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武田の鬼に転生した歴史嫌いの俺は、スキルを駆使し天下を見る  作者: こまめ
第4章 運命、混迷す (1546年 10月〜)
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第百五十六話 終戦、目覚め

超超超長らくお待たせしました。2か月半ぶりの更新です。

 霧がかった世界が晴れ、天井の木目が現れる。

 眩しさに、俺は仰向けのまま額に手を当てた。

 明晰夢にうなされ、頬を流れる汗に生きている事を悟る。

 奈落の底に見えた一筋の光に抗う事を忘れ、確かに俺は此処に存在していた。


 俺は朦朧ながら、此処が晴信の支城であることを瞬時に理解する。

 同じく記憶の隅に刻まれた情景が、全て現実であったこともまた理解していた。

 疑心に囚われていた俺が、目前にまみえた幸綱は果たして何者であったか。今ならば分かるだろう。俺が見ていたのは二つの意味を持つ、本物・・の幸綱である。


 「目覚めたか」


 声の方を向くと、男が腕組みながら俺を見ている。

 直ぐには分からなかったが、はっきりと線を描き現れたその姿形。

 真田幸綱(・・・・)が、感情の見えぬ表情を浮かべていた。

 「ゆきつな……」

 その途端、晴幸おれの身体は悲鳴を上げた。

 乾き切った喉に大声も出せず、立ち上がることすら難しいと判断した俺は、再び横たわる。


 「無理をするでない、だ傷は癒えておらぬようじゃ。つい今しがた、医者と作兵衛殿が此処を出たところだが、呼び戻した方が良いか」


 作兵衛。その名に応じる素振りを見せず、俺は息を吐く。

 その必要は無い。枯れた声に、幸綱は幾度と頷いた。

 表情に何処か綻びが見え、図らずとも身体中の力が抜けてしまう。

 訊かずとも伝わっている。伝わらずとも分かっている。

 皆が無事だと分かれば、如何だってよかったことも。


 隙間風を直に浴び、その方を向くと、襖の向こうには雪が降り積もっていた。

 領内のことは、作兵衛が巧くやってくれているだろうか。

 安堵と不安の中で、何も出来ずにいると知っていながら、俺は決して焦らなかった。

 簡潔に言えば、疲れ切ってしまったの一言に尽きる。

 そんな俺の感情すら、彼には筒抜けなんだろうな。幸綱。

 




 「備中殿は、死んだ」



 「……へ?」




 途端に、俺の表情が変わる。



 「……案ずるな。『皆が無事であればそれで良い』、そう思うのは人としてあるべき性じゃ。だが、儂は備中殿に対して何も出来なかった」

 「ま、まて、如何いう意味じゃ」

 「おかしなものだな。他人ひとの心は容易く読めるというのに、己自身のことは皆目分からぬのだ。儂は彼の死体を前に、己の事ばかり考えてしまっていた。全く愚かなものよ。備中殿は、そのようなことを望んでなどおらぬというのに」


 彼が何を言っているのか、理解に時を要した。

 そこには、歯を食いしばり何かを悔いる幸綱の姿。

 世界から一瞬にして、音が消えてしまったかのような、浮遊感に溺れる。

 こうして俺は知ってしまった。己のしでかした、重大な過ち・・を。


 理性を無くしたかの如く饒舌になる幸綱を前に、俺は言葉を失ってしまう。拳を握る幸綱は己の感情を殺すかのように微笑み、彼自身の身に起こった一連の出来事を、隅から話し始める。義清のスキルを前に、得体の知れぬ恐怖を覚えてしまったこと。己が如何に無力であったか、思い上がっていたのかを痛感させられたこと。棘を取り払うかのように、吐き捨てるように語り続ける幸綱に、俺は目を逸らす。


 幸綱が、己の弱さを此処までひけらかしたのは、初めてのことだった。

 俺が目を逸らしたのは、人一倍自尊心が強かったはずの男が、今にも泣きそうな顔で己の愚かさを語り続ける様に、動揺を覚えてしまった故である。

 転生者が、この時代の人間よりも優位なのは紛れも無い事実には違いない。だが俺達とて、彼らと同じ人間である。己の弱い部分を知り認めることも大事なのだと、幸綱は気付いたのだろう。


 

 村上義清、彼とて俺達と同じ。

 この時代に飛ばされ、散々と戸惑い、苦しんできた筈だ。

 何故なら俺の目に映った義清は、間違いなく一人の人間であったのだから。

 

 

 



 全てを語り終えた幸綱の表情は、思いのほか晴れやかであった。

 己の中に溜め続けていた言葉を吐き出せたことが、何より彼の心を軽くしたのだろう。

 そんな彼を前に、口にすべきか否か。いや、本当は今ではないのかもしれない。

 それでも覚悟を決めた俺は、彼の名を呼んだ。


 「……其方に救われる手前、義清が儂の許に現れた」

 「っ!?」

 「『力を合わせ、共に日の本を動かそう』と、そう申しておった」


 幸綱は目を見開くが、俺の言葉にそうかと俯き、それ以上は何も語らなかった。

 幾分気まずい空気が流れてしまったが、俺の中には一寸も後悔の念は生まれなかった。

 暫くすると、幸綱は何事も無かったかのように立ち上がり、晴信の許へ行くと言い出すのだった。

 

 「ならば、もう少しばかり眠ることにする」

 「ああ、しっかりと休むと良い。また殿に顔を見せてやらねばな」

 

 そう言い残し、部屋を去る幸綱。

 足音が消えると、俺は再び目を閉じ、瞼の裏に映る情景を眺める。

 途端に暗闇に刺す一筋の光。月光に照らされ、浮かび上がる鎧武者の姿。

 彼は俺の前に立ち、こう問うのである。






 「この乱世を終わらせるのは、誰じゃ」







 降り続ける雪に、揺らめく囲炉裏の火。

 目の前の存在に、不思議と温かさを覚える。

 自身の記憶が生み出したその幻想・・は最後まで、強かな目で笑っていた。


 

申し訳ありません。テストの関係で、また1週間ほど更新が空くかもしれません……

12月からはバンバン書いていくつもりですので、宜しくお願いいたします。(後に活動報告の方も更新しますので、そちらもぜひ。)

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