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武田の鬼に転生した歴史嫌いの俺は、スキルを駆使し天下を見る  作者: こまめ
第3章 第二の、転生 (1546年 2月〜)
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第八十一話 其々の、思惑

 「......来たか」

 城の南側で飯富達が待っていたのは、自陣から遣われる伝令役の男。

 飯富は直ぐさま彼に戦況を訊ねる。


 「申し上げます……板垣隊と甘利隊、敵の襲撃に遭い刃を交えております」

 「何と、敵は北に集中しておるのか」

 男の頷きに飯富の顔がほころぶ。

 好機だ。状況からして、恐らく西から南側はがらんどうに違いない。

 此方から攻めるべきか?そんな考えは、男の一言で簡単に棄却される。


 「飯富様は其処で待機とのこと」

 「……何故だ?」

 「山本殿がそう申された故にございます」


 飯富は息を吐き、再び陽炎の中にそびえ立つ城を眺める。

 その揺らめきが、まるで幻覚を浮かび上がらせているかの様な錯覚を与える。


 晴幸、其方は儂に何をさせたいのだ。

 動けないというもどかしさだけが、彼の中に芽生え始める。

 未だ止まぬ武者震い。独り言のように呟く彼は、拳をぐっと握った。




 一方、城の北側では甘利隊が先陣を切り、馬を走らせる。

 敵に居場所が知られたのは想定の範囲内であるとしても、厄介なものだ。

 そもそも敵の情勢が分からない以上、下手に攻める事も出来ない。

 それに気付かせる、使者を通じた晴幸からの言葉は、甘利達を驚嘆させた。


 「晴幸め、爺のくせして偉そうな口を叩きおって……」

 郎党達の怒りの声を耳に、板垣は俯く。

 (あの男は敵の援軍こそはったりだと、そう申したいのかもしれぬ)

 板垣は何かに感づいたかの如く、甘利に告げる。


 「此れではっきりした。

  此度、我等に与えられた役目は、憲政の存在の有無を確かめることじゃ。

  甘利殿、其方に頼みたき事が有る」

 「ふん、其方に言われずとも、我等は既に戦に飢えておる」


 板垣は大軍を顧みる。甘利率いる総勢五百の兵は、皆闘志を露わにしている。

 二人は強かな眼差しを浮かべたまま、静かに笑った。

 


 不思議なものだ。先程のやり取りが、まるで遠い昔のように思えてしまう。

 日常と切り離された状況というのは、しばしば妙な錯覚を生み出しがちだ。

 

 「しかと見ておれ、板垣殿」

 その幻を振り切るがの如く、甘利は馬上で強く采配を降る。

 けたたましい雄叫びと地響きを感じつつ、甘利は鋭い眼差しを向けた。

 彼の見る先に在るのは、城の天守閣。





 其の頃、天守閣には笠原清重の姿。

 彼の前に置かれた碁盤には、六つの石が置かれている。

 蝉の声が耳に刺さる。七つ目の石を手に取る時、天守閣に姿を見せる男が片膝をつき告げる。

 「殿!武田の甘利虎泰が攻めて参りました!」

 笠原は報告に動じることなく、碁盤に石を打ち続ける。


 「案ずるでない、幾ら武田と言えども、簡単には崩せぬよ。

  兵糧もたんまりある、これで暫く時は稼げるだろう」

 男は眉に皺を寄せる。男には分からなかった。

 城に向け火の手が上がっているというのに、何故これほどまでに冷静なのか。


 「殿、これで良いのですか?いずれ我らの策も破られましょうぞ」

 「であろうな。だがそれまでには、憲政殿からの援軍が来る」

 

 もし来なかったとしたら?男はそう言い掛けて、己を省みる。

 訊ねてもきっと無駄だ。傍に居るからこそ分かる。

 笠原(このおとこ)は、無類の御人好なのだ。

 誰かを信じてやまない笠原の様子に、男は気づく。

 それもまた、笠原とのらしさというべきか。

 悟りながら、男は口元を緩ませるのであった。







 「戦が始まったそうじゃ、業正」

 

 業正に向けられた言葉。未だ業正の心は変化なきまま。

 目を閉じる業正の様子に溜息を洩らし、憲政は彼の前に座る。

 憲政は知っている。いや、業正の言う通り、己が一番分かっている。

 昨年春、北条氏康との戦で大敗を喫し、三千もの兵を失ってしまったこと。

 

 「其方の言い分も分かるが、

  笠原殿の信用を無碍には出来まい。

  それは其方も分かっておる事であろう」

 「本間殿は、最後まで殿を信じておられました」


 本間。その名に憲政の表情が変わる。

 明らかな変化を感じつつも、業正は沈黙を貫く。

 業正にとって、それは覚悟の上での発言。


 「……あぁ、そうであったな」

 呟く憲政の脳裏に映し出される、本間という名の男との出来事。

 

 彼は目を細め、思い出す。

 己が彼に対し犯した、たった一つの《過ち》。


思惑が交錯する。

次回、贖罪

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