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第四十六話 策士、高遠

 上原城へと向かう晴信本隊の様子は、既に高遠達に伝えられていた。

 彼らの行動を監視する部隊が、城の辺りに配置されていた為である。


 「どうやら、遣いの者が巧くやってくれた様だな」

 矢島の言葉を横目に、高遠は目前の景観を眺める。いよいよ武田家中は混乱し始めている筈だ。


 武田勢は誤報だと思って居るだろうが、藤沢勢についての知らせはあながち間違いではない。我らが上原城を攻め込んでいる事は事実だが、藤沢頼親は上原城の方角とは異なる道から甲斐への侵攻を指示した。つまり藤沢勢の甲斐侵攻もまた事実。しかし武田勢が上原城へ駈け込めば、武田の本拠地はがら空きとなる。つまり我々は囮として、藤沢に全てを託したという訳だ。


 元々は藤沢勢が直接甲斐に攻め立て、混乱に乗じる形で我らが内側から崩すという策を取っていたが、我々の正体が知られた今、その策は意味を為さない。ならば全ての主犯格、言い換えれば敵の総大将として確立した儂を囮に藤沢が攻め立てる、元と真逆の策を使うしかなかった。


 「流石は高遠殿、類にも見ぬ策士じゃな」

 褒められているのか、からかわれているのか。高遠には理解出来なかったが、今の所は順調に事が進んでいる。

 高遠は陣から上原城を眺める。今戦に意気込みを見せる者は多数。それに武田本隊には筆頭家老、板垣は不在。巧く誘い込めば、晴信の首を取ることも夢ではない。


 「では、そろそろ儂の出番。有賀隊!各々配置に付け!!」

 そう言って立ち上がるのは、有賀氏の遠江守とうとのかみ。高遠は彼に向かい頷き、座る。

 此度の戦に我々が用意したのは、矢島隊のみではない。度重なる調略によって、諏訪上社の有賀遠江守や土豪の春近衆までも、我等の味方につけた。その数は高遠隊のみの約三倍にまで膨れ上がる。それ程の兵がこの近辺に紛れ、武田本隊の到着を待ち詫びている。


 「上原城への武田殿の来訪、盛大に御迎えせねばな」

 恐らく武田にとって、上原城防衛は主の目的ではない。しかし我等にとっては此処が、本当の戦場になると思っていた。

 上原城が攻められていると知れば、晴信は急ぎ足で此処までやって来るだろう。諏訪頼重の支城、重要な城を易々と明け渡す筈がない。それはつまり、彼に考える隙を与えないという意味でもある。

 此処まで計算し尽くされた状況で、負ける気など更々しない。



 高遠は笑みを浮かべる。其れは勝利を確信した男の、誇らしげな表情。

 此れで其方も終わりだ、武田晴信。











 武田本隊は、目的の上原城まで残り三里という所まで来ていた。

 


 「如何しましたか」

 「いや、何でもない」


 家臣達は、晴信が終始思案の表情を浮かべている事に気付いていた。何を訊ねても曖昧な返事のみ。

 何か不安要素が有るのなら、是非口に出して貰いたいものだが。

 

 「殿!」

 そんな時、一人の男が駆け込んでくる。晴信は男に目を移す。

 「此れを晴信様にとの事にございます!」

 晴信が彼から受け取ったものは、一枚の文。

 開き、読む晴信の表情が、一瞬にして変わった。


 「ふ……くくく……そうか、どうりでおかしいと思ったわ」

 「との?」


 晴信は顔を上げ、家臣の方を向く。

 「皆の者!儂は支城へと戻る!!飯富、甘利、其方はこのまま上原城へ向かえ!!」

 「殿!?如何なることにございますか!?」

 晴信は強き眼差しで、笑みを浮かべる。


 「儂は少々焦っていたようだ、あの男に気付かされたのよ」


 そうか、この文は御前の仕業か、晴幸。

 

 



 彼を知り己を知れば百戦殆うからず。

 彼を知らずして己を知るは一勝一負す。

 彼を知らず己を知らざれば戦う毎に殆うし。


 此れが、晴信へ送られた手紙の内容である。



その三行に隠された真意とは

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