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武田の鬼に転生した歴史嫌いの俺は、スキルを駆使し天下を見る  作者: こまめ
第3章 第二の、転生 (1546年 2月〜)
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第七十九話 北側と、南側

 【出立の朝】


 「大井殿」

 飯富の言葉に、疑問の色を浮かべる貞清。

 しかし飯富は何も語らず、ただ目的の地へと馬を動かす。


 言えない。訊けない。彼が先立って出進を命じられた理由。

 土地勘があるというのは、単なる詭弁・・だと知っている飯富だからこその問い。

 ただ飯富は葛藤していた。貞清に訊ね得られるのは、貞清このおとこ晴信とのに如何に思われているかという事だけ。其れが良い意味か悪い意味かは、此処では議論する必要は無いだろう。


 「済まなかったな」

 飯富の言葉には幾つもの意味が含まれている。

 その全てを貞清かれが理解出来ていたかは定かでないが、貞清はただ頷き、此れ以上を語らなかった。





 そして今に至り、飯富は多田と二人。

 己の中に溜まり続ける言葉の吐き出し口も見つからぬまま、彼らは城の南側へと向かう。

 飯富に付く貞清とて同じ。飯富の内から、言葉と真意を引き出せずにいる。

 彼らの耳には、微かな法螺貝の音。その元を探ろうとするも、肉眼では捕える事すら叶わない。


 「此度の戦は、敵の降伏を促す為の策でもある」

 晴幸の言葉が頭を回る。戦わずして勝つ、晴幸あのおとこらしい策だ。

 徐々に近づく志賀城の姿は、想像を遥かに凌ぐ大きさ。外側から崩すというのは、難しく思える。


 何よりも飯富が警戒しているのは、城の見張りが少ないこと。見えるだけでも十人いるかいないか。

 我々が佐久郡制圧を視野に入れ、攻め込もうとしている事など、当の昔に分かって居るはず。

 我々を誘き出すつもりか、それとも単純に兵の数が少ないだけか。内山城と真逆の状況に、迷いを生む。

 北側の状況によっては、攻め込むことも考えねばなるまい。飯富達は彼が遣わせた使者の帰還を待ちつつ、茂みに身を潜めるのだった。



 一方、板垣と甘利率いる精鋭たちは、城の北側へと向かう。

 此度、晴幸の提示した策は、我らの力無しでは成り立たない。故に彼らは覚悟の表情を浮かべ馬を進める。夏の日差しが照り付け、滲む汗。其れを拭いながら、鋭い眼差しを前方に向けている。

 そんな中、後方から偶然耳に入る声。


 「風の噂なのだが、此度の貞清殿の働き次第では、御父殿の解放も御考えなさる様じゃ」

 途端に、板垣の表情が変わる。

 思わず後方を向く板垣に、声の主は口を噤んだ。

 「……其れは誠か?」

 「は……噂にございます故、私には何とも……」


 板垣は混乱する。解放など考えてもいない筈の晴信が、何故そんなことを?

 真偽が確かでない事は分かる。ならば何故このような噂が出回るというのか?

 板垣は首を振る。今はそんな事を考えている暇は無い。

 三町ほど手前まで近づく彼らは、一度馬を下りる。

 

 「見張りの数、おおよそ二十足らずにございます」

 「少ない……どうなっておるのだ」

 

 板垣は顎に手を当て思考する。

 意図なくがら空きにする筈は無い。現にここまで、一人の刺客とも出会わなかった。

 (何か厭な気がする。いや、そう思わせるのが敵の狙いなのかもしれぬが……)

 志賀城の者等はやはり、援軍か何かを待っているのか?


 「志賀城の者等もどうやら、動き出す様子も無い。板垣、一度我らの兵を散らばせてはどうか」

 「……そうじゃな」

 多田の言葉に、板垣は頷きを見せる。




 其の瞬間、矢が一人の兵の頭部を直撃する。



 「!?」


 刺さった男は白目をむき、血を噴き出しながら足元へと倒れた。

 「奇襲じゃ!皆伏せよ!!」


 甘利の言葉と共に、城の方向から多くの矢が飛び向ってくる。

 「どういう事じゃ!?我らの居場所が知られたというか!?」

 板垣は歯を食いしばり考える。遂に何かに気付いたかのように目を見開き、不意に立ち上がった。


 「板垣殿!危のうございます!!」

 その時、板垣の頬をすり抜ける矢が、彼の頬に鮮血を現す。

 其れでもなお、板垣は目を凝らす。

 彼の目に飛び込むのは、一本の旗印。

 それも、上杉家の家紋が入った旗印である。



 まさか、援軍は既に到着していたというのか?



 板垣の息遣いが荒くなる。

 既に、敵の策は動き出している。それに気づく板垣は、直ぐ様屈み、家臣にこう言い伝える。


 「南側の状況を知らせよ!

  そして今直ぐ大井殿と奴の家臣を此処に呼べ!」

 


気付くのが遅かった。

敵の策は既に、動き出しているのだ。

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