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武田の鬼に転生した歴史嫌いの俺は、スキルを駆使し天下を見る  作者: こまめ
第3章 第二の、転生 (1546年 2月〜)
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第七十四話 主君の居ない、軍議

 家臣のみの軍議は、元々は晴信が言い出したことである。

 たまには己等で意見を出し合え。というのは建前で、実際は晴信の意見を皆に言い伝える為のものであった。

 軍議とは程遠いように思えるが、其処に集まった人数と人物、其処で出た新たな意見を、板垣を通じて報告する事になっている点は、軍議と何ら変わらない。


 板垣が語るのは、佐久郡制圧の為に、再び晴信が出陣の命を出すということ。

 既に知っている話の羅列に、俺は耳を向けつつ睨む。

 目線の先にあるのは、板垣の目前に座る晴幸の姿。

 何故か、にやにやと笑みを浮かべている。


 (そこに座るな、邪魔だ)

 (それ見ろ、やはり晴信は出陣を命じた。

  こやつらは気付くのが遅いのじゃ)


 誇らしげな笑みが、俺を更に苛立たせる。

 今は彼に対して何も出来ない事が、ただ歯痒い。


 「此度の戦は、貞清殿も出陣する手筈。

  我等への忠誠を示すために、殿が命じた様じゃ」

 「しかし、貞清殿は応じてくれるだろうか」

 「其の為の御命じなのだろう。

  言ってしまえば、奴を《従わざるを得ない》状況へと向かわせる事で、

  奴を試しておるのだ」


 俺は其の言葉を聞き、安堵する。

 晴信は、どうやら貞清を受け入れる為の猶予を与えてくれているみたいだ。

 貞清かれにとっては、少々酷な話ではあるが。

 

 「出陣は一ヶ月後。

  先に飯富殿、貞清殿を向かわせ、儂含む他の者は後に向かわせる。

  各々の配置、陣の場所についてはまだ決めかねておる故、決まり次第伝えよう」


 出陣という言葉を聞く度に、どこか身の引き締まる思いに駆られる。

 晴幸は依然笑みを浮かべ、そわそわした様子を見せる。

 戦の日を待ち望んでいる様で、俺は静かに苦笑した。

 こういう時に限って、参謀としての血が騒ぐのだろう。

 それこそ、この乱世に生きる人間のさがであると、俺は重々理解していた。






 軍議の後、屋敷に残る虎胤と、板垣の間に会話は無い。

 晴信は決して、貞清に対する善意など持ちはしないと、

 二人だけが知っている。いや、二人しか知らない。

 ならば、此度の戦に従軍する理由、そして先陣として戦場いくさばへ向かわせる理由とは何なのか。

 二人は語らず、考える。彼の真の目的とは何なのかを。



 「板垣殿……」

 其処に現れる一人の男。板垣は待っていたかという様に、彼の方を向く。

 彼は板垣の家臣で、軍議の間、秘密裏にある役目・・を任せていた。


 「結論から申しますと、

  軍議の最中、殿は一切部屋に御戻りにはなりませんでした」

 「殿の所在は分からなかったのか」

 「はい、不甲斐ないことに、私が向かう頃には姿をくらませておりました……」


 間違いない。どうやら家臣のみの軍議を行わせたのには、晴信なりの理由があった様だ。

 こうして板垣は確信する。

 《我等の見えぬ所で、何かが動いている。》

 それが何なのか、板垣には分からなかった。

 晴信に訊ねることも、何処か躊躇いが生じる。





 こうして、誰に語る事も出来ぬまま、武田家は出陣の日を迎える。



 「では、行って参ります。父上」

 東の空から朝日に照らされる城。何か神秘的なものを感じた貞清は、笑みを浮かべ一礼。

 彼は飯富に付き、晴信率いる本隊より一足早く、佐久郡へと向かい始める。

 城内では晴信が、自室から外を眺めていた。


 その目に映るのは、貞清の見た《それ》と同じ。

 生ぬるい風、木々の揺れる音。戦前の静けさを肌で感じる。



 「貞清は向かったか」

 「は、只今」


 晴信は外に目を向けたまま、静かに笑う。

 彼の笑い声は、何処か悲しみを帯びていた。

 同時に彼は己の残酷さを思い知り、己の作り出した運命を呪う。


 許せ。乱世とはそういうものだ。




 「其処の者、ちと付いて参れ」

 そう言って、晴信は立ち上がる。

 垂れる汗と蝉の鳴き声が、夏の訪れを示唆する。

 其の日は、雲一つない、晴れの日であった。




翻弄

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