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武田の鬼に転生した歴史嫌いの俺は、スキルを駆使し天下を見る  作者: こまめ
第3章 第二の、転生 (1546年 2月〜)
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第八十八話 贖罪と、過去 (七)

 「殿、只今戻りました!」

 「敵は如何程だ」

 「それが、関東中のつわものが集っており、数万は下らぬかと……!」


 氏康は目前でこうべを垂れる家臣を見つめ、頬杖を突く。

 此度の侵攻は今川が先陣を任されていると見ていたが、関東中の兵が集うとなれば、今川の背後には上杉の姿もあるとみて間違いない。

 流石は関東管領ともいうべき上杉家だ。そう感じつつも、彼はやはり強かである。

 一見形勢不利な状況にも、男は諦めの眼差しを向けることは無かった。


 「盛昌もりまさ。其方はこの戦況、どう見る」

 傍に控えていた大道寺盛昌に呟かれる一言。

 盛昌は鋭い眼光で、持論を語る。


 「殿、戦は数ではありませぬぞ」

 「自明よ、言われずとも知れておるわ」

 氏康は頬を緩ませた。

 その傍らで、盛昌は眉間に皺を寄せ思い出す。


 《あの男》も、彼方側にいるのだろうか。

 思う度に、苦しさは増す。

 いくら北条家の重臣とて、懐古の念を戦意に変えることは、容易では無かった。

 




 包囲開始から三日後、敵側の城に八千もの援軍が雇われる。

 氏康は知らぬ間に上杉側の将を調略し、城への道を確保していた。

 憲政は全て想定の内だと口にするが、内心は分からない。

 それでも、此方側には八倍の兵力がある。負ける筈が無いと、誰もがそう信じてやまなかった。


 ただその思いとは裏腹に、連合軍は苦戦を強いられる。

 兵糧を莫大に抱え込んだ綱成勢は、約半年もの間、籠城戦を耐え抜く。

 次第に連合軍の士気が衰え始めるのが目に見えた。


 「流石は北条家じゃ、気構えがちごうござる」

 吉業は遂に、諦めに似た表情を見せる。

 それに対し、此れ程の兵力差にも耐え抜く不屈の精神に、本庄は称賛の意を唱えた。

 また半年という予想に大きく反した長期間を経て、次第に侮る姿勢を正す者が増え始めていた。

 

 「敵は予想以上に耐え忍んでおる。

  しかし、これ以上の攻撃は、流石に厳しいものがあろう。

  兵力差をいかに加味しても、敵の負けは濃厚じゃ。

  それは敵も分かっておる。氏康は必ず、我等に降伏の意を示す筈」

 肝心の憲政は、士気の低下が著しい上杉軍を再燃させようと意気込む様子は無い。

 疲れ切った兵たちに暇を与えるのも良いだろう。それは憲政なりの優しさでもある。




 其の後、直ぐに敵側から文が届く。

 それは連合軍側に対し、降伏の意を唱える内容であった。

 この時、氏康は連合国軍に対し、降伏の知らせを複数送っていた。

 彼は幾度と『城兵を助命してくれれば城は明け渡す』という旨の書状を送り続ける。


 「殿、ここは様子を伺うべきにございます」

 本庄の言葉に、頷きを見せる憲政。

 書状での降伏宣言など、一種の口約束に過ぎない。

 確信を得るまでは、吟味の過程を踏む必要がある。




 そのまま互いの様子を伺う間に、季節は夏へと変わる。

 上杉陣には連合国軍の一人、足利あしかが晴氏はるうじの姿があった。

 一度北条の許を攻め込んでしまおうという晴氏の提案を受け入れ、憲政達は攻撃を仕掛ける。それに対し、北条軍は応戦せず兵を引く姿勢を見せる。

 その様子に偵察隊は、北条軍の戦意の低さを悟る。それは憲政も同じ。彼は吟味の過程を終え、次第に余裕を見せ始めるのであった。



 そんな最中に、男は辿り着く。

 河越城は既に何万もの兵が集い、声を上げ攻め立てている様を目に映す。

 男は荒い息遣いの中で固唾を飲む。


 その男こそ、紛れも無い本間近江守。

 彼は友の居ぬ戦場へと、再び走り出す。

 この時、男はどちらの大将について思いを馳せていたのか。

 それは、彼にしか分からない。

 


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