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武田の鬼に転生した歴史嫌いの俺は、スキルを駆使し天下を見る  作者: こまめ
第3章 第二の、転生 (1546年 2月〜)
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第六十八話 本物と、偽物

今回の御話は、少し頭を使うかもです。

 足音が聞こえ、若殿は玄関へと向かう。

 今日は少し帰りが遅かった。その理由を問おうとしたが、若殿は不意に言葉に詰まる。

 俺の後ろに立つ存在に、彼女は警戒の姿勢を見せた。

 「若殿、儂は居間にて此の男と話をする。其方はもう床につくと良い」

 見知らぬ男は彼女に微笑む。俺は彼について唯の〈新参者〉とだけ伝えた。


 囲炉裏を挟み、腰を下ろす二人。

 中心で揺らめく火。それを眺める二組の目。

 まずもって口を開いたのは、幸綱である。



 「......さて晴幸殿。其方の持つ術とは何じゃ」

 「えらく唐突じゃな……儂はまだ其方を警戒して居る、故に答えたくは無い」


 真田幸綱、彼の持つスキルも同じく三種類。

 それも俺とは全く異なる効果を持つ。そこまでは分かるが、それ以外は何も分からない。

 相手の出方を探っている段階では、いくら同じ武田の家臣とて、迂闊に口走る事は出来ないものだ。


 「心外じゃな、儂を敵と見ておるのか?いや、仮にそうであれば、屋敷内に招くことなどなかろうに」

 幸綱の言葉に、俺は彼を睨む。





 『拙者には分かるのだ。

  御前の寿命も、心の中も

  見えておる世界も、全てな』






 どうやら真田幸綱の持つ一つ目のスキルは、《他人の心を読むスキル》で間違いない。

 他人の目を見る事で、その対象の思考を読み取る。いわばそれだけで敵の素性や性格、行動までもが手に取るように分かるはずである。ならば山本晴幸という男の中に別の人間がいる、(スキル) の存在を肯定して仕舞えば、それがばれる事に何もおかしな点は無い。

 敵にすると厄介なスキルにもなりうると、俺は目を細める。

 


 「……何故儂に対し、自ら素性を晒そうとする?」

 幸綱のスキルがどうかという以前に、一番の疑問はそこにある。

 俺の言葉は、当に自身は敵だと公言している様なものだ。

 対し幸綱は俯き、ただ力を貸してほしいだけだと呟いた。

 

 「其方にとって儂は、敵なのやもしれぬ。

  しかし儂は其方を味方だと思っておる。故に語るのだ。

  それに先程も申した通り、其方は儂を屋敷に招き入れてくれたではないか。

  それは同じ境遇の儂を信じていたからではないのか」


 俺は黙り込む。

 今までなら、見知らぬ男を屋敷に招き入れるなんてマネはしなかった。

 それも、己の中に潜む慈悲の心が生んだ行為なのだろうか。

 情けないものだと苦笑しつつ、己を諫める。


 「......案ずるな。儂が何をし、何を為してこの時代へ辿り着いたかも、いつか其方に伝えるつもりだ。例えそれが本物であろうと、偽物であろうとな」


 笑う幸綱。彼の表情を見て俺は沈黙を貫く。

 此の男は、転生者を〈偽物〉と称している。

 本物はいつも一つだけ。しかし、儂は自身が偽物だとは思わない。

 俺とて、山本晴幸という男の一部であることに変わりない。

 だとしたら、本物とは一体、どちらのことを指しているのだろう。


 まだ、火は燃え続けている。

 再び眺めつつ、俺は微かに目を細めた。

 灯が作り出した小さな影に、吸い込まれるような錯覚を覚えた。



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