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夜勤怪談 黒い炎

作者: ローペン

 私は地方のとある病院に併設されている老人保健施設に勤務している介護福祉士です。読者の方は、長くこの仕事をしていて、さらに夜勤をしていると奇妙な体験のひとつやふたつ出来るんだろうと思われるかもしれませんが、その前に言って起きたいことがあります。

はっきり言いますが利用者さんが何かおかしなものを見たからと言って、それを即座にお化けだと思って怖がるようでは夜勤は、そして、介護職は務まりません。私たちは介護のプロなのですから、普段はともかく、仕事の時は、徹底的に科学的な視点が必要なのです。

まさにお化けのような幻覚を見るようなレビー小体型認知症というのもあるのですから。そういえば精神病はお化けの仕業だと主張するトンデモ本もありましたが、私に言わせればプロ失格だと思います。故に通常はその類いの訴えは幻覚か妄想としてカルテ記載します。

もちろん利用者さんに対しては訴えは否定せずに話を傾聴しますけども。まあ、人それぞれかもしれませんが、私はそういうスタンスで仕事をしています。ただ、それでも、不可解な訴えは確かにあります。別々の人が同じものを見たり、普段は無いのにその時限りとか……。

そして、意味深な訴えとか。そう、あの夜の訴えもそうでした。もう、何年も前ですが、ある夜勤の真夜中にナースコールがあって四人部屋に行くと、その部屋の男性の利用者さんが訴えたのです。向かいのベッドの利用者さんを指差して、「おい、燃えとるぞ!」と。


「あのベッドの足の方や。黒い炎が燃えとるやないか! お前、なんとかしろ!」


ぶっきらぼうなその利用者さんは上記のように訴えてしきりに向かいの利用者さんのベッドの足側を指差すのですが、もちろん燃えてなどいません。

でも、利用者さんは「燃えとるぞ! 早く消せ」と訴えますので、私は向かいのベッドの足側を調べましたが、燃えるどころかなんともなっていません。

私は訴える利用者さんに言いました。「大丈夫です。何も燃えてはいませんよ」と。すると、利用者さんは急に黙って、そして、こう言いました。


「そうか。見えんのか……」


そう言って、その利用者さんは布団を被って寝てしまいました。まるで何かを納得したような。そして、私はその反応を見て、ゾッとしました。私も黒い炎を訴えた利用者さんが何を納得したのかわかってしまいましたから……。

向かいのベッドの利用者さんは終末期の看取り対応の利用者さんだったんです。本来、老健は病院と在宅などとの中間施設ですが、うちの施設はこの業界ではよくある特養化した老健なので、こういう利用者さんもいるのです。

そう、最期を施設で迎える利用者さんも。ベッドの足側で燃えていた黒い炎というのはおそらく……。なお、黒い炎を見た利用者さんはその後は特に何も無く、看取り対応の利用者さんもしばらくは大丈夫でした。しばらくは……。

ただ、その利用者さんが亡くなった時、私は思わずにはいられませんでした。ついに「黒い炎」は足側から頭の方に移動したのかと……。科学的ではありませんが、そう思ってしまうことも長く仕事を続けていると、あるのです。

プロ失格だとは思うものの、精神病をお化けの仕業だと思ってしまったトンデモ本の著者の精神科医の気持ちも心情的にわからなくはないです。この仕事を長く続けていると、時おりそういうケースに出くわすことがあるので。

まあ、それでも普段は科学的に仕事をしています。何故なら、介護は利用者さんたちの命を預かる仕事と言っても過言ではないのですから。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 科学的に、冷静に仕事をなすっていても、時折怪異に出会うというお話。 分析や、利用者の心情を理解するリアリティ溢れた話に拍手を贈りたいです。
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