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武田の鬼に転生した歴史嫌いの俺は、スキルを駆使し天下を見る  作者: こまめ
第3章 第二の、転生 (1546年 2月〜)
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第七十七話 賭博狂と、策士

 「馬鹿を言え!それでは城が奪い返されてしまうではないか!」


 俺の傍で男は一喝する。俺は男を横目で見た後に、小さく息を吐いた。

 この男は恐らく、《元々自分達が所有していた内山城を取り返す事が、城一つ分を得るという事実よりも幾倍の大きな意味を持つことに繋がる》という事を伝えたいのだろう。城が己等の手に戻ったことが兵の士気を高める一因となり、劣勢の状況を覆す事だってある。確かにその通りだ。しかしそんなことは百も承知。俺が重要視しているのは、その次である。


 「ただ内山城には、援軍の代わりに使者を送ります」

 「……はっ、成程。そういうことか」


 晴信が笑む理由が、周りの者には分かっていない様子である。

 敵は、武田が内山城を手中に収めたことを知っている。恐らく敵は内山城に待ち伏せる兵相手に、極力手勢を減らしたくはない筈だ。それに相手がどれ程の手勢を用意しているかがはっきりしない内は、出来る限り志賀城へ兵を集める方が良い。


 そこで、手薄の内山城はどうするのか。

 方法は一つ。敵に援軍が付いたという《錯覚》を起こすのである。

 偽りでも敵兵の多さを見せつける事が叶えば、必ず上杉は内山城での戦いを避ける。

 もう一方の峠を超え、志賀城へと向かう上杉兵を一掃する。その為の策を、内山城への使者に授ける。


 「晴幸、かの策が巧く運ぶ伝手は有るのか」

 「は、此度の策の要となるのは、笠原と上杉に縁があるという事実。

  笠原は恐らく、上杉に内山城を攻め込ませることを固く拒むはず。

  若し上杉に内山城の手柄を取られれば、内山城は上杉のもの。

  そうなれば、両家の間に歪みが起きてしまいます。

  しかし笠原が裏で己の兵を遣わせるということも、考え得る話でございます」


 元々、上杉による内山城攻めは無いという前提。その例外を想定した上での此度の策。

 そう考えると、内山城の為に兵を送るのも馬鹿馬鹿しくなるだろう。

 ただ勿論のこと、上杉が内山城を避けるという確証はない。

 策に構わず攻め込まれれば、援軍を派遣するしかなくなる。

 もしそうなった時、内山城がどこまで持ちこたえるのかが鍵となろう。


 一通り語り終えたところで辺りを見ると、皆揃って俺の語り口に黙り込んでしまった様だ。

 そんな俺を睨む晴信。二人の間に暫し沈黙が続く。

 

 「……御主は何故、峠を塞ごうとは思わなんだ」

 沈黙を破る晴信の言葉にも、俺は沈黙を貫く。

 彼の言う様に、内山峠に兵を置き、志賀城へと誘導すれば良いだけの話。

 それをしなかった理由は、己の中に潜むものにある。


 「私は、戦で命を落とす者が一人でも減って貰いたいと、そう願っております」

 晴信は溜め息交じりに立ち上がる。呆れてしまったかと、俺は恐る恐る彼の表情の確認に努める。



 「其方は建前が過ぎる。

  実のところは《博打》であろう。儂が御主の思惑に気付かぬと思うておったのか」

 「ば、博打、ですと」



 男達の目の色が変わる。俺は目を閉じ、彼らを視界から消し去った。

 やはり知っていたか。この策は、晴幸が考えた賭けを要するもの。

 それは全て、己の《欲》によるもの。


 晴信は陣から志賀城を眺める。見れば見るほど優美な城。

 手が届きそうな程に近い。そう呟く彼は、振り返る。


 「戦に博打など趣味ではない。

  たが、此度ばかりは其方の賭けに乗ってやる」

 「殿!!」

 周りの声に耳も貸さず、目の前の若者は再び、唯の笑みを浮かべた。


 「其方の策、儂はさほど嫌いではない」


 俺は目を開ける。彼が見せる決意の表情に、俺は安堵する。

 周囲は依然、納得のいかないような表情を浮かべていたようだが、俺は気付けなかった。

 ただ彼らの後方に立つ存在に、意識を奪われる。

 其処には腕を組み、誇らしげに笑う晴幸の姿があった。




次回、開戦の合図。

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