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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
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生産ニートでこの先生きのこるには

作者: まう

タイトルで出オチ。

 202x年、中国が台湾へ軍事侵攻を開始した翌日に、複数の神を自称する存在が「ダンジョン」の営業開始を宣言した。

 匿名神Yはイスラエルに「煉獄(ゲヘナ)」を。

 創造神Aはヘリオポリスに「冥界(アアル)」を。

 天の神Aはバビロンに「冥界(クル)」を。

 火の神Aはヤズドに「地獄(ドゥーザフ)」を。

 人類創造の神Nは太行山に「泰山(たいざん)」を。

 太陽神Aは島根県に「黄泉(ヨミ)」を。

 覚醒者Bはヴァイシャリに「奈落(ナラカ)」を。

 …こんな感じに、有名どころの神話のカミサマが、聖地だったり、死後の世界に由来する土地に、地獄の名を冠したダンジョンを開き、その信徒に攻略を命じたのである。

 名だたる世界宗教の神々による神託は、意外な程に人類の心を大きく揺さぶり、世界は宗教で強く連携するようになった。

 ダンジョンは、迷い道…迷宮としても難易度が高く、罠や強力な階層主が階段を守り、敵対的な空想生物が蔓延る危険地帯だった。

 しかし、信徒はダンジョンを踏破し、敵を倒すごとに神々からの加護を受けて力を増し、より深くへと進む事が出来る。

 各迷宮の最前線は、「カミノメ動画(仮)」と呼ばれるネットチャンネルでリアルタイム配信され、その熱い戦いは全世界で視聴する事が出来た。

 世界に現れた数十のダンジョンに、我をと思わん者が集い、国際的な戦争そっちのけで、のめり込むのに、それほど時間は掛からなかった。

 ダンジョンの難易度は、信徒の数や、信仰の篤さで決まる。

 マイナー神話のダンジョンは、難易度も低い代わりに、加護も弱く、ダンジョンから得られる資源のレアリティも低かった。

 つまり、イスラエルの煉獄(ゲヘナ)は、冗談抜きで、難易度ヘルモードである代わりに、第1層から他のダンジョンなら中層以降でなければ出てこないような資源がドロップするし、加護も強い。

 問題は、信者同士の宗派の違いで殺し合いが日常茶飯事てある事だろうか。

 そんな中、日本の黄泉(ヨミ)ダンジョンは、信徒は多くなく、ローカル宗教であるものの、オタク気質の日本人による熱狂的なメディアミックスにより、知名度だけは割と大きかったので、難易度は中の下くらい、応じたドロップもそこそこにレアリティも高いという、割と美味しいダンジョンであった。

 そして、ダンジョンに潜りたいから、という理由で改宗するニワカ信者が日本中から押し寄せて、島根県は一気にダンジョンバブルで賑わう事になる。

 このダンジョン景気で救われたのは、氷河期世代、と呼ばれる政府から見捨てられた世代だった。

 2010年代後半の好景気、人不足の折にも、正規雇用されず、低賃金のまま見捨てられ、外国人労働者に居場所を奪われた、30代後半から40代後半の団塊Jr達は、同時に80年代から90年代のJRPG全盛期の洗礼を受けた世代でもあった。

 黄泉(ヨミ)ダンジョンが営業を開始すると、無意味な議論で空転する政府やマスコミを尻目に、彼らは大規模匿名掲示板「冒険者ギルド」を立てると、ダンジョンへと我先にと潜って行った。

「βテスター」と自ら呼ぶ先行者達は、多くの犠牲を払いつつも、確実にダンジョンの情報を「冒険者ギルド」に蓄積していき、「解析班」と呼ばれる日本全国の暇人達が、それらの情報から「安全な定石」を見つけ出し、共有する事で死者数を減らしていく。

 そして一年も経たずに、「地下10層までの安全な育成法」が確立すると、大多数の人が、資源採取だけで十分食っていけるようになった。

 この時期、カルテルを結んでレア資源を買い叩くブラック企業が問題になり、国は企業の味方で何もしてくれなかったが、「冒険者ギルド」で相場情報を共有し、国内ブラック企業を無視して、外資企業への売却方法が共有されると、ブラック企業はあっという間に手のひらを返し、買い取り価格は正常化した。

 ダンジョン攻略による加護によって、三十路、四十路の団塊Jr達でも、バリバリと稼げる事が判ると、老いも若きも金の無い連中はこぞってダンジョンに向かい、ダンジョン探索者は増え続け、営業開始5年目には、推計120万人が黄泉(ヨミ)ダンジョンにアタックしていた、と言われる。

 国が何もしてないのに、氷河期世代が勝手に自分を救った、そんな夢のような時代の始まりである。

 一方で、「働いたら負けかなと思ってる」「働きたくないでござる」を座右の銘とする、筋金入りのニート達は、この状況でも親の脛がある限り、それに齧りついてニートを続けていた。

 しかし、親の高齢化、貯蓄の減少によって、否応なく安住の自宅()から追い出されるニートも現れるのは必然であった。

 そんなニート達が、「冒険者ギルド」のニートスレで、ある「ひらめき」を得る。

「ダンジョンの安全地帯って、水と食用のコケが無尽蔵にあるってよ?」

「外に近い第2層ぐらいまでなら、外の電波が拾えてネット出来るってばよ?」

「ダンジョンではリトルジョーとかビックベンは吸収されるからトイレ要らないらしいよ?」

「水と食い物があって、ネット環境があって、トイレもある。…ひきこもれるんじゃね?」

「お前天才!」

 書き込まれた時点では、冗談だったが、実家を追い出されたニートが、本当に黄泉(ヨミ)ダンジョンへ潜り、安全地帯からレスした事で、状況は一変する。

「フヒヒ、安全地帯マジ安全!ネットも繋がるし、新天地キタコレ!」

 こうして、黄泉(ヨミ)ダンジョンの1層から2層にかけての安全地帯に、ニートが住み着き始めるのだった。

 しかし、普通のダンジョン攻略者にとって、安全地帯を占拠するニートは、ハッキリ言って邪魔であり、安全地帯であっても、モンスタートレインならニートを追い散らす事ができてしまう事が判明すると、一部の不良ダンジョン攻略者たちは、ニート狩りを始めた。

 ダンジョンでニートをしているような連中は、地上に帰る場所なんて無く、安全地帯を追い出されれば行く場所が無い。

 そこで、困ったニート達は、安全地帯でダンジョン攻略者にサービスを提供する事で、共存を図る事を思いついた。

 具体的には、初級のダンジョン攻略者しか見向きもしない薬草を拾い集め、安全地帯で回復薬へと調合して、売りつける事にしたのである。

 回復薬調合は、魔力の豊富なダンジョンで調合する事で効果が上がるのだが、回復薬1本作るのに、1時間ほどかかる。

 手間はともかく、時間が掛かる為、ダンジョン攻略者しては、その分、敵を倒してドロップを狙った方が実入りが良い訳で、錬金スキルは評価が低かった。

 しかし、暇なニート達は、時間だけは死ぬほど余っており、手間が掛からない回復薬調合は、ネットやゲームをしながらやるのに丁度良かった。

 これが、生産ニートの始まり、と言われている。

 最初は、錬金スキルレベルが低かった生産ニート達も、毎日毎日、暇さえあれば回復薬調合していると嫌でもレベルが上がり、より高度な錬金が可能になる。

 大部分の生産ニートは、「これ以上、働きたくないでござる」と、回復薬調合しかしなかったが、「やってみた」実況を嗜む生産ニートは、武器屋防具などの装備品に魔力付与したり、より高度な錬金スキルを扱うようになる。

 そうした有名な生産ニートは、安全地帯を不法占拠するニート連中に対する存在価値を高め、より、生産ニートを生み出す好循環を作るようになった。

 そうこうして居る内に、「娑婆で親の顔色を伺いながらニートしてるぐらいなら、ダンジョンで生産ニートしてる方が気楽」という風潮が広がり、また1層から2層にかけての安全地帯で、高品質な回復薬が安定供給されるようになると、生産ニートを狩るような不良ダンジョン攻略者が逆に非難され、淘汰されていった。

「ニートがこの先生きのこるには、生産チートが無くても、生産ニートになれば良い」

 今日もまた、「冒険者ギルド」のニートスレには、暇な生産ニート達が書き込みを続けているのであった。

余談。

台湾侵攻どころじゃなくなったので、台湾は独立を維持している。

ダンジョンは枯れない鉱山に等しいので、日本はめでたく資源国に成り上がり。

アメリカはネイティヴアメリカンの精霊が作ったダンジョンが出現したが、信者が限られており、改宗してまで挑む人は殆どおらず、思うようにダンジョン資源を採掘できていない。

代わりに、イスラエルに大規模なダンジョン攻略者を送り込んでいる。

ロシアはスラヴ神話が途絶えてしまって居る為、ダンジョンが無い。

インドのダンジョンは、周辺国から攻略者が殺到して大変なので国ごとに攻略者の人数枠が設定されている。日本からも数千人が挑戦している。

中国のダンジョンは中国共産党が独占攻略しており、他国の攻略者は居ない。最初は大規模な人海戦術で攻略していたが、被害が大きすぎるので方針を変更した。

しかし、その時点で3000万人ぐらい被害を出している。とはいえ戸籍も無いヘイハイツなので、戸籍のある死者は300万人程である。

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