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武田の鬼に転生した歴史嫌いの俺は、スキルを駆使し天下を見る  作者: こまめ
第3章 第二の、転生 (1546年 2月〜)
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第七十一話 大井貞清、幸綱の術

 天文十五年(一五四六年) 五月三日


 「つまりは、武田の支城へ火種を撒くという事ですな?」

 大井貞清は家臣の言葉に頷き、即刻向かえと指示を出す。

 背中を見送った後に貞清は立ち上がり、振り返る。

 

 壁に掲げられた掛け軸。父の筆跡、力強く書かれた四文字。

 彼は視線を落とし、己のを見る。それは父のふくよかなものとは真逆で、薄っぺらく冷たい。

 今では父の温かみすらも、忘れ始めていた。

 しかし、いつからか遠ざかった父の背中を、再びその目で見る事のできる日は、もはやそこまで来ている。

 其れだけを信じ、此処までやって来た。貞清は口元を緩ませる。


 「父上、もう直ぐです」

 呟く途端、舞い込む朗報。


 「殿!敵が我が国へ攻め込んできましたっ!

  四つ微菱の描かれた旗印、恐らく武田のものと思われまする!!」

 「そうか、我らの動きに勘づいていたか……」


 貞清は驚く様子を見せつつも、冷静さを貫く。

 あくまで敵に、我らの動きが知られていたというだけの話。

 それだけなら想定内といえる。貞清は叫ぶ。



 「これぞ好機、地については我等に理がある!!

  各々向かいうて!!」





 其の日、晴信は信濃佐久郡へ侵攻。対する貞清は内山城で応戦するが、十七日間の攻防の末に敗北。

 貞清は己の降参をもって、終戦へと踏み切って来た。

 その間、俺は陣へ籠っていた為、今戦における危険は微塵も無かった。


 「この案、受け入れるべきか否か」

 「此処は受け入れましょう、我らの目的は大井家の殲滅ではありませぬ」

 俺の言葉に、晴信は同意の意を示す。

 かくして捕えられた貞清は、晴信の前に膝をつく。


 「ふん、其方も中々考えたものよ。

  少しは持ち堪える事もできただろうに」

 「私は悟ったのです、武田の御家の持つ御力は

  我が身を授けるのに相応しきものだと」


 突然の敬語。敬意を示して居るのだろうが、晴信には通じない。彼は欠かさず、〈相手を吟味する〉段階を踏む。

 ただ幸綱は俺に、貞清かれの言葉に偽りは無いだろうと語る。

 相手の感情や真意まで分かるとは、やはり幸綱の持つスキルは強い。


 大井貞清


 セントウ 一二〇九

 セイジ   一六五四

 ザイリョク 一五八三

 チノウ  一六二七


 俺のスキルのみでは、〈相手は計算高い男だ〉と思い込んで終わってしまう可能性がある。故に相手の言葉が本当であるという確信は持てない。しかし幸綱のスキルを使えば、相手の考える目的まで把握できる。

 貞清は恐らく、武田に降伏することこそが、甲斐に身を置く父親に会う為の最善の方法ということに気付いたのだろう。いや、本当は元から気付いていたのかもしれない。それをしなかったのはきっと、己の自尊心と武田の力を侮っていた故である。


 ここで一つ、誤解を解消しておく。

 幸綱の存在によって、俺のスキルの必要性が薄れているように感じるが、実際はそうではない。彼は相手の感情が把握できるだけで、その真偽は分からない。

 では先程の彼の発言は何だったのかというと、俺のステータスを加味した彼の推測である。


 例えば幸綱が相手の感情を読み取ったとする。そこに発言とずれた点(もしくは計算高い考え)が存在すれば、相手の発言は〈偽〉だといえるだろうが、その様な点が無ければ〈真〉とは到底言い難い。そこで俺のスキルを利用するのである。相手の知能が高ければ状況を見て、吟味の段階が必須となる場合もあるだろうが、知能が一定値より低ければ、〈真〉の可能性はかなり上がる。それでも推測に過ぎないが、ほぼ確実に結論を導くことは可能だ。


 貞清の知能のステータスは一六二七。多くの人物のステータスを見てきた俺にとっては、その値がどれ程のものかは何となくわかる。見るからに貞清の知能は高いが、恐らく貞清かれが裏切る可能性はほぼ皆無だろう。仮に裏切ったとしても、これ程の知能があれば返り討ちに会う未来が目に見えているはずだからある。

 結局は最終的に晴信の目に任せる事になるのだが、仮に計算高い男と鉢合わせた時は、俺達が目を光らせておく必要がある。という訳だ。



 戦の後、貞清は甲斐へと連行され、父の許へと送られる。

 三年ぶりの、変わりない父の姿に涙を浮かべつつ、彼は頭を下げる。

 大井家を武田へと預けた事への謝罪。しかし貞隆は逆に、彼を強く誉める。

 死なずに済んだ、まだ大井家の血を残せると、そう言って狭い檻の隙間から、彼の肩を叩く。

 俺はその様子を弥兵衛から聞きつけ、それは良かったと笑みを浮かべた。

 晴信は貞清かれを吟味した末に、貞清と父を引き合わせる事を決めたのだろう。

 


 ちなみに当の貞清は、武田家臣として同年夏まで内山城代を任されることとなる。

 


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