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武田の鬼に転生した歴史嫌いの俺は、スキルを駆使し天下を見る  作者: こまめ
第3章 第二の、転生 (1546年 2月〜)
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第六十五話 流離いの、男

 朝になると聞こえる、雀のさえずり。

 動物達が長き冬籠りから目覚める季節。

 三月某日、俺はある男の許を訪れる。

 

 「山本様、如何為されましたか?」

 松尾泰山、俺の統べる土地のみならず、近辺でも名の知れた有名な名主。また金貸しとしての側面を持つ男である。

 俺が甲斐へ来てからというもの、検地や金貸しなどの業務において、度々世話になってきた男。


 俺は泰山に訊ねる。この辺りで美しい桜が見れる場所は何処かと。

 「此処より西に四半刻程向かう先に、川が在ります。

  川に沿う木々が毎年咲かせる桜は、それはそれは見事だとか」

 彼の言葉にひどく驚いてしまった。それほど近い場所にあるとは知らなかった。

 同時に、再己の無知さというものを再び実感する。

 

 帰り道、城下で遊ぶ子供の声。

 子供たちは俺の姿を見ると、恐れ何処かへ逃げてゆく。

 俺はそんな彼らの後姿を眺め、微笑む。

 屋敷に辿り着いた俺は、直ぐ様弥兵衛を呼び出した。


 「弥兵衛、ちと山菜を買うてきてはくれぬか」

 幾らか金を渡された弥兵衛は直ぐに桶を持ち、駆け出す。

 少し、嬉しそうだったな。

 晴幸の表情に、弥兵衛も思わず頬を緩ませた。

 

 暖かな風と、雲一つない空から差す日差しが妙に心地良い。つい先日、春一番が吹いた日からというもの、こう暖かい日が続いている。

 皆は思う。遂にこの地に、春がやって来たのだと。


 店の前で、弥兵衛は足を止める。

 如何やら、先客がいるようだった。

 風変わりな後姿が三つ。その中の一人が、店主と話している。


 「城は何方どちらの方角じゃ」

 「あ、あちらの方だが」


 男は礼をし、指示された方角へと歩む。

 低い声に似つかぬ、鼻歌交じりの軽い足取り。弥兵衛は店主に訊ねた。


 「儂にもよう分からん。どこぞの国から逃げて来た流浪者らしいが、

  何やら殿様の許に仕えるとか何とか……」


 弥兵衛は再び男達の方を向くが、既に後ろ姿は、遥か遠くに見えていた。





 「妙な男?」

 「は、如何やら男は、己を〈流離いの身〉だと語っていたそうです」


 弥兵衛の話に、城へと歩を進める俺は、腕を組みつつ考える。

 確かに変な話だ。どうして他国から流れてきた武士(落武者って言うんだよな?)が、わざわざ名の知れていない晴信の許へやって来たのか。

 いや、よく考えれば俺が此処を訪れたのも同じ様な状況だった。

 どうやら口を挟める事ではなかったみたいだと、俺は苦笑する。


 しかし、この時期に武田に仕えんとする男、一体どんな人物なのだろう。想像しながら俺は城への道を一歩一歩、踏みしめるのであった。






 

 「面を上げよ」

 男は拳を地に付けたままゆっくりと頭を挙げ、自信満々といえる表情を晴信に向ける。

 晴信は脇息に腕を置き、睨む。

 対し男は臆する様子を見せる事無く、笑む。


 「御初に御目にかかります。拙者、真田さなだ源太左衛門げんたざえもん幸綱ゆきつなと申しまする。

  それで、貴方様がかの武田晴信殿にございますか」

 「おいっ、何じゃその口の利き方は……!」

 「良い」

 晴信はそう口にし、外を眺める。

 春の陽気に、不意に眠気が襲う。

 小さな欠伸の後、晴信は目を細めた。




 「其方、よほど己に自信がある様だな」

 「は、剣術には多少心得がございます」


 晴信は立ち上がる。そのまま縁側へと歩を進め、振り返る。

 陽に照らされた彼の姿は、まさに神々しさを連想させるものであった。




 「ならば幸綱、我が家臣と手合わせ致せ。

  もし勝てば、其方を召し抱えようではないか」



俺(晴幸)と幸綱、二人の出会いが、大きな波紋を呼ぶ。

次回、勝負。

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