罪悪感がヤバい。

 そして翔は自分の顔のことを正しく理解している。つまり自分の顔がどんな効果をもたらすのか全部わかった上で使ってくるんだよ!そしてそれに逆らえない私が憎い!


 惚れた弱みってヤツです。なんかまあ翔ならいっか、みたいな。


 ……今はそんなことどうでもいいですね!


 コホン。


「彩耶、とりあえず移動しよっか。次たしか体育じゃない?」


 話に花を咲かせながらもちゃっかりプリントを終わらせた彩耶に声をかける。いつやったの、ホント。


「あ、もうそんな時間?着替えなきゃ。いやあ、やっぱ他人の修羅場ってついつい見ちゃうよね!」

「一応目の前に関係者?いるんですけど。彩耶に彼氏ができたら絶対いじってやるからな」

「あたし、翔くらいかっこいい人がいいなあ……」

「翔以上はいないもんね」

「サラっと惚気けやがったこいつ」


 翔、次の授業間に合うかなぁ……たしか数学だっけ、と思いながら彩耶と更衣室に向かって歩いた今日の午後。






 ……だったのですが。またかよ。







「やーん、玲花、閉じ込められちゃった!」




 ……なーんて可愛く言ってみてもダメですか。え、ダメって?うん、わかってた、虚しい。何、今日は厄日なの?


 このクッソ迷惑な事件の始まり、聞く?聞いちゃう?てゆーか聞いて。それは放課後の出来事だった。5時間目の体育から戻ってきたあと、私たちは次の授業の場である美術室に向かった。放課後、昼休みに終わらせた課題プリントを提出すべく先生に怒られてくるわーと先に帰った彩耶を見送り、美術室で授業で使ったパレットの片付けをしていると……


 パタン。ガチャ。


 はい、扉が閉まる音と鍵がかかる音ですね。もう言わずともわかりますね、犯人が誰かなど!


 そうです、もちろん翔関係の女の子です!

 こんなことするなんて勇気あるぅー!


 ……ちょっとテンションおかしい自覚はある。高くしなきゃやってられないんだよ。

 こんなことは初めてではないが、犯人の目星があると言っても翔に気のある子は山ほどいる。疲れる。このあとのことを考えるとすごく疲れる。多分昼休みに見た美人さんと巨乳さんではないと思う。あの後翔にこう……ぐしゃっとされただろうから。……ご愁傷さまです。それか一周まわって逆恨み?

 てか、なんのためにこんなことをしたんだろう。意味ないと思う。




 だって、普通に携帯持ってるし。




 さくっと電話しますよ、翔に。


 え、しちゃうのって?こんな時はヒーローが駆けつけるのがお約束?ヒロインは打ちひしがれながら待っているべき?



 知ったこっちゃないわ!私は帰りたい。それに6時から30名限定ミルフィーユの販売が始まるんだよ!間に合わなかったらどうしてくれる。絶対に許さない。



「……あ、もしもし翔?美術室に閉じ込められた。ミルフィーユが始まる。なるはやで来て欲しいな!」

『玲花、怪我はないんだね?わかった、すぐ行くよ。ちょうど今羽虫どもを……ああもううるさいな黙ってろよ消すぞ社会的に……ごめん玲花、今向かうから待っててね』


 プツッ。

 これでOK。翔の事だから、本当にすぐ来てくれるはず。それより、



 ……社会的に、か……。





 いえ、私は何も聞かなかった。そう、それが正しい。

 大人しく待つの。それでいいんだ。


 **



 ガチャ!バーン!!


「玲花、大丈夫?」

「大丈夫だからちょっと離れよう。苦しい」

「意味が分からない。そこに玲花がいるのに離れるという選択肢はありえない」

「いやこっちが意味わからんわ」


 うん、自信を持って言える。私が正しいと。

 そんなエセコメディちっくなことをしていると、不意に翔の後ろから見知った顔が見えた。



「あー、一応俺もいるんだが……」

「あ、友人C」

「は?」


 翔の後に入ってきたのは友人Cこと……友人Cでいいか。めんどい。


「いやよくねえよ!俺は千晃(ちあき)だ!急にどうした!?」

「ぶっちゃけそんな重要人物ではないし、まあいっかなって」

「は?」

「玲花がいいと思ったらいいんだよ。そんな重要人物じゃないのは確かだし」

「了」

「なんか俺の扱いが雑い!」

「千晃だし」

「千晃だしね」

「酷い!最低!俺もう泣いちゃう!」

「「泣け」」



 うぅ……っと項垂れる千晃。さすがにちょっと罪悪感が……。


「感じなくていいよ」


 了。


「酷い!」




 **


 コツコツコツ。馬鹿なことで騒いだなあという自覚のある私たちは美術室から出て鍵を閉め、職員室へ向かう。


「鍵は職員室にあったやつを借りたからね。鍵掛けには常に2つあるはずなのに、この1つしか無かった。だから誰が鍵を返しに来たか先生に聞けば犯人が分かるし、まだ来ていなかったら待ち伏せしておけばいい」

「おけ。ていうか何がしたかったんだろうね。ふつーに連絡手段あるのに。一瞬馬鹿?って思っちゃった」

「馬鹿なんだよ。一瞬どころか一生。玲花を探そうとしたら羽虫が寄ってきたから、恐らく足止めが目的だろうね」

「なる。告白かな?」

「もう唯一がいるのに応えるわけない。そんなことも分からないなんて本当に馬鹿。堂々と略奪愛宣言してるのと同義」

「んー、でもそれはそれとして鍵をかけた人は別にいるよね?翔と会うの早すぎるし。鍵かけた子はただ私を困らせたかっただけっぽいよね。他の子はそれに乗っかった感じかな?」

「どっちでもいいよ。とりあえずおイタする子には躾が必要だ。俺のお嫁さんに仕出かしたことは身をもって償ってもらわないと」

「いやお前らまだ結婚してないだろ」


 たしかに。


「ていうか千晃はなんで一緒に来たの?」

「あ?お前が閉じ込められたってことはそこに彩耶もいるかもしれねぇだろ」

「あっ……(察)」

「(察)じゃねぇよ!知ってるだろ!」

「もち。あーそういえば彩耶の基準は翔レベルだって言ってたなー。同じくらいかっこよくないとやだなって言ってたなー」

「くそおぉ、無理に決まってんだろ……!」

「ふぁいと」


 でも千晃も結構整った顔をしてると思う。まあそれでモテるかって言われたら微妙な所なんだけど。何故か『いい人』止まりなんだよなあ……。頑張れ!


 のびのびとそんな会話をしながら歩いていくと、職員室に到着した。周りを見渡してみても誰もいなかったため、とりあえず中に鍵があるかどうかを見てからどうするか考えようと決めた。……私としては待ち伏せするのめんどくさいから返却済みであって欲しい、と思いつつ。

 翔が取手に手をかけようとするが。



「……ねえ、なんか聞こえない?」

「は?職員室でそんな大声出すなんてそうそうない……いや……なんか、聞こえるな……」

「……開ける?」

「……帰るか」

「何言ってんの開けるに決まってるよ」


 翔がなんのためらいもなくドアをガチャっと開けた。若干の不安を覚えつつ、そうっと後ろから覗いてみると、そこには……




「「「え」」」



 なんと昼休みに見た美人さんの上に座っている友人Bの姿が。


 もう一度言おう、そこには美人さんの上に座る友人Bの姿が。


 意味が分からない?ははっ、うん、私も。わっとあーゆーどぅーいんぐ?


「「「……」」」


「あら、玲花。無事に脱出できたようで何よりだわぁ。うふふ、安心してちょうだい、この子に今しちゃダメなことはダァメって教え込んでいるところだから」


 パシーン!と30cmのプラスチック定規を自分の手のひらに叩きつける女王様(友人B)。話し方や雰囲気はほわほわとしているのになぜか高圧的な態度が似合う不思議。


 昼休みに修羅場ってた美人さんを四つ這いにし、その上に優雅に足をそろえて座るお姉さんは友人Bこと紅華(べにか)。ちなみに超ないすばでぃ。


「紅華、なんでここに?ていうか閉じ込められたってなんで知ってるの?」

「翔くんが急いでどこかに向かっているのが見えてね、ああこれはアレね、巻き込まれたやつねって思ったのよ。翔くんを急がせるなんて玲花にしか出来ないもの。とりあえず日番日誌を返してからどうするか考えようと思って、職員室に行ってみたら、ちょうどこの子が鍵を返す所だったわ。でもすごく挙動不審だったのよ?明らかに怪しいじゃない。そこでちょっとおはなししてみたの」


 いや、絶対それ普通のオハナシじゃないよね。下の人が『アレが……おはなし……?ひぃっ』とか言ってるんですけど。


「あ、定規は先生に借りたわ。お話したらこれが必要だって分かってくれたの。うふふ、優しい先生で良かったわあ」


 ……せんせえぇぇ!何やらかしたの!?あ、そこで青い顔してる人か!


 ……弱みでも握られたのかな。ご愁傷さまです。これからは清く正しく生きようね。てゆーか他の先生方も顔を背けるのはなんでだろうね?


「で?その子はなんでこんなことしたんだって?」

「それがね、玲花が羨ましかったんですって。翔くんに気にかけられてるあなたが。お昼休みの修羅場のあと、翔くんの彼女は巨乳ちゃんじゃなくてあなただって知ったらしいわ。馬鹿ねえ。それで玲花を閉じ込めて翔くんの足止めをして、翔くんが迎えにこれずにショックを受ければいいと思ったらしいの。そして翌日に自分は翔くんと帰ったって自慢するつもりだったそうよ。本当に愚かだこと、やる事がいちいち幼稚よねえ」


 ちょくちょく挟んでくるトゲがダイレクトに美人さんに刺さってる。あれはわざとだ。絶対にわざとだ。やけにノリノリな友人B、楽しそうでなによりです。

ていうかなんで昼休みに修羅場ってたこと知ってんの?



「うっ……うわあああん!だって、私だってずっと好きだったんだから!あの子ばっかりずるいじゃないの!私だってぇ、私だってええ!」


 わんわんと泣く美人さん。いやそんなこと言われたってねえ?翔は私のだし私も翔のだから諦めてとしか言いようがないかな。あとそろそろそこから降りない?友人B?


じっ。


ふるふる。グッ!



……降りないそうです。いい笑顔でサムズアップ。そうですか。じゃあもう帰っていいかな?


「ねえ翔、そろそろ帰ろ。私明日提出の漢文やってない」

「えっこの状態放置して帰んの?神経疑うんですけど。仮にもお前当事者だかんな?」

「そうだね、帰ろう。これ以上戯言に付き合うのは時間の無駄だ」

「なあガン無視すんなよ泣くぞ」

「あらあら」

「うわあああああん!」



超、混沌(カオス)



「翔!私、顔はいいのに!なんでダメなの!?そんな子に構うなら私でもいいじゃない!ずっと好きだったんだからああ!」


うわあ、この人ついに顔はいいとか言い出したよ。


「そんなことは俺の知ったことではないし、構ってる暇もない。でもそうだね、礼は言うよ、ありがとう。───俺と玲花の当て馬になってくれて」


「ひでぇ……」

「わお」

「言うわねえ」

「まあ当て馬なんて必要ないくらい玲花との仲は良好だからただただ迷惑でしかないんだけど。二度と止めてね?今の生活を続けたければ」


 若干青ざめつつわんわん泣き続ける美人さんとなんかもうこれどうすればいいんだ的な顔の教師たち。ここが職員室前ということも相まって大変カオスな光景だ。帰りたい。早くしないと……って、あれ?なんか忘れてる気が……す……。


「……っあーー!!」


「うわっビックリした。なんだよ当然?」

「ミルフィーユ!6時から30名限定の!今何時!?」

「えーと…6時半ね」


6時半。


「……ふ、ははっ……あは」

「……怖いぞ、お前」


 もう売り切れてるだろう。超有名店だ、そりゃそうだ。みんな6時前から並ぶのは当たり前だ。


 ……ははっ、この恨み、どうしてくれようか。



「……ざっけんなよてゆーかさあ本当に意味わかんないんだけどあなたが私に勝てるとでも思ってたのなんなの馬鹿じゃない?一緒に帰ったって自慢しようとしたって幼稚園児かよちゃっちい嫌がらせだねえ本当翔の目にすら映らないっていい加減気づけよこの自意識過剰があなたにとってあなたが1番でも私たちにとっては無価値なのよ当然でしょう?ずっと好きだったから何?一方的にしつこく好いててもただ迷惑なだけってわっかんないかなぁそもそも「ずっと」が優先されるならあなたが翔を好きな期間より翔が私を好きな期間の方が長いに決まってるでしょうそもそも…………」



 八つ当たりをすることにした。



「頼むから、帰ってくれ……」


 先生の項垂れなんて知らない見えない聞こえない。



**



散々八つ当たりした帰り道、辺りはもう薄暗くなっていた。

翔と友人BC、そして私は今日の出来事を振り返りつつ駅まで歩いていく。



「疲れたね、今日は。久々に色んなことがあった」

「明日彩耶の予定が空いてる日聞いといてくれねえ?」

「期間限定いちごタルトで取引成立」

「しゃあねえなあ」

「玲花、そんな奴に言わなくても俺が買ってあげるのに」

「わーい二個ゲットー!」

「おまっ、図々しいな!」

「あら、そこが可愛いのよ。千晃くんも甘やかしてみたらきっと彩耶ちゃんも落ちると思うわあ」

「なんで気付かないんだろうね?彩耶って結構感はいいほうなのに。私の事言えないじゃん」

「千晃は自分に甘いんだよ。囲い込みが緩すぎるから意識されない。わざと意識されずに自分の存在を当たり前にしていくのもアリだけど千晃には無理だし外堀を埋めるのも完璧にやらなきゃ逆効果だ。まずはそのヘタレを治すべきだね。やるなら徹底的に気持ちを伝えて甘やかして心までドロドロに、ね?」

「えっ翔そんなこと思ってたの」

「さすが経験者は言葉の重みが違うわねえ」

「……俺、こんなん無理なんですけど……」

「「頑張れ」」





 これが私の、ちょっと大変だけどすてきな日常。












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