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road to peace treaty  作者: 天ぷら
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カウントダウン

星もない暗がりの町で、燃え盛る炎の壁が全てを焼きながら前進していく。この村の簡素な木造の家など瞬く間に炎の波に飲まれていく。「母さんが!!母さんが!!」声を荒げても、どんなに叫んで懇願しても皆逃げるのに必死だった。あなたは生きなさいと、か細い声で涙も見せず、倒れた瓦礫の下から母さんは言った。「母さん!母さん!」


ハッとして意識が現実に戻る。「・・・またか」

俺は今でも時々夢に見る。リード国とレガント国の戦争、五年前の母の命日を。もう受け入れたはずなのに、心のどこかでまだ自分を責めていた。あのときの俺は12歳だ、救えたであろう力なんてあの頃あるはずないのに。

カーテンの隙間から弱々しい日差しが舞い込むのを見て、まだ夜明けだということを確認する。

ちょっと早起きしすぎたか、隣のベッドを見るとまだガリムは寝ていた。お前の対格にはそのベッドは小さすぎるかもな。足が出てるぞと、心で呟きながら乾いた喉を潤す為にリビングルームに向かう。

この建物はスクールと呼ばれるが所謂孤児院みたいなものだ

今いるグランガル国は元々リード国と仲がよく、戦争で貧しくなったリード国が保護できずにいた孤児を18歳まで保護する名目で建てられた。つまりここにいる子供たち全員が元々リード国の孤児だ。

同室の友人ガリム・モンテとも5年の付き合いだ。ガタイは良いが頭脳は良くない。よくいる筋肉バカだな。でもいい奴だ。

さて部屋を出て左の突き当たりがリビングルーム

廊下を静かに歩いているとリビングルームの扉から少し明かりが漏れている。誰だ?こんな夜明けに・・・って俺も人の事言えないか。誰がいるかもわからないが「おはよー」と静かに言いながらドアを開けた。

「うおっ!びっくりしたぁ!驚かせんなよ!」壁にかけられた日付表の前で筆を持ったレイドがいた。

レイド・ブラガス。ひょうきん者だが頭の回転は早い。にも関わらず魔法の成績は低い。属性光のランクは1。指先から光の玉を飛ばす程度の力だ。使い道は、、、まあ道標にはなる、かな?

「いや、静かに来たつもりなんだけどなあ」俺がそう言うと

「お前の静かにってのは、無音過ぎるんだよ。寿命5分返せよな」筆の先を俺に向けてレイドが言う。

それならびっくりしたお前にびっくりした俺の寿命10分先に払えよなと、軽く返したところで降ろされた筆に目をやる。

「ところで筆なんか持ってどうしたんだ?誰かに落書きでもしに行くのか?モニカだけはやめとけよ?氷漬けにされるぞ」

モニカ・ゴールド、水属性でランクは2だ。状態変化を使いはじめてウキウキしてるからな。ましてや女の子だ、落書きでもされたら氷だけじゃすまないかもな。

「そんなことするかよ!したくても女子の部屋には施錠魔法かかってて男子は入れねーだろうが・・・」

なぜか後半だけ悲しく聞こえたが、気にしないことにしよう。。「お前、今日なんの日か知ってるか?」

今日?いや、誰かの誕生日・・・ではないな。

答えられずにいる俺を見てレイドがため息をつく

「はぁぁぁ・・・あのなぁ、お前知ってんだろ?」

だから何をだ?と聞くと

「俺達のチームは今何歳だ?」

今って・・・そうか、なるほど。

10日ほど前にガリムが17歳になった。

チームは7人ずつ構成されていて

俺と同室のガリム、そしてこのレイドとレイドの同室のリガル・ハイセン。

女子部屋のモニカとセーラ・メリルその双子の妹ユリシア・メリル

男四人女三人で俺達のチームは構成されている。

そのチーム全員が17になった月で保護は残り1年のカウントダウンを始める。先日ガリムが17になってその月も昨夜で終わりだ。

「そうか、今日からカウントダウンか。あと1年しかないのか。」

俺がレイドの質問で察した事を口にする。

「そうだ、あと1年で俺たちは保護から外れる、その後は自力で生きていかなきゃならない。何をするべきかわかるか?」

レイドがいつもは見せない真面目な顔をした。こんなときは真面目に答えないとコイツは面倒臭いくらいにしつこい。

俺は頷いてレイドを見た。

「皆を集めよう。時間がない。」この答えが正しかったのかは分からないが、真っ直ぐ俺を見てレイドは頷いた。

「あ、でもちょっとまてよ・・・」レイドが呟く

てを顎につけて天井をみあげながら何か考えているようだ。

「どうしたんだ?」と何も考えずに聞くべきか、俺も考えてる振りをしたらいいか悩んでいると「ローム、お前今いくら持ってる?」なんだよいきなり、カツアゲならやめてくれ

この街に来て早々カツアゲをされたことを思い出した。

あの時は殆どこの国の右も左も分からないままふらついていた。

そんな時にいわゆるカツアゲにあった。

金なんぞ持っていなかった俺はそのまま路地裏で暴行を受けていた。よそ者の、そう、このスクールの黒い制服はリードの孤児を意味する。自分達の税で暮らしてる俺達を見ていい気分の奴はいなかった。当初はその中でも荒れた連中によく目をつけられたものだ。そうだ、路地裏で意識が消えそうな時たまたま通りかかったガリムが助けてくれた事があった。

まあガリムもまだ子供だったからあいつもボコボコにされていたが一人じゃないんだと思えた。ガリムはその時からずっと俺のヒーローだった。気高い勇者。密かな憧れでもある。

「ちげーよ。そんなことするわけないだろ。いいか?俺達ってここを出たらどうやって暮らすんだ?部屋に食料・・・細かいことを言えばきりがないんだ。貯金しとかないとまずくないか?」

レイドはどこか遠くを見ながら言う。確かに一理どころか最優先事項かもしれない。俺たちはここから出たところで稼ぎがなければ生きていけないのだから。

「そうだな。いっその事狩りにでも皆で行ってみるか?西の森の魔物位なら俺達でもいけそうな気がするんだけど」と提案したものの

「あのなぁ、あそこの魔物ってブルーラビットだろ?倒して換金したところで小さいウサギなんか一匹40リグだろ。10匹倒してやっと一人一日分の食費位だ。それが七人いたら70匹はやらなくちゃならない。とてもじゃないが現実的じゃないな。」とバッサリ切り捨てられる。

ブルーラビットはその名の通り青いウサギだ、普通のウサギと違うのは群れで人間を襲うことがよくある。肉食ウサギだ。魔物らしさはないが毛皮を集めると微弱な魔力を纏ったローブが作れる。

ローブを作るのにはそんなに技術はいらないが、だいたい25匹分の毛皮が必要だ。ローブにしてしまえば1枚2500リグで売れる。それでも5人分程度の食費にしかならない。確かに現実的ではない、、、か。

「ぐ・・・確かにその数は若干厳しいなぁ」

トホホ・・と、声に出していると後ろのドアが開き大きなあくびと共に「おはよー」とリガルが入ってきた。

「レイドとロームがこんな朝早くに珍しいねぇ。さては施錠魔法の解除でも」「「ちがうわ!!!」」食い気味で俺たちはリガルに怒鳴った。「リガルこそ早いじゃないか。いつも授業ギリギリまで寝てるのによ」

レイドが嫌味っぽく言うと「二人の話し声が聞こえて起きちゃったんだよ」と、嫌味っぽくリガルが返す。

ただ、それはおかしい。リガルは防御系の魔法が使える。ランクは1だが限りなく2に近い。この防御魔法は持続性がありなおかつ自分を丸々包み込む、まるで泡を纏うような状態を作れる。

レイドと同室のリガルは寝るときにいつも泡の中にいた。

理由はレイドのイビキがうるさいからだ。その泡の中にいるとかなり外界の音は遮断されるらしい。そのせいか誰かが起こしに行っても起きてくれないのだ。だからいつもギリギリに起きる。

そんなリガルがリビングの俺達の会話が聞こえたってのに違和感を感じた。

「あれ?リガル、お前泡はどうしたんだよ」

俺は疑問をそのまま投げ掛けてみた。

「ああ、今日から早起きしないともったいないからね。泡の時間は短く設定しておいたんだ。そしたら泡が無くなった途端に目が覚めちゃってさ、声が聞こえて来たってわけ。」

そんな便利な機能俺は聞いてないぞ。時間調節なんか最初に出来るのかよ。いい目覚ましじゃないか。

というより、普段からそれにしておけば遅刻の回数も減るんじゃないか?

そう思う俺の心の声が聞こえたようで「だって寝れるなら寝たいじゃん」

そう言われてこの話は終わりを告げた。

一瞬の静寂を見てパンッと小さく手を鳴らしたレイドは咳をわざとらしくゴホンと出しながら「それで?リガルが早起きした理由ってのは?」

「え?だって今日からでしょ?カウントダウン。」

キョトンとした目でリガルがレイドを見る

「ま、まあ、そうだな。・・・とりあえず座ろうぜ」

レイドが指を指した方に1枚板で出来たテーブルと椅子が7脚

いつも俺達のチームが食事をする所だ。ここで5年間皆と食事をしてきた。年期はあるもののまだまだ使える頑丈なテーブルだ。

ガタガタと三人が席につくとほぼ同時にテーブルを軽く撫でた。

「・・・後1年か」浸る。ここぞとばかりに俺は浸る

「・・・そうだね」リガルも浸る。ここぞとばかりに浸る。

「リガル、ロームにも話したが、俺達には金がない。」

「知ってるよ。僕達の生活はグランガルからの現物支給なんだから、たまにちょろまかして売った消耗品の小遣い程度しかないからね」

「だろ?しかしだ、後1年で俺たちは自立しなくてはならない。何をするにも金が必要だ。そうだな?」

レイドは簡潔に俺との話を纏めた。

「でも、どうやって稼ぐのさ?僕達なんて狩人見習いにもなってないのに。授業だって教えてもらってるのなんか読み書きと魔法位だよ?しかも基本魔法だけ。」

リガルはどこか諦めたような口調で話す。

「だからその魔法を自力で強化していきたいんだ。俺の光とリガルの防御、ロームの隠密、ガリムの肉体強化、モニカの水、セーラの治癒、ユリシアの風。意外とまともなチームのはずだ。まあ、モニカ以外はランクは1だけど、それでも強化さえして全員が2に上がれば・・・」

言われてみれば確かにバランスの取れたチームに聞こえはするが、レイドの光は道導程度、リガルの防御は人一人を包みクッションになる程度、俺の隠密は気配が薄くなる程度、ガリムのは筋力が軽く上がる程度、モニカはランク2になって水を氷に出来るが、体より大きくは出来ないし、セーラの治癒は手の平サイズの傷口をかさぶたにする程度、ユリシアの風は小さいつむじ風を生む程度。これじゃあさすがにどうにもならない。

せめてランク3の範囲拡大までは上げないといけない。

「無茶だよ。だって僕達15歳から魔法を習い始めてもう2年だよ?モニカ以外はまだ1のままじゃないか。あと1年でどこまで強化できるっていうの?」

大人しいリガルが珍しくレイドに反論をする。

確かにリガルの言う通りだ。このままじゃ絶対に無理だ。

「分かってる。言いたいことは分かってる。だから師匠をそれぞれ見つけるんだ。」

「師匠って・・・まさか!ギルドに探しに行くの!?」

おいおい勘弁してくれ。あそこはおっかねーオッサンだらけじゃないか。

そう言いかけた時またもや扉が開き「おはよー。あんたら珍しく早起きして何してんの?」と言いながらモニカが目を擦りながら起きて来た。

「おう、丁度いいところに来たなモニカ」

「なんの丁度がいいのよ」ふぁぁと手で口を隠すモニカはめんどくさそうに聞いた

「こないだの話をロームとリガルにしてくれないか?ほら、ギルドの」

【ギルド】という単語で一気に目が覚めたようにモニカは青い髪をなびかせテーブルを叩きレイドに詰める

「ちょっとあんた!まさか話したんじゃないでしょうね!?」

おいおい!なんだなんだ、喧嘩なら外でしろよな!もしくはとりあえず仲良くしろよな!レイドが氷漬けにされるのは見たくないぞ!

「まだ話してないけど仕方ねーだろ、今日からカウントダウンなんだよ」

「それとこれとなんの関係があんのよ!」

「わかんねーかなぁ。分かった、分かった、ちょっと落ち着け。な?」

レイドがモニカをなんとか鎮めようと必死だが俺とリガルは完全に理解が追い付かない。

まさかと思うが・・・

「こいつな、二ヶ月位前からギルドに行ってたんだ」

やっぱり・・・

この街のギルドは評判があまり良くないのだ、詐欺だ恐喝だ強盗だのの前科者の集まりらしい。まあ前科者らしく腕はかなり立つみたいだが、とにかくいい噂は聞かない。

「あー!言った!ねー言わないでって言ったじゃない!信じらんない!このバカ!」子供か!先生にチクられた子供か!

「まあ聞けよ」レイドは言いながら外を見る。

つられて俺も見たがかなり明るい。そろそろ皆起きる時間か。

とりあえず!と言ってレイドが手を叩いた

「残りの奴ら全員起こせ、話はそれからだ」


今日は長くなりそうだ。





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