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武田の鬼に転生した歴史嫌いの俺は、スキルを駆使し天下を見る  作者: こまめ
第3章 第二の、転生 (1546年 2月〜)
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第八十話 武田、震撼

 先陣が志賀城へ向かい、早一時間。

 武田陣中は開戦直後からというもの、妙に静まり返っている。

 当の晴信でさえ、頬杖を突いたまま語ろうとはしない。


 城攻め含め、戦の流れを左右する大きな要素となるものは情報である。

 実力や兵力と匹敵、あるいはそれよりも重要となるもの。いわば戦は一種の《情報戦》ともいえる。

 しかし、此度は情報の交錯が少ない。

 故に我等は〈何も出来ない〉のである。

 

 俺が横目で見るのは城の方向。

 そこから聞こえるのは、何やら〈がや〉に似た声。

 戦が始まったのか?しかし何処かの地で戦が始まれば、報告する役目を担う者も必須。

 ただ此度は厄介なことにそれがない。そんな時には自陣から偵察隊を遣わせなければならなくなる為、此方側としては二度手間を追う事になる。


 晴信の表情が徐々に険しくなる。

 現在いまあの地で何が起きているのか。其れを知る術を絶たれている故である。

 俺は晴信かれが手間を嫌う男だと知っている。

 小規模の城攻めごときに、下手な面倒をかけたくは無いのだろう。

 

 「貞清め、高遠と同じく裏切ったのかもしれぬな」

 嘲笑を交えた言を発する晴幸を、俺は睨みつける。

 此の男の言う事は信用しない。何故なら何方にせよ、貞清が我等を裏切ることなど不可能だと知っているからだ。此度は貞清に対し、単独行動を許すことはなかった。その理由は言わずもがな、石井藤三郎や高遠頼継の事例に有る。


 結局はそれら全て、晴幸には分かっている事。つまり先ほどの発言はすべて、彼なりの冗談。

 このような厳粛な場で冗談を零す空気の読めない男を、俺は心の内で諫める。


 ただ、俺の心を覆う靄は一向に晴れない。

 もしや自陣への遣いを向かわせることが出来ない程に、彼らは苦戦を強いられているのか。

 少なくとも、これでは敵側の援軍が到着しても気づけない。


 やはり晴信の決断を促す他ないのだろう。

 そう思い口を開こうとした瞬間、陣に転がり込む一人の男。

 息遣い荒いまま、男は片膝をつく。晴信は男を睨み一言。


 「遅い、何をしておった」

 「申し訳ありませぬ!

  遣いの者が敵の矢で倒れ、かつ多田殿を先陣に苦戦を強いられております故、

  遅れてしまいました!」


 晴信はふんと鼻息を鳴らし、照り付ける太陽の許で扇を広げる。

 「まあよい。何の用か申してみよ。

 「は!板垣殿によると、敵の援軍は既に到着しているとの事にございます!」

 「な、何っ!?」


 突然の言葉に、俺は思わず立ち上がる。

 驚きを見せる者多数。その中で唯一、晴信だけは平静を保っていた。


 「其れは誠か?」

 「は、城北側に上杉の旗印が立ち、

  弓衆の召物に上杉の家紋が描かれて居るのを、此の目で見受け致しました!」


 俺は地を向き、歯を食いしばる。

 迂闊だった。先に援軍が到着して居ないことが前提だと、完全に思い込んでしまっていた。

 分かっていた事ではあったが、やはり史実通りとはいかなくなっている。


 俺は頭を掻き、再び座る。

 いや、策自体が失敗した訳ではない。

 それよりももっと、《根本的な何か》。



 「このままでは兵の数が足りぬ!

  殿、城に援軍を送りましょうぞ!」

 「否、其れには及びませぬ」


 俺は静かに顔を上げ、晴信を見る。

 「旗印のみでは、援軍の有無は判断できかねまする。

  憲政殿の姿をその目で見ぬ内は、真偽は定かではないでしょう」


 俺はそう言い、額に垂れる汗を感じながら顎を引く。

 焦燥と共に、思い出される言葉。

 目に見える物こそが本物だと、教えてくれたのは御前だったな、晴幸。

 

 俺は再び思考する。この状況をいかに動くかによって、戦の流れが変わるといっても過言ではない。

 筆頭家老である板垣は恐らく、最も晴信と各地を巡っている程の間柄。

 ならば少なくとも、諏訪頼重との領土分配の件において、憲政との面識はある筈だ。

 恐らく旗印で判断をしている所を見ると、彼は憲政の存在の有無を把握できていない。

 これを確実視する為の方法は、一つ。俺は遣いの男を睨み、こう言った。


 「板垣殿に伝えてくれ。我々は援軍の存在が明瞭となるまで、其方等を助けはせぬと」

 

 



 

〈俺〉の本領発揮。

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