番外編EX2 俺と、ヤマカン
第二章完結記念 閑話集第1弾!
歴史を苦手とする人に、読んでもらいたいお話です。
俺の通っていた高校では、歴史の授業は必須である。
無論、日本史世界史を問わない。
それが、俺には苦痛で仕方なかった。
理由は一つ。そう、〈歴史が嫌い〉だからだ。
歴史は、いわゆる〈暗記ゲー〉である。
いかに上手く時間を費やし、いかに正確に記憶できるかが勝負の科目。
しかし、どうせ覚えたところで必要となるのは入試くらいであり、社会に出れば使わず仕舞いに終わる。
せいぜいちょっとした知識自慢や、うんちくを吐き出す時くらいなものだろう。
それなら数学や理科の方が、社会において何倍も役に立つ。
……というのは、表向きの理由。
天性の理系である俺は実を言うと、昔から暗記が大の苦手だった。
本当は、己の苦手としたことを、正当化したかったに過ぎない。
そんな俺は、日本史のテストを週末に控え、深く頭を悩ませていた。
「なあ、どうして俺達は歴史を学ばにゃならんのだ」
その旨を、親友に訊ねたことがある。親友は答えた。
「そりゃ、先人の教えやこの国が出来上がった経緯を、日本人である限り知っておく必要があるからだろう」
親友の言葉に、俺は溜め息を付く。
まあ俺に同意の意を示さない限りは、何を言われようと納得する気は無かった訳だが。
親友は成績優秀だから、俺の様な凡人の気持ちは分からないのだろう。
いつの日か、俺はそう割り切ってしまっていた。
「確かにこの日本を作り出したというのは本当だけど、所詮はそれだけでしかない。
歴史は今の日本に何も関わっちゃいないじゃないか」
「そんなこと言って、単に覚えられないってだけだろ?」
俺は目を見開く。此の男には既にばれていたようだ。
そして直ぐに溜め息を吐きつつ、頬杖を突く。
「はあ……また山張ってテストに臨むしかないか……」
俺の言葉に、友人は「それだよ」と口にする。
「な、今おまえが言ってた、〈山張る〉って言葉の由来、知ってるか?」
「……さあ、知らない」
俺は首をかしげると、友人は俺の目を見て語る。
「戦国時代のある男の名が由来なんだ。
山を張るという意味の〈ヤマカン〉という言葉、
実は、武田信玄時代の軍師と言われた、《山本勘助》という男から来ていると言われる。
お前でも知ってる、有名な武田信玄の軍師を務めた勘助は、一度の戦で九つの城を落としたともいわれる稀代の名軍師だ。
江戸時代には、彼が策を練れば、いかに不利な状況でも盤がひっくり返ると言い伝えられていた」
友人は俺に微笑みかける。
「今や過ぎ去ってしまった歴史だって、現代にも大きく関わっているんだ。
それだけじゃない、言葉だって、こういう学校制度だって、全部歴史の中で作り出されたもの。
そう思うと、遠い世への浪漫を感じないか?」
俺は彼の言葉を、一概に認めようとはしなかった。
しかし、少しは俺の心に響いたものがあったのか、其の日はなんとなく、歴史に多く時間を費やしてみた。
勿論、それだけで結果が大きく変わることはなかった訳だが。
今思えば、その友人のことを、俺は殆ど忘れてしまったが、一つだけ言いたいことが有るとすれば、
戦に山を張るなんてのは、危なっかしくて心臓に悪いということくらいだ。
完
今思えば、そもそも歴史が苦手な人に、この閑話を読んでもらえるのだろうか?




