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武田の鬼に転生した歴史嫌いの俺は、スキルを駆使し天下を見る  作者: こまめ
第3章 第二の、転生 (1546年 2月〜)
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第七十三話 終わらぬ戦と、止まぬ雨

 《甲斐・原虎胤屋敷》



 「殿がそのような事を……」


 虎胤は唾を飲む。板垣から委細を語られ、動揺を隠せずにいた。

 此の事は内密にして貰いたいと板垣は語る。勿論虎胤に責任を押し付けたいからではない。

 そもそも板垣かれがこれ程までに、此度の件について慎重になっているのは、貞清に知られる事を恐れているからでは無かった。晴信の言動を城下の者はともかく、領内で暮らす者に彼の思惑が知られてしまえば、武田の信用に関わる可能性が出てくる。彼はそれを恐れたのだ。

 そうなれば、光らせる目を増やすというのは当然の行為。虎胤も当然、板垣の考えには気付いている。


 「殿の言動が、御家に動揺を走らせる事は当然承知しておる。

  それでも殿が其方に語ったのは、其方を信じておる証だといえるのではないか‬」


 板垣は何も言わず、縁側から外を眺める。

 すっかり春は終わりを迎え、蛙の声が目立ち始める。

 今年も梅雨が来る。それが終われば、夏。

 ただ、今年の夏も武田家このいえには一波乱ありそうだ。


 「虎胤殿、よく聞け」

 「うむ、何だ」

 板垣は向き直り、鋭い目で彼を睨む。


 「佐久郡制圧は、まだ終わってなどおらぬ」

  





 月が替わり、六月

 全く、水無月とは誰が言い出したものか。

 大雨の降る中、俺が訪れたのは松尾泰山の屋敷。

 「随分とお疲れの様子ですなぁ」

 泰山は皺だらけの顔で笑う。如何やら俺の表情を見て、案じてくれる様子はないみたいだ。

 まあ、この俺の疲れた様子が、今回の話の鍵になる訳だが……


 「〈佐久郡での変わった動き〉、にございますか」

 「ああ、何でも良い。知って居る事は無いか」

 泰山は腕を組み、考え込む。

 我ながら変な問いかけだと、内心苦笑する。

 そもそもを言えば、先日の晴幸との会話が、此処を訪れた一番のきっかけであった。





 三日前


 「此度の大井貞清の一件、其方はどう見た」

 晴幸から振られる突然の問い。

 困惑しながらも、俺は《良かったのではないか》と口にする。

 対する晴幸は尖った声で、俺を暢気者だと諫めた。


 「儂には此れで終わりとは到底思えん。

  貞清を降伏させたとて、佐久郡を制圧したというには程遠い。

  何故なら、佐久郡を守るのは貞清のみではないからだ。

  近日中には必ず、再びかの地へ攻め入よう」

 「何故そう言えるのだ。

  確かに佐久郡そこには志賀城を守備する笠原かさはら清繁きよしげがおる。

  されど、晴信が直ぐに攻め入るか否かは、晴信の決断にかかっておるのだぞ」

 「否、晴信は確実に攻める。

  考えてみよ。もし其方が笠原と同じ立場であれば、如何思う」


 俺は脳裏で想像してみる。もし俺だったら、確実に攻め込んだ敵を警戒するだろう。

 「……あ」

 その時、俺は気付く。晴幸の言葉の真意に。


 仮に同じ領地を治めていた者(大井貞清)が攻め入られたとなれば、笠原の耳には既に、その朗報が届いている筈だ。

 もし直ぐに攻め入らねば、笠原は兵や援軍を呼び寄せつつ体制を整えてくる。つまり、時をかければかけるほど、攻め落とすのが難しくなる。

 だからこそ、晴信は直ぐにでも出陣の命を出すだろうと、晴幸は予測したのである。

 

 「ようやく気付いたか。

  気を引き締めよ。戦はまだ、終わってはおらぬ」

 晴信の言葉に、俺は目を細める。


 其の日から、晴幸は夜中よるじゅう、資料を漁り始めた。戦場となる地を模索しながら、地形を理解し、相応しい陣形や策を練る。それも三日目ともなれば、夜更かしがそこそこ身体に響き、眠気が俺の表情にも表れ始めていた。そして今に至る。


 「うぅむ、伏兵からの報告もないからのぉ。

  何も変わったことは無いと思うが……」

 「そうか、忝い」

 訊きたかったのはそれだけだと、俺は屋敷を後にする。

 もしや、まだ本格的には動き出しては居ないのだろうか。

 其れとも、伏兵が察知できていないだけか。

 少なくとも、早めに動き出すのが上策であることには違いない。


 それよりまずは、若殿に心配をかけない様にしなければならないな。

 策を練るのも有難いが、己の身体を少しは大事にして貰いたいものだ。





 その翌日

 俺は板垣の屋敷へと招かれる。

 内訳を説明されることなく訪れた屋敷には、板垣は勿論のこと、虎胤、甘利達数十名の重臣達が集っていた。


 「これで集まったか」


 俺が安座の姿勢を取る直後に発される、板垣の声。

 彼が何を語るのか。皆が薄々勘づいているのが目に見える。

 当然、俺も分かっている。

 汗が俺の額を流れる。俺は拳を握り、くっと顎を引いた。


 「此れより軍議・・を始める。

  皆。まずは儂の話を聞いて貰いたい」







 《主君の居ない軍議》が今、始まる。

 

次回、家臣だけの軍議。

武田家中が、大きく揺れ動く。


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