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武田の鬼に転生した歴史嫌いの俺は、スキルを駆使し天下を見る  作者: こまめ
第3章 第二の、転生 (1546年 2月〜)
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第八十三話 贖罪と、過去 (二)

過去編、第二話。


※前話(第82話)を改稿したので、

そちらもよろしくお願いします。

 出立から二日後。

 北条家領内に辿り着いた本間は、浪人という名目で氏康に面会を申し込む。

 怪しまれぬ様に召物として下級のものを纏い、彼は主君の前へ現れた。

 好青年の顔立ちで座る男、北条氏康。本間は彼に頭を下げ懇願する。


 「是非とも、私めを家臣に御引き入れ頂きとうございます」


 部屋の隅に座る者の視線。

 幾方向から睨まれる本間は、顔を上げる事が出来なかった。

 氏康はそんな本間を睨みがちに見ていたが、暫くして立ち上がる。


 「付いて参れ」

 想像と違う、重みのある低い声。

 本間は不意に顔を上げ、呆然としていた自身に気付く。

 氏康は既に歩き出しており、本間は慌てて立ち上がる。

 氏康かれの向かった先は、大広間から三部屋ほど挟んだところにある、小さな部屋。


 「と、殿!?」

 氏康が障子を開けると、其処には上半身裸の男女。

 どうやら〈取り込み中〉だった様だが、氏康は構わず足を踏み入れる。

 周りに立つ者も流石に止めようとしていたが、時すでに遅し。

 氏康は男の方の肩に手を置いた。


 「大道寺、本日より此の男が其方の家臣じゃ。宜しゅう頼む」


 それだけ言って氏康は立ち上がり、元来た道を引き返し始める。

 周りの者も同じく引き返し、ただ一人残った本間は、大道寺と呼ばれた男から漂う殺気に苦笑しつつ、ゆっくりと障子を閉めるのだった。




 「はは、見苦しい所を見せてしまった様で済まなかったな。

  そうか、其方が新たに儂に仕えると申す浪人か」

 「は、宜しくお願い致します」


 〈事が済んだ〉男は先程と打って変わり、顔を綻ばせる。

 男の名は大道寺だいどうじ盛昌もりまさ。北条家の重臣の中でも、特に高い立場を担う男のようだ。

 本間は彼の屋敷に住まいつつ、彼から仕事を教わることとなる。

 衝撃の出会いから始まった二人の生活は、そう悪いものではなかった。




 「業正殿、文が届いております」


 本間の出立から一ヶ月が経ち、初めて業正に向けて文が届く。

 夜、自室の四隅で蝋燭ろうそくの火が灯る中、業正は文の封を切る。

 其処に並べられた文字は、間違いなく本間の筆跡。


 『此度、大道寺盛昌という男に仕える手筈となった。

  今は盛昌殿の屋敷に住まい、大事無く過ごしておる。


  つい先日の事だが、食事の際に氏康殿と語る機会があった。

  どうやら氏康殿は、我らの見えぬものまで見えておられる様じゃ。

  目先だけではない。乱世のその先を、殿は見ておられた。

  今こそ北条家は小大名だが、いずれ間違いなく大きなものとなろう』


 やはり、北条氏康は凄い男の様だ。

 予想はしていたが、このままではいずれ我らの脅威となろうな。

 そうして、業正は文の下部分に目を移す。

 最後に書かれてあった、一文。




 『このような御方が、我らの主君であったなら』




 業正は言葉を失う。

 同時に息苦しさを覚えた。

 彼は思わず立ち上がり、目を見開いたまま文を読み返す。


 目に付いたのは、氏康への敬称。

 まさか、本間あのおとこは氏康の人柄に心酔したのか。

 途端に、不安と寂しさが業正を襲う。

 もしこのまま本間が、北条家から戻って来なかったら。

 

 そんなことは無いと、業正は首を振る。

 しかし、間者として忍ばせた者にさえそう思わせてしまう手腕を、氏康は持っているのだろう。

 敵う筈が無い。業正は屋敷の縁側に座り、項垂れる。

 

 「我らの主君……か」


 呟き、業正は目を閉じる。

 深夜、未だ鳴りやまない笛と太鼓の音。

 彼の瞼の裏には、無数の星々が光り輝いていた。



この度、【WEBアマチュア小説大賞】の受賞が決定いたしました!

ありがとうございます!


詳しくは活動報告をご覧ください。


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